反魂の傀儡使い

菅原

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15章 神域戦線

巨鎧兵戦 1

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 響く地鳴り。人間の何倍もある巨大な影が、広大な草原を縦横無尽に駆け巡る。
 片や八百にもわたる正統派の鎧人形。その形状は、人間が身に着ける全身鎧とほぼ同じもので、中に巨人が入っているのではと思わせる綺麗なフルプレートだ。
 片や四十機しかいない異形の魔法人形。その形状は時代を、世界を間違えたかのような流曲線の鉄人形である。
 前者は力強く大地を踏みしめ、綺麗に列を成し行軍を続ける。後者は対照的に、軽やかな動きで草原を駆け抜ける。
 数は圧倒的な差があれど、革命軍の巨鎧兵隊は恐れることなく、王国の巨鎧兵団に突っ込んだ。


 巨鎧兵相手に真面な戦いを取れるのは巨鎧兵のみだ。
 戦士では大きさが違い過ぎて話にならない。魔法使いならば多少の抵抗は可能だろうが、それでも打ち倒すには相当な実力を要求されるだろう。故に、戦士が巨鎧兵に戦いを挑めば、蹂躙されるのが落ちだ。
 しかし、巨鎧兵と戦うことを欲していたセリオンらは、無謀な行動をとり始める。
「本当に動いてやがるぜ! すげえ速さだ! ようし俺がぶっ壊してやる!」
 勇猛果敢なセリオンは恐れを知らず、一目散に敵歩兵でなく巨鎧兵に向かって駆けだした。
「なっ!? 何をしている! おい、グォン! 見ていないで止めるんだ!!」
「心配無用なり! 我らセリオンは、何物にも負けはしない!」
 セリオンの司令塔である筈のグォンに向かって、制止の声を投げかけるガンフ。だがその思いが届く前に、一人のセリオンが巨鎧兵の標的となってしまった。

 巨鎧兵はセリオンのはるか上空から、地面に向かって拳を振り下ろす。風が唸りを上げる不気味な音を鳴らしながら、その巨体が太陽を覆い隠した。
 「なんて大きさだい!」
 標的となったセリオンは死地にありながら冷静だ。一直線に駆けていた軌道を大きく逸らし、右斜め前方へと向きを変える。その速さはまさに地をかける獣そのもので、恐ろしい速度で攻撃の範囲外へと逃げ去っていく。
 その直後だ。巨大な腕が大地に突き刺さったのは。

 衝撃により大地が大きく抉れ、巨大な穴が出来上がる。更に爆ぜだ土塊が後続のセリオンの頭上から降り注ぎ、多くの戦士の視界を潰してしまった。その時間は一瞬の事。だが、戦況を変えるには十分の出来事となる。
 頭上を覆い隠していた土の膜が消え去ると、別の巨鎧兵の足が眼前に広がった。ここは戦場。敵巨鎧兵の数は八百に及び、一体に注視しているわけにはいかない。だが、誰もその存在の可能性を考えてはいなかった。
 そこから先は文字通りの蹂躙だ。咄嗟に走る速度を上げ、範囲外まで駆け抜けようとするセリオン。だがその巨大さ故に間に合いそうもない。巨鎧兵の上げた足は、そのまま十にも及ぶセリオンを踏み潰す。
 恐れを知らぬ戦士は、悲鳴を上げる間もなく、あっけなく死んでしまった。

 これを見て激高したのは、初撃を躱し切ったセリオンだ。
「おのれ! よくも我が兄弟を!!」
 即刻軌道を巨鎧兵に直し、走る速度そのままに足へと張り付く。ドワーフ手製の、鉄より硬い黒鉄のナイフを力任せに突き刺しながら、巨鎧兵の体表をよじ登っていく。
 セリオンにエルフ、ドワーフたちは、革命軍の面々から巨鎧兵の対処法を施されていた。狙い目は装甲と装甲のつなぎ目。薄刃の剣を突き刺し、中の精霊石の糸を断絶すれば、無力化することが出来るだろう、と。それと同時に、巨鎧兵の恐ろしさや強大さも伝えたのだが……セリオンが持つ獣の血に塗りつぶされてしまったようだ。
 よじ登るセリオンは、腰のあたりまで到達する。教えられた通り、股関節と腰の接合部にある隙間に、あらかじめ手渡されていた長剣を突き刺さんと、鞘から抜き放ち構えた。
 だが抵抗もそれまで。不安定な体勢のままのセリオンは、次の標的まで駆ける巨鎧兵に、いとも簡単に振り落とされてしまう。後は硬い大地へ真っ逆さま。頭を強かに打ち付けたセリオンは気を失い、間もなく巨大な足に踏み潰された。


 接触から幾らもしない間に、多くの仲間の命が奪われた。しかもそれは、相手に殆ど被害を与えずの犠牲者だ。
 その光景を目の当たりにしたグォンは、制止の声を上げなかったことを酷く後悔する。
 彼らはまだ、ヒトという生き物を下に見ていたのだ。どれだけ強大な相手か伝え聞いていながら、彼らは『どんなものを持ち出して来ようともヒトに遅れはとらない』と心の奥底で、知らぬ間にそう思ってしまっていた。
「兄弟よ! 逃げるのだ! 戦いを挑んではならん!」
 ここにきて漸く、グォンは巨鎧兵の本当の恐ろしさを知った。言葉や数字だけではない、対峙した者のみにしかわからぬ威圧感、絶望感。そして、その巨鎧兵を作り上げたヒトの恐ろしさも、同時に知る事になった。
(まさかこんなに強大な敵だとは……なんてものを作りだしたのだ! ヒトに技術を与えたドワーフですら、こんなもの作りはしなかったというのに!)
 巨鎧兵が一体だけならば、どうとでもなっていた。
 降りかかる巨椀を避けたことからも、セリオンの身体能力が凄まじい事は一目瞭然。それらが一体目掛けて群がれば、先程のセリオンが望んだように、精霊石の糸を断絶することも叶っただろう。 
 だが戦争は、一人や二人で行うものではない。セリオンらが大勢いるように、巨鎧兵も大勢いる。これに抗うにはやはり、戦士では力不足であった。
 ……となると、次の力が当てがわれることになる。

 巨鎧兵を目指し駆けていたセリオンらは、四方に散らばるように逃げ出し、死地を脱する。
 それに気を捕らわれていた巨鎧兵に対し、革命軍は新たな力を差し向けた。
「高貴なるエルフの民よ! 友を守る刃を放て!」
 カーシンの号令により、膨大な量の魔法がはじけ飛ぶ。視界を埋め尽くす膨大な炎、水、氷に岩。
 これを見た巨鎧兵は怯み、大きく後退することになった。
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