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誘い
拠点
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唐突に、開けた空間に辿り着いた。洞窟の中だというのに周囲は非常に明るく、少女は光を放つ魔法道具をしまい込む。
少女のそんな行動に眼もくれず、ラインハルトは上を見上げる。
「これは……すごいな……」
周囲を囲む壁から頂点にかけて、ごつごつとした岩がむき出しになっている。その岩肌の表面を見れば翠色に輝き、幻想的な光景を作り出していた。
加えて石だらけだった足元も柔らかな土に変わり、見たことも無い草木で埋め尽くされている。それらもまた、自らの力できらきらと輝きを放つ。
少女は自慢げに語る。
「凄いでしょう? ここの地下には多量の魔力が溜まっていて、それに反応してこんな幻想的な景色が生まれたらしいわ。偶然の産物……だとしても、私たちのちょっとした自慢の場所よ」
洞窟内の景色を見つめるラインハルトは、自然と少女の言葉に納得した。
天上を彩る翠に輝く光はまるで、夜空に輝く満天の星の様だ。だがその色は星の光とはとても似通わず、ラインハルトは異世界に迷い込んだような錯覚を受けた。
ラインハルトは微笑む。
(洞窟の外は大嵐。皇国の兵たちはその中を躍起になって探しているんだろうが……)
彼がいるこの空間に嵐の影響は一切ない。雨も降らなければ雷も落ちない……だが頬を撫でるそよ風も感じられないことに、彼は少しばかり寂しさを感じた。
そこは、隔絶された小さな世界。明かりが一つもない迷宮を潜り抜けた先にある、秘密の楽園。距離的には皇国から然程遠くない位置にあるのだが、極端に国から外に出ることを嫌う皇国兵士らには、この地を見つけることなど不可能に近い。
だがラインハルトも皇国兵を馬鹿にすることは出来まい。あのまま皇国に順守していたのならば、この景色を拝むことは出来なかったのだから。
「ほんの少しだが……ここに来た苦労が報われるな」
ふと、本心が口から洩れた。すると先行していた少女は振り返り、可愛らしく笑う。
「あら、そんなに気に入った? ならよかった。ほら、あそこが私たちの拠点よ」
続けて少女は、広間の中心を指さした。草木を備えた曲がりくねった道の先。そこに、大きな一つの館が佇んでいた。
余り幅の広くない道を歩き、二人は館に辿り着く。
到着するや否や、少女は玄関と思わしき戸を開き、大きな声をあげた。
「おーい! 今帰ったぞー!」
可愛らしかった声音は若干低くなり、言葉使いも荒くなる。どうやら再び猫を被るらしい。少女のその言葉に、中から幾つもの声が返ってきた。
「お嬢!? ご無事でしたか!」
「おかえりなさい! 遅かったから心配しましたよ」
出てきたのは無骨な男たちばかり。だがその人垣の奥に見える戸の陰に、数人の女の姿も見えた。誰も彼もが少女の帰還を喜んでいる。
「おう! 皆もお疲れ様! 皆いるか? 欠員はないか? 皆無事逃げられたか?」
胸を張って小さな体を精一杯大きく見せつけ、仲間の安否を気遣う。それから少女は、男たちに囲まれたまま、館の奥へと歩いて行ってしまった。
ラインハルトは呟く。
「はぁ……ついていけばいいんだろうか? それとも自由に動き回っても良いと? ……全く、俺は皇国の兵士なんだがなぁ。危機感という物はないんだろうか」
その呟きを、直ぐ近くにいた男は聞いていた。
「すみません、お客人。お嬢もお疲れなんだと思います。ささ、どうぞこちらへ」
絵に描いたような山賊風の男は、見た目にそぐわぬ礼儀正しい態度でそういうと、ラインハルトを館の中へと招き入れた。
ラインハルトが連れてこられたのは、館の奥にある食堂のような部屋だった。部屋の中心には長く大きな机が置かれており、その長編あたる両側に椅子が立ち並ぶ。入口から最も遠い短編側には、一際豪勢な椅子が一つ置かれていて、あの少女がふんぞり返って座っていた。少女の周囲には相変わらず男たちが垣根を作り、少女の労をねぎらっている。
少女はラインハルトの姿に気が付くと、苦笑いをして語り始めた。
「あ、あら、ごめんなさいね。すっかり忘れちゃってたわ。んんっ! ではこれから会議を始める! みな席に着け。お客人は空いている席に座って欲しい」
せき込む仕草をしてから、手で上品に座る様に促す。
垣根を作っていた男たちは少女の言葉を受け、それぞれ椅子に座り始める。そして皆一様に、ラインハルトへ向けて鋭い視線を送った。
「……随分と歓迎されているようだな」
嫌味を込めた台詞と共に、ラインハルトも扉の一番近くにある椅子に腰かけた。
幾らもしないうちに、質素な恰好をした女が液体の入ったグラスをもって現れた。
「どうぞ」
グラスを置くなりそそくさと奥へ引っ込む。その姿が完全に見えなくなると、ラインハルトは警戒交じりにグラスへと手を伸ばした。硝子で出来た精巧なグラス。買えば相当な値が付くだろうそれに、鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
(この匂い……もしや酒か?)
