反魂の傀儡使い

菅原

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18章 不気味な影

国の現状

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 防壁の真下に到着しても王国は一切の反応を見せなかった。
 巨大な門は固く閉ざされており、中の様子は見ることが出来ない。
「それで、どうする? ロゼ」
「ううんと……とりあえず……やっちゃいますか?」
 セリアとローゼリエッタの存外暴力的な発言に、周囲の戦士が苦笑いをする。
「そうだな。この際ぶち抜いてしまうのが手っ取り早いだろう。ここまで来て全くの無反応など異常と言っても問題ないからな」
 パシウスの了承が得られて漸く、巨鎧兵が動き出す。


 シャルルは巨鎧兵の中でリエントに向けて愚痴を語る。
「まったく……ロゼお姉さまも水臭いと思わない? 私に言ってくれたらもっと優しく慰めてあげたのに」
「ははは、やっぱり一緒にいた時間の差では?」
「そんなのわかってるわよ! もう! 八つ当たりなんてみっともないけど……」
 怪しげな笑みを湛え、シャルルは巨鎧兵を操り門をたたいた。

 ドゴォォォオオン!!

 爆音が鳴り響く。
 上下に開閉する形式の鉄の門は、大地に突き刺さっている為に吹き飛ぶまでには至らない。
 だが強力な力を受けたが為に、門を固定する防壁の一部が崩れ落ちた。
 それに加え門が突き立つ地面も抉れる。そして二つ目の音と共に巨大な門が吹き飛んだ。

 大通りを巨大な鉄の塊が跳ねる。
 舞い上がる土埃、向こう側にはいくつもの土塊がはじけ飛び、もし人がいれば相当な被害が出ているだろう。
 だが今は、幸か不幸か町は無人。
 そのせいか門が地面を跳ねる音も良く響く。
「……もう少しだけ、お淑やかに出来ない物かしらね」
「ふふっ、これなら鉄の門よりも石の防壁を壊したほうが楽だったかも」
 セリアの呆れた呟きも、ローゼリエッタの漏らした失笑も、シャルルの下に届かない。


 開け放たれた門をくぐり、革命軍は王都へと踏み入った。
 元は賑やかだったであろう大きな通りも閑古鳥。人間がいるような気配は一つも感じられない。

 門が開いたと同時に、鉄の箱舟に入っていた兵士は躍り出ると、各員訓練通りの機敏な動きで幾つもの塊を作り列を成す。
 残すは指導者による号令を待つのみとなり、その視線は一人の少女へとむけられた。
 国の不気味な空気を吹き飛ばすように、ローゼリエッタは叫んだ。
「皆さん! 街の散策をお願いします! 人命を最優先し、件の化け物を見つけても無理せず撤退して下さい!」
「「「おう!」」」
 集った千の歩兵の内、半数以上の兵士が王都に散らばり、いるかどうかわからない民の散策を開始する。
「巨鎧兵隊の皆さんは、防壁の周りと王都内で敵が現れた時に備えてください!」
「「「まかせてください!」」」
 巨鎧兵隊は防壁の周りで警護、また巨鎧兵が歩くことが出来る大通りの警護に当たる。
「残りの皆さんはパシウスさんの先導の下、王城の中を調べます。宜しくお願いします!」
「「「了解!!」」」
 全ての部隊に命令が下されると、各員行動を開始する。


 城下町を探索する兵士らは、その光景を見て恐怖した。
 つい先日まで人がいたであろう町には人間が一人もいない。一方で犬や猫といった人間ではない生き物は普通に見かけることが出来る。店頭にある腐りかけた食い物を貪るその姿は、とても王が住む町の物とは思えない。
 本来であれば店番が庖丁を振り上げ追い払う物だが、その当人が姿を消している。つまり、全ての生物が消えたわけでなく、人間だけがこの国から丸ごと消え去ってしまっているのだ。
 そして、遠目から見た綺麗な国は表面ばかりの物であったらしい。家屋に目ぼしい被害は一切ないが、家の中を覗けば散乱した本やカップの破片、そして刀剣の類も転がっていて、争った形跡が見られた。
「……隊長! 見てください!」
「ああ……どうやら平穏だったのは外見だけだったようだ。別動隊へ直ぐに報告を! 我々はこのまま探索を続ける!」
 その街の異常は、直ぐに各兵士に伝えられることになる。


 防壁の外にて。
 巨鎧兵の中から見える防壁は、巨鎧兵の大きさをもってしても巨大と感じる。
 もともと巨鎧兵を有する国であるから可能な建造物。そしてその最上にある砲台に、リエントの目は釘付けとなった。
「あ、あれは……シャルルさん! あの砲台……全て魔導砲です!」
「みたいね。ここから見えるだけでも十門以上見えるわ。王国に動きがないと訝しんでいたけど、実際に兵士が対応していたら……どうなっていたのかしらね」
 移動式に簡略化された魔導砲であっても、エルフが住まう巨大な樹木を一発で倒してしまう威力を有する。
 そんなものが、見えているだけでも十門。それだけの魔法弾を一斉に放たれては、どんな戦力を有していても太刀打ちできる物ではない。

 もしもの光景を想像して、シャルルは思わず体を震わせる。一方でリエントは、別の意味で体を震わせていた。
「シャルルさん。ここから見える魔導砲は、設置されてから一度も打たれていません。強大な魔力を凝縮した弾を打ち出す兵器……当然その砲台も、固定する防壁自身にも相当な被害が出ます。でもあそこにある砲台も防壁も綺麗なままだ。それに……」
 震える声で出されたリエントの指示により、シャルルは巨鎧兵の視線を背後に向ける。
「魔導砲が使われたのなら、どこかしらに被害がある筈です。この高さからなら巨鎧兵を狙っても砲身が上を向くことはあり合えない。でも見える限りに傷跡がないということは、一発も放たれていないということです」
「つまり……外部からの侵攻ではない?」
「断定はできません。でも、これだけの兵器を有していながら、王国を滅ぼす程の強敵相手に使わない手はありません」
 密閉された操縦席で、不穏な空気が流れる。


 各部隊が王国の異常を察知する頃、ローゼリエッタ率いる王城探索部隊は、パシウスを先頭に城の中に入るところだった。
 その顔触れは錚々たるものだ。傀儡師隊の主力ローゼリエッタにセリア。そしてのその守護者であるカルテア。亡国の王ガンフに身体能力に優れたセリオンの長グォン。強大な魔力を持つエルフのカーシーン。ドワーフのマシリオンこそ拠点にて防衛に当たってはいるが、革命軍が保有する巨鎧兵を除いた最高戦力が集っていると言ってもいい。
 ローゼリエッタとセリア以外の傀儡師はといえば、他の兵士と共に町の探索に当たっていた。つまり、この場にいるのはパシウスに賛同する百の兵士と、ガンフに従う百の兵士を含めた二百六の戦士たちだ。
「まずは王の安否を確認したい。一番可能性があるのは……謁見の間か。ここからも一番近い。そこへ向かおう」
「ええ、お願いします。皆さん! 接敵に注意してください! 周囲の警戒をお願いします!」
 パシウスの提案を受け、ローゼリエッタは周囲の兵士に警戒を促す。
 そして一行は、開いたままの城門を潜り抜け、謁見の間を目指す。
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