57 / 153
11章 追う者と追われる者
森に棲む者 2
しおりを挟む
騒然とする場を、カルヴァンは一喝する。
「静かにしろ!」
ざわついていたエルフたちは口を閉ざし、静かに彼の言葉を待った。
姿を現してからこれまでの言動から、彼はどうやらこの中で、最も立場の高い者のようだ。
逡巡を繰り返し、カルヴァンは革命軍に告げる。
「お前と……あともう一人。そうだな……あの赤い巨大な鎧、一緒についてこい。長老に判断を仰ぐ。他の者達はこの場で待て」
彼が指さした先には、ローゼリエッタと赤鉄の騎士がいた。
躊躇うシャルルを後押しするように、ローゼリエッタも赤鉄の騎士を見つめ頷く。
すると胸の装甲が外れ、緑に輝く繭が姿を現した。
やがてシャルルは、その繭を掻き分けながら胸部から這い出すと、地面目掛けて滑り降りる。
これに驚いたのはエルフたちだ。
見たこともない巨大な鎧。その中にはやはり、見たこともない巨漢が入り込んでいるのだろうと、皆そう思っていたのに、まさかその巨大な鎧の中から、まだ年端もいかぬ少女が現れたのだ。
「……まさか、こんな幼子が……?」
その驚愕する声と表情だけで、先程まで苛立っていた革命軍は、現金なことに気を良くしてしまう。
元は王国の兵器だった物だが、見たものが驚き、褒め称えるだけで、愉悦を感じてしまう程には自慢の作品となっていた。
二人は遠出をする準備を始める。
とはいっても、然程距離は遠くないらしく、荷物は余り多くはない。
なによりローゼリエッタの相方となる傀儡人形がいるおかげで、荷物運搬には事欠かないのだ。
当然ながら、この傀儡人形にもエルフはひどく興味を示した。
手で叩いてみたり、撫でてみたり……初めて二人が顔を合わせた時、カルヴァンが友好的に話しかけ始めた時は、流石のローゼリエッタからも笑みが零れた。
数度の説明の後、中身をさらけ出すことで、漸く同行を許可されたのだった。
いよいよの別れ際、リエントがある包みを差し出した。
「これを持って行ってください。バルドリンガの魔法使いが持っていた、通信用の魔法石です。少し手を加えて、僕のと通話できるようになっていますから、何かあった時はこれに語り掛けてください」
「うん、ありがとう」
ローゼリエッタは包みを受け取ると、先を歩き出したエルフの集団の後に続く。
森を行くエルフ一行は、迷うことなく歩き続ける。まるで目的地が正確に見えているようだ。
カルヴァンは背後から付いてくる人間の女二人に近づくと、努めて優しく声をかけた。
「この森にはドリアードが住んでいるのだ」
「ドリアード?」
ローゼリエッタは、聞き覚えのない言葉に思わず問い返す。
カルヴァンは歩きながら周囲に視線を巡らせた。
それを真似して辺りを見渡してみたが、ローゼリエッタの目に映る物は、物言わず立ち並ぶ樹木だけだ。
暫く口を閉ざし歩くカルヴァンは、ふいに、一本の木の前で立ち止まった。
彼が樹木の枝に手を伸ばすと、枝はまるで蔦のように曲がりくねり、その手に巻き付く。
「これがドリアードだ。木々の精霊が宿った存在で、樹木以外にも、花やその辺に生えている草木もそうだ。彼らのおかげで、これまでこの森は侵入者の立ち入らない聖域であった」
ローゼリエッタにシャルルも、それを真似して樹木に手をかざしてみる。
すると手に一番近い枝がしなり、優しく掌に触れた。
まるで握手するようなドリアードの仕草に、二人の少女は微笑む。
更に森の中を歩き、ローゼリエッタは漸くエルフの集落に到着する。
森の一部に空いた広大な広場。立ち並ぶ木造の家屋はどれも、人間の国では見た事のない建造物だらけだ。
円形である広場の中心には、他よりも大きな樹木が聳え立ち、上空から覗く者の視界から、広間を覆い隠している。
その傘の中を見れば、伸びる枝の根元に小さな小屋が幾つも建てられていて、多くのエルフが出入りしているのが見えた。
「わぁ……」
感嘆の声はシャルルの物か、それともローゼリエッタの物か。
初めて見るその光景に、二人の少女の足取りは軽くなる。
物珍しさに辺りを見渡す人間の少女らは、エルフにとっても珍しいものであったようで、観察するような視線が幾つも突き刺さる。
その視線に気が付く頃、カルヴァンが中心にある巨木の前で立ち止まった。
「皆、ご苦労だった。私は長老の下へ報告に行く。後は解散だ。また次の見回りも宜しく頼む」
「「お疲れさまでした!」」
エルフたちはここで解散し、散り散りに広間に散らばっていった。
残ったのはカルヴァンとシャルル、そしてローゼリエッタの三人だけ。
彼は少しだけ崩れた衣服を整えると、少女らに語り掛ける。
「ここが長老の居る場所だ。名を“イグドラ・シエド”。我々の言葉で、『世界樹の苗木』という意味だ。これからこの中で長老に会って貰うが……粗相のないようにな」
「わ、分かりました」
大人しく頷くローゼリエッタを見て、カルヴァンは一回頷くと、静かに建物の戸を開いた。