酒気を帯びた透明な飲み物。牢に入れられ禁欲生活をしていたラインハルトに、この飲み物はよく効いた。
ラインハルトは手に持ったグラスを、堂々と煽る。
甘い。どうやら果実酒のようだ。程よく冷えていて、水のように胃へと落ちていく。
「ふふ、ずっと牢にいた囚人には、最高のおもてなしでしょう?」
ほんの一瞬だが、ラインハルトは酒に夢中だった。だがふと我に返る頃、茶化したように少女の声が聞こえてくる。
周囲の男たちがにやにやと笑う中、羞恥心を抱きながら彼は口を開いた。
「初めて来た客に出すには、些か場違いではないか?」
ラインハルトはそういって、殻になったグラスを机の上に置く。
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「……いや、俺好みのもてなしだ」
他の戦士の例に漏れず、ラインハルトも酒を好む。だというのに、牢にいる間は当然酒など口にできない。加えて牢から国の外れまでの全力疾走、そして師や兵士との戦闘により、身体はからからに乾いている。そんな彼に冷たい果実酒は、素晴らしい潤いをもたらした。
ラインハルトが人心地ついたと察した少女は、自身もグラスを傾け語り出す。
「ではこれから会議を始める」
少女のその声を引き金に、男たちのにやにやとした顔がきりっと引き締まる。
ラインハルトもまた、僅かに浮いた心を引き締め、少女を見つめた。
少女のそんな行動に眼もくれず、ラインハルトは上を見上げる。
「これは……すごいな……」
周囲を囲む壁から頂点にかけて、ごつごつとした岩がむき出しになっている。その岩肌の表面を見れば翠色に輝き、幻想的な光景を作り出していた。
加えて石だらけだった足元も柔らかな土に変わり、見たことも無い草木で埋め尽くされている。それらもまた、自らの力できらきらと輝きを放つ。
少女は自慢げに語る。
「凄いでしょう? ここの地下には多量の魔力が溜まっていて、それに反応してこんな幻想的な景色が生まれたらしいわ。偶然の産物……だとしても、私たちのちょっとした自慢の場所よ」
洞窟内の景色を見つめるラインハルトは、自然と少女の言葉に納得した。
天上を彩る翠に輝く光はまるで、夜空に輝く満天の星の様だ。だがその色は星の光とはとても似通わず、ラインハルトは異世界に迷い込んだような錯覚を受けた。
ラインハルトは微笑む。
(洞窟の外は大嵐。皇国の兵たちはその中を躍起になって探しているんだろうが……)
彼がいるこの空間に嵐の影響は一切ない。雨も降らなければ雷も落ちない……だが頬を撫でるそよ風も感じられないことに、彼は少しばかり寂しさを感じた。
そこは、隔絶された小さな世界。明かりが一つもない迷宮を潜り抜けた先にある、秘密の楽園。距離的には皇国から然程遠くない位置にあるのだが、極端に国から外に出ることを嫌う皇国兵士らには、この地を見つけることなど不可能に近い。
だがラインハルトも皇国兵を馬鹿にすることは出来まい。あのまま皇国に順守していたのならば、この景色を拝むことは出来なかったのだから。
「ほんの少しだが……ここに来た苦労が報われるな」
ふと、本心が口から洩れた。すると先行していた少女は振り返り、可愛らしく笑う。
「あら、そんなに気に入った? ならよかった。ほら、あそこが私たちの拠点よ」
続けて少女は、広間の中心を指さした。草木を備えた曲がりくねった道の先。そこに、大きな一つの館が佇んでいた。
余り幅の広くない道を歩き、二人は館に辿り着く。
到着するや否や、少女は玄関と思わしき戸を開き、大きな声をあげた。
「おーい! 今帰ったぞー!」
可愛らしかった声音は若干低くなり、言葉使いも荒くなる。どうやら再び猫を被るらしい。少女のその言葉に、中から幾つもの声が返ってきた。
「お嬢!? ご無事でしたか!」
「おかえりなさい! 遅かったから心配しましたよ」
