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18章 不気味な影
王国の姿
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ドワーフの住む鉱山を出発してから数日が経っていた。
既に王国は目と鼻の先で、目の前にある小高い丘を登り切ったら遠目からでも確認できる位置にある。
ここまでの旅路は、諜報員から告げられた『王国はもう終わり』という報せとは打って変って何の問題も無い静かな物であった。
この時の革命軍の戦力は、巨鎧兵が二百五十。歩兵が千。残す戦力は拠点であるドワーフの鉱山にて防衛陣を敷いている。
巨鎧兵が引く鉄の箱舟の中で、ローゼリエッタは困惑していた。
王都を襲った化け物。魔法石の向こうから聞こえてきた無数の鳴き声から、化け物が複数いることは判っている。
だが鉱山からエルフの森を抜け、王国に至るまでの道のりでそれらしき影は一つも見られなかった。
(本当に王国は滅んでいるのかしら? もしあれが罠だとすれば……)
手痛いしっぺ返しが待っているだろう。そんなことを考えていると、軍の先頭を行く巨鎧兵の一機が、丘を登りきるところだった。
革命軍の巨鎧兵隊は、王国軍の巨鎧兵を受け入れその数を十倍に増やしていた。とはいえ、王国軍が所有していた巨鎧兵は革命軍の物と別の強化が施されている。
真っ白で機動性を重視し、二人一組で操ることで幅広い戦闘を可能とする革命軍の巨鎧兵に対し、王国軍の巨鎧兵は真っ黒で重厚。その体は更に巨大化されていて、元々三階から四階建ての家屋に相当する巨体に磨きがかかっている。運用できる物的資源、人的資源の関係上、操者は一人で済ませてはいるが、背中についた緑の支柱はそのままに、素体は希少な鉱石で強化されていた。
白き巨鎧兵一機につき、黒の巨鎧兵が三十機。それを一つの部隊とし、全部で八つの巨鎧兵部隊がこの行軍に参加していた。更に単独での戦闘を許可された隊長機として、シャルル、リエントが操る白の巨鎧兵と、クロヴァトが操る黒の巨鎧兵を含んだ、計二百五十機が現在同行する新たな巨鎧兵隊となる。
その先行部隊が丘の上に辿り着いたのだ。
各部隊へ、通信用の魔法石により連絡がなされる。
『ご報告いたします! 王国を視認しました。特に変わった様子はないようです』
丘の上から見える王都は特に異常が見当たらない。街並みも荒らされている形跡はなく、化け物の姿も見当たらない。
その報せを受けて、ローゼリエッタと同じく箱舟の中で揺られていたパシウスは首を傾げた。
「どういうことだ? 化け物に襲われたんじゃなかったのか?」
彼の怪訝な声を聞き、僅かだがローゼリエッタに焦りが浮かぶ。
「兎も角、丘の上についたら降りて様子を見てみましょう」
それから幾らもしないうちに、一同は丘の上に辿り着く。
箱舟から降りたローゼリエッタは、遠くに見える王都を見つめる。
円形に作られた大きな防壁。その中には幾つもの家屋が立ち並び、中心には大きな城が建っている。
遠目から見てもその大きさは、かつてローゼリエッタが支店を出していた街とは比較にならない程大きい。
(一度行った事はあったけど、改めてみるとやっぱり立派な物ね)
ローゼリエッタは以前あった人形舞踏会を思い出しては懐かしむ。
思いはせる少女の隣で、パシウスは声を上げた。
「……やはりおかしい。こちらから王都が見えるように、王都からもこの丘の上は丸見えの筈だ。当然あの防壁の上には見張り兵が配置されている。これだけ巨大な鎧の軍隊を見逃す筈が無い。だとすれば防壁の上が慌ただしくなってもおかしくないのだが……やはり化け物が……? いや、しかしそれも……」
「防壁が綺麗すぎるわ」
パシウスの横でセリアも口を開く。
