探求の槍使い

菅原

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皇国の闇

闇夜の攻防 1

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 壮絶な戦いが始まった。
 スィックルは以前のように、魔法で身体能力を強化して剣を振るう。その太刀筋は以前よりも鋭く、もう木の棒で防ぐことは出来まい。また、今回は更にひとつの大きな変化が見られた。それはスィックルが、剣技だけでなく魔法も併用してきたことだ。それまでのような身体強化魔法ではない。相手に危害を加える純粋な攻撃魔法を、だ。
 一つ剣が振られると火炎球が飛び、二つ剣が振られると水弾が飛ぶ。剣士顔負けの剣技と、魔法使い顔負けの魔法を操り、スィックルはラインハルトを苦しめる。

 ラインハルトは防戦一方だった。それも仕方のないことだ。剣技ですら以前とは比べ物にならぬほど上達しているというのに、多様な魔法が飛んでくるのだから。これにより、剣士が苦手とする中、遠距離での戦闘も、間接攻撃である魔法で補うことで、隙の無い物となっている。例えば、剣では届かず槍では届く、といった距離であっても、今のスィックルに掛かれば火炎球を飛ばしたり風の刃で切りつけるなどの芸当が可能なのだ。
「ふっ!! くっ……!」
 袈裟に迫る剣を槍で受け流す。だが武器の性能差が大きく足を引っ張り、衝撃を逃しきれない。一つ目は何とか凌いだが、水平に薙ぎ払われた二太刀目は、真正面から受け止める羽目になった。
 身体能力で強化された名剣による一撃で、ラインハルトの持つ粗悪な槍の柄は大きく傷がつく。ラインハルトはそれを嫌って、直ぐに距離を置こうとするのだが、スィックルはそこへ魔法を放ちながら突進してくる。
 想像以上の苦戦を強いられ、悔し気に歯を食いしばるラインハルト。だが絶え間ない連撃により遂に、スィックルの放つ魔法が直撃する。

ゴォォオオオ!!

 迫る風の砲弾を胸にまともに受け、ラインハルトは大きく吹き飛んだ。だが見た目よりも損傷は少ない。元から相手の体勢を崩す、または距離を取る魔法だったのか、ラインハルトは着地後直ぐに体勢を立て直した。


 二人の間に大きく距離が開き、戦いは一時中断される。
 ラインハルトは予想以上に強敵と化したスィックルにすっかり参ってしまっていた。だがスィックルもまた、いまだ仕留めきれないラインハルトに驚愕する。
 下に恐ろしきは、ラインハルトのその力。半月ほど牢屋の中に入れられ、その間碌な鍛錬も出来ていないというに、その間必死に力を研ぎ澄ませていたスィックルの剣技、魔法を、辛うじてではあるが全て捌ききっているのだ。
 スィックルの内で真っ黒な感情が湧き上がる。
「何故だ……何故それ程の力を持っていながら、盗賊に成り下がる!?」
 目をかっと見開き、剣を突き出して叫んだ。
 スィックルとしては、ラインハルトが罪を償い終え、牢屋から解放され一兵士となった時に、こうした力比べをしたかったのだ。確かに、二人の最初の出会いは余り良いものではなかった。だがラインハルトは彼にとって、英雄の卵同士のように序列を気に掛ける必要はなく、尚且つ競い合える実力を有する稀有な戦士として認識されていた。
 だからこそ彼は、意識を取り戻した後直ぐに、牢屋に入れられたラインハルトの為に方々へ頭を下げたりもした。
 だがあの嵐の夜。その努力は水泡と帰してしまった。ラインハルトは国に仇名す賊となり、兵士をやめて皇国を去って行ってしまったのだ。
 それが、スィックルにはどうしても許せなかった。
「私は純粋に楽しみだったのだ! 貴様という好敵手を見つけることが出来た! 檻から出た暁には、長きに渡って共に切磋琢磨できる存在となるだろうと、心の底から期待していた! だというのにだ! こうして不本意な形で貴様と相対することになろうと葉……現実は残酷な物だ」
 突きつけていた剣を降ろし、拗ねたように数度振るう。それから再び剣を構えると、ラインハルトを睨みつける。

 スィックルの叫びを受け、だがラインハルトは改心などしない。当初は無理矢理であったものの、今ではすっかり義賊の思想に同調し、活動内容にも合意をしている。
 また、今の彼の仕事は改心することではない。盗賊の頭、エリスの指示に従い、悪しき犯罪に手を染める愚か者共に鉄槌を降すことだ。
「悪いが……お前の事情など俺の知った事じゃない。お前にはお前の都合があって、俺には俺の都合がある。だから俺たちはこうして矛を合わせているんだろう? それに……」
 ラインハルトは槍を構えた。
「あれは……」
 その呟きはエリスの物。この場にいる者達の中で、彼女だけがその構えを知っていた。あの日、石の中心を貫く一撃を放った際の構えだ。
 ラインハルトは会話の最中、精神集中を繰り返し次なる手を打っていたのだ。
「それに……なんだ?」
 スィックルも剣を構える。
「……本番はこれからだ」
「ふっ……面白い!!」
 大口をたたくラインハルト目掛けて、スィックルは駆け出した。


 再び戦闘が始まった。
 スィックルはこれまで通り、鋭い剣撃と魔法を併用した連続攻撃を繰り出す。先程までラインハルトが苦しめられていた攻撃だ。
 だが心の中の雑念を払ったラインハルトは慌てない。確かに攻撃は激しく、延々と受け続けるには無理がある。しかし致命傷となる攻撃のみを裁くことで、無傷ではないが彼は立ち続けることが出来た。
「ぐっ! ……ふっ!」
 時折苦し気な吐息が漏れる。だがその眼差しは、スィックルの身体から離れることはない。

 スィックルが剣を振り下ろす。それをラインハルトは身を引いて回避した。するとスィックルは空いた手を突き出し、掌から火炎球を打ち出す。
 ラインハルトの眼前を真っ赤な炎が埋め尽くす。迫る灼熱で前髪を焼け、更に熱気により呼吸も困難となる。むき出しの素肌は炎の熱によって瞬く間に焼けただれ、槍や鎧も熱を持ち始める。
 だがそれでも、ラインハルトは表情を崩さない。視線は絶えず炎に隠れたスィックルの影を追いかけている。もはや今の彼には、自らの身体の安否を気に掛ける考えも消え失せていた。

 ラインハルトは火炎球を寸で交わすと、流れる動きで槍を突き出した。早く、鋭い一撃。それは正確にスィックルの胸元へと吸い込まれていく。
 その突きは、敵であるスィックルからすれば攻撃と断定が出来ない不思議な突きであった。
 彼に疑念を抱かせた唯一つの要因は、攻撃に込められるある種の感情が一切なかった事だ。
 どんな攻撃にも須らく、振るう戦士の心が宿る。相手を憎んでいるのなら殺気が、誰かを守るためなら覇気が、その一撃に宿る筈なのだ。しかしラインハルトが放ったその攻撃には、何も込められていなかった。まるで槍がそこにあることが当然であるかのように、スィックル目掛けて伸びていくのだ。
 それを攻撃だと認識したころにはもう遅い。スィックルは苦し紛れに剣を振るったが、ラインハルトの水の突きにより、空中に弾き飛ばされてしまった。
 剣は馬車の横を通り抜け、木々の中に紛れて見えなくなってしまう。空手になったスィックルは、慌てて魔法の詠唱を始める……が、それよりも早くラインハルトの槍がのど元に突きつけられた。
 
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