反魂の傀儡使い

菅原

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13章 世界の管理者

草原の主 2

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 革命軍が案内された場所は、小さな盆地だった。と言っても、周囲を山で囲まれているわけでは無く、平原を丸く抉り取ったような形状をしている。
高低さが殆どない草原に置いて、その集落は、目を凝らさねば見つからぬ程巧みに擬態されていた。
 円形の淵から中心にかけて階段が伸びていて、盆地の中心から放射状に家屋が立ち並んでいる。
木造建築が主だったエルフの住居に比べると、干し草で出来たそれは強度の観点から若干心許ない。尤も、争いと無縁の生活であれば問題はなさそうだ。

 革命軍とエルフの連合軍は、離れた場所に巨鎧兵と多くの人員を残し、上位に位置する立場の者らだけで、セリオンの集落を訪れることにした。
エルフ側からは、長老“カーシン”と四人の司祭“ファルター”、“スキニアス“、”パルカネア”、“ゲルニッヒ”の計五名。
革命軍側からは、先導者である“ローゼリエッタ”と、巨鎧兵隊隊長“シャルル”、かつて国王の立場にあった“ガンフ”に、参謀約の“セリア”とその守護者“ウルカテ”の、計五名が選出される。また、周囲が安全であると知らされたローゼリエッタとセリアは、自らの傀儡人形を置き、その身だけで行くことに決めた。
一同は最低限の身嗜みを整え、案内人ライに連れられて集落に赴く。


 集落では、あらかじめ情報が伝えられていたおかげで、来客を歓迎する準備が進んでいた。
少し低い位置に見える盆地の中央には、木製の大きな丸いテーブルが置かれていて、幾つかの椅子が備え付けられている。
その周囲には、ライのような獣の姿をした『獣人』が慌ただしく奔走しており、来客を持て成す準備を急ぎ進めていた。
 獣人と一言で言っても、エルフとは違い、様々な形状を持つ。
よく見るものから上げれば、猫や犬。珍しいところでは蜥蜴や蛇といった、多種多様な人ならざる者の特徴を持つ者達だ。
そんな彼らが入り乱れる光景は、エルフの物よりも少々異常で、シャルルやセリアは少し顔を顰めた。

 ローゼリエッタらが集落の中央に辿り着く頃には、慌ただしい空気もある程度収まっていて、一人の大きな獅子が客を出迎えた。
召し物は薄手のズボンのみ。獅子が持つ立派な鬣に、鋭い牙が彼の存在を強調している。
体躯は人間の男の倍近くもあり、まさしく、獅子が二足歩行しているようだ。
 彼は来客の足が止まるのを確認すると、丁寧に一つ頭を下げた。
「ようこそおいでくださった。エルフ族の長老よ。急な話だった為に大した持て成しも出来ないが、ゆっくりしていってくだされ」
厳つい見た目とは裏腹に、若々しい男の声で、丁寧に対応する。
これに対しカーシンも、友好的に話しかけた。
「久しいな、セリオンの。父上殿の祭祀さいし以来だから……百年ぶりくらいだろうか?」
「その節はお世話になりました。百と三年ぶりになります。貴方様は変わらず御健在のご様子で嬉しい限りです」
以前面識があったようで、二人は仲睦まじそうに数度言葉を交わす。


 暫しの放置を食らう革命軍。
その存在を気にかけ、獅子の男は世間話を切り上げた。
「貴女たちは……もしかしてヒトですか?関係が失われて久しいと聞きましたが……私の名前は“グォン”。この集落を収めるセリオンの長老です」
その目は自然と、ローゼリエッタに向かい頭を下げる。 
 獰猛な獅子の見た目に反し、礼儀正しく謙虚なその姿勢に、革命軍は驚いた。
無礼ながら彼女らは、生活水準を鑑みて、セリオンの事を傍若無人で短絡的であると勘違いしてしまったようだ。
立ち並ぶ両者を傍目から見れば、確かにエルフの方が知的に見える。だが彼我の知能には、然程違いが無いように伺えた。
 頭を上げたグォンに向かって、ローゼリエッタも自己紹介をしてから頭を下げる。
同行する他八名の名前を伝えたところで、彼女らは用意された席に着いた。

 話はやはり、王国バルドリンガの侵略についてに重きを置き始まる。
先ずはグォンが遠くに見える雨雲を見て尋ねた。
「あの雲は一体何があったのです?我々が使命を全うしている間は、ああいった現象が起きないと伝え聞いていたのですが……」
「その点に関しては、彼女の話を聞くと良い。正直な話、我々も巻き込まれたようなものだからな」
カーシンの言葉に、恐縮し小さくなるローゼリエッタ。
確かに、革命軍が森の奥にさえ逃げなければ、エルフの集落が崩壊することも無かった。
だが同時に、問題の早期発見に繋がった事は幸運なことだっただろう。


 ローゼリエッタの説明を受けたグォンは、低く唸る。
その唸り声は獅子のそれと同じであり、嫌でも人の恐怖心を掻き立てた。
怖がる人間に気付いたグォンは、次の言葉を謝罪から始める。
「ああ、すまない。怖がらせてしまったようだ。……事情は理解した。これはある種、世界崩壊の危機とも言えるだろう。言葉は悪いが、まだ一つで済んでいるから良かったのかもしれない。世界への影響も少ないようだ。しかし……これ以上集落が崩壊させられては、あの漆黒の雲が、世界を覆い隠してしまう日が来るだろう」
彼の言葉に、エルフの面々が同意した。
 話し合いを進める一同の下に、水の入った木製のカップが置かれる。
続く対話に向け、皆はその水で喉を湿らせた。
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