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22章 旅の終結
優位点
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二体の魔物は並列で歩いているわけではなく、一体が先行し一体が後ろについてくるような形で此方に向かってきていた。
その先行していた一体が、遂にパンドラの射程圏内へと入る。
パンドラは岩の陰から突然身を乗り出すと、向こう側を向いている魔物へ恐るべき速度で攻撃を仕掛ける。
魔物は接近する敵に気付いた。四つある真っ赤な瞳がぎょろりと動き、木の陰から現れたローゼリエッタを捉える。
すかさずローゼリエッタ目掛けて駆け出す魔物。だがパンドラが、手にした剣で地を蹴ろうとする前足を切り落とす。
『……!? ギィイイイイ!!!』
魔物は一瞬驚き戸惑う仕草を見せ、気持ち悪い叫び声を上げながらのた打ち回った。
びたびたと地面を跳ねるその様子は酷く気味が悪い。周囲に飛び散る真っ黒な血が、綺麗な緑色の平原を染め上げていく。通常の精神では吐き気を催すような光景だが、戦闘に集中するローゼリエッタはそれを見ていながら酷く冷静だ。
パンドラはすかさず剣を翻し、舞うようにもう一方の前足を切断。そして間髪入れずに図太い狼の首を切り落とした。
体躯の違いを物ともしない立ち振る舞い。剣を黒く塗り上げている血を、自身がくるりと横に一回転することで振り落とす。
パンドラの戦う姿はやはり美しかった。周囲に観客が無いことが残念と思える程に。一方でその力は強大で、ローゼリエッタが強敵であると称した大型の魔物を、文字通り一瞬で葬り去ることが出来た。
だが少女は知っている。その力は自分一人で手に入れた力でないことを。エルフの大切なものを譲り受け、多くの傀儡師の助けを受け、名匠の打った剣を携えることで、漸く発揮された力であることを。
その慢心とは程遠い強かな心で、少女は魔物との戦闘において『傀儡師』であることの優位性を見出した。
ローゼリエッタが魔物と相まみえた時、魔物は、肉薄するパンドラを一瞥することもせず、真っ先にローゼリエッタへと狙いを定めた。
そこで少女は思い出す。魔物の襲撃があった王国で、人間だけが消え去り建物が綺麗な形で残っていたことに。なぎ倒された巨鎧兵が、それ以上の損害を受けることなく敵の手に渡ってしまったことを。
(……そうか! つまり魔物は……!)
ローゼリエッタの中で、ある閃きが起こる。
パンドラは、人間を限りなく模倣した精巧な等身大人形だ。その外見は遠目からだけではなく、近くから見ても人間と見間違う。だがどれだけ人間に近しい見た目をしていても、その実態は命無き操り人形。つまり、人間を食らうことしか頭にない魔物にとってそれは、路傍に生えている木々や転がる石ころと同じなのだ。だから魔物は先程、パンドラを警戒もせずローゼリエッタを狙った。
案の定、パンドラの攻撃に対し魔物の抵抗は皆無。ただただ足を失くしたことに驚き、苦しむだけだった。そして当然のように後続の魔物も、近くにいるパンドラを無視し、遠くにいるローゼリエッタを睨みつけるだけだ。
ローゼリエッタはパンドラを走らせる。先程と同じ、魔物と少女の視界を塞がぬように。
その速さは先程の比ではなく、彼我の距離は瞬く間に狭まっていく。何故なら先までの動きは、防御も考えたうえでの操作であり、今からの動きは、守りを考慮しない操作であるからだ。
魔物は『路傍に生える木』を気に留めることはしない。その目はあくまでも真正面にいるローゼリエッタを捉え続けている。
パンドラの動きは電光石火の如く。
その手に持つ剣は陽の光を浴び、白い軌跡を残しながら魔物に迫る。
一方魔物は、小柄な少女をかみ砕かんと粘性の高い液体を垂らしながら、牙をむき出しに駆け出した。
開かれた口に滑り込む白刃。その切れ味は留まることを知らず、三度の巨体を切り落としながらも一切の刃毀れをせず、抵抗もなく魔物を切り裂く。
『キィィアアアァァ!!』
言葉にならぬ断末魔を発しながら、頭を真二つに割られた魔物は数歩千鳥歩き、やがて地面に倒れ込んだ。
終わってみれば圧勝の一言に尽きる。
魔物が持つ鋭い爪も太い足も、ローゼリエッタの手を広げた程度の距離にすら届くことはなくその命を終わらせてしまった。
「……」
二体の魔物を降しながら、それでも少女の心は緩まない。視認していた魔物を倒した後も、周囲に追加の魔物がいないか警戒を巡らす。
たっぷりの時間をかけ他に敵がいないことを確認すると、少女は漸く張り詰めた糸を緩めた。
「……ふぅ、大丈夫そうね。……それにしても……うぷ……酷い匂いだわ」
綺麗だった緑の草木は多量の真っ黒い血で汚れ、顔を顰め思わず鼻を抑える程の死臭があたりに漂う。
「直ぐにここをはなれましょ。匂いに釣られてよくない物が出てくるかもしれないし」
ローゼリエッタはパンドラを引き寄せると、そそくさと荷物を魔法の道具袋にしまい込む。そして足早にその場を離れた。
それからというもの、旅は熾烈を極めることになる。これまでぱったりと姿を見せなかった魔物が、頻りに襲ってくるようになったのだ。
魔物の匂いがついてしまったのか、はたまた住処の中心に近づいているからなのかは分からないが、見せる姿も多種多様だ。人型、獣型、鳥のような物もいれば、巨鎧兵を倒した獣頭の物まで現れる。
だがその全てが、ローゼリエッタとパンドラの前になす術もなく屠られて行った。
それは全く不思議な事ではない。遠く離れた標的に気を取られている間に、意識の外から耐えきれぬ斬撃が飛んでくるのだ。例え人間よりも強靭な肉体を持つ魔物であっても、希代の鍛冶師が打った武器をパンドラが振ることで、呆気なく蹴散らされていく。
旅の中で戦った無数の魔物の中には、時折パンドラに対し反応を見せる個体もあるにはあった。だがそれでもパンドラとまともに戦える魔物は殆どおらず、速度は落ちつつもローゼリエッタは着実に王国へと近づいていった。
その先行していた一体が、遂にパンドラの射程圏内へと入る。
パンドラは岩の陰から突然身を乗り出すと、向こう側を向いている魔物へ恐るべき速度で攻撃を仕掛ける。
魔物は接近する敵に気付いた。四つある真っ赤な瞳がぎょろりと動き、木の陰から現れたローゼリエッタを捉える。
すかさずローゼリエッタ目掛けて駆け出す魔物。だがパンドラが、手にした剣で地を蹴ろうとする前足を切り落とす。
『……!? ギィイイイイ!!!』
魔物は一瞬驚き戸惑う仕草を見せ、気持ち悪い叫び声を上げながらのた打ち回った。
びたびたと地面を跳ねるその様子は酷く気味が悪い。周囲に飛び散る真っ黒な血が、綺麗な緑色の平原を染め上げていく。通常の精神では吐き気を催すような光景だが、戦闘に集中するローゼリエッタはそれを見ていながら酷く冷静だ。
パンドラはすかさず剣を翻し、舞うようにもう一方の前足を切断。そして間髪入れずに図太い狼の首を切り落とした。
体躯の違いを物ともしない立ち振る舞い。剣を黒く塗り上げている血を、自身がくるりと横に一回転することで振り落とす。
パンドラの戦う姿はやはり美しかった。周囲に観客が無いことが残念と思える程に。一方でその力は強大で、ローゼリエッタが強敵であると称した大型の魔物を、文字通り一瞬で葬り去ることが出来た。
だが少女は知っている。その力は自分一人で手に入れた力でないことを。エルフの大切なものを譲り受け、多くの傀儡師の助けを受け、名匠の打った剣を携えることで、漸く発揮された力であることを。
その慢心とは程遠い強かな心で、少女は魔物との戦闘において『傀儡師』であることの優位性を見出した。
ローゼリエッタが魔物と相まみえた時、魔物は、肉薄するパンドラを一瞥することもせず、真っ先にローゼリエッタへと狙いを定めた。
そこで少女は思い出す。魔物の襲撃があった王国で、人間だけが消え去り建物が綺麗な形で残っていたことに。なぎ倒された巨鎧兵が、それ以上の損害を受けることなく敵の手に渡ってしまったことを。
(……そうか! つまり魔物は……!)
