反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
96 / 153
16章 休息の時

諸刃の剣

しおりを挟む
 仮面を外した少女は息も絶え絶えで、苦し気なうめき声を上げる。
「う……うう……」
 周囲にいる者達はその様子を見ると、慌てて介抱を始めた。
「おい! 治癒術師を呼べ! 『魔法薬ポーション』ももってこい!」
 ガンフの号令で呼び出されたのは魔法に長けたエルフに魔法使い。そして彼らが作った上質な治癒魔法薬だ。
 魔法薬を体に振りかけ、彼らが少女の身体に手をかざせば、淡い光が漏れ出て体の傷を治していく。その合間に、駆け寄ったセリアが少女の仮面を外した。

 取り押さえられていたパシウスは解放されると直ぐに屯する輪に混ざる。
 人ごみを押しのけ漸く中心を覗くと、そこに倒れている少女の姿が目に入った。
「なっ!? 貴女は……!」
 横たわっていた少女は、革命軍の指導者ローゼリエッタだった。
 ローゼリエッタは身動き一つできず、唯襲い掛かる痛みをこらえている。
「うああ!! アアア‶ア‶!!」
 口から出る声は獣の様で、元気だった少女の面影はない。

 パシウスは全身から冷や汗があふれていた。
 ガンフは当初、試合の結果は問わずと言っていた。しかし一歩間違っていれば、革命軍の指導者を殺していたのかもしれなかった。
 敵である兵士の命を奪うことをせず、あれだけの良待遇をしてくれた聖女を、殺してしまう所だったのだ。
 そうならなかったことに、パシウスは心の底から安どのため息を吐いていた。

 ため息の次は情報収集だ。パシウスは注意深く少女の様子を覗き見る。
 外傷は見当たらない。当たり前だ。先の戦いでパシウスの攻撃は一度も当たっていない。美しい衣装はそのままで、汚れも然程無く綺麗な物だ。
 だがその服の下にある彼女の身体は、先の戦いでずたずたになっていた。
 筋肉の断裂、脱臼、骨折。許容範囲を超えた無理な稼働を受け、体が悲鳴を上げている。
 そんな苦しむローゼリエッタを見て、周囲の者達は胸を痛めた。


 ローゼリエッタにこの案を持ちかけたのは、他でもない傀儡師らだった。それに便乗する形で、多くの兵士がローゼリエッタにその案を進めた。
 彼女らはこれまでの戦いを経て、自らに課せられた多くの弱点に気付いていた。
 例えば傀儡と操者を繋ぐ糸。機敏に動く傀儡と違い、狙われたが最後どうしようもない。
 例えば操る傀儡師自身。傀儡を操る彼女らは武器を持たず、碌な戦闘能力を持たない。
 また似通ったところで、傀儡を無力化されると何もできなくなるという点も大きな弱点だ。

 傀儡師らはこれ等の弱点を、自らの身体を傀儡とすることで克服しようと考えた。
 試合に挑むローゼリエッタの踊り子のような服装の下には幾本もの糸が張り巡らされ、その先は大きな籠手の下にある指へと繋がっていたのだ。
 そこへ、以前ローゼリエッタを縛り付けていた傀儡の仮面を改良し持ってくることで、肉体のみを操り人形の状態にし、自分の身体を傀儡のように操ったのである。
 その効果は先の通り。
 自身が持つ傀儡技術をそのまま自らの力として運用することが出来、戦闘技術に疎いローゼリエッタであっても凄まじい戦闘能力を発揮する。
 そしてそれは、王国の誇る三将が一人と戦っていながら押し負けることなく、多くの物を魅了し続けた。
 しかし……その代償はとても大きなものだった。

 長年鍛え上げてきたパシウスの身体に比べ、ローゼリエッタの身体は貧弱極まりない。
 部屋に籠りっぱなしだった身体は筋肉の欠片も無く、訓練をしたこともないから運動性も悪い。
 結果、絶大な力を発揮した後の彼女の身体は、見るも無残な状態となってしまった。
 
 
 想像を絶する高速戦闘。当然少女の身体がそれについていける筈が無い。
 ローゼリエッタの顔は酸欠により紫色に染まり、体が膨大な酸素を求める。望むままに口から大量の空気を吸い込めば、反動で体が動き言葉にできない痛みが走った。
 大きな籠手が外され、外の衣服が脱がされ、薄手の上下のみの姿になると更に痛々しい光景が広がる。
 手足は大きく腫れ上がり、どす黒く変色し至る所で内出血しているのが分かる。またパシウスを蹴り飛ばした足は骨が折れていて、肉を突き破っていた。
「ロ、ロゼ……」
 余りに凄惨な姿に、セリアは言葉を無くす。

 口から洩れた悲鳴は既に失われ、ローゼリエッタに意識はない。
 周囲は更に慌ただしくなっていて、誰の顔からも余裕がなくなっていた。ドワーフは持ってきたありったけの魔法薬を振りかけ、魔法使いは一心不乱に治癒魔法をかけ続ける。ほぼ丸裸というあられもない姿のままだが、そこすらも気に駆ける余裕は誰にもない。

 治療は草原の中で丸一日行われた。当初は危険な状態だったローゼリエッタの容態も、多くの者達の尽力の甲斐もあって明け方には落ち着き始める。
 気を失ってはいたが運搬に耐え得るほど回復したと判断されると、より安静でより清潔な場所へと移された。
 場所はローゼリエッタの自室。
 寝台に寝かされた少女は、女性陣の手によってある程度の身嗜みが整えられる。だがそれでも体は包帯で真っ白で、傍から見ても痛々しい。
 それからは献身的な看病を経て、ローゼリエッタが目を覚ますのに三日の時間がかかった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...