反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
127 / 153
21章 画策

会食

しおりを挟む
 約束の時間が近づいてきた。
 ローゼリエッタはトキノと共に、ドール・ロゼを後にすると約束していた大衆食堂へと向かう。
「ここら辺の飯屋も王国に負けず劣らず、中々旨いな」
「そうなんですか? ……そういえばよく考えたら私、どこかのお店でご飯を頂いたことなかったです」
「なんだ、もったいねえな。じゃあこの優しいお兄さんが教えてやろうじゃねえか。いいか? おすすめはだな……」
 二人は道すがら、そんなことを喋りながら大通りを練り歩く。

 キャロル、ジェインとの約束した店は、大通りに面した食堂だった。大通りは既に人でごった返していて、まっすぐ歩くのも儘ならない。そんな道を歩くローゼリエッタは、一人でないことで密かに安どしていた。
「今日も又大勢いるな。逸れるなよ」
 そういってトキノは先を歩く。

 約束の店の前には、既にキャロルとジェインが待っていた。
 キャロルは近寄るローゼリエッタに気が付くと、元気よく手を振って出迎える。
「良かった、迷ってなくて。ここら辺のお店はどこも人気で、人通りがすごいから心配だったの」
 確かにキャロルの言う通り、周囲は夕飯時とあって凄い人込みだ。だが今の姿は本当の姿ではない。まだ日が顔を出している時間帯だが、もうしばらくたてば仕事帰りに酒を求める者達が集い、更に人は増えていくのだ。
 行き交う人並みの中で、ローゼリエッタはキャロルと手を繋ぐと、傍にいたトキノの紹介を始める。
「実は私のお店のお隣で、知り合いがお店を出していたんです。その人に案内してもらったのでとっても助かりました」
「おお、中々の美人さんじゃねえか。宜しくな姉ちゃん、兄ちゃん」
 笑顔で手を上げるトキノ。そのまま手を伸ばし、キャロル、ジェインに握手を求めた。
 だがキャロルとジェインは、その差し出された手と、トキノの顔を交互に見ると、驚愕の表情で叫んだ。
「めっ、名匠アガツマ!?」
「まさかロゼのお店って、アガツマさんの隣なの!?」
 どうやらアガツマの名はこの街でも轟いているようだ。
 二人の叫び声につられて、周囲を歩く者らの視線が集まる。するとトキノは、慌てて二人の口を手でふさぐと、そそくさと店の中に連れ込んでしまった。
 周囲の視線は自然と一人取り残されたローゼリエッタに集まる。
 その視線に耐え切れなくなったローゼリエッタもまた、急ぎ店の中に駆け込んだ。


 大通りに負けず劣らず、店内も人でごった返していた。
 その多くは剣を振って生計を立てる生粋の戦士たちだ。町人からの依頼を完了し、仕事終わりの一杯といったところだろうか。
 更には入れ替わる客に対応する店員も、所狭しと駆け巡っている。
「嬢ちゃん、こっちだこっちだ!」
 店の入り口で熱気に充てられていたローゼリエッタは、遠くから呼びかけられる声に気付く。
 持ち主であるトキノはというと、連れ去ったキャロル、ジェインと共に、一つの丸いテーブルでくつろいでいた。
 周囲にもテーブルが置いてあり、空席は殆ど見当たらない。
 ローゼリエッタは店内を行き交う人にぶつからぬ様気を付けながら、一つだけ開いた空席に座る。
「凄い繁盛していますね」
「ふふっ、凄いのはこれからよ。別の店から流れてくる戦士たちに加えて、農作業で疲れ切った農夫も雪崩れ込んでくるわ。これでも空いてるほうなのよ」
 キャロルの言葉をにわかに信じられず、ローゼリエッタは周囲を見渡す。
 そうしていると、いつの間に呼んだのか店員がやってきて注文を取り始めた。
「先ずは酒だ! 嬢ちゃんはともかく、お前らは飲めるだろう?」
「ええ、お付き合いしますよ」
「私はあんまり強くないから、軽い奴で……」
 酒を注文した後、皆思い思いに好きな料理を注文する。それから料理が運ばれるまでの間で、いよいよ情報の共有が始まった。

 場を仕切るのは、一番最年長であるトキノ・アガツマだ。
 彼は先ず向かい側に座るローゼリエッタに話を聞くことに決める。
「じゃあ早速だが、革命軍の仕入れている情報を聞きたいとこだな。嬢ちゃんとこではどんなことがわかっているんだ?」
「はい、まずは……そうですね……皆さんが『黒き獣』と呼ぶ物ですが、革命軍の間では病魔を狩る物、通称『魔物』と呼んでいます。この世界の自浄作用とのことで、世界の管理者ではない人間を滅ぼすために、世界が作り出した存在の様です」
 呼称は特別大事なものではない。だがその存在理由は極めて重要な話で、人間が棲む界隈で分からなかった『突然出現した理由』を解明する貴重な情報源となる。
 ここで、キャロルが割って入った。
「ちょっとごめんなさい。その『世界の管理者』っていうのは誰なのかしら」
「ああ、すみません。そこから説明しないといけませんでしたね。えーと……世界の管理者っていうのは、エルフやドワーフ、セリオンといった人達の事です。彼らが世界を管理してくれているから、この世界は私たちが棲める世界になっているんだそうです」
 管理者の名前が連なると、キャロル、ジェイン、トキノの三人は口を開け驚いた。

 一般的な人間にとって、エルフやドワーフといった存在は架空にも等しい存在であった。
 勿論それらを取り上げた書物や物語も多数存在はしたが、そのどれもが空想の産物であるとされ、事実ここ数百年の間でその存在が確認されたことはない。
 とはいえ『森人の森』のように、様々な形で語り継がれていて、その名だけは今でも耳にすることが出来る。
「子供の頃に絵本で読んだことはあったが……本当に存在するのか?」
 ジェインの問いかけに、ローゼリエッタは頷く。
「本当です。現に私はエルフ、セリオン、ドワーフの集落でお世話になっていましたし、先だっての王国との戦いでも、皆さん命がけで助けてくれました」
 こればかりは納得してもらうしかない。なにせ革命軍を離れた少女には、彼らの存在を証明する証拠が一切ないのだから。
 
 ローゼリエッタの真摯な態度が幸いし、彼女の話は過不足なく受け入れられた。
 そこで話は魔物へと戻る。
「それで、その魔物ってのはどうしたらいなくなるんだ? 自浄作用ってことは、俺たち人間は、世界に害ある存在だと認識されたことになるが……」
 トキノは少々神妙な顔つきで問いかけた。
 仲間が殺され、今こうしている間にもどこかで犠牲は増えているかもしれない。そんなことを懸念しての問いかけだった。
 だが、その答えはローゼリエッタにも分らない。
「……ごめんなさい。どうしたらいいかは私にもわからないんです」
「分からないって……貴女は革命軍の意思で動いているんじゃないの?」
 横から投げかけられるキャロルの疑問に、ローゼリエッタは答える。
「いえ、今の私がしていることは、革命軍と何も関係ないんです。実は……」
 それから料理が来るまでの時間を使って、少女は説明し続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...