「静かにしろ!」
ざわついていたエルフたちは口を閉ざし、静かに彼の言葉を待った。
姿を現してからこれまでの言動から、彼はどうやらこの中で、最も立場の高い者のようだ。
逡巡を繰り返し、カルヴァンは革命軍に告げる。
「お前と……あともう一人。そうだな……あの赤い巨大な鎧、一緒についてこい。長老に判断を仰ぐ。他の者達はこの場で待て」
彼が指さした先には、ローゼリエッタと赤鉄の騎士がいた。
躊躇うシャルルを後押しするように、ローゼリエッタも赤鉄の騎士を見つめ頷く。
すると胸の装甲が外れ、緑に輝く繭が姿を現した。
やがてシャルルは、その繭を掻き分けながら胸部から這い出すと、地面目掛けて滑り降りる。
これに驚いたのはエルフたちだ。
見たこともない巨大な鎧。その中にはやはり、見たこともない巨漢が入り込んでいるのだろうと、皆そう思っていたのに、まさかその巨大な鎧の中から、まだ年端もいかぬ少女が現れたのだ。
「……まさか、こんな幼子が……?」
その驚愕する声と表情だけで、先程まで苛立っていた革命軍は、現金なことに気を良くしてしまう。
元は王国の兵器だった物だが、見たものが驚き、褒め称えるだけで、愉悦を感じてしまう程には自慢の作品となっていた。
二人は遠出をする準備を始める。
とはいっても、然程距離は遠くないらしく、荷物は余り多くはない。
なによりローゼリエッタの相方となる傀儡人形がいるおかげで、荷物運搬には事欠かないのだ。
当然ながら、この傀儡人形にもエルフはひどく興味を示した。
手で叩いてみたり、撫でてみたり……初めて二人が顔を合わせた時、カルヴァンが友好的に話しかけ始めた時は、流石のローゼリエッタからも笑みが零れた。
数度の説明の後、中身をさらけ出すことで、漸く同行を許可されたのだった。
いよいよの別れ際、リエントがある包みを差し出した。
「これを持って行ってください。バルドリンガの魔法使いが持っていた、通信用の魔法石です。少し手を加えて、僕のと通話できるようになっていますから、何かあった時はこれに語り掛けてください」
「うん、ありがとう」
ローゼリエッタは包みを受け取ると、先を歩き出したエルフの集団の後に続く。
森を行くエルフ一行は、迷うことなく歩き続ける。まるで目的地が正確に見えているようだ。
カルヴァンは背後から付いてくる人間の女二人に近づくと、努めて優しく声をかけた。
「この森にはドリアードが住んでいるのだ」
「ドリアード?」
ローゼリエッタは、聞き覚えのない言葉に思わず問い返す。
カルヴァンは歩きながら周囲に視線を巡らせた。
それを真似して辺りを見渡してみたが、ローゼリエッタの目に映る物は、物言わず立ち並ぶ樹木だけだ。
暫く口を閉ざし歩くカルヴァンは、ふいに、一本の木の前で立ち止まった。
彼が樹木の枝に手を伸ばすと、枝はまるで蔦のように曲がりくねり、その手に巻き付く。
「これがドリアードだ。木々の精霊が宿った存在で、樹木以外にも、花やその辺に生えている草木もそうだ。彼らのおかげで、これまでこの森は侵入者の立ち入らない聖域であった」
ローゼリエッタにシャルルも、それを真似して樹木に手をかざしてみる。
すると手に一番近い枝がしなり、優しく掌に触れた。
まるで握手するようなドリアードの仕草に、二人の少女は微笑む。
更に森の中を歩き、ローゼリエッタは漸くエルフの集落に到着する。
森の一部に空いた広大な広場。立ち並ぶ木造の家屋はどれも、人間の国では見た事のない建造物だらけだ。
円形である広場の中心には、他よりも大きな樹木が聳え立ち、上空から覗く者の視界から、広間を覆い隠している。
その傘の中を見れば、伸びる枝の根元に小さな小屋が幾つも建てられていて、多くのエルフが出入りしているのが見えた。
「わぁ……」
感嘆の声はシャルルの物か、それともローゼリエッタの物か。
初めて見るその光景に、二人の少女の足取りは軽くなる。
物珍しさに辺りを見渡す人間の少女らは、エルフにとっても珍しいものであったようで、観察するような視線が幾つも突き刺さる。
その視線に気が付く頃、カルヴァンが中心にある巨木の前で立ち止まった。
「皆、ご苦労だった。私は長老の下へ報告に行く。後は解散だ。また次の見回りも宜しく頼む」
「「お疲れさまでした!」」
エルフたちはここで解散し、散り散りに広間に散らばっていった。
残ったのはカルヴァンとシャルル、そしてローゼリエッタの三人だけ。
彼は少しだけ崩れた衣服を整えると、少女らに語り掛ける。
「ここが長老の居る場所だ。名を“イグドラ・シエド”。我々の言葉で、『世界樹の苗木』という意味だ。これからこの中で長老に会って貰うが……粗相のないようにな」
「わ、分かりました」
大人しく頷くローゼリエッタを見て、カルヴァンは一回頷くと、静かに建物の戸を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる