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16章 休息の時
諸刃の剣
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仮面を外した少女は息も絶え絶えで、苦し気なうめき声を上げる。
「う……うう……」
周囲にいる者達はその様子を見ると、慌てて介抱を始めた。
「おい! 治癒術師を呼べ! 『魔法薬』ももってこい!」
ガンフの号令で呼び出されたのは魔法に長けたエルフに魔法使い。そして彼らが作った上質な治癒魔法薬だ。
魔法薬を体に振りかけ、彼らが少女の身体に手をかざせば、淡い光が漏れ出て体の傷を治していく。その合間に、駆け寄ったセリアが少女の仮面を外した。
取り押さえられていたパシウスは解放されると直ぐに屯する輪に混ざる。
人ごみを押しのけ漸く中心を覗くと、そこに倒れている少女の姿が目に入った。
「なっ!? 貴女は……!」
横たわっていた少女は、革命軍の指導者ローゼリエッタだった。
ローゼリエッタは身動き一つできず、唯襲い掛かる痛みをこらえている。
「うああ!! アアア‶ア‶!!」
口から出る声は獣の様で、元気だった少女の面影はない。
パシウスは全身から冷や汗があふれていた。
ガンフは当初、試合の結果は問わずと言っていた。しかし一歩間違っていれば、革命軍の指導者を殺していたのかもしれなかった。
敵である兵士の命を奪うことをせず、あれだけの良待遇をしてくれた聖女を、殺してしまう所だったのだ。
そうならなかったことに、パシウスは心の底から安どのため息を吐いていた。
ため息の次は情報収集だ。パシウスは注意深く少女の様子を覗き見る。
外傷は見当たらない。当たり前だ。先の戦いでパシウスの攻撃は一度も当たっていない。美しい衣装はそのままで、汚れも然程無く綺麗な物だ。
だがその服の下にある彼女の身体は、先の戦いでずたずたになっていた。
筋肉の断裂、脱臼、骨折。許容範囲を超えた無理な稼働を受け、体が悲鳴を上げている。
そんな苦しむローゼリエッタを見て、周囲の者達は胸を痛めた。
ローゼリエッタにこの案を持ちかけたのは、他でもない傀儡師らだった。それに便乗する形で、多くの兵士がローゼリエッタにその案を進めた。
彼女らはこれまでの戦いを経て、自らに課せられた多くの弱点に気付いていた。
例えば傀儡と操者を繋ぐ糸。機敏に動く傀儡と違い、狙われたが最後どうしようもない。
例えば操る傀儡師自身。傀儡を操る彼女らは武器を持たず、碌な戦闘能力を持たない。
また似通ったところで、傀儡を無力化されると何もできなくなるという点も大きな弱点だ。
傀儡師らはこれ等の弱点を、自らの身体を傀儡とすることで克服しようと考えた。
試合に挑むローゼリエッタの踊り子のような服装の下には幾本もの糸が張り巡らされ、その先は大きな籠手の下にある指へと繋がっていたのだ。
そこへ、以前ローゼリエッタを縛り付けていた傀儡の仮面を改良し持ってくることで、肉体のみを操り人形の状態にし、自分の身体を傀儡のように操ったのである。
その効果は先の通り。
自身が持つ傀儡技術をそのまま自らの力として運用することが出来、戦闘技術に疎いローゼリエッタであっても凄まじい戦闘能力を発揮する。
そしてそれは、王国の誇る三将が一人と戦っていながら押し負けることなく、多くの物を魅了し続けた。
しかし……その代償はとても大きなものだった。
長年鍛え上げてきたパシウスの身体に比べ、ローゼリエッタの身体は貧弱極まりない。
部屋に籠りっぱなしだった身体は筋肉の欠片も無く、訓練をしたこともないから運動性も悪い。
結果、絶大な力を発揮した後の彼女の身体は、見るも無残な状態となってしまった。
想像を絶する高速戦闘。当然少女の身体がそれについていける筈が無い。
ローゼリエッタの顔は酸欠により紫色に染まり、体が膨大な酸素を求める。望むままに口から大量の空気を吸い込めば、反動で体が動き言葉にできない痛みが走った。
大きな籠手が外され、外の衣服が脱がされ、薄手の上下のみの姿になると更に痛々しい光景が広がる。
手足は大きく腫れ上がり、どす黒く変色し至る所で内出血しているのが分かる。またパシウスを蹴り飛ばした足は骨が折れていて、肉を突き破っていた。
「ロ、ロゼ……」
余りに凄惨な姿に、セリアは言葉を無くす。
口から洩れた悲鳴は既に失われ、ローゼリエッタに意識はない。
周囲は更に慌ただしくなっていて、誰の顔からも余裕がなくなっていた。ドワーフは持ってきたありったけの魔法薬を振りかけ、魔法使いは一心不乱に治癒魔法をかけ続ける。ほぼ丸裸というあられもない姿のままだが、そこすらも気に駆ける余裕は誰にもない。
治療は草原の中で丸一日行われた。当初は危険な状態だったローゼリエッタの容態も、多くの者達の尽力の甲斐もあって明け方には落ち着き始める。
気を失ってはいたが運搬に耐え得るほど回復したと判断されると、より安静でより清潔な場所へと移された。
場所はローゼリエッタの自室。
寝台に寝かされた少女は、女性陣の手によってある程度の身嗜みが整えられる。だがそれでも体は包帯で真っ白で、傍から見ても痛々しい。