「そうだ。外からの敵ならばあの堅牢な防壁に阻まれる。それこそが、これまでの歴史で積み上げられた最大の防衛手段だ。だがどこも崩れた様子が無い。考えうるは……内通者がいたのか?」
そんな会話を聞いていると、疎いローゼリエッタでもその異常性が理解できた。
綺麗な防壁、動きを見せない王国兵。その最たるは……
「ローゼリエッタ殿!」
王都を見つめるローゼリエッタを呼んだのはガンフだ。兵士らは既に臨戦態勢に入っていて武装は完璧。ガチャガチャと鎧を鳴らせながら、ガンフは走り寄る。それから望遠鏡を持った手で王都を指さし告げた。
「王都に人の気配がありません。兵士だけでなく、民の姿一つも、です」
その報せを受けた者は皆、嫌な汗が噴き出すのを感じた。
王都の異常は目に見える所で如実に表れていたのだ。
王国バルドリンガの王都。王が住む居城があるその城下町は夜を知らず、絶えず賑やかに華やいでいる筈である。
だというのに今目の前にある都はどうしたことか。
パンを焼く窯の煙、鍛冶師が叩く槌の音。忙しなく駆け回る子供に夕食の買い物に出る女。町の警護に当たる衛兵から、そこらで喧嘩をする農夫に至るまで、何もかもがその姿を消しているではないか。
そこにあるのは王都などではなく、建物は綺麗なれども『荒廃した集落』と言っても差し支えない物であった。
王都の変わり果てた姿を目の当たりにして、パシウスは誰ともいわずに問いかける。
「何故だ? 王都にはまだ三将が残っていた筈だ。ゴルゾーンはどうした? アンティラはどうした? 彼らならば大概の敵は蹴散らせるだろうに」
頬を伝う冷や汗。
王国に敵対するのも吝かではないと明言していたパシウスであっても、その実力を認め合った三将の仲間にはひとしおの思い入れがある。
そんな好敵手をもってしても、王国の防衛が叶わなかったことに驚愕を禁じ得ない。
「……急いで王国へ向かいましょう。ここから見えないだけで、建物の中に隠れているのかもしれません」
ローゼリエッタはそういって箱舟へと乗り込んだ。
他の者もそれに続き箱舟に乗り込むと、巨鎧兵団は王都に向けて丘を下り始める。
既に王国は目と鼻の先で、目の前にある小高い丘を登り切ったら遠目からでも確認できる位置にある。
ここまでの旅路は、諜報員から告げられた『王国はもう終わり』という報せとは打って変って何の問題も無い静かな物であった。
この時の革命軍の戦力は、巨鎧兵が二百五十。歩兵が千。残す戦力は拠点であるドワーフの鉱山にて防衛陣を敷いている。
巨鎧兵が引く鉄の箱舟の中で、ローゼリエッタは困惑していた。
王都を襲った化け物。魔法石の向こうから聞こえてきた無数の鳴き声から、化け物が複数いることは判っている。
だが鉱山からエルフの森を抜け、王国に至るまでの道のりでそれらしき影は一つも見られなかった。
(本当に王国は滅んでいるのかしら? もしあれが罠だとすれば……)
手痛いしっぺ返しが待っているだろう。そんなことを考えていると、軍の先頭を行く巨鎧兵の一機が、丘を登りきるところだった。
革命軍の巨鎧兵隊は、王国軍の巨鎧兵を受け入れその数を十倍に増やしていた。とはいえ、王国軍が所有していた巨鎧兵は革命軍の物と別の強化が施されている。
真っ白で機動性を重視し、二人一組で操ることで幅広い戦闘を可能とする革命軍の巨鎧兵に対し、王国軍の巨鎧兵は真っ黒で重厚。その体は更に巨大化されていて、元々三階から四階建ての家屋に相当する巨体に磨きがかかっている。運用できる物的資源、人的資源の関係上、操者は一人で済ませてはいるが、背中についた緑の支柱はそのままに、素体は希少な鉱石で強化されていた。
白き巨鎧兵一機につき、黒の巨鎧兵が三十機。それを一つの部隊とし、全部で八つの巨鎧兵部隊がこの行軍に参加していた。更に単独での戦闘を許可された隊長機として、シャルル、リエントが操る白の巨鎧兵と、クロヴァトが操る黒の巨鎧兵を含んだ、計二百五十機が現在同行する新たな巨鎧兵隊となる。
