反魂の傀儡使い

菅原

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15章 神域戦線

巨鎧兵戦 3

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 戦いが始まって、クロヴァトは直ぐに気付いた。対峙する巨鎧兵に乗る操者の存在に。
(この動き、以前にどこかで……踏み出す足の位置、攻撃の際に逆の腕が僅かにぶれる。この癖は……!)
 クロヴァトは突然外部への通信機構を弄り、自身の声を外へと拡散する。
「シャルル! シャルルなんだろう!?」
 その声は、異常な動きをする巨鎧兵の動きを鈍らせた。

 彼らは、王国が巨鎧兵を開発した際に集められた孤児であった。僅か一年という短い時間の中だったが、孤独だった彼らは強く結びつき、家族のように苦楽を共にする。
 取り合えずで集められたその数は三百にも及び、クロヴァトはその内の一人に過ぎなかった。
 三百いた操者は、数がそろい次第一斉に訓練を始める。教えられる技術は長く姿を隠していた物であった為に、誰もが初めて目にする技術ばかりだ。故に当初は全員同じような力量で横ばい状態だった。しかし次第に序列がつき始め、三人の突出した操者が現れる。その三人がシャルル、クロヴァト、ギネシュアだった。
 やがてシャルルはバルドリンガを捨て、革命軍の下に組んだり王国の敵となる。
 ギネシュアはその腕を買われ、傀儡師団団長となったが王の機嫌を損ね粛清された。
 そしてクロヴァトは、二人がいなくなった師団をまとめる長となった。

 クロヴァトの叫び声は、シャルルの下に届く。その証拠に、高速の動きで敵を翻弄していた巨鎧兵は動きが鈍り、終いには立ち止まってしまった。
 動きを止め、話を聞く気があると察したクロヴァトは更に叫んだ。
「何故だシャルル! 何故王国を……私たちを捨てた!! 私たちは家族だった筈だ! 皆同じ境遇で、地獄を見てきた仲間だった筈だ!! なのに何故……」
 周囲に響く悲痛な叫びは、戦いに躍起になる戦士たちの下には届かない。巨鎧兵の起こす騒音、剣と剣がかち合う金属音、魔法が着弾する破裂音が入り乱れた戦場で、その声は余りにもか細い。
 その中であってもシャルルは、聞きなれたその声に気付いた。
 少女もまた、外部に声を通す機構を弄る。
「貴方たちは確かに私の仲間だった。でも、あそこにいたんじゃ私の望みは叶えられない」
「望みだと……? あの女と添い遂げることか!?」
「違う! 私は……」
 シャルルは思い出す。あの時見た光景を。

 王国の外れにある小さな町で行われた人形劇。それは、荒んだ少女の心を洗い流すには十分な力があった。
「わぁ……」
 鳴り響く楽器に合わせ、壮麗に舞う二つの人影。
 人間に模した木彫りの等身大人形。それと共に舞い踊る可憐な少女。
 誰もがその光景に酔いしれる。大人も、子供も、男も、女も。家族がいたって、家族がいなくたって、その劇は、万人に笑顔を与えていた。
 その光景こそが、戦争で両親を亡くした少女の願いだったのだ。

 シャルルは、自身の抱く願いに間違いはないと確信している。
「王国のやり方は間違ってる! 力で皆をねじ伏せて、そうして統一した先にあるのは、本当の平和じゃない!」
 シャルルの叫びはクロヴァトに衝撃を与えた。
 彼ら巨鎧兵団の操者にとって、身寄りのない自分らを養ってくれた国は親も同然だ。それに弓を引こうとするシャルルの行為は、クロヴァトの思う理想像と真逆を行く。
「っ! 巨鎧兵団の長として告げる! 即刻武装を解除し投降しろ! さもなくば……」
 唯一の望みを託し、クロヴァトは投降するように呼び掛けた。しかし……シャルルは従わない。
「クロも見た筈でしょう!? 巨鎧兵これのせいで死んでいった人たちを! 私たちと同じく、多くの人が家族を失った! その悲しみは、誰よりも貴方が知っている筈なのに!!」
「黙れ……黙れ!! 私は王国の巨鎧兵団団長クロヴァト・ソルロット! 反乱軍の戯言に耳等貸さぬ! 誰かに殺されるくらいならば……私の手で葬ってくれるわ!」
 クロヴァトの操る巨鎧兵は、大剣を構え駆け出した。
 それに応戦すべく、シャルルも双剣を握り直し動き出す。

 戦闘は一瞬だった。
 操縦技術は同じなれど、操る機体の性能が大きく違う。
 クロヴァトの操る鉄の騎士が、大剣を上段から振り下ろす。手加減など一切ない、真二つにするつもりの全力攻撃だ。
 だがシャルルの操る異形の騎士は、片手に持つ剣のみで、その剣戟を捌いて見せた。刃の上を滑るように大剣はそれていき、そのまま地面に突き刺さる。
 後は残す片方の剣で……
 鉄の騎士の首から上が吹き飛んだ。これによりクロヴァトは、視覚による情報元を失う。
 鉄の騎士の右腕が吹き飛んだ。これによりクロヴァトは、武器を持って戦う力を失う。
 最後に鉄の騎士の下半身と上半身が切り離された。これによりクロヴァトは、一切の抵抗が出来なくなった。
「うあああ!!」
 数度にわたる衝撃。それから落下する気持ち悪い感覚に襲われる。一瞬の後、地面に叩きつけられる衝撃で、クロヴァトは敗北を悟った。

 真っ暗になった鎧の中、彼は人知れず涙を流す。
(くそっ!! なんでだ……? 何でこんなことになった? 私の望んだ世界はあそこにあった筈なのに……同じ境遇にある本当の仲間、悲しみを忘れることの出来る大事な家が……)
 悔しさのあまり歯を噛みしめ、握りこぶしで足を叩く。
 彼の脳裏に浮かぶのは皆と過ごした一年間。『おはよう』と声をかけられることに喜び、同じ目標に向かって共に競い合い、バカ騒ぎをしながら飯を食って、暖かな寝床で鼾をかく。その時間は、本当に幸せな物だった。
 彼は信じていた。王国が大陸を統一し、全ての争い事が無くなれば、何の柵も無くこの生活が続けられるのだろうと。だが彼の『自分が幸せであらん』と望む独りよがりな願いは、少女の『誰もが幸せであらん』と望む崇高な願いに振り払われた。
 クロヴァトは一人、悲しみの淵に啜り泣く。
 その声は空洞の鎧の中を反響し、不気味な唸り声となって彼の耳に戻っていった。
 
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