反魂の傀儡使い

菅原

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15章 神域戦線

巨鎧兵戦 2

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 巨鎧兵に乗る王国の兵士は、視界一杯を埋め尽くす数の魔法に仰天する。自分の身体でないというのに、思わず後ずさりする程だ。
 目から入る情報の整理と、揺らいでしまった心を立て直すのに多少の時間がかかるだろう。だが飛翔する魔法は、狼狽える兵士らを待ってはくれない。無情なことに、一体の巨鎧兵に対し十、二十にも及ぶ魔法が突き刺さっていく。
 エルフの強大な魔力によって放たれた魔法は、人間の放つ魔法の比ではない。威力、速度、練度に至るまで、全てが数倍の性能を持つ。これが直撃した者は、例え巨鎧兵と言えどもただでは済まない。
 
 巨大な炎の槍が一体の巨鎧兵に突き刺さった。
 鉄で出来た巨鎧兵は、普通の炎で燃えることはない。ましてやその巨体故、人間の放つ魔法程度では忽ち掻き消してしまうだろう。だがエルフが放つ強大な火属性魔法では話が違う。
 魔力が源の炎は、燃焼物が無くても燃え続ける。鉄の装甲に纏わりつき、表面から内側に至るまでを炎で包み込む。
 炎は装甲の隙間から内へと入り込み内部を焼き尽くす。限られた隙間から抜け出る熱気は極僅かで、逃げ場を探し彷徨う熱波が、高速で内部を加熱する。
 無論、中に入っている操者は堪ったものではない。 
「うわあああ!! 火が! 火があああ!!」
 操る兵士が灼熱にもがく度、外側の巨鎧兵までもがもがき苦しむ。
 たっぷりの時間炙られた兵士が気を失う頃、まとわりついていた炎も姿を消し、物言わぬ黒染めの鉄人形が出来上がった。

 エルフと人間の魔法使いたちが放った魔法は、多くの巨鎧兵を苦しめ無力化していった。
 炎が操者を焼き、氷が鉄の装甲を穿つ。岩が地面に大穴を開け、巨鎧兵の体勢を崩す。前線で無力化された巨鎧兵に阻まれ、更に後方の巨鎧兵までもが魔法の餌食となっていく。
 セリオンを圧倒した巨鎧兵は、エルフの魔法に圧倒され思うように動けない。このまま順調にいくかとも思われたが……やはり巨鎧兵の数は膨大で、全てを抑圧することは不可能だった。
「カーシン様! 左方から巨鎧兵が!」
「ぬぅ!? 良い所で……! 仕方がない。全員一時退避! 身の安全を最優先しろ!」
 号令により魔法使いたちは、蜘蛛の子を散らすように散開する。そこにセリオンのような速度は無く、無防備な背中を曝け出してしまっていた。
 当然王国軍がその隙を逃すわけがない。
「逃がすかあああ!!」
 魔法による同胞の苦しみをぶつけるかのように、咆哮と共に拳を振り下ろす。
 セリオンのような回避方法を、エルフはとることが出来ない。だがエルフもただ黙ってその拳を受けるわけがない。
「我が家族に触れさせはせんぞ! 『英雄の盾』!!」
 逃げ回るエルフと巨鎧兵の拳の間に、透明の盾が現れる。
 その強度は堅牢な城壁にも匹敵し、巨鎧兵の腕を弾き飛ばした。
「ぐぅぅっ!? おのれぇ!!」
 操者は操縦席にて、誰にも聞こえぬ恨み言を唱えながら、二度目の攻撃を加えようとする。巨椀を振り上げ、現れた防御魔法を打ち砕かんと、渾身の力を籠めて。振り上げた腕を振り下ろそうとしたその時……その体を蹴り飛ばす者が現れた。
 漸く革命軍の巨鎧兵隊が、戦闘に参加する時だ。

 八百という軍勢に対し僅か四十で戦わねばならぬ革命軍の巨鎧兵隊は、我武者羅に敵兵を倒し続けた。
 圧倒的な性能を有し、魔法も併用する革命軍は、敵を瞬く間に殲滅していく。だがそれでも、セリオンやエルフが接触するまでに間に合わず、尊い犠牲が出てしまった。
 しかしそれもこれまでだ。彼らの巨鎧兵は、王国の持つ巨鎧兵を物ともしない最新兵器。
 王国の巨鎧兵団は突如眼前に現れた異形の人形を見て、再び目を見開く。


 シャルルの操る魔法人形は、目まぐるしく変わる景色の中で次の標的を探し出す。
 彼我の速度差は歴然であり、高速で動くシャルルの目には、王国の兵などまるで止まったように見えていた。振り上げる拳も突き出す足も、抜き放った大太刀すらも、彼女の眼は全てを捉えている。
「ふふふ……実はずっと欲求不満だったのよね。試運転に次ぐ試運転で、思いっきり暴れまわることなんてできなかったんだから」
 頭上から聞こえる少女の物騒な言葉を聞き、リエントは耳を疑った。
「リエント君!魔法で補助お願いね!」
「は、はい!」
 シャルルはお目当ての標的を見つけたようで、意気揚々と指を動かす。

 曲線で出来た巨鎧兵は高速で走る。これを前にした鉄の騎士が取れる行動は限りなく少ない。何せ視認することすら難しいのだ。お世辞にも良いとは言えない視界の中で、瞬く間に姿を消す巨大な影。乱戦の中ではなおの事その姿を見失う。気づけば四肢の内二つは切り飛ばされ、物言わぬ巨鎧兵が転がるのだ。
 味方が瞬く間に数を減らす中で、巨鎧兵団の長クロヴァトは奮闘していた。
「くそぉっ!! なんなんだこの巨鎧兵は! あれが鎧か!? あれが人形か!? 魔法も扱うなど、もはや巨大化しただけの人間ではないか!」
 罵詈雑言を散らしながらもなんだかんだ生き延びる彼は、やはり優秀な操者なのだろう。操る機体も目だった傷は無く、倒せはしないが負けもしない状況にある。
 そんな彼の警報が、ある一体の巨鎧兵に注がれた。
「なんだあれは……明らかに動きが違うぞ!? 一体……二体、三体四体……くそっ! やられる速度が速すぎる! このまま指を咥えていては、八百などあっという間に消え去る。仕方がないか」
 クロヴァトは、異形で、異常な巨鎧兵目掛けて、自らの兵を動かした。


 シャルルとクロヴァトが出会った。
 二人はかつて、同じ釜の飯を食った仲間同士だった。それが今では敵味方に分かれ争う形になっている。だが幸か不幸か、二人の間には二枚の鉄板が隔たっていて、顔を合わせることはない。
 シャルルは思った。この敵は、これまでの敵とは一味違うと。
 一つ一つの動作が洗練され、無駄なく動いている。巨鎧を操る操縦技術は、同等の練度があるとみていい。
(あれは……きっと隊長機ね。隊長が変わったっていう話は聞いていない……多分クロヴァトだ!)
 これで両者は戦う相手を認識した。後は互いに、目的の為全力を尽くすだけだ。
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