その先行部隊が丘の上に辿り着いたのだ。
各部隊へ、通信用の魔法石により連絡がなされる。
『ご報告いたします! 王国を視認しました。特に変わった様子はないようです』
丘の上から見える王都は特に異常が見当たらない。街並みも荒らされている形跡はなく、化け物の姿も見当たらない。
その報せを受けて、ローゼリエッタと同じく箱舟の中で揺られていたパシウスは首を傾げた。
「どういうことだ? 化け物に襲われたんじゃなかったのか?」
彼の怪訝な声を聞き、僅かだがローゼリエッタに焦りが浮かぶ。
「兎も角、丘の上についたら降りて様子を見てみましょう」
それから幾らもしないうちに、一同は丘の上に辿り着く。
箱舟から降りたローゼリエッタは、遠くに見える王都を見つめる。
円形に作られた大きな防壁。その中には幾つもの家屋が立ち並び、中心には大きな城が建っている。
遠目から見てもその大きさは、かつてローゼリエッタが支店を出していた街とは比較にならない程大きい。
(一度行った事はあったけど、改めてみるとやっぱり立派な物ね)
ローゼリエッタは以前あった人形舞踏会を思い出しては懐かしむ。
思いはせる少女の隣で、パシウスは声を上げた。
「……やはりおかしい。こちらから王都が見えるように、王都からもこの丘の上は丸見えの筈だ。当然あの防壁の上には見張り兵が配置されている。これだけ巨大な鎧の軍隊を見逃す筈が無い。だとすれば防壁の上が慌ただしくなってもおかしくないのだが……やはり化け物が……? いや、しかしそれも……」
「防壁が綺麗すぎるわ」
パシウスの横でセリアも口を開く。
「そうだ。外からの敵ならばあの堅牢な防壁に阻まれる。それこそが、これまでの歴史で積み上げられた最大の防衛手段だ。だがどこも崩れた様子が無い。考えうるは……内通者がいたのか?」
そんな会話を聞いていると、疎いローゼリエッタでもその異常性が理解できた。
綺麗な防壁、動きを見せない王国兵。その最たるは……
「ローゼリエッタ殿!」
王都を見つめるローゼリエッタを呼んだのはガンフだ。兵士らは既に臨戦態勢に入っていて武装は完璧。ガチャガチャと鎧を鳴らせながら、ガンフは走り寄る。それから望遠鏡を持った手で王都を指さし告げた。
「王都に人の気配がありません。兵士だけでなく、民の姿一つも、です」
その報せを受けた者は皆、嫌な汗が噴き出すのを感じた。
王都の異常は目に見える所で如実に表れていたのだ。
王国バルドリンガの王都。王が住む居城があるその城下町は夜を知らず、絶えず賑やかに華やいでいる筈である。
だというのに今目の前にある都はどうしたことか。
パンを焼く窯の煙、鍛冶師が叩く槌の音。忙しなく駆け回る子供に夕食の買い物に出る女。町の警護に当たる衛兵から、そこらで喧嘩をする農夫に至るまで、何もかもがその姿を消しているではないか。
そこにあるのは王都などではなく、建物は綺麗なれども『荒廃した集落』と言っても差し支えない物であった。
王都の変わり果てた姿を目の当たりにして、パシウスは誰ともいわずに問いかける。
「何故だ? 王都にはまだ三将が残っていた筈だ。ゴルゾーンはどうした? アンティラはどうした? 彼らならば大概の敵は蹴散らせるだろうに」
頬を伝う冷や汗。
王国に敵対するのも吝かではないと明言していたパシウスであっても、その実力を認め合った三将の仲間にはひとしおの思い入れがある。
そんな好敵手をもってしても、王国の防衛が叶わなかったことに驚愕を禁じ得ない。
「……急いで王国へ向かいましょう。ここから見えないだけで、建物の中に隠れているのかもしれません」
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