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皇国の闇
それぞれの思惑
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会議は昨日、酒盛り会場になった食堂で行われた。
それぞれが昨日のように椅子に座り、エリスの言葉を待っている。
やがて、静まり返る部屋の内に少女の声が響いた。
「さて、みんな集まっているようね。じゃあ今回の作戦の説明をするわ。今回の標的は、皇国貴族‶メルビア・シュライド”。小さな子供や女性、また協定によりこちらに流れてきた、エルフやドワーフ等を商品として扱う、人身売買の仲買人よ。ラインハルトさん、お名前に聞き覚えは?」
「……ないな。元より貴族なんか眼中にはなかったが……それよりも、人身売買だと? あの平和な皇国では、そんなことまで行われているというのか?」
平和のための協定により、エルフやドワーフといった亜人種は次第に表舞台に出始めた。今では各国で様々な種族の姿を見ることが出来る。だがこの分野においては皇国は一つで遅れた形になっており、彼らを商品として扱う貴族がいるという割に、ラインハルトは皇国内で彼ら亜人種を見かけたことは一度も無かった。
ラインハルトのその疑問に、エリスは淀みなく答える。
「ええ、そもそも皇国では、人身売買に限らずあらゆる悪行が水面下で執り行われているわ。それこそ体面が綺麗であれば何でも許されると言わんばかりにね。例えば……詐欺、窃盗、強姦、殺人や薬物売買……他にも数えきれない程ね。昨日も言ったけど、皇国は特別平和なわけじゃないのよ。他の国と違うのは、それが全て表に出てこないということ。ただそれだけ」
ラインハルトはエリスの言葉がとても信じられなかった。確かにかつての荒廃した世界では、人身売買など珍しく無かった。巷では奴隷商が大手を振って営業していたし、貴族の多くは何十という奴隷を抱えていた。
しかし今の時世に置いて、こういった非人道的な行為は許されていない。奴隷を抱えていた貴族はそれら全てを正規の従者として雇い入れ、町からは奴隷を扱う店も消え去った。
こういった状況で貴族が人身売買に手を染めたとなれば、異種間抗争の種と成り得ない。
衝撃の事実に驚愕するラインハルトだったが、周囲の男たちは繭一つ動かさない。それもまた、この話に真実味を持たせる要因であった。
言葉を失うラインハルトを放置して、エリスは話を続ける。
「驚いているところ申し訳ないけど、話を進めるわね。決行は明日の夜。なんでも大きな取引があるらしいわ。取引場所は皇国の外れよ。つまり明日の夜、メルビアの館は主人不在ということになるわね。勿論警備はいるでしょうけど……メルビアがいる時よりは少ないでしょう」
エリスは淡々と語った。周囲の男たちから異論の声は上がらず、作戦の大まかな方向性が決定する。
暫しの時間を経て、気を取り直したラインハルトは、先程の話に自身の名前が出てこないことに気付いた。
「俺はそのメルビア卿の館を守る警備兵の相手をすればいいのか?」
その言葉にエリスは驚いた。そして少々呆れたように笑う。
「何を言っているの? 貴方はあたしと一緒に来るのよ」
「一緒に? ……何処へ?」
「勿論、メルビアの取引場所へよ」
思いもよらぬ発言に、再びラインハルトは言葉を失くす。
エリスは勢いよく椅子から立ち上がった。
「あたしたちの目標は二つ! 一つは悪行で貯めた汚い金を分捕ること! もう一つは人身売買の現場を押さえ、その全てを世間に知らしめること! これまでは盗むことしか出来なかったけど、貴方が来たから悪事も同時に潰すことが出来る!」
彼女の高らかな宣言に、先程まで一つも声を上げなかった男たちは歓声を上げた。
皆、これまで我慢に我慢を重ねてきたようだ。きつく拳を握り締め、空に向かって突き上げる。
盛り上がる部屋の中、ラインハルトも静かに拳を握り締めた。
その日の夜。所変わり、皇国の中心よりやや北寄りに位置するシュライド邸では、翌々日に控えた取引に関する密談が交わされていた。
壁面を埋め尽くす本棚には、隙間なく本が敷き詰められている。また部屋の中心には大きめの机と椅子が一組置かれており、ローブを着たメルビアが本を広げている。
年はまだ若く三十に満たない程度。燃える様な赤髪は男伊達らに長く、後ろで一つにまとめている。赤色が好きなのか、ローブも髪と同じ赤色で、本の背表紙から部屋の扉に至るまで、赤を基調としたものばかりだ。
「全く、酷い嵐だった」
メルビアは机に広げられた本の頁をめくり呟いた。
その机の前には、執事風の男が一人立っている。
「仕方ありません。こればかりは人間の手に負えるものではありません」
「それは判っている。まぁ、悪い事ばかりでもなかったがな。何やら嵐の中で大きな事件が起きたようではないか。衛兵の眼が其方に向けば、私の商談も上手く行くという物だ」
男は白い手袋をした右手を胸に当て、少し頭を傅く。
メルビアは再び頁をめくると、男へ訪ねた。
「ところで、品の方は順調か?」
「はい。エルフの少女も、ドワーフの少年も、至って健康です」
「ふむ……慎重に扱え。特にエルフの女は需要がある。相当な高値で売れるだろうからな」
「心得ております」
男は再び頭を下げると、商談の準備の為、部屋を後にした。
メルビアは部屋で一人呟く。
「しかし……私が自ら顔を出さねばならぬというのは、いささか面倒だな。得意先だから仕方ないと言えば仕方ないのだが……」
開いていた本を閉じると椅子から立ち上がり、本を本棚に戻す。
