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疑惑
心強い味方
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今、義賊団が持っている情報のほぼ全てが開示され、ジンは驚愕した。
これまで平和だ平和だと言われ続けてきた皇国が、陰では犯罪をもみ消し秘匿する悪国だというのだ。
勿論、この罪人が語る話が全て事実であれば、の話だが。
「その話を全て信じろ、というのか? 国中で犯罪が起き、それを国がもみ消していると? 剰え、人身売買なる悪行も行われていると?」
「信じられないのも無理はありません。長年軍に身を置きながら、これまで一度も耳にしていないのであればなおの事でしょう。それでも、これは事実なのです。そして我々は、汚い方法で稼いだ金を盗み、貧しい子供らを救おうとしていたのです」
ジンの揺れる瞳が、ポトムのまっすぐな視線とかち合う。ジンは、その目を見て直感的に感じた。少なくともこの盗賊は、一つも嘘をついていないのだと。
ジンは顎に手を当て、一人考える。
確かに自分は、兵士の戦術指南役であり軍事には殆ど関わらない。貴族の館へ護衛を派遣する話も、基より皇国側が合同演習に関わりのない兵士から選出して命令を下している。つまり、ジンに報せる必要が無い仕組みが出来上がっていたのだ。それが常であったからこそ、犯罪の一報が無いことや、某所へ護衛を派遣したという報せが一切なかったことに、これまで疑問を持たなかった。だが今回の件を経て、じわじわと不穏な疑問が浮かび上がる点が多々ある。それこそ、ポトムの話に真実味を持たせる程度には……
ポトムの話を全面的に信用すれば、多くの疑問が氷解するのだ。
何故取引が深夜に行われ、何故場所が国の外れだったのか。その答えも至極簡単。扱う品が人間、またはそれに類似する『堂々と公表できない品』であったならば、日中に人目がある場所で……なんてことになる筈が無い。それは例え皇国が後ろ盾に在ろうとも変わらない。それをみた国の民が、それを許す筈が無いのだから。
ジンはそこまで考えて、ポトムに告げた。
「……確かに、お前の話を信じれば粗方の疑問は溶ける。だがまだ疑問は残っているぞ。恵まれない子供らの為に金銭を盗んでいたのなら、是が非でもお前たちは盗みを成功させたかった事だろうに。なら何故あの日、お前たちは二手に分かれた? 一塊になって片方を狙った方が、より安全に、かつ確実に盗むことが出来た筈ではないか」
この問いかけを受け、次はポトムが悩む番となる。果たしてどこまで答えてよい物か。その線引きが難しい。
先程まで話したような内容程度なら、何も問題は無かった。自分らが義賊団であることも、目的が貧困に喘ぐ子供らを救う為であることも、貴族らの悪行も、皇国の隠蔽体質も、信じられようが信じられなかろうが、一方的に情報を持ち帰られようが大して問題のない情報ばかりだった。何故ならそれらの情報からは、今後の義賊団の動きを悟ることは困難であるからだ。
だが『二手に分かれた理由』を話してしまっては、今後の義賊団の動きを予測する際の手助けとなってしまう。だからここは慎重に決めなければならない。
しかし、慎重に決めなければならないというのにポトムは、大して悩まなかった。ジンの反応が皇国寄りでなかったこともある。だが最も大きな要因は、彼が、今同志として行動しているラインハルトが敬う相手であるという点だ。良き弟子には良き師が付き添うもの。ならば事の良し悪しを見極めたラインハルトの師が、浅慮である筈が無い。ポトムはそう考えた。
「俺たちは、唯の義賊団で終わるつもりはないのです」
「何?」
「犯罪の陰に皇国が潜んでいるのなら、取り締まるべき存在がその仕事を全うしないのなら……誰かががそれを取り締まらなければならない」
ポトムの言葉にジンは息をのんだ。
先ほどからポトムの視線は一切揺るがない。言葉では誰かがなどと言っているが、この男はこう訴えているのだ。『我々が皇国を救わねば』と。本気で国に喧嘩を仕掛け、その役目を取って代わろうとしている。傍から見ればそんな事不可能と一笑に付す話だ。だが……彼の眼は真剣だった。
その視線を受け、ジンは思わず笑みが零した。
皇国に取って代わると豪語しておきながら、結局彼らは盗みを失敗。あまつさえ戦士を一人捉えられてしまっているのだ。とてもではないが、今のままでは大言壮語も甚だしいと言わざるを得ない。
だがそれでも、ポトムの揺るがぬ真っすぐな視線に、ジンは心を動かされた。
「ふふふ、随分と大きなことを言う物だ。……面白い、私も少し動いてみよう」
「! それじゃあ……!」
「勘違いするな。私が知りたいのは、皇国が本当に人身売買を黙認したのかどうかだ。もしこの話が真実であったのならば、確かにこの国は腐っていることになる。……だが、それとお前が犯した罪は別の話だ。例えどんな大義名分があろうとも、窃盗は悪しき行いである。許されるべきではない」
ジンは立ち上がるとそう言い放ち、地べたに座るポトムを見下ろした。
強い口調で突き放したジンだったが、それでもポトムは笑って見せた。例えどんな理由であろうとも、結果皇国の悪しき体制を変える為に動くのであれば、それはもはや『味方』と言っても差し支えが無い。勿論ポトムはそれを口にすることをしなかったが……ここにきて、義賊団は皇国内に力強い味方を得ることに成功したのだ。
ジンは牢獄を後にする。日はまだ高いが、熱気に苦しむ時間はとうに過ぎ、過ごしやすくなる頃あいだ。だが彼の足取りは頗る重い。
(明日から忙しくなるな。皇国軍の上層部に、貴族……商人たちにも話を聞かねばならないか? 全く……我が手を離れていながら、なんと手間のかかる子だ)
翌日からの予定を必死に頭で組み立てながら、また、厄介ごとを抱えてきた不肖の弟子を思い出しながら、ジンは帰路へ着く。
これまで平和だ平和だと言われ続けてきた皇国が、陰では犯罪をもみ消し秘匿する悪国だというのだ。
勿論、この罪人が語る話が全て事実であれば、の話だが。
「その話を全て信じろ、というのか? 国中で犯罪が起き、それを国がもみ消していると? 剰え、人身売買なる悪行も行われていると?」
「信じられないのも無理はありません。長年軍に身を置きながら、これまで一度も耳にしていないのであればなおの事でしょう。それでも、これは事実なのです。そして我々は、汚い方法で稼いだ金を盗み、貧しい子供らを救おうとしていたのです」
ジンの揺れる瞳が、ポトムのまっすぐな視線とかち合う。ジンは、その目を見て直感的に感じた。少なくともこの盗賊は、一つも嘘をついていないのだと。
ジンは顎に手を当て、一人考える。
確かに自分は、兵士の戦術指南役であり軍事には殆ど関わらない。貴族の館へ護衛を派遣する話も、基より皇国側が合同演習に関わりのない兵士から選出して命令を下している。つまり、ジンに報せる必要が無い仕組みが出来上がっていたのだ。それが常であったからこそ、犯罪の一報が無いことや、某所へ護衛を派遣したという報せが一切なかったことに、これまで疑問を持たなかった。だが今回の件を経て、じわじわと不穏な疑問が浮かび上がる点が多々ある。それこそ、ポトムの話に真実味を持たせる程度には……
ポトムの話を全面的に信用すれば、多くの疑問が氷解するのだ。
何故取引が深夜に行われ、何故場所が国の外れだったのか。その答えも至極簡単。扱う品が人間、またはそれに類似する『堂々と公表できない品』であったならば、日中に人目がある場所で……なんてことになる筈が無い。それは例え皇国が後ろ盾に在ろうとも変わらない。それをみた国の民が、それを許す筈が無いのだから。
ジンはそこまで考えて、ポトムに告げた。
「……確かに、お前の話を信じれば粗方の疑問は溶ける。だがまだ疑問は残っているぞ。恵まれない子供らの為に金銭を盗んでいたのなら、是が非でもお前たちは盗みを成功させたかった事だろうに。なら何故あの日、お前たちは二手に分かれた? 一塊になって片方を狙った方が、より安全に、かつ確実に盗むことが出来た筈ではないか」
この問いかけを受け、次はポトムが悩む番となる。果たしてどこまで答えてよい物か。その線引きが難しい。
先程まで話したような内容程度なら、何も問題は無かった。自分らが義賊団であることも、目的が貧困に喘ぐ子供らを救う為であることも、貴族らの悪行も、皇国の隠蔽体質も、信じられようが信じられなかろうが、一方的に情報を持ち帰られようが大して問題のない情報ばかりだった。何故ならそれらの情報からは、今後の義賊団の動きを悟ることは困難であるからだ。
だが『二手に分かれた理由』を話してしまっては、今後の義賊団の動きを予測する際の手助けとなってしまう。だからここは慎重に決めなければならない。
しかし、慎重に決めなければならないというのにポトムは、大して悩まなかった。ジンの反応が皇国寄りでなかったこともある。だが最も大きな要因は、彼が、今同志として行動しているラインハルトが敬う相手であるという点だ。良き弟子には良き師が付き添うもの。ならば事の良し悪しを見極めたラインハルトの師が、浅慮である筈が無い。ポトムはそう考えた。
「俺たちは、唯の義賊団で終わるつもりはないのです」
「何?」
「犯罪の陰に皇国が潜んでいるのなら、取り締まるべき存在がその仕事を全うしないのなら……誰かががそれを取り締まらなければならない」
ポトムの言葉にジンは息をのんだ。
先ほどからポトムの視線は一切揺るがない。言葉では誰かがなどと言っているが、この男はこう訴えているのだ。『我々が皇国を救わねば』と。本気で国に喧嘩を仕掛け、その役目を取って代わろうとしている。傍から見ればそんな事不可能と一笑に付す話だ。だが……彼の眼は真剣だった。
その視線を受け、ジンは思わず笑みが零した。
皇国に取って代わると豪語しておきながら、結局彼らは盗みを失敗。あまつさえ戦士を一人捉えられてしまっているのだ。とてもではないが、今のままでは大言壮語も甚だしいと言わざるを得ない。
だがそれでも、ポトムの揺るがぬ真っすぐな視線に、ジンは心を動かされた。
「ふふふ、随分と大きなことを言う物だ。……面白い、私も少し動いてみよう」
「! それじゃあ……!」
「勘違いするな。私が知りたいのは、皇国が本当に人身売買を黙認したのかどうかだ。もしこの話が真実であったのならば、確かにこの国は腐っていることになる。……だが、それとお前が犯した罪は別の話だ。例えどんな大義名分があろうとも、窃盗は悪しき行いである。許されるべきではない」
ジンは立ち上がるとそう言い放ち、地べたに座るポトムを見下ろした。
強い口調で突き放したジンだったが、それでもポトムは笑って見せた。例えどんな理由であろうとも、結果皇国の悪しき体制を変える為に動くのであれば、それはもはや『味方』と言っても差し支えが無い。勿論ポトムはそれを口にすることをしなかったが……ここにきて、義賊団は皇国内に力強い味方を得ることに成功したのだ。
ジンは牢獄を後にする。日はまだ高いが、熱気に苦しむ時間はとうに過ぎ、過ごしやすくなる頃あいだ。だが彼の足取りは頗る重い。
(明日から忙しくなるな。皇国軍の上層部に、貴族……商人たちにも話を聞かねばならないか? 全く……我が手を離れていながら、なんと手間のかかる子だ)
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