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皇国の日常
異様な態度
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時刻は二日前とほぼ同じ。なれどこの日は、二日前よりも客入りが少ないようだ。以前より空席が目立ち、まだ飯時だというのに穏やかな時間が流れている。店側としては辛い所だろうが、彼らにとっては都合の良い状況だ。
ラインハルトは、直ぐに店員、または厨房へと声をかけ、話を進めるかと思われた。だが実際は、空席を探してはスレインを呼び寄せ共に席に着く。
「よし、まずは飯にしよう。一つだけ好きな物を頼んでいいぞ」
「い、いいの!? くぅ……久しぶりの御馳走だ!」
店先にいた時から、周囲を漂う旨そうな匂いに釣られ、涎を垂らしていたスレイン。
ラインハルトの思わぬ提案に、嬉々として飛びついた。手作りのメニュー表を手に取り、物色を始める。だが字が書けない彼に字を読むことは難しかったらしく、頁をめくっては首を何度もかしげていた。
そこへ、看板娘である女性店員が注文を取りに現れる。金の髪は後ろで束ね、まぶしい笑顔を振りまいている。
「いらっしゃいませ! いつもご来店ありがとうございます! 今日もいつもので……」
突如、頭上で尻すぼみに小さくなる声。何事かとラインハルトが店員を見上げると、店員は燥ぐスレインをものすごい形相で見つめていた。
「あ……あ……」
掠れる声で喘ぎ、わなわなと震えだす。それから店員は、ぐるりと首を回し、目が零れんばかりに見開いて次にラインハルトを見る。
「ま、まさか……貴方の……?」
顔面蒼白になり、振るえる手でスレインを指さす店員。
余りにもいつもと違う店員のその態度に、ラインハルトは言葉も出なかった。
その場は少々混沌に包まれた。
一方では、メニューを持ったまま椅子に座って足を振り、楽し気に声を上げるスレイン。
「ねぇ、おすすめは?」
もう一方では、この世の終わりを迎えたような絶望の表情で、ぶつぶつと呟き始める女性店員。
「嘘……嘘よ……」
そして、対照的な両者に挟まれ、居心地悪そうに顔を引きつらせるラインハルト。
(……なんだこの状況は)
互いに会話を始める素振りも見せず、この場を打開できるのはラインハルトのみ。彼は先ず、話しやすそうなスレインに向かって笑顔を向けた。
「おぉ、おすすめか? スレインがいいんだったら俺と一緒のを頼もうか」
「うん!」
幸せの絶頂にあるかのような満面の笑み。その笑顔を眺めながらも、ラインハルトは背中に、ひしひしと異常な圧を感じていた。
彼が意を決して振り向けば、目に涙を一杯に浮かべ、項垂れる一人の女。いつもの元気な姿から、どうすればそんな姿へと変貌できるのか、ラインハルトには不思議でならない。
ラインハルトは極力刺激しないようにと、さっさと注文をすませようとする。
「あー……いつもの二つで」
「いつもの……二つですね? 畏まりました」
全てに濁点がつきそうな位震える声で、女性店員は何とか答えた。それから踵を返すと、脱兎のごとく調理場に向かって駆けていく。
後に料理を持ってきたのは女性店員ではなく、白い前掛けをした屈強な男であった。戦士顔負けの肉体に加え、顔の周囲に生えた金の毛が、まるで獅子のように見え、独特の威圧感を醸し出している。この男は、調理場で料理を作っていた職人であり、この食堂の主人であり、女性店員の父親に当たる人物であった。
店員がいつも抱えてくる大きな鉄板を、それぞれ片手で持ち上げてテーブルの前に立つ。
それから叩きつけるように鉄板を置くと、ラインハルトを鬼の形相で睨みつけた。
「お待ち同様です」
低く怒りの籠った声でたったそれだけ言い放つと、ラインハルトの言葉を待つことなく厨房へと帰っていく。
一連の対応を受け、事情を理解できぬラインハルトには唯呆然とするしかできない。
「……なんなんだ今日は……」
先の店員の態度といい、今の主人の態度といい、彼からすれば一切身に覚えのないことだ。ただ一つ確かなことは、二人のこの対応が、ラインハルトの思い描く作戦に大きな影を落としたということだ。
(まずいな……断られることは無いと思っていたんだが……)
元々理由があったわけではないのだが、彼はこの作戦が確実に成功するものだと思っていた。しかしこれまでの状況を鑑みれば、成功の可能性は余り高くはないようだ。好物を前に、彼の頭の中には失敗の二文字が浮かび上がる。
「おおお!! すげええ!! なぁ兄ちゃん! どうやって食うんだ!?」
鉄板に乗った料理を見て、歓喜の声を上げるスレイン。その楽しげな声が、僅かに思考へ没頭していたラインハルトを引き戻した。
「ん? ああ、ちょっと待ってろよ」
ラインハルトは、スレインの前に置かれた鉄板の上にある大きな葉を、ナイフとフォークで器用に開いていく。それから中にあるムト肉を食べやすい大きさに切ると、手にしたフォークを一つ手渡した。
フォークを握り締め、肉を貪り食う少年を見て、ラインハルトはあれこれ考えるのをやめる。
(ま、なるようになるか)
まずは腹を満たしてから、それからでも大して遅くはならないだろう、と割り切って、今は料理を楽しむことにした。
ラインハルトは、直ぐに店員、または厨房へと声をかけ、話を進めるかと思われた。だが実際は、空席を探してはスレインを呼び寄せ共に席に着く。
「よし、まずは飯にしよう。一つだけ好きな物を頼んでいいぞ」
「い、いいの!? くぅ……久しぶりの御馳走だ!」
店先にいた時から、周囲を漂う旨そうな匂いに釣られ、涎を垂らしていたスレイン。
ラインハルトの思わぬ提案に、嬉々として飛びついた。手作りのメニュー表を手に取り、物色を始める。だが字が書けない彼に字を読むことは難しかったらしく、頁をめくっては首を何度もかしげていた。
そこへ、看板娘である女性店員が注文を取りに現れる。金の髪は後ろで束ね、まぶしい笑顔を振りまいている。
「いらっしゃいませ! いつもご来店ありがとうございます! 今日もいつもので……」
突如、頭上で尻すぼみに小さくなる声。何事かとラインハルトが店員を見上げると、店員は燥ぐスレインをものすごい形相で見つめていた。
「あ……あ……」
掠れる声で喘ぎ、わなわなと震えだす。それから店員は、ぐるりと首を回し、目が零れんばかりに見開いて次にラインハルトを見る。
「ま、まさか……貴方の……?」
顔面蒼白になり、振るえる手でスレインを指さす店員。
余りにもいつもと違う店員のその態度に、ラインハルトは言葉も出なかった。
その場は少々混沌に包まれた。
一方では、メニューを持ったまま椅子に座って足を振り、楽し気に声を上げるスレイン。
「ねぇ、おすすめは?」
もう一方では、この世の終わりを迎えたような絶望の表情で、ぶつぶつと呟き始める女性店員。
「嘘……嘘よ……」
そして、対照的な両者に挟まれ、居心地悪そうに顔を引きつらせるラインハルト。
(……なんだこの状況は)
互いに会話を始める素振りも見せず、この場を打開できるのはラインハルトのみ。彼は先ず、話しやすそうなスレインに向かって笑顔を向けた。
「おぉ、おすすめか? スレインがいいんだったら俺と一緒のを頼もうか」
「うん!」
幸せの絶頂にあるかのような満面の笑み。その笑顔を眺めながらも、ラインハルトは背中に、ひしひしと異常な圧を感じていた。
彼が意を決して振り向けば、目に涙を一杯に浮かべ、項垂れる一人の女。いつもの元気な姿から、どうすればそんな姿へと変貌できるのか、ラインハルトには不思議でならない。
ラインハルトは極力刺激しないようにと、さっさと注文をすませようとする。
「あー……いつもの二つで」
「いつもの……二つですね? 畏まりました」
全てに濁点がつきそうな位震える声で、女性店員は何とか答えた。それから踵を返すと、脱兎のごとく調理場に向かって駆けていく。
後に料理を持ってきたのは女性店員ではなく、白い前掛けをした屈強な男であった。戦士顔負けの肉体に加え、顔の周囲に生えた金の毛が、まるで獅子のように見え、独特の威圧感を醸し出している。この男は、調理場で料理を作っていた職人であり、この食堂の主人であり、女性店員の父親に当たる人物であった。
店員がいつも抱えてくる大きな鉄板を、それぞれ片手で持ち上げてテーブルの前に立つ。
それから叩きつけるように鉄板を置くと、ラインハルトを鬼の形相で睨みつけた。
「お待ち同様です」
低く怒りの籠った声でたったそれだけ言い放つと、ラインハルトの言葉を待つことなく厨房へと帰っていく。
一連の対応を受け、事情を理解できぬラインハルトには唯呆然とするしかできない。
「……なんなんだ今日は……」
先の店員の態度といい、今の主人の態度といい、彼からすれば一切身に覚えのないことだ。ただ一つ確かなことは、二人のこの対応が、ラインハルトの思い描く作戦に大きな影を落としたということだ。
(まずいな……断られることは無いと思っていたんだが……)
元々理由があったわけではないのだが、彼はこの作戦が確実に成功するものだと思っていた。しかしこれまでの状況を鑑みれば、成功の可能性は余り高くはないようだ。好物を前に、彼の頭の中には失敗の二文字が浮かび上がる。
「おおお!! すげええ!! なぁ兄ちゃん! どうやって食うんだ!?」
鉄板に乗った料理を見て、歓喜の声を上げるスレイン。その楽しげな声が、僅かに思考へ没頭していたラインハルトを引き戻した。
「ん? ああ、ちょっと待ってろよ」
ラインハルトは、スレインの前に置かれた鉄板の上にある大きな葉を、ナイフとフォークで器用に開いていく。それから中にあるムト肉を食べやすい大きさに切ると、手にしたフォークを一つ手渡した。
フォークを握り締め、肉を貪り食う少年を見て、ラインハルトはあれこれ考えるのをやめる。
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まずは腹を満たしてから、それからでも大して遅くはならないだろう、と割り切って、今は料理を楽しむことにした。
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