出てきたのは無骨な男たちばかり。だがその人垣の奥に見える戸の陰に、数人の女の姿も見えた。誰も彼もが少女の帰還を喜んでいる。
「おう! 皆もお疲れ様! 皆いるか? 欠員はないか? 皆無事逃げられたか?」
胸を張って小さな体を精一杯大きく見せつけ、仲間の安否を気遣う。それから少女は、男たちに囲まれたまま、館の奥へと歩いて行ってしまった。
ラインハルトは呟く。
「はぁ……ついていけばいいんだろうか? それとも自由に動き回っても良いと? ……全く、俺は皇国の兵士なんだがなぁ。危機感という物はないんだろうか」
その呟きを、直ぐ近くにいた男は聞いていた。
「すみません、お客人。お嬢もお疲れなんだと思います。ささ、どうぞこちらへ」
絵に描いたような山賊風の男は、見た目にそぐわぬ礼儀正しい態度でそういうと、ラインハルトを館の中へと招き入れた。
ラインハルトが連れてこられたのは、館の奥にある食堂のような部屋だった。部屋の中心には長く大きな机が置かれており、その長編あたる両側に椅子が立ち並ぶ。入口から最も遠い短編側には、一際豪勢な椅子が一つ置かれていて、あの少女がふんぞり返って座っていた。少女の周囲には相変わらず男たちが垣根を作り、少女の労をねぎらっている。
少女はラインハルトの姿に気が付くと、苦笑いをして語り始めた。
「あ、あら、ごめんなさいね。すっかり忘れちゃってたわ。んんっ! ではこれから会議を始める! みな席に着け。お客人は空いている席に座って欲しい」
せき込む仕草をしてから、手で上品に座る様に促す。
垣根を作っていた男たちは少女の言葉を受け、それぞれ椅子に座り始める。そして皆一様に、ラインハルトへ向けて鋭い視線を送った。
「……随分と歓迎されているようだな」
嫌味を込めた台詞と共に、ラインハルトも扉の一番近くにある椅子に腰かけた。
幾らもしないうちに、質素な恰好をした女が液体の入ったグラスをもって現れた。
「どうぞ」
グラスを置くなりそそくさと奥へ引っ込む。その姿が完全に見えなくなると、ラインハルトは警戒交じりにグラスへと手を伸ばした。硝子で出来た精巧なグラス。買えば相当な値が付くだろうそれに、鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
(この匂い……もしや酒か?)
酒気を帯びた透明な飲み物。牢に入れられ禁欲生活をしていたラインハルトに、この飲み物はよく効いた。
ラインハルトは手に持ったグラスを、堂々と煽る。
甘い。どうやら果実酒のようだ。程よく冷えていて、水のように胃へと落ちていく。
「ふふ、ずっと牢にいた囚人には、最高のおもてなしでしょう?」
ほんの一瞬だが、ラインハルトは酒に夢中だった。だがふと我に返る頃、茶化したように少女の声が聞こえてくる。
周囲の男たちがにやにやと笑う中、羞恥心を抱きながら彼は口を開いた。
「初めて来た客に出すには、些か場違いではないか?」
ラインハルトはそういって、殻になったグラスを机の上に置く。
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「……いや、俺好みのもてなしだ」
他の戦士の例に漏れず、ラインハルトも酒を好む。だというのに、牢にいる間は当然酒など口にできない。加えて牢から国の外れまでの全力疾走、そして師や兵士との戦闘により、身体はからからに乾いている。そんな彼に冷たい果実酒は、素晴らしい潤いをもたらした。
ラインハルトが人心地ついたと察した少女は、自身もグラスを傾け語り出す。
「ではこれから会議を始める」
少女のその声を引き金に、男たちのにやにやとした顔がきりっと引き締まる。
ラインハルトもまた、僅かに浮いた心を引き締め、少女を見つめた。
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