「まぁ、金を稼ぐことが私の役目だからな。割り切るとしよう」
そういってメルビアは、部屋から出て行ってしまった。
それぞれが昨日のように椅子に座り、エリスの言葉を待っている。
やがて、静まり返る部屋の内に少女の声が響いた。
「さて、みんな集まっているようね。じゃあ今回の作戦の説明をするわ。今回の標的は、皇国貴族‶メルビア・シュライド”。小さな子供や女性、また協定によりこちらに流れてきた、エルフやドワーフ等を商品として扱う、人身売買の仲買人よ。ラインハルトさん、お名前に聞き覚えは?」
「……ないな。元より貴族なんか眼中にはなかったが……それよりも、人身売買だと? あの平和な皇国では、そんなことまで行われているというのか?」
平和のための協定により、エルフやドワーフといった亜人種は次第に表舞台に出始めた。今では各国で様々な種族の姿を見ることが出来る。だがこの分野においては皇国は一つで遅れた形になっており、彼らを商品として扱う貴族がいるという割に、ラインハルトは皇国内で彼ら亜人種を見かけたことは一度も無かった。
ラインハルトのその疑問に、エリスは淀みなく答える。
「ええ、そもそも皇国では、人身売買に限らずあらゆる悪行が水面下で執り行われているわ。それこそ体面が綺麗であれば何でも許されると言わんばかりにね。例えば……詐欺、窃盗、強姦、殺人や薬物売買……他にも数えきれない程ね。昨日も言ったけど、皇国は特別平和なわけじゃないのよ。他の国と違うのは、それが全て表に出てこないということ。ただそれだけ」
ラインハルトはエリスの言葉がとても信じられなかった。確かにかつての荒廃した世界では、人身売買など珍しく無かった。巷では奴隷商が大手を振って営業していたし、貴族の多くは何十という奴隷を抱えていた。
しかし今の時世に置いて、こういった非人道的な行為は許されていない。奴隷を抱えていた貴族はそれら全てを正規の従者として雇い入れ、町からは奴隷を扱う店も消え去った。
こういった状況で貴族が人身売買に手を染めたとなれば、異種間抗争の種と成り得ない。
衝撃の事実に驚愕するラインハルトだったが、周囲の男たちは繭一つ動かさない。それもまた、この話に真実味を持たせる要因であった。
言葉を失うラインハルトを放置して、エリスは話を続ける。
「驚いているところ申し訳ないけど、話を進めるわね。決行は明日の夜。なんでも大きな取引があるらしいわ。取引場所は皇国の外れよ。つまり明日の夜、メルビアの館は主人不在ということになるわね。勿論警備はいるでしょうけど……メルビアがいる時よりは少ないでしょう」
エリスは淡々と語った。周囲の男たちから異論の声は上がらず、作戦の大まかな方向性が決定する。
暫しの時間を経て、気を取り直したラインハルトは、先程の話に自身の名前が出てこないことに気付いた。
「俺はそのメルビア卿の館を守る警備兵の相手をすればいいのか?」
その言葉にエリスは驚いた。そして少々呆れたように笑う。
「何を言っているの? 貴方はあたしと一緒に来るのよ」
「一緒に? ……何処へ?」
「勿論、メルビアの取引場所へよ」
思いもよらぬ発言に、再びラインハルトは言葉を失くす。
エリスは勢いよく椅子から立ち上がった。
「あたしたちの目標は二つ! 一つは悪行で貯めた汚い金を分捕ること! もう一つは人身売買の現場を押さえ、その全てを世間に知らしめること! これまでは盗むことしか出来なかったけど、貴方が来たから悪事も同時に潰すことが出来る!」
彼女の高らかな宣言に、先程まで一つも声を上げなかった男たちは歓声を上げた。
皆、これまで我慢に我慢を重ねてきたようだ。きつく拳を握り締め、空に向かって突き上げる。
盛り上がる部屋の中、ラインハルトも静かに拳を握り締めた。
その日の夜。所変わり、皇国の中心よりやや北寄りに位置するシュライド邸では、翌々日に控えた取引に関する密談が交わされていた。
壁面を埋め尽くす本棚には、隙間なく本が敷き詰められている。また部屋の中心には大きめの机と椅子が一組置かれており、ローブを着たメルビアが本を広げている。
年はまだ若く三十に満たない程度。燃える様な赤髪は男伊達らに長く、後ろで一つにまとめている。赤色が好きなのか、ローブも髪と同じ赤色で、本の背表紙から部屋の扉に至るまで、赤を基調としたものばかりだ。
「全く、酷い嵐だった」
メルビアは机に広げられた本の頁をめくり呟いた。
その机の前には、執事風の男が一人立っている。
「仕方ありません。こればかりは人間の手に負えるものではありません」
「それは判っている。まぁ、悪い事ばかりでもなかったがな。何やら嵐の中で大きな事件が起きたようではないか。衛兵の眼が其方に向けば、私の商談も上手く行くという物だ」
男は白い手袋をした右手を胸に当て、少し頭を傅く。
メルビアは再び頁をめくると、男へ訪ねた。
「ところで、品の方は順調か?」
「はい。エルフの少女も、ドワーフの少年も、至って健康です」
「ふむ……慎重に扱え。特にエルフの女は需要がある。相当な高値で売れるだろうからな」
「心得ております」
男は再び頭を下げると、商談の準備の為、部屋を後にした。
メルビアは部屋で一人呟く。
「しかし……私が自ら顔を出さねばならぬというのは、いささか面倒だな。得意先だから仕方ないと言えば仕方ないのだが……」
開いていた本を閉じると椅子から立ち上がり、本を本棚に戻す。
「まぁ、金を稼ぐことが私の役目だからな。割り切るとしよう」
そういってメルビアは、部屋から出て行ってしまった。
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