反魂の傀儡使い

菅原

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14章 新たな力

セリオンと戦士 1

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 魔法使いたちが研鑽に励んでいる頃、革命軍に属する戦士たちは、獣人ことセリオンと共に訓練を開始した。
彼らには魔法使いのような搦手は存在しない。
一にも二にも、唯只管に戦いに明け暮れ、地力を上げていくしか道は無いのだ。
遥か遠くにある森は今も大雨が降りしきっているが、草原を挟むドワーフの居城はその影も見られない。
そのおかげで彼らは、朝日が昇ってから夕日が沈むまで、余すことなく時間を消費することが出来る。
ガンフを筆頭に、勇猛で知られるパラミシアの兵士たちはそれぞれ、セリオンの戦士らと対峙し武器を構えた。

 ガンフの相手はセリオンの長グォンだ。
両者とも戦士としての技術は円熟しており、彼らの違いは身体能力と体格、後は……年くらいだろうか。
訓練故に手に握る武器は同じものを使っている為、現在、武器の性能差は皆無。年の差も当然戦いに関係のある要因ではない為考慮に値しない。
また、幼き頃から戦場を駆け抜けたガンフにとって、自身より体の大きなものとの戦闘などお手の物だ。
だが唯一残った身体能力の差ばかりは、戦闘に明確な影響を及ぼすものであり、どうしても無視出来ないものになる。
 セリオンの身体能力は、人間の視点から言えば異常の一言に尽きる。
走る速度から剣を振る速度、更に細かに挙げれば、視力や聴力といった五感に至るまでもが、人間を超越している。
それらは獣人の名に相応しく、まさに獣の如き水準に達しており、獣の能力に人間の知能を合わせ持った彼らは、戦闘面に関して言えば人間の完全上位種と言っても過言ではない。
 そんな種族が相手だとしても、ガンフの自信は揺るがなかった。巨鎧兵相手に負けはしたが、体躯に然程差がない相手にはこれまで負けはない。加えて彼は、虎を殺したこともあれば獅子を殺したこともある剛の者だ。苦戦は必至、されど負けなしと信じて疑わなかった。


 対峙する両者は同時に武器を構え、同時に地を蹴る。
「はあああ!!」
「オオオオオ!!」
両者の雄たけびが上がり、一時周囲の視線が引き寄せられた。
 彼らが持つ剣は、刃引きした鉄剣だ。刃引きされているとはいえ、通常の剣と同じ重さで、当たれば相当な被害を追う。訓練とは思えぬ覇気と共に振られる剣撃。それらは何度もかち合い、周囲にけたたましい金属音を響かせた。
周囲から見守るパラミシアの兵士は、ガンフ王の勝利を疑わない。パラミシアという国は元々、各地を統べる蛮族を束ねた国である。血の気が多く、高い戦闘力を持つ民族たちを、ガンフは力でねじ伏せてきた。
いわばガンフは、パラミシアに置いて最強の戦士であった。その最強の戦士が、後れを取る筈がないと思いこんだのだ。

 初激は互角に見えた。ガンフが縦に振り下ろした剣の速さに驚くグォン。
続く横に薙いだ剣撃も、受け止められはしたが直撃する寸前だった。
崩れた体勢を狙い更なる連撃を加えるガンフだったが……その先はあっけない。
 獣の身体能力を持つグォンは、ガンフの倍は速く動き、ガンフの倍は剣を振るうことが出来た。
最初こそ予想以上に早く振られる剣に驚きはしたが、二つ目には修正し、三つ目にはきっちりと対応する強かさも見せる。
結果、それから幾らもしないうちに、ガンフは防戦一方となってしまった。

 ガンフは続く戦いの中で、余りの理不尽さに舌打ちをした。彼が一度剣を振るだけで、二つの斬撃が飛んでくるのだ。彼が一歩進退する間に、二歩追従してくるのだ。相手が唯の獣であれば、その差は『武術』という物で補うことが出来た。だが今戦う者は、その唯一の利点をも併せ持つ上位種族である。
やがてガンフの剣は、あっけなくグォンの振るう剣で弾かれてしまった。手から離れた剣はくるくると宙を舞い、少し離れた地面に突き刺さる。
それに気を取られた兵士らが、戦う二人に視線を戻せば、グォンの剣がガンフの喉元を捉えていた。
見守っていたセリオンからは歓声が上がり、見守っていたパラミシア兵はその出来事に言葉を失う。


 一つの訓練が終わると同時に、両手を地につけ肩で息をするガンフ。
終わってみれば終始圧倒されたのは彼の方で、起きた攻防はどれも皮一枚で防いだものばかりだ。
「はぁっ!はぁっ!……くそ!!」
悔しさのあまり握った拳で、大地を叩く。
 戦士としての誇りを打ち砕かれ、ガンフは視界が歪む錯覚を覚えた。多くの兵士からは『化け物』と称され、人よりも能力が高いとされる獣も打ち倒し、いずれは王国の誇る三将も倒し、大陸で最強の戦士となる筈だった。
彼自身そんな野望を持っていたわけではないが、巷で囁かれるその話を聞き、そうなるであろうと信じ切っていたのだ。
しかし彼は負けた。人間よりも優秀な身体能力を持ち、獣よりも優秀な知能を持つ存在に。いい所ばかり集めたような、戦士としての理想像。それを前にしたガンフは、自身の力の小ささに絶望し、その小さな力を誇っていたことを恥じた。
だがそれは、人間側の捉え方の一つでしかない。

 グォンは崩れ落ちたガンフに向かって手を差し伸べ、声を投げかけた。
「素晴らしい力だった!剣の一つも満足に振るえなかったヒトが、ここまで力を身に着けているとは……貴方の剣を受ける度、これまでどれだけ努力を積み重ねてきたかが伝わってきた。ヒトは立派な戦士に成長した!いずれは貴方も、私と比肩する力を身に着けるだろう。それはきっと、そう遠くないように思える」
かけられた言葉は、手放しの賛辞。弾む口調からそれが仮初の物でないと分かった。
ガンフは、思いもよらぬ言葉に惚ける。難しい思考が取り払われた彼の耳に、周囲のセリオンの声が届いた。
「素晴らしい戦いだった!貴方たちの長も、素晴らしい戦士の様だ」
「ううむ、胸が高鳴る……さぁ!私たちも早く戦おうぞ!」
彼らが挙げた歓声は、勝利したグォンに向けての物では無かった。全力の戦いを見せた、優秀な戦士に向ける称賛の声だったのだ。
 それから幾らもしないうちに、近くで剣がかち合う金属音が鳴り響く。
再び上がる歓声。そこまでたって、ガンフは漸く差し出された手に気付いた。
膝に手をつき、グォンの顔を見上げる。すると、人間とは似使わない、猛々しい獅子の顔が朗らかに笑っていた。
それを見たガンフは思わず失笑し、差し出された手を取ると称賛の声を返す。
「貴方こそ素晴らしい戦士だ。出会えたことを光栄に思う」
彼らは、剣を合わせて友となった。
戦士は友の手を借り立ち上がる。それから暫し休憩をはさみ、次の訓練が始まった。
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