82 / 153
15章 神域戦線
巨鎧兵戦 1
しおりを挟む
響く地鳴り。人間の何倍もある巨大な影が、広大な草原を縦横無尽に駆け巡る。
片や八百にもわたる正統派の鎧人形。その形状は、人間が身に着ける全身鎧とほぼ同じもので、中に巨人が入っているのではと思わせる綺麗なフルプレートだ。
片や四十機しかいない異形の魔法人形。その形状は時代を、世界を間違えたかのような流曲線の鉄人形である。
前者は力強く大地を踏みしめ、綺麗に列を成し行軍を続ける。後者は対照的に、軽やかな動きで草原を駆け抜ける。
数は圧倒的な差があれど、革命軍の巨鎧兵隊は恐れることなく、王国の巨鎧兵団に突っ込んだ。
巨鎧兵相手に真面な戦いを取れるのは巨鎧兵のみだ。
戦士では大きさが違い過ぎて話にならない。魔法使いならば多少の抵抗は可能だろうが、それでも打ち倒すには相当な実力を要求されるだろう。故に、戦士が巨鎧兵に戦いを挑めば、蹂躙されるのが落ちだ。
しかし、巨鎧兵と戦うことを欲していたセリオンらは、無謀な行動をとり始める。
「本当に動いてやがるぜ! すげえ速さだ! ようし俺がぶっ壊してやる!」
勇猛果敢なセリオンは恐れを知らず、一目散に敵歩兵でなく巨鎧兵に向かって駆けだした。
「なっ!? 何をしている! おい、グォン! 見ていないで止めるんだ!!」
「心配無用なり! 我らセリオンは、何物にも負けはしない!」
セリオンの司令塔である筈のグォンに向かって、制止の声を投げかけるガンフ。だがその思いが届く前に、一人のセリオンが巨鎧兵の標的となってしまった。
巨鎧兵はセリオンのはるか上空から、地面に向かって拳を振り下ろす。風が唸りを上げる不気味な音を鳴らしながら、その巨体が太陽を覆い隠した。
「なんて大きさだい!」
標的となったセリオンは死地にありながら冷静だ。一直線に駆けていた軌道を大きく逸らし、右斜め前方へと向きを変える。その速さはまさに地をかける獣そのもので、恐ろしい速度で攻撃の範囲外へと逃げ去っていく。
その直後だ。巨大な腕が大地に突き刺さったのは。
衝撃により大地が大きく抉れ、巨大な穴が出来上がる。更に爆ぜだ土塊が後続のセリオンの頭上から降り注ぎ、多くの戦士の視界を潰してしまった。その時間は一瞬の事。だが、戦況を変えるには十分の出来事となる。
頭上を覆い隠していた土の膜が消え去ると、別の巨鎧兵の足が眼前に広がった。ここは戦場。敵巨鎧兵の数は八百に及び、一体に注視しているわけにはいかない。だが、誰もその存在の可能性を考えてはいなかった。
そこから先は文字通りの蹂躙だ。咄嗟に走る速度を上げ、範囲外まで駆け抜けようとするセリオン。だがその巨大さ故に間に合いそうもない。巨鎧兵の上げた足は、そのまま十にも及ぶセリオンを踏み潰す。
恐れを知らぬ戦士は、悲鳴を上げる間もなく、あっけなく死んでしまった。
これを見て激高したのは、初撃を躱し切ったセリオンだ。
「おのれ! よくも我が兄弟を!!」
即刻軌道を巨鎧兵に直し、走る速度そのままに足へと張り付く。ドワーフ手製の、鉄より硬い黒鉄のナイフを力任せに突き刺しながら、巨鎧兵の体表をよじ登っていく。
セリオンにエルフ、ドワーフたちは、革命軍の面々から巨鎧兵の対処法を施されていた。狙い目は装甲と装甲のつなぎ目。薄刃の剣を突き刺し、中の精霊石の糸を断絶すれば、無力化することが出来るだろう、と。それと同時に、巨鎧兵の恐ろしさや強大さも伝えたのだが……セリオンが持つ獣の血に塗りつぶされてしまったようだ。
よじ登るセリオンは、腰のあたりまで到達する。教えられた通り、股関節と腰の接合部にある隙間に、あらかじめ手渡されていた長剣を突き刺さんと、鞘から抜き放ち構えた。
だが抵抗もそれまで。不安定な体勢のままのセリオンは、次の標的まで駆ける巨鎧兵に、いとも簡単に振り落とされてしまう。後は硬い大地へ真っ逆さま。頭を強かに打ち付けたセリオンは気を失い、間もなく巨大な足に踏み潰された。
接触から幾らもしない間に、多くの仲間の命が奪われた。しかもそれは、相手に殆ど被害を与えずの犠牲者だ。
その光景を目の当たりにしたグォンは、制止の声を上げなかったことを酷く後悔する。
彼らはまだ、ヒトという生き物を下に見ていたのだ。どれだけ強大な相手か伝え聞いていながら、彼らは『どんなものを持ち出して来ようともヒトに遅れはとらない』と心の奥底で、知らぬ間にそう思ってしまっていた。
「兄弟よ! 逃げるのだ! 戦いを挑んではならん!」
ここにきて漸く、グォンは巨鎧兵の本当の恐ろしさを知った。言葉や数字だけではない、対峙した者のみにしかわからぬ威圧感、絶望感。そして、その巨鎧兵を作り上げたヒトの恐ろしさも、同時に知る事になった。
(まさかこんなに強大な敵だとは……なんてものを作りだしたのだ! ヒトに技術を与えたドワーフですら、こんなもの作りはしなかったというのに!)