それからは献身的な看病を経て、ローゼリエッタが目を覚ますのに三日の時間がかかった。
「う……うう……」
周囲にいる者達はその様子を見ると、慌てて介抱を始めた。
「おい! 治癒術師を呼べ! 『魔法薬』ももってこい!」
ガンフの号令で呼び出されたのは魔法に長けたエルフに魔法使い。そして彼らが作った上質な治癒魔法薬だ。
魔法薬を体に振りかけ、彼らが少女の身体に手をかざせば、淡い光が漏れ出て体の傷を治していく。その合間に、駆け寄ったセリアが少女の仮面を外した。
取り押さえられていたパシウスは解放されると直ぐに屯する輪に混ざる。
人ごみを押しのけ漸く中心を覗くと、そこに倒れている少女の姿が目に入った。
「なっ!? 貴女は……!」
横たわっていた少女は、革命軍の指導者ローゼリエッタだった。
ローゼリエッタは身動き一つできず、唯襲い掛かる痛みをこらえている。
「うああ!! アアア‶ア‶!!」
口から出る声は獣の様で、元気だった少女の面影はない。
パシウスは全身から冷や汗があふれていた。
ガンフは当初、試合の結果は問わずと言っていた。しかし一歩間違っていれば、革命軍の指導者を殺していたのかもしれなかった。
敵である兵士の命を奪うことをせず、あれだけの良待遇をしてくれた聖女を、殺してしまう所だったのだ。
そうならなかったことに、パシウスは心の底から安どのため息を吐いていた。
ため息の次は情報収集だ。パシウスは注意深く少女の様子を覗き見る。
外傷は見当たらない。当たり前だ。先の戦いでパシウスの攻撃は一度も当たっていない。美しい衣装はそのままで、汚れも然程無く綺麗な物だ。
だがその服の下にある彼女の身体は、先の戦いでずたずたになっていた。
筋肉の断裂、脱臼、骨折。許容範囲を超えた無理な稼働を受け、体が悲鳴を上げている。
そんな苦しむローゼリエッタを見て、周囲の者達は胸を痛めた。
ローゼリエッタにこの案を持ちかけたのは、他でもない傀儡師らだった。それに便乗する形で、多くの兵士がローゼリエッタにその案を進めた。
彼女らはこれまでの戦いを経て、自らに課せられた多くの弱点に気付いていた。
例えば傀儡と操者を繋ぐ糸。機敏に動く傀儡と違い、狙われたが最後どうしようもない。
例えば操る傀儡師自身。傀儡を操る彼女らは武器を持たず、碌な戦闘能力を持たない。
また似通ったところで、傀儡を無力化されると何もできなくなるという点も大きな弱点だ。
傀儡師らはこれ等の弱点を、自らの身体を傀儡とすることで克服しようと考えた。
試合に挑むローゼリエッタの踊り子のような服装の下には幾本もの糸が張り巡らされ、その先は大きな籠手の下にある指へと繋がっていたのだ。
そこへ、以前ローゼリエッタを縛り付けていた傀儡の仮面を改良し持ってくることで、肉体のみを操り人形の状態にし、自分の身体を傀儡のように操ったのである。
その効果は先の通り。
自身が持つ傀儡技術をそのまま自らの力として運用することが出来、戦闘技術に疎いローゼリエッタであっても凄まじい戦闘能力を発揮する。
そしてそれは、王国の誇る三将が一人と戦っていながら押し負けることなく、多くの物を魅了し続けた。
しかし……その代償はとても大きなものだった。
長年鍛え上げてきたパシウスの身体に比べ、ローゼリエッタの身体は貧弱極まりない。
部屋に籠りっぱなしだった身体は筋肉の欠片も無く、訓練をしたこともないから運動性も悪い。
結果、絶大な力を発揮した後の彼女の身体は、見るも無残な状態となってしまった。
想像を絶する高速戦闘。当然少女の身体がそれについていける筈が無い。
ローゼリエッタの顔は酸欠により紫色に染まり、体が膨大な酸素を求める。望むままに口から大量の空気を吸い込めば、反動で体が動き言葉にできない痛みが走った。
大きな籠手が外され、外の衣服が脱がされ、薄手の上下のみの姿になると更に痛々しい光景が広がる。
手足は大きく腫れ上がり、どす黒く変色し至る所で内出血しているのが分かる。またパシウスを蹴り飛ばした足は骨が折れていて、肉を突き破っていた。
「ロ、ロゼ……」
余りに凄惨な姿に、セリアは言葉を無くす。
口から洩れた悲鳴は既に失われ、ローゼリエッタに意識はない。
周囲は更に慌ただしくなっていて、誰の顔からも余裕がなくなっていた。ドワーフは持ってきたありったけの魔法薬を振りかけ、魔法使いは一心不乱に治癒魔法をかけ続ける。ほぼ丸裸というあられもない姿のままだが、そこすらも気に駆ける余裕は誰にもない。
治療は草原の中で丸一日行われた。当初は危険な状態だったローゼリエッタの容態も、多くの者達の尽力の甲斐もあって明け方には落ち着き始める。
気を失ってはいたが運搬に耐え得るほど回復したと判断されると、より安静でより清潔な場所へと移された。
場所はローゼリエッタの自室。
寝台に寝かされた少女は、女性陣の手によってある程度の身嗜みが整えられる。だがそれでも体は包帯で真っ白で、傍から見ても痛々しい。
それからは献身的な看病を経て、ローゼリエッタが目を覚ますのに三日の時間がかかった。
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