反魂の傀儡使い

菅原

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13章 世界の管理者

草原の主 1

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 戦いが終わっても雨は降りやまない。
エルフ族が語るには強大な儀式魔法による余波だという。
だがエルフたちは、ある理由を持って雨を降らす魔法を維持し続けていた。
その理由とは、彼らの自衛の為である。
 天から水が降る異常現象。更には巨鎧兵を一撃で打ち倒す落雷の連続。
これによりバルドリンガ軍は、甚大な被害を被った。
それは物理的な物だけに留まらず、兵士たちの心に、深い傷跡を残したのだ。
エルフたちはこれを利用し、雨を降らし続けることで、バルドリンガの侵攻を躊躇、あわよくば防いでしまおうと考えていた。
ただし、大雨がいつまでも降り続いては、森の生態系に影響が出てしまう。
だから彼らは、森に棲むドリアードの協力を得て、雨を降らす期間を三月と決めた。

 続いてエルフたちは、革命軍を率いて、森を抜けた先を目指す。
大雨により王国の侵攻を押さえつけている今こそ、来るべき時の備え失ってしまった戦力を補充し、更に充実させなければならない。
だがエルフは、王国の巨鎧兵に匹敵する力を、ヒトに与えることは出来なかった。
彼らが持ち得るその力とは、一朝一夕で見につくものでは無く、長年の鍛錬で成熟させた『魔法』という力なのだ。
助言という形で手助けは出来るだろうが、僅か三月という短い期間で、目を見張る程の力が身に付くとは言い難い。
当然一切行わないというわけではないが、それでも、革命軍の軍事力を向上させるには、別の方法が早急に必要であった。

 そこで、エルフたちが思い至った策が、他種族の力を借り受けることである。
端的に言えば、森の向こうに広がる大平原。そこを統治する獣人ことセリオン。更にその向こう側に住居を構える、山人ことドワーフ。この両名に助力を願おうとしたのだ。
時間制限は約三か月。その短い期間の中で、彼らは両者の説得と、革命軍の戦力補強に奔走しなければならない。


 降りしきる雨は、山人の森全域を覆い隠していて、森を抜けるにのには少なくない労力がかかった。
雨を体験した事の無い人間にとって、ぬかるんだ地面を歩くことなど、そうそうあることではない。
慣れぬ作業とは存外疲れる物。それでもエルフたちの手施しを受け、三日の時間を消費して森を抜けることが出来た。
 森の先は、見渡す限りの大草原。
発展の最中にある人間世界では、ここまでの草原は見ることが出来ない。
遥か遠くに幾つか山が見えるだけで、見渡す限りの地平線が広がっているのだ。
 草木が極端に生い茂っていたり、逆に不毛の大地になっていたりすることも無く、傍から見るだけでも美しい。
この景色を一目見るだけで、草原の管理者であるセリオンが、いかに優秀であるかが見て取れた。

 エルフを含めた革命軍は、エルフの戦士団を先頭に、エルフの一般住民、革命軍の歩兵隊、巨鎧兵隊と続く。
森の上空は黒い雨雲が太陽を覆い隠してしまっているが、草原はそんなことはない。空を見上げれば、青く澄み切った雲一つない空が広がっている。
革命軍の面々は、実に数日ぶりの太陽の光を浴び、沈んでいた気持ちを改めた。


 暖かな日の光は、雨で冷え切った体を温め、自ずと皆の足取りを軽くさせる。
三日も歩き詰めで疲れているというのに、口までもが軽く踊り出す。
「大丈夫ですか?セリア様」
「ええ、大丈夫よウルカテ。あの雨という物は正直きつかったけど……私よりも心配なのはロゼね」
セリアの視線は、少し前を歩く一人の少女に吸い込まれた。
 セリアは、これまでもよくローゼリエッタを気にかけてきていたが、雨の中の行軍ではそんな余裕も無く、自分の事で精一杯だった。
だが心が余裕を持ち始めた今、改めてその姿を見れば、ため息しか出ない。
愛する者を亡くし、立っているのもつらいだろうに、ローゼリエッタは弱音の一つも吐かずに歩き続けているのだ。
服は泥で汚れ、赤の長髪も今はぼさぼさ。世辞にも綺麗とは言い難いその容姿でありながら、凛と立つその姿は一種の美しさを放っていた。

 思わず声をかけようとするセリアだったが、それを思いとどまる。
彼女には分からなかったのだ。どう声を掛けたらいいのか、何を話したらいいのかが。
不意にアルストロイの話が出てしまえば、要らぬ傷を刻んでしまうかもしれない。
その考えが浮かぶと、声をかけることが出来なかった。
セリアの隣でガンフが呟く。
「今はまだ、時間が必要だ。あの子にも……我々にも……」
ガンフもやはり、かける言葉が見つからないらしい。
時間が傷を修復してくれることを願って、三人は歩き続ける。


 草原を行く革命軍は、近くの者らと思い思いにだべりながら行軍を続ける。
その一団は大群と言っても過言では無く、数を言えば、巨鎧兵が九機。傀儡師を含む歩兵隊が百三。エルフの一般住民が百三十二。そしてエルフの戦士団が百の、計三百五十三。
これだけの数の生き物が行軍していれば、例え草原でなくても目立つ。
案の定草原を行く革命軍の前に、草原の持ち主が現れた。

「そこの者ら!止まれぇい!」
突如上がる制止の声。声は低く、力強さを感じる。
次いで現れたのは、猫のような耳を生やし、同じく猫のような尾を持つ見たことも無い生物であった。
体表は沢山の毛でおおわれていて、顔も獣のそれに近しい。
人間と似通っている点は、二足歩行であることと……言葉を話すということくらいだろう。
周囲を見渡せば既に、二十余りに渡る同種が包囲を完了させていて、緊迫した空気が漂った。
 人間とは違う、鋭く吊り上がった目が、訝し気に一同を見渡す。
その過程で、セリオンの男はある存在に気が付いた。
「……ん?おお、貴方たちはエルフではないか!何故森の管理人がこのような場所に……」
そこまで言って、彼は異常があった森の方角を見る。

 エルフの集団から、長老が一人前に出る。
その姿を見たセリオンは、態度を一変させ、跪いた。
「も、申し訳ございません!まさか集落の長が同行しているとは思いませんで……」
「いや、気にしないで頂きたい。我々も無断で草原に足を踏み入れたことを謝罪させてほしい。申し訳なかった」
互いは一時頭を下げ合うと、次の論点に入る。
 先に口を開いたのはセリオンの男だった。
「申し遅れました。私はセリオン警邏隊隊長“ライ”と申します」
「私は“カーシン”という。ところでライ殿。早急にセリオンの族長にお会いしたいのだが……この願、叶うだろうか?」
ライはエルフの族長カーシンの願いを聞き、直ぐに配下に指示を出した。
「即時村に戻って報告だ!エルフ族の長老様がお見えになると伝えろ!」
指示を受けたセリオンの配下は直ぐに駆け出す。
それからライは、道すがら大まかな説明を受けながら悠々と村への案内を行った。

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