反魂の傀儡使い

菅原

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19章 世界の審判

龍の試練

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 吹き飛ばされたパシウスは宙を飛び、そのまま側面の壁へと叩きつけられる。
 飛び散る血飛沫に石片。戦う意思を失ってもなお握り続けていた剣も既に床に落ち、けたたましい音を鳴らしている。
 一同の視線はまずパシウスが衝突した壁に注がれた。蜘蛛の巣のようにひび割れた壁は、それでもなお芸術性を失わない。所々に赤い血痕がこびり付き、パシウス本人は地面に横たわる。
 一方で、その存在に気付いた兵士が叫んだ。
「なっ、なんだあれは!!」
 その声に誘われ、周囲の兵士を先にローゼリエッタも玉座へと視線を戻す。
 すると、そこにあったのは見た事のない巨大な腕だった。

 指の数は四つ。その先には槍のような鋭い爪が生えている。更には人間が身に着けるチェストプレートのような鱗が、隙間なく埋め尽くしていた。真っ白なその腕の大きさは、巨鎧兵に匹敵する程大きい。
「おやおや、三将を名乗る他のお二方は、私の技を一つも受け止めることが出来なかったというのに……流石はパシウス様です」
 声は腕の根元から聞こえてくる。
 先から聞こえる優しい老人の声だ。
 彼の姿を注視してしまった者達は、余りの恐ろしさに身震いをした。

 
 この状況下で、真っ先に動き出したのは、セリオンの長グォンだった。
 彼は自らが持つ驚異的な身体能力を持って、高速でパシウスの下まで駆けよると、直ぐに腕を押さえつける。
「治癒術師よ! 早く来い!」
 グォンの声に反応して、革命軍の集団から数名の魔法使いが飛び出す。

 吹き飛ばされたパシウスは、奇跡的に一命をとりとめていた。
 だが巨大な腕の一撃を受け止めた為か、剣を握っていた筈の右腕の、肘から先が切り飛ばされてしまっている。
 まだ生きている。だが溢れ出る血により余名も幾許かだ。魔法だろうが物理的にだろうが、兎も角早急な処置が必要とされる。
 その様子を黙ってみていたジェイクだったが、突如として彼の身体に異変が起きた。

 まだ人間の形を保っていた残りの四肢が、先の巨大な腕と同じ形へと変異する。それに加えて体も巨大になり、気付けば見たこともない四つ足の巨大な化け物が出来上がった。
『まずは貴様に問おう。セリオンよ。なぜ貴様は、世界を崩壊へと誘う者へ加担する?』
 白銀の身体からは大きな翼が生え、その姿は一般に流布される架空世界の住人、『龍』のそれと同じだ。

 龍とは、世界に生きる命の頂点に立つ者の名とされる。
 彼の者は大地を歩く人間よりも、大空を舞う鳥よりも高い天に住み、悠久の時を、地上を眺めながら生きるという。
 今目の前にいる存在が、本当にその龍であるかどうかはローゼリエッタには判らない。
 だがそういわれても納得できてしまう程に、その姿は神々しく、美しかった。

 白龍の問いかけに対し、グォンは淀むことなく答える。
 傷口を抑えていた手を退け堂々と立ち上がると、見たこともない巨大生物を睨みつけた。
「彼が率いる軍の侵略によって、エルフの集落が滅ぼされ、幾つもの命が失われたのは知っている。だがだからと言って、同じ世界に住まう兄妹を見殺しにするような真似は出来ない!」
 傷の手当てに奔走する者達の切迫したやり取り以外、殆ど音のない部屋に響き渡る雄たけび。
 人間を兄弟と呼び立ち塞がるグォン。
 彼のその答えに満足したのか、白龍の標的は次にカーシーンへと移った。
『ふむ……次に貴様に問おう。エルフよ。何故貴様は、世界を崩壊へと誘う物へ加担する?』
 龍の姿を見て怯えていた兵士たちも、先のグォンの言葉で生気を取り戻している。
 それを後押しする形で、カーシーンもやはり淀むことなく答える。
「彼らは、尊いその命を犠牲にして、我々を救ってくださいました。ならば彼らの為に命を投げ出すのも惜しくない。例え『精霊を司る者』を敵に回したとしても……それが、我々の魂に刻まれた神の教えです!」
 グォンとは違い、尊敬の意を持って答えるカーシーン。その堂々とした態度が、更に兵士の心を振るいだたせる。


 セリオン、エルフ両名の答えを聞き、白龍は暫し目を閉じる。まるで眠っているかのようだ。だがすぐに目を開けると、再び中性的な声で語り出した。
『貴様らの意思は理解した。我は貴様らと違う存在だから、貴様らの意思は尊重しよう。ならば守って見せるがいい。世界が決めた理に抗い、見事人間を守り抜いて見せよ』
 龍が白い翼を広げる。
 広大な広間を余すことなく埋め尽くす龍の身体。その姿だけで、人間の、エルフの、セリオンの心を震わせる。
 それに拍車をかけるように、ローゼリエッタの道具袋で魔法石が輝いた。
『ロ……さ……ロゼお姉さま! 山が……真っ黒に染まって……! 一時退却を! 急いでください!!』
 城の中だけでなく、防壁の外でも異常な事態が起きていた。
 
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