巨鎧兵が一体だけならば、どうとでもなっていた。
降りかかる巨椀を避けたことからも、セリオンの身体能力が凄まじい事は一目瞭然。それらが一体目掛けて群がれば、先程のセリオンが望んだように、精霊石の糸を断絶することも叶っただろう。
だが戦争は、一人や二人で行うものではない。セリオンらが大勢いるように、巨鎧兵も大勢いる。これに抗うにはやはり、戦士では力不足であった。
……となると、次の力が当てがわれることになる。
巨鎧兵を目指し駆けていたセリオンらは、四方に散らばるように逃げ出し、死地を脱する。
それに気を捕らわれていた巨鎧兵に対し、革命軍は新たな力を差し向けた。
「高貴なるエルフの民よ! 友を守る刃を放て!」
カーシンの号令により、膨大な量の魔法がはじけ飛ぶ。視界を埋め尽くす膨大な炎、水、氷に岩。
これを見た巨鎧兵は怯み、大きく後退することになった。
片や八百にもわたる正統派の鎧人形。その形状は、人間が身に着ける全身鎧とほぼ同じもので、中に巨人が入っているのではと思わせる綺麗なフルプレートだ。
片や四十機しかいない異形の魔法人形。その形状は時代を、世界を間違えたかのような流曲線の鉄人形である。
前者は力強く大地を踏みしめ、綺麗に列を成し行軍を続ける。後者は対照的に、軽やかな動きで草原を駆け抜ける。
数は圧倒的な差があれど、革命軍の巨鎧兵隊は恐れることなく、王国の巨鎧兵団に突っ込んだ。
巨鎧兵相手に真面な戦いを取れるのは巨鎧兵のみだ。
戦士では大きさが違い過ぎて話にならない。魔法使いならば多少の抵抗は可能だろうが、それでも打ち倒すには相当な実力を要求されるだろう。故に、戦士が巨鎧兵に戦いを挑めば、蹂躙されるのが落ちだ。
しかし、巨鎧兵と戦うことを欲していたセリオンらは、無謀な行動をとり始める。
「本当に動いてやがるぜ! すげえ速さだ! ようし俺がぶっ壊してやる!」
勇猛果敢なセリオンは恐れを知らず、一目散に敵歩兵でなく巨鎧兵に向かって駆けだした。
「なっ!? 何をしている! おい、グォン! 見ていないで止めるんだ!!」
「心配無用なり! 我らセリオンは、何物にも負けはしない!」
セリオンの司令塔である筈のグォンに向かって、制止の声を投げかけるガンフ。だがその思いが届く前に、一人のセリオンが巨鎧兵の標的となってしまった。
巨鎧兵はセリオンのはるか上空から、地面に向かって拳を振り下ろす。風が唸りを上げる不気味な音を鳴らしながら、その巨体が太陽を覆い隠した。
「なんて大きさだい!」
標的となったセリオンは死地にありながら冷静だ。一直線に駆けていた軌道を大きく逸らし、右斜め前方へと向きを変える。その速さはまさに地をかける獣そのもので、恐ろしい速度で攻撃の範囲外へと逃げ去っていく。
その直後だ。巨大な腕が大地に突き刺さったのは。
衝撃により大地が大きく抉れ、巨大な穴が出来上がる。更に爆ぜだ土塊が後続のセリオンの頭上から降り注ぎ、多くの戦士の視界を潰してしまった。その時間は一瞬の事。だが、戦況を変えるには十分の出来事となる。
頭上を覆い隠していた土の膜が消え去ると、別の巨鎧兵の足が眼前に広がった。ここは戦場。敵巨鎧兵の数は八百に及び、一体に注視しているわけにはいかない。だが、誰もその存在の可能性を考えてはいなかった。
