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皇国の闇
鍛錬
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翌日より、ラインハルトによる技術指南が義賊らに設けられた。
義賊らの剣の腕は拙く、剣を主として使わぬラインハルトの眼からしても酷く見える。力は強くても技術が伴わっていない状態であり、子供が振る剣とあまり違いはない。
自然と彼の口調も強くなり、怒声が飛び交うようになる。
「剣を握る手は力を抜け! 常に力を込めていてはそう何度も振れないぞ。振り抜く瞬間だけ力を籠めるんだ!」
「「おう!!」」
男たちの声が鳴り響き、剣が風を切る音が木霊する。
ラインハルトは、義賊らの技術指南を熟しながらも自らの鍛錬も怠らない。義賊の男らが剣で素振りをしているその隣で、お世辞にも上質とは言い難い槍を一本持ち構え、目を瞑って精神統一を始めた。
「……」
言葉を発する必要はない。心の内に生まれる欲望、渇望、願望……負の感情も正の感情も、一切合切を追い払って心の浄化を図る。
それを何度も繰り返し、漸く心が空になり少しの波も立たなくなった瞬間、目をかっと見開くと槍を突き出した。
その一突きは、これまで彼が放っていた雷のように荒々しいものではなかった。
例えるのなら、穏やかな渓流を流れる水流。全てが調和し、流れるように突き出された槍は少しもぶれることはなく、目の前にある空間のただ一点を貫く。
昨晩放った強力な一撃を、仮に『雷の突き』と名付けたのならば、今放った一撃は『水の突き』という名が相応しい。
荒々しい雷の突き、静々とした水の突き。二つの技の性質は大きく違っており、前者は威力を最重視する突きであったのに対し、後者は他の部分を重要視した突きとなる。
要すれば、水の突きは雷の突きより威力こそ劣れども、地を蹴る音も、風を切る音も一切しない無音の技であった。また無心で放つ技であるから、力のある戦士が持つ『殺気を感じる力』にも察知されない。総じて、賊となった今の彼には最も相応しい技と言えるだろう。
彼の放った突きは唯の素振りだ。そこらで男たちが行うものと等しい反復の鍛錬法である。だが彼の持つ槍が描く軌跡、槍を突き出した際の姿勢等、美しささえ感じられるその行いは、多くの者らの目を引き付けた。
ラインハルトはそれから更に数度、素振りを繰り返した。上下左右様々な角度から放たれる幾つもの突き。だというのにその全ての終点は、等しくただ一点を貫いている。
やがて注視する周囲の男たちの眼から、槍が消え始めた。余りの速度と回転数に、目が追い付かなくなっていく。その最中、ラインハルトは背後に何かが迫る気配を感じた。
研ぎ澄まされた感覚が、それが拳大の飛翔体であると告げている。ラインハルトは背を向けたまま、槍を逆手に持ち替えるとその飛翔体に対し槍を放った。手に硬い物を貫いた感触が伝わる。ラインハルトはそのまま槍を引き寄せると、くるりと回転させ再び元の形で握り直した。そして槍の先を見て首をかしげる。
「……これは……」
ラインハルトの槍の先には、石が突き刺さっていた。
一体何事かと彼が困惑していると、背後から声がかかる。
「見事ね。素晴らしい腕だわ」
ラインハルトが振り向けば、そこにはエリスの姿。灰の短い髪をかき上げる仕草をし、それから腕を組んでラインハルトを見つめている。
ラインハルトは槍に刺さった石を引き抜くと、エリスの方へ向かって放り投げた。
「こんなものを人に投げつけるなんて、ぶつかって怪我でもしたらどうするんだ」
「あら、心外ね。貴方の腕を信用しているからやったんじゃない。それにしても驚いたわ。まさかそんな粗末な槍で石を貫くなんて。精々叩き落とされるくらいだと思ってた」
エリスは足元に転がった石を拾い上げる。槍による刺し傷は寸分たがわず石の中心を貫いており、周囲がひび割れた様子も見られない。
驚くエリスに対し、ラインハルトはさも当たり前のように語った。
「突き刺す際に穂先がぶれてしまえばこうはならない。石が跳ぶ速度より早く穿ち、寸分もぶれることなく振り切る。剣も同じだ。唯只管に鋭く、そしてぶれることなく振り下ろせば、武器の性能に頼らずともこのくらいのことは出来る」
「ふぅん……あたしたちでも?」
「それが出来ればの話だがな」
ラインハルトは槍を地面に突き刺すと、腕を組んでそう告げた。
その堂々とした態度を見て、エリスは微笑む。
「やっぱり貴方を引き入れて正解だったわ。危険を冒した価値も十分あった」
「世辞なら聞き飽きた。それより何か用事があるんだろう?」
ラインハルトから呆れ交じりのため息が出る。その仕草を見て、くすくすと笑ったエリスは、周囲の者らに聞こえる声で叫んだ。
「察しが良くて助かるわ。……作戦会議よ! 次の標的が決まったわ!!」
