探求の槍使い

菅原

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決別

頼み事

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 ラインハルトは、城に戻るなり足早に法皇コルクレアの元へと向かった。先程の衛兵との会話もある。だが今の彼は兎角、セリスと顔を合わせたくない一心で、法皇の元を目指していた。
「……全く、誰も彼も人を見る目がない。こんな男のどこがいいのだか」
 にこりともしない仏頂面のまま一人ごちる。

 これまでラインハルトは、色恋と縁のない生活を送ってきた。日常的に槍を振るい、常に戦いを求める狂戦士。十年、二十年前の危険な世界ならともかく、今の平和な世でそんな男に言い寄る女は少なく、彼の周囲に集う者は常にジンやスィックルといった兵士たちに限る。また、昼寝に勤しんでいた時期も言い寄ってくる女は一人もいなかった。当たり前だ。ほかの兵士が研鑽を積んでいる最中、惰眠を貪る一兵士を誰が気に掛けるというのか。
 ただそれでも見てくれだけは悪くなかったので、彼の素性を知るに至らぬ者らには特別嫌われていたわけではなかった。だが婚姻の話が飛び出るほど好意を寄せられたことは一度もない。だから彼としても、現状をどうしたらよいのかわからない。

 セリスはラインハルトに、心の内を全て伝えたわけではない。言葉は言いかけで、顔を合わせる時間も少なかった。しかし一人の女が取ったあのような態度を見れば、どれだけ鈍い男でも気が付くだろう。ラインハルトも朴念仁というわけではないし、セリスが何を言わんとしていたのか大体の察しはついた。察しがついたからこそ、あの場から逃げるように去ったのだ。
(悩みを解消するべく相談したのに、逆に悩みごとが増えてしまったな……複数の女に言い寄られるのも悪くはないが……ううむ、どうしたものか)
 満更でもないと思いながらも、ラインハルトの中には一つの疑問が。
(……なぜ俺は……彼女の話を最後まで聞かなかったのだろうな……)
 すぐに頭を振って、その疑問を振り払う。

 
 多少浮ついた心持のまま、彼はコルクレアの元を訪れた。
 場所は謁見の間ではなく彼の自室。少々乱暴に部屋の戸を数度叩くと、中から声が返ってくる。
「どうぞ」
 戸を開け部屋に入ると、真正面にコルクレアの姿。子供用の小さな椅子に座り、机の上の紙を真剣に見つめている。
「お呼びですか。法皇よ」
 ラインハルトが声をかけると、コルクレアは慌てて机の上から視線を上げた。
「あ、ラインハルトさん。お忙しいところをよく来てくれました」
 来客を出迎えようと椅子から立ち上がるコルクレアだが、ラインハルトが手でそれを制す。
「気にしなくていい。それで用事があると聞いたのだが?」
 机の上に広げられているのは、細かな字が書かれた紙の束。それが法皇の仕事の内であると察したラインハルトは、手早く話を進めようとする。

 多少狼狽えながらも、コルクレアは要件を語り始めた。
「は、はい。用事というのはホムエルシン様の自室についてなんです」
「ジンの?」
「そうです。実は新たな軍を作るにあたって、新しく兵士を雇い入れているのですが……」
 コルクレアは、机の上に広がった用紙の内一枚を手に取ってラインハルトに渡した。
 その紙には月事の新規雇用兵士の某が書かれており、軍が急速に強化されている旨が記されていた。
「以前の長の息がかかった兵士を切り捨てたんだ。人員補強は大事だろう」
 ラインハルトは渡された紙に目を通し、そう言って紙をコルクレアに返す。
「新兵の教育も順調で、どんどん軍の体系は新しいものへと変わっていっています。ですが城や兵舎の部屋数にも限りがありまして……心苦しいのですが、ホムエルシン様のお部屋も使用させて頂きたいと思って声をかけたんです」
 はにかむコルクレア。対してラインハルトも微笑んで同調する。
「ジンが死んで三月も経つ。そろそろ手を加えても誰も文句を言うまい。さっさと要人に許可を取って着手するといい」
「ええ、だからラインハルトさんにお話ししておこうと思いまして」
「……俺に?」
 ラインハルトは首を傾げた。
「はい。ホムエルシン様にはご家族がいなかったようですし、あの人を知る兵士に聞いても、口をそろえて貴方の名前を上げていましたので」
「……いいのか?」
「ええ、ホムエルシン様もきっとそれを望んでいると思います。私物を全てを片付ける必要はありません。ラインハルトさんが欲しいものだけ、部屋から持ち出していただけますか?」
 期せずして舞い込んだ新たな仕事に、ラインハルトはひどく喜んだ。そして何より、ジンに近しい人を尋ねられた他者の口から、自身の名が出たということが、とても誇らしく思えた。
「ああ、分かった」
 ラインハルトはそう頷くと、失礼する、と言葉をつづけ一礼する。それからすぐに部屋を後にした。
 部屋から出たラインハルトは、早速ジンの部屋を目指す。
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