ローゼリエッタの中で、ある閃きが起こる。
パンドラは、人間を限りなく模倣した精巧な等身大人形だ。その外見は遠目からだけではなく、近くから見ても人間と見間違う。だがどれだけ人間に近しい見た目をしていても、その実態は命無き操り人形。つまり、人間を食らうことしか頭にない魔物にとってそれは、路傍に生えている木々や転がる石ころと同じなのだ。だから魔物は先程、パンドラを警戒もせずローゼリエッタを狙った。
案の定、パンドラの攻撃に対し魔物の抵抗は皆無。ただただ足を失くしたことに驚き、苦しむだけだった。そして当然のように後続の魔物も、近くにいるパンドラを無視し、遠くにいるローゼリエッタを睨みつけるだけだ。
ローゼリエッタはパンドラを走らせる。先程と同じ、魔物と少女の視界を塞がぬように。
その速さは先程の比ではなく、彼我の距離は瞬く間に狭まっていく。何故なら先までの動きは、防御も考えたうえでの操作であり、今からの動きは、守りを考慮しない操作であるからだ。
魔物は『路傍に生える木』を気に留めることはしない。その目はあくまでも真正面にいるローゼリエッタを捉え続けている。
パンドラの動きは電光石火の如く。
その手に持つ剣は陽の光を浴び、白い軌跡を残しながら魔物に迫る。
一方魔物は、小柄な少女をかみ砕かんと粘性の高い液体を垂らしながら、牙をむき出しに駆け出した。
開かれた口に滑り込む白刃。その切れ味は留まることを知らず、三度の巨体を切り落としながらも一切の刃毀れをせず、抵抗もなく魔物を切り裂く。
『キィィアアアァァ!!』
言葉にならぬ断末魔を発しながら、頭を真二つに割られた魔物は数歩千鳥歩き、やがて地面に倒れ込んだ。
終わってみれば圧勝の一言に尽きる。
魔物が持つ鋭い爪も太い足も、ローゼリエッタの手を広げた程度の距離にすら届くことはなくその命を終わらせてしまった。
「……」
二体の魔物を降しながら、それでも少女の心は緩まない。視認していた魔物を倒した後も、周囲に追加の魔物がいないか警戒を巡らす。
たっぷりの時間をかけ他に敵がいないことを確認すると、少女は漸く張り詰めた糸を緩めた。
「……ふぅ、大丈夫そうね。……それにしても……うぷ……酷い匂いだわ」
綺麗だった緑の草木は多量の真っ黒い血で汚れ、顔を顰め思わず鼻を抑える程の死臭があたりに漂う。
「直ぐにここをはなれましょ。匂いに釣られてよくない物が出てくるかもしれないし」
ローゼリエッタはパンドラを引き寄せると、そそくさと荷物を魔法の道具袋にしまい込む。そして足早にその場を離れた。
それからというもの、旅は熾烈を極めることになる。これまでぱったりと姿を見せなかった魔物が、頻りに襲ってくるようになったのだ。
魔物の匂いがついてしまったのか、はたまた住処の中心に近づいているからなのかは分からないが、見せる姿も多種多様だ。人型、獣型、鳥のような物もいれば、巨鎧兵を倒した獣頭の物まで現れる。
だがその全てが、ローゼリエッタとパンドラの前になす術もなく屠られて行った。
それは全く不思議な事ではない。遠く離れた標的に気を取られている間に、意識の外から耐えきれぬ斬撃が飛んでくるのだ。例え人間よりも強靭な肉体を持つ魔物であっても、希代の鍛冶師が打った武器をパンドラが振ることで、呆気なく蹴散らされていく。
旅の中で戦った無数の魔物の中には、時折パンドラに対し反応を見せる個体もあるにはあった。だがそれでもパンドラとまともに戦える魔物は殆どおらず、速度は落ちつつもローゼリエッタは着実に王国へと近づいていった。
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