そこから先は文字通りの蹂躙だ。咄嗟に走る速度を上げ、範囲外まで駆け抜けようとするセリオン。だがその巨大さ故に間に合いそうもない。巨鎧兵の上げた足は、そのまま十にも及ぶセリオンを踏み潰す。
恐れを知らぬ戦士は、悲鳴を上げる間もなく、あっけなく死んでしまった。
これを見て激高したのは、初撃を躱し切ったセリオンだ。
「おのれ! よくも我が兄弟を!!」
即刻軌道を巨鎧兵に直し、走る速度そのままに足へと張り付く。ドワーフ手製の、鉄より硬い黒鉄のナイフを力任せに突き刺しながら、巨鎧兵の体表をよじ登っていく。
セリオンにエルフ、ドワーフたちは、革命軍の面々から巨鎧兵の対処法を施されていた。狙い目は装甲と装甲のつなぎ目。薄刃の剣を突き刺し、中の精霊石の糸を断絶すれば、無力化することが出来るだろう、と。それと同時に、巨鎧兵の恐ろしさや強大さも伝えたのだが……セリオンが持つ獣の血に塗りつぶされてしまったようだ。
よじ登るセリオンは、腰のあたりまで到達する。教えられた通り、股関節と腰の接合部にある隙間に、あらかじめ手渡されていた長剣を突き刺さんと、鞘から抜き放ち構えた。
だが抵抗もそれまで。不安定な体勢のままのセリオンは、次の標的まで駆ける巨鎧兵に、いとも簡単に振り落とされてしまう。後は硬い大地へ真っ逆さま。頭を強かに打ち付けたセリオンは気を失い、間もなく巨大な足に踏み潰された。
接触から幾らもしない間に、多くの仲間の命が奪われた。しかもそれは、相手に殆ど被害を与えずの犠牲者だ。
その光景を目の当たりにしたグォンは、制止の声を上げなかったことを酷く後悔する。
彼らはまだ、ヒトという生き物を下に見ていたのだ。どれだけ強大な相手か伝え聞いていながら、彼らは『どんなものを持ち出して来ようともヒトに遅れはとらない』と心の奥底で、知らぬ間にそう思ってしまっていた。
「兄弟よ! 逃げるのだ! 戦いを挑んではならん!」
ここにきて漸く、グォンは巨鎧兵の本当の恐ろしさを知った。言葉や数字だけではない、対峙した者のみにしかわからぬ威圧感、絶望感。そして、その巨鎧兵を作り上げたヒトの恐ろしさも、同時に知る事になった。
(まさかこんなに強大な敵だとは……なんてものを作りだしたのだ! ヒトに技術を与えたドワーフですら、こんなもの作りはしなかったというのに!)
巨鎧兵が一体だけならば、どうとでもなっていた。
降りかかる巨椀を避けたことからも、セリオンの身体能力が凄まじい事は一目瞭然。それらが一体目掛けて群がれば、先程のセリオンが望んだように、精霊石の糸を断絶することも叶っただろう。
だが戦争は、一人や二人で行うものではない。セリオンらが大勢いるように、巨鎧兵も大勢いる。これに抗うにはやはり、戦士では力不足であった。
……となると、次の力が当てがわれることになる。
巨鎧兵を目指し駆けていたセリオンらは、四方に散らばるように逃げ出し、死地を脱する。
それに気を捕らわれていた巨鎧兵に対し、革命軍は新たな力を差し向けた。
「高貴なるエルフの民よ! 友を守る刃を放て!」
カーシンの号令により、膨大な量の魔法がはじけ飛ぶ。視界を埋め尽くす膨大な炎、水、氷に岩。
これを見た巨鎧兵は怯み、大きく後退することになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる