126 / 153
21章 画策
久方ぶりの再開
しおりを挟む
ローゼリエッタが経営する、トレット家が第一支店『ドール・ロゼ』は、以前と変わらぬ場所に佇んでいた。
経営者が不在だったため多少草臥れてはいるが、取り壊されるわけでなく、注意書きが綴られた紙が貼られているようなこともない。
ただ、ドール・ロゼの両脇にある店は大分軒並みを変えていて、民家だったところまで剣や鎧を揃える武具屋に変わっていた。
「相変わらず活気はあるみたいだけど、町は随分と様変わりしたみたいね」
閉めてあった鍵を開け、ドアノブに手をかけながら隣の店を覗き見る。
すると、鍛冶師の腕が良いのか武具屋は良く繁盛しているようで、店内は客で一杯だ。
「わぁ……凄い繁盛してるのね。相当腕が良いのかしら?」
余りの人の多さに、ローゼリエッタはついつい首を伸ばして中を覗いてしまう。
するとそこには、以前どこかで見た事のある顔があった。
金色に輝く波がかった短髪は頭巾で縛られ、薄いシャツの袖からは逞しい腕が見える。年はまだ若く、四十にならないくらいだ。
「あれは……確か……そう、アガツマさんだわ!」
そこにいたのは、かつてローゼリエッタが王国軍に属していた時、彼女の乗る巨鎧兵の製作を一挙に担っていた工場の主、トキノ・アガツマだった。
ぼんやりと靄がかかる記憶の中、うっすらと思い出される顔と名前。少女がその鍛冶師の顔をまじまじと見つめていると、偶然トキノがローゼリエッタの方を振り向いた。
中で接客に追われていたトキノは、少女を見つけると突然慌てだし、店の中にいる客をそそくさと帰し始める。
「すまないが閉店だ!! 明日また来てくれ!」
余りにも理不尽な物言いに、来客からぱらぱらと文句が上がる。だが最終的には皆店を後にして、店内はあっという間に無人となった。
客が捌けるとトキノは、店の入口に掲げてあった看板を引っ繰り返し店じまいをすます。その後ドール・ロゼの前で呆然とするローゼリエッタに近寄ると、元気よく声をかけた。
「久しぶりだな、嬢ちゃん! 無事で何よりだった」
「ええ、アガツマさんも! 王国があんなことになって、てっきり私……」
アガツマさんも死んだものとばかり、なんて口にしそうになって、ローゼリエッタは慌てて口に手を当てる。
その様子を見たアガツマは、怒るでもなく豪快に笑い飛ばした。
「がはは! そんな気を遣うんじゃない。……実際ぎりぎりだったんだ。王国の兵には感謝せねばならん。命を懸けて、多くの住民を逃がしてくれたのだから。皆も生き残っていたら良いのだが」
「そう……ですか……。ごめんなさい、私たちが王国についた時にはもう……」
「なに? そうか……そうか」
感傷に浸る二人。まだまだ日も高い日中だというのに、二人の心が沈んでしまう。
無言の時も極僅か。トキノは直ぐに口を開く。するとあろうことか、トキノはローゼリエッタを食事に誘いだした。
「嬢ちゃんも今回の件、色々と知っているんだろう? どうだ、少し早いが晩飯でも。話も聞きてぇしよ。色々と」
ローゼリエッタが革命軍に寝返ったという情報は、トキノも当然掴んでいた。そこでトキノは、革命軍の持つ情報を聞き出そうとローゼリエッタを誘い出したのだ。
ローゼリエッタはトキノの提案を受け、少々考えを巡らす。
まず、ローゼリエッタは現在、革命軍に影響を与えている状況下にない。少女の考えは革命軍に反映されず、革命軍の決定は少女の行動に反映されない状態だ。
この状況でローゼリエッタが革命軍の持つ情報を話してしまえば、それは機密事項の漏洩に、引いては革命軍に仇名す行為になるのではと、少女は思い悩んだ。
だがここで、トキノが一つ口をはさむ。
「おい嬢ちゃん。悩んでいるところすまないが言わせてもらうぜ。あの黒い獣は強敵だ。全員の力を合わせにゃ抗えん程にな。今更敵だ見方だと悩んでる場合か?」
トキノの言葉はローゼリエッタの悩みを氷解させた。
確かに彼の言う通り、魔物の出現は人類が皆協力して妥当しなければならない問題だ。なのに今更、敵味方を意識する必要はあるのだろうか。その答えは、問われずとも明らかだ。
さんざん悩んだ挙句、ローゼリエッタはトキノの誘いを受けることに決めた。
「分かりました。お供させて頂きます。ですが、実は先約があるんです」
「なんだい、それを早く言えや。じゃあそいつらも一緒でいいじゃねえか。飯は大勢で食った方が旨いからな」
豪快に笑うトキノを見て、少女は先程まで悩んでいたことすら馬鹿らしく感じてしまう。
「……ふふっ、分かりました。でも約束の時間はもう少し先ですから、一旦中でお茶でもどうですか?」
「おお、ありがてぇ。遠慮なくいただくぜ」
ローゼリエッタがこれまでに出会った鍛冶師たちは、皆気さくで気持ちの良い性格の者達ばかりだ。その快活な姿を見て、少女はいつも元気づけられてきた。
(アガツマさんを見ていると、マシリオンさんを思い出すわね。はぁ……皆、元気にしてるかなぁ)
ローゼリエッタは自分の店の戸を開け客人を招き入れる。それから飲み物を用意する間、暫し遠方にいる友人を思い出していた。
経営者が不在だったため多少草臥れてはいるが、取り壊されるわけでなく、注意書きが綴られた紙が貼られているようなこともない。
ただ、ドール・ロゼの両脇にある店は大分軒並みを変えていて、民家だったところまで剣や鎧を揃える武具屋に変わっていた。
「相変わらず活気はあるみたいだけど、町は随分と様変わりしたみたいね」
閉めてあった鍵を開け、ドアノブに手をかけながら隣の店を覗き見る。
すると、鍛冶師の腕が良いのか武具屋は良く繁盛しているようで、店内は客で一杯だ。
「わぁ……凄い繁盛してるのね。相当腕が良いのかしら?」
余りの人の多さに、ローゼリエッタはついつい首を伸ばして中を覗いてしまう。
するとそこには、以前どこかで見た事のある顔があった。
金色に輝く波がかった短髪は頭巾で縛られ、薄いシャツの袖からは逞しい腕が見える。年はまだ若く、四十にならないくらいだ。
「あれは……確か……そう、アガツマさんだわ!」
そこにいたのは、かつてローゼリエッタが王国軍に属していた時、彼女の乗る巨鎧兵の製作を一挙に担っていた工場の主、トキノ・アガツマだった。
ぼんやりと靄がかかる記憶の中、うっすらと思い出される顔と名前。少女がその鍛冶師の顔をまじまじと見つめていると、偶然トキノがローゼリエッタの方を振り向いた。
中で接客に追われていたトキノは、少女を見つけると突然慌てだし、店の中にいる客をそそくさと帰し始める。
「すまないが閉店だ!! 明日また来てくれ!」
余りにも理不尽な物言いに、来客からぱらぱらと文句が上がる。だが最終的には皆店を後にして、店内はあっという間に無人となった。
客が捌けるとトキノは、店の入口に掲げてあった看板を引っ繰り返し店じまいをすます。その後ドール・ロゼの前で呆然とするローゼリエッタに近寄ると、元気よく声をかけた。
「久しぶりだな、嬢ちゃん! 無事で何よりだった」
「ええ、アガツマさんも! 王国があんなことになって、てっきり私……」
アガツマさんも死んだものとばかり、なんて口にしそうになって、ローゼリエッタは慌てて口に手を当てる。
その様子を見たアガツマは、怒るでもなく豪快に笑い飛ばした。
「がはは! そんな気を遣うんじゃない。……実際ぎりぎりだったんだ。王国の兵には感謝せねばならん。命を懸けて、多くの住民を逃がしてくれたのだから。皆も生き残っていたら良いのだが」
「そう……ですか……。ごめんなさい、私たちが王国についた時にはもう……」
「なに? そうか……そうか」
感傷に浸る二人。まだまだ日も高い日中だというのに、二人の心が沈んでしまう。
無言の時も極僅か。トキノは直ぐに口を開く。するとあろうことか、トキノはローゼリエッタを食事に誘いだした。
「嬢ちゃんも今回の件、色々と知っているんだろう? どうだ、少し早いが晩飯でも。話も聞きてぇしよ。色々と」
ローゼリエッタが革命軍に寝返ったという情報は、トキノも当然掴んでいた。そこでトキノは、革命軍の持つ情報を聞き出そうとローゼリエッタを誘い出したのだ。
ローゼリエッタはトキノの提案を受け、少々考えを巡らす。
まず、ローゼリエッタは現在、革命軍に影響を与えている状況下にない。少女の考えは革命軍に反映されず、革命軍の決定は少女の行動に反映されない状態だ。
この状況でローゼリエッタが革命軍の持つ情報を話してしまえば、それは機密事項の漏洩に、引いては革命軍に仇名す行為になるのではと、少女は思い悩んだ。
だがここで、トキノが一つ口をはさむ。
「おい嬢ちゃん。悩んでいるところすまないが言わせてもらうぜ。あの黒い獣は強敵だ。全員の力を合わせにゃ抗えん程にな。今更敵だ見方だと悩んでる場合か?」
トキノの言葉はローゼリエッタの悩みを氷解させた。
確かに彼の言う通り、魔物の出現は人類が皆協力して妥当しなければならない問題だ。なのに今更、敵味方を意識する必要はあるのだろうか。その答えは、問われずとも明らかだ。
さんざん悩んだ挙句、ローゼリエッタはトキノの誘いを受けることに決めた。
「分かりました。お供させて頂きます。ですが、実は先約があるんです」
「なんだい、それを早く言えや。じゃあそいつらも一緒でいいじゃねえか。飯は大勢で食った方が旨いからな」
豪快に笑うトキノを見て、少女は先程まで悩んでいたことすら馬鹿らしく感じてしまう。
「……ふふっ、分かりました。でも約束の時間はもう少し先ですから、一旦中でお茶でもどうですか?」
「おお、ありがてぇ。遠慮なくいただくぜ」
ローゼリエッタがこれまでに出会った鍛冶師たちは、皆気さくで気持ちの良い性格の者達ばかりだ。その快活な姿を見て、少女はいつも元気づけられてきた。
(アガツマさんを見ていると、マシリオンさんを思い出すわね。はぁ……皆、元気にしてるかなぁ)
ローゼリエッタは自分の店の戸を開け客人を招き入れる。それから飲み物を用意する間、暫し遠方にいる友人を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる