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真実の姿
合流
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あらゆる準備を終えた義賊団は、夜明けと共に館を立った。参加するは前回の襲撃よりも多い二十の戦士たち。勿体ぶっているわけではない。義賊団とはもともと少数からなる集団であり、彼らはその数少ない人員の中から選び抜かれた、選りすぐりの猛者たちだ。その中には男だけでなく女も入り混じっており、彼らにとって総力戦であることが見て取れた。
一同は、真っ暗な洞窟を駆け抜け外界へと躍り出た。夜明け前ということもあって辺りはうっすらと明るい。また、明け方独特の朝靄が周囲を取り巻いている。
先頭を行くエリスが、周囲を見渡しながら呟いた。
「好都合ね。出来るだけ人に見られずに皇国へ潜り込みましょう」
一寸先も見えない、と言えるほど深くはないが、この靄は彼女らの隠密に一役買うことになるだろう。
義賊らは、皇国へと続く街道の傍を駆ける。隠密に長けた彼らの足は殆どの音を出さない。また早朝の街道を外れて進軍している為、誰一人として見つかることはない。
その隊列の先頭部、前から二つ目の位置にラインハルトの姿があった。
ラインハルトはエリスの後を追いながら、小さく問いかける。
「皇国にもぐりこんだらどうする気だ。細かな情報は一切ないぞ」
ラインハルトもかつては皇国の兵士であったのだから、国に点在する処刑場の場所は概ね知っている。だが衛兵の目を盗みつつそれらを虱潰しに調べること等、不可能な話だ。
それを案じての疑問であったが、エリスは淀みなく答えた。
「問題ないわ。ポトムも今こちらに向かっているもの。彼と合流した後、詳しく事情を聴きましょう」
一同は更に街道を離れ、草むらの中を駆け抜ける。
やがて、一同の前に一つの人影が現れた。
頭から足の先までをローブで覆い隠し、大きな布の塊を大事そうに抱えている。顔も見えないから男か女かの判別もつかない。
一同はその存在を訝しむ。この場に現れる人物と言えばポトムなのだが、その人影は彼が捉えられた時の姿とはまるで違う。もしや、皇国の張った罠なのでは、エリスはそう考えた。しかし次の一声で、彼らの疑念は氷解する。
「お嬢!!」
その声は、まさしくポトムの物。辺りに響き渡る程ではないが、確かに届く声でエリスを呼び止めた。
眼前に佇む人影がポトムであることに気付いた義賊団は、一時足を止め、彼の無事を喜ぶ。だが事は一刻を争う。笑みを浮かべたのも極僅かで、一同は直ぐに顔を引き締めると問答を始める。
「無事で何より。出来ればこのまま生きていることを喜び合いたいところだけど……」
「ええ、自体は一刻を争います。急ぎましょう。話は道すがら……」
言葉少なめに踵を返すポトムだったが、それをラインハルトが引き留めた。
「おい、俺は碌な情報を貰ってないんだ。少し位説明して欲しいんだが」
するとポトムは、大きな布の塊を持ち直し、ラインハルトへ向き直る。
「……そうだな。少し落ち着いて話すべきだろう。ホムエルシン様は、皇国で起きた一連の事件について疑念を抱いておられた。切っ掛けが何だったのかは判らない。だが独自で調査を重ねられていたようで、確信に至ったあの方は私を仲間の下へ逃がそうとしたんだ。そして……ラインハルト。君にこれを渡すようにと」
ポトムは抱えていた白い布の塊を差し出した。
それを受けとったラインハルトは、手早く布をはいでいく。そこには……
「これは……槍?」
現れたのは、ジンが現役の傭兵だったころ愛用していた槍であった。
絢爛豪華とは真逆を行く素朴なつくり。されどラインハルトが購入したアガツマの作品に引けを取らぬ業物だ。現役を退き長く立つジンが、唯一残した一振りである。
「ホムエルシン様は、その槍を君に託したんだ。皇国の腐敗を確信したあの方は、内と外から軍を叩く作戦を考えた。ホムエルシン様は信頼のおける兵士を集め内側から、外からは我々義賊団が皇国を制圧する作戦を」
それからポトムは頭を隠していたローブを取り去った。
「っ! それは……」
エリスはそれを見て悲痛な声を上げた。
露わになったポトムの顔には、痛々しい巨大な傷が刻まれていた。
「ホムエルシン様は監視されていたんだ。皇国軍が保持する英雄の卵たちによって。私を逃がす際にホムエルシン様は奴等と戦い、惜しくも捉えられた。その時奴らは言ったんだ。『魔法の木の袂で刑に処す』と」
「魔法の木……?」
言葉の端に聞き覚えのある単語を見つけ、ラインハルトは首を傾げる。すかさずエリスから追及の声が上がった。
「何か知っているの?」
頷くラインハルト。
「法皇が済む城の、一階にある庭園にに生えた巨木だ。俺が昼寝をするとき良く枕にしていた。あの庭園は確かに広大な空間だが、一般民が立ち入れる場所じゃない。……恐らくこれは」
「罠でしょうね」
エリスの言葉に、再びラインハルトは頷いた。
英雄の卵とは、生まれる時と場所が違えば英雄足り得るだろう戦士に与えられる称号だ。いかにジン・ホムエルシンが強者であろうとも、賊一匹を取り逃がすような無能の集まりではない。ましてや頬をざっくりと抉る一撃を放っていながら、命を奪うにまで至らなかったなどと、そんな可笑しな話がある筈が無い。
要すれば英雄の卵は、態とポトムを逃し、態と情報を持ち帰らせたのだ。恐らくは、義賊と、それに与する反乱兵を一網打尽にするために。……だがそれが事実だとしても、彼らが足を止める理由にはならない。
エリスは一堂に言い放った。
「罠だろうと関係ないわ。ジン・ホムエルシンは、皇国の真実を知る私たちの仲間よ。乗り込んで助けるわ!」
「「「おう!」」」
義賊らは声を揃えて答える。少し遅れてラインハルトも頷く。
ラインハルトは、自身の持っていた粗末な槍を地面に突き刺した。それから託されたジンの槍を振り回し、感触を確かめるとしっかりと右の手で掴みとる。
「皇国に入ったら俺が案内する。時間帯によっては警邏兵の眼を掻い潜れるかもしれない」
「ええ、お願いするわ」
話は決した。義賊団はジン・ホムエルシン救出のため死地に赴く。
ポトムはローブを被り顔を隠すと、踵を返し、皇国へ向けて走り出した。
その後を二十の戦士が追いかける。
一同は、真っ暗な洞窟を駆け抜け外界へと躍り出た。夜明け前ということもあって辺りはうっすらと明るい。また、明け方独特の朝靄が周囲を取り巻いている。
先頭を行くエリスが、周囲を見渡しながら呟いた。
「好都合ね。出来るだけ人に見られずに皇国へ潜り込みましょう」
一寸先も見えない、と言えるほど深くはないが、この靄は彼女らの隠密に一役買うことになるだろう。
義賊らは、皇国へと続く街道の傍を駆ける。隠密に長けた彼らの足は殆どの音を出さない。また早朝の街道を外れて進軍している為、誰一人として見つかることはない。
その隊列の先頭部、前から二つ目の位置にラインハルトの姿があった。
ラインハルトはエリスの後を追いながら、小さく問いかける。
「皇国にもぐりこんだらどうする気だ。細かな情報は一切ないぞ」
ラインハルトもかつては皇国の兵士であったのだから、国に点在する処刑場の場所は概ね知っている。だが衛兵の目を盗みつつそれらを虱潰しに調べること等、不可能な話だ。
それを案じての疑問であったが、エリスは淀みなく答えた。
「問題ないわ。ポトムも今こちらに向かっているもの。彼と合流した後、詳しく事情を聴きましょう」
一同は更に街道を離れ、草むらの中を駆け抜ける。
やがて、一同の前に一つの人影が現れた。
頭から足の先までをローブで覆い隠し、大きな布の塊を大事そうに抱えている。顔も見えないから男か女かの判別もつかない。
一同はその存在を訝しむ。この場に現れる人物と言えばポトムなのだが、その人影は彼が捉えられた時の姿とはまるで違う。もしや、皇国の張った罠なのでは、エリスはそう考えた。しかし次の一声で、彼らの疑念は氷解する。
「お嬢!!」
その声は、まさしくポトムの物。辺りに響き渡る程ではないが、確かに届く声でエリスを呼び止めた。
眼前に佇む人影がポトムであることに気付いた義賊団は、一時足を止め、彼の無事を喜ぶ。だが事は一刻を争う。笑みを浮かべたのも極僅かで、一同は直ぐに顔を引き締めると問答を始める。
「無事で何より。出来ればこのまま生きていることを喜び合いたいところだけど……」
「ええ、自体は一刻を争います。急ぎましょう。話は道すがら……」
言葉少なめに踵を返すポトムだったが、それをラインハルトが引き留めた。
「おい、俺は碌な情報を貰ってないんだ。少し位説明して欲しいんだが」
するとポトムは、大きな布の塊を持ち直し、ラインハルトへ向き直る。
「……そうだな。少し落ち着いて話すべきだろう。ホムエルシン様は、皇国で起きた一連の事件について疑念を抱いておられた。切っ掛けが何だったのかは判らない。だが独自で調査を重ねられていたようで、確信に至ったあの方は私を仲間の下へ逃がそうとしたんだ。そして……ラインハルト。君にこれを渡すようにと」
ポトムは抱えていた白い布の塊を差し出した。
それを受けとったラインハルトは、手早く布をはいでいく。そこには……
「これは……槍?」
現れたのは、ジンが現役の傭兵だったころ愛用していた槍であった。
絢爛豪華とは真逆を行く素朴なつくり。されどラインハルトが購入したアガツマの作品に引けを取らぬ業物だ。現役を退き長く立つジンが、唯一残した一振りである。
「ホムエルシン様は、その槍を君に託したんだ。皇国の腐敗を確信したあの方は、内と外から軍を叩く作戦を考えた。ホムエルシン様は信頼のおける兵士を集め内側から、外からは我々義賊団が皇国を制圧する作戦を」
それからポトムは頭を隠していたローブを取り去った。
「っ! それは……」
エリスはそれを見て悲痛な声を上げた。
露わになったポトムの顔には、痛々しい巨大な傷が刻まれていた。
「ホムエルシン様は監視されていたんだ。皇国軍が保持する英雄の卵たちによって。私を逃がす際にホムエルシン様は奴等と戦い、惜しくも捉えられた。その時奴らは言ったんだ。『魔法の木の袂で刑に処す』と」
「魔法の木……?」
言葉の端に聞き覚えのある単語を見つけ、ラインハルトは首を傾げる。すかさずエリスから追及の声が上がった。
「何か知っているの?」
頷くラインハルト。
「法皇が済む城の、一階にある庭園にに生えた巨木だ。俺が昼寝をするとき良く枕にしていた。あの庭園は確かに広大な空間だが、一般民が立ち入れる場所じゃない。……恐らくこれは」
「罠でしょうね」
エリスの言葉に、再びラインハルトは頷いた。
英雄の卵とは、生まれる時と場所が違えば英雄足り得るだろう戦士に与えられる称号だ。いかにジン・ホムエルシンが強者であろうとも、賊一匹を取り逃がすような無能の集まりではない。ましてや頬をざっくりと抉る一撃を放っていながら、命を奪うにまで至らなかったなどと、そんな可笑しな話がある筈が無い。
要すれば英雄の卵は、態とポトムを逃し、態と情報を持ち帰らせたのだ。恐らくは、義賊と、それに与する反乱兵を一網打尽にするために。……だがそれが事実だとしても、彼らが足を止める理由にはならない。
エリスは一堂に言い放った。
「罠だろうと関係ないわ。ジン・ホムエルシンは、皇国の真実を知る私たちの仲間よ。乗り込んで助けるわ!」
「「「おう!」」」
義賊らは声を揃えて答える。少し遅れてラインハルトも頷く。
ラインハルトは、自身の持っていた粗末な槍を地面に突き刺した。それから託されたジンの槍を振り回し、感触を確かめるとしっかりと右の手で掴みとる。
「皇国に入ったら俺が案内する。時間帯によっては警邏兵の眼を掻い潜れるかもしれない」
「ええ、お願いするわ」
話は決した。義賊団はジン・ホムエルシン救出のため死地に赴く。
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その後を二十の戦士が追いかける。
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