周囲で一部始終を見守っていた男たちが、歓声を上げる。
いよいよ、ラインハルトの初仕事だ。
義賊らの剣の腕は拙く、剣を主として使わぬラインハルトの眼からしても酷く見える。力は強くても技術が伴わっていない状態であり、子供が振る剣とあまり違いはない。
自然と彼の口調も強くなり、怒声が飛び交うようになる。
「剣を握る手は力を抜け! 常に力を込めていてはそう何度も振れないぞ。振り抜く瞬間だけ力を籠めるんだ!」
「「おう!!」」
男たちの声が鳴り響き、剣が風を切る音が木霊する。
ラインハルトは、義賊らの技術指南を熟しながらも自らの鍛錬も怠らない。義賊の男らが剣で素振りをしているその隣で、お世辞にも上質とは言い難い槍を一本持ち構え、目を瞑って精神統一を始めた。
「……」
言葉を発する必要はない。心の内に生まれる欲望、渇望、願望……負の感情も正の感情も、一切合切を追い払って心の浄化を図る。
それを何度も繰り返し、漸く心が空になり少しの波も立たなくなった瞬間、目をかっと見開くと槍を突き出した。
その一突きは、これまで彼が放っていた雷のように荒々しいものではなかった。
例えるのなら、穏やかな渓流を流れる水流。全てが調和し、流れるように突き出された槍は少しもぶれることはなく、目の前にある空間のただ一点を貫く。
昨晩放った強力な一撃を、仮に『雷の突き』と名付けたのならば、今放った一撃は『水の突き』という名が相応しい。
荒々しい雷の突き、静々とした水の突き。二つの技の性質は大きく違っており、前者は威力を最重視する突きであったのに対し、後者は他の部分を重要視した突きとなる。
要すれば、水の突きは雷の突きより威力こそ劣れども、地を蹴る音も、風を切る音も一切しない無音の技であった。また無心で放つ技であるから、力のある戦士が持つ『殺気を感じる力』にも察知されない。総じて、賊となった今の彼には最も相応しい技と言えるだろう。
彼の放った突きは唯の素振りだ。そこらで男たちが行うものと等しい反復の鍛錬法である。だが彼の持つ槍が描く軌跡、槍を突き出した際の姿勢等、美しささえ感じられるその行いは、多くの者らの目を引き付けた。
ラインハルトはそれから更に数度、素振りを繰り返した。上下左右様々な角度から放たれる幾つもの突き。だというのにその全ての終点は、等しくただ一点を貫いている。
やがて注視する周囲の男たちの眼から、槍が消え始めた。余りの速度と回転数に、目が追い付かなくなっていく。その最中、ラインハルトは背後に何かが迫る気配を感じた。
研ぎ澄まされた感覚が、それが拳大の飛翔体であると告げている。ラインハルトは背を向けたまま、槍を逆手に持ち替えるとその飛翔体に対し槍を放った。手に硬い物を貫いた感触が伝わる。ラインハルトはそのまま槍を引き寄せると、くるりと回転させ再び元の形で握り直した。そして槍の先を見て首をかしげる。
「……これは……」
ラインハルトの槍の先には、石が突き刺さっていた。
一体何事かと彼が困惑していると、背後から声がかかる。
「見事ね。素晴らしい腕だわ」
ラインハルトが振り向けば、そこにはエリスの姿。灰の短い髪をかき上げる仕草をし、それから腕を組んでラインハルトを見つめている。
ラインハルトは槍に刺さった石を引き抜くと、エリスの方へ向かって放り投げた。
「こんなものを人に投げつけるなんて、ぶつかって怪我でもしたらどうするんだ」
「あら、心外ね。貴方の腕を信用しているからやったんじゃない。それにしても驚いたわ。まさかそんな粗末な槍で石を貫くなんて。精々叩き落とされるくらいだと思ってた」
エリスは足元に転がった石を拾い上げる。槍による刺し傷は寸分たがわず石の中心を貫いており、周囲がひび割れた様子も見られない。
驚くエリスに対し、ラインハルトはさも当たり前のように語った。
「突き刺す際に穂先がぶれてしまえばこうはならない。石が跳ぶ速度より早く穿ち、寸分もぶれることなく振り切る。剣も同じだ。唯只管に鋭く、そしてぶれることなく振り下ろせば、武器の性能に頼らずともこのくらいのことは出来る」
「ふぅん……あたしたちでも?」
「それが出来ればの話だがな」
ラインハルトは槍を地面に突き刺すと、腕を組んでそう告げた。
その堂々とした態度を見て、エリスは微笑む。
「やっぱり貴方を引き入れて正解だったわ。危険を冒した価値も十分あった」
「世辞なら聞き飽きた。それより何か用事があるんだろう?」
ラインハルトから呆れ交じりのため息が出る。その仕草を見て、くすくすと笑ったエリスは、周囲の者らに聞こえる声で叫んだ。
「察しが良くて助かるわ。……作戦会議よ! 次の標的が決まったわ!!」
周囲で一部始終を見守っていた男たちが、歓声を上げる。
いよいよ、ラインハルトの初仕事だ。
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