探求の槍使い

菅原

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英雄

槍と弓 2

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 全てはラインハルトが当初予定していた通りに進んでいた。……ただ一つ、ネイノートの攻撃が反撃を寄せ付けぬほど激しいことを除けば。
 本来弓使いが放つ矢という物は、連射の利くようなものではない。矢筒から矢を引き抜き、弓に番える。それから狙いを定め、放つ。これだけの工程が必要な攻撃が連射出来る筈も無い。しかし、ネイノートはそれをやってのけた。そのことにも驚愕したが、ラインハルトはさらなる事実に驚愕する。

 ラインハルトを狙撃するネイノートは、矢を放つ際、矢の傾きに至る些細な個所にまで細心の注意を払っていた。
 人間は多くの情報を眼により確保する。だがネイノートの矢はラインハルトの視線とほぼ平行に保たれており、ラインハルトの目からは矢じりしか見えない状況にあった。これにより放たれた瞬間を察知するのが格段に難しくなっていたのだ。
 また時折別所を狙う際には、矢を放つ瞬間僅かに弓が動き、放たれるまで狙う箇所が絞れない。
 こうした高度技術を多々用いることで、ネイノートは不利なこの戦いを優位に進めていた。

 初撃、二撃目により体制を崩されたが、ラインハルトは焦らない。何故なら弓には圧倒的な弱点があるからだ。
(最初に一本。次に三本……矢筒には全部で十本入っていたように見えた。ということは……)
 弓の弱点。それは弾数に制限があるということだ。それも魔法使いが持つ魔力とは違い、目に見える形で相手にまで分かってしまう。ネイノートが持つ残りの矢数は六本。つまりラインハルトは、あと六度の狙撃を凌げば、ほぼほぼ勝利となる。

 ラインハルトは試合が早々に佳境に入ったことを悟ると、体の動きを一段階加速する。それはかつて六人の『英雄の卵』と渡り合った時の動きに匹敵する速度だ。
(次の狙撃だ。次の狙撃の放ち際……勝負に出る!)
 ラインハルトは生粋の戦士である。そんな彼が防戦に遵守し、矢数がゼロになったことで得る勝利を望むはずがない。彼が望む勝利はただ一つ。純粋な力をもって相手を上回ることだけだ。仮に最終的に残弾ゼロで勝利するとしても、それ以前の段階で最上を望めるのであれば、彼は迷わずに動く。
 ラインハルトのその意思を知らぬまま、ネイノートは矢をまた一つ番えた。

 ネイノートは突如、番えた矢を天に向ける。あまりにも咄嗟のことでラインハルトも思わずその先を見上げた。そのまま何事もなく矢は放たれ、頭上を遮る木々を貫いていく。
 心に浮かんだ疑問の声も、口から突いて出そうになった問いかけの声もぐっと堪え、ラインハルトはすぐにネイノートを見据えた。だがその直後、視界に一本の矢が映る。
「ぬあっ!?」
 間一髪、顔を横に逸らすことで矢を回避する。しかし完全に回避するには至らず、ラインハルトの頬は鏃によって大きく切り裂かれてしまった。
(くそっ、危なかった! あれは囮だったのか!? 反撃の心構えをしていなければやられていた! いけない、気を引き締めねば……!)
 痛みなどを気にしている暇はない。ネイノートは既に次なる矢を構えている。止まっていてはまさに的になった案山子でしかない。
「うおおお!!」
 ラインハルトは吠えた。そしてネイノート目掛けて駆けだす。
 今のラインハルトにとって、彼我の差は然程苦にならない。今の彼ならば僅か一呼吸の内に近づくことができるだろう。
 だがそれだけの速度を持ってしても、英雄の表情を崩すことはできない。

 ラインハルトが蹴った地面が小さな破裂音と共に抉れ小さな穴を作る。それだけの衝撃を生む推進力により、恐るべき速さでラインハルトはネイノートへと迫った。
 その最中、ネイノートはさも当然のように二本の矢を放つ。一つは顔に、一つは腹に。苦し紛れとも思えるその狙撃は二者択一の妙手。片方を防げばもう片方がラインハルトを襲うようにと仕組まれた強かな攻撃だ。もしこれを防ごうとすれば槍を二度振らねばならず、躱そうとすれば大きく避けなければない。そうなれば勝敗を分かつ大きな隙が生まれるだろう。そしてネイノートは、その隙を突かんと新たな矢を番えようとしている。ネイノートはこの瞬間、勝利を確信していた。ところが……
「なっ!?」
 ここにきて、ネイノートから漸く驚きの声が上がる。
 ラインハルトが振るった槍が、二本の矢を縦に切り裂く。二者択一の妙手は、ラインハルトの一振りで全てが解決されてしまったのだ。

 ネイノートの持つ矢は残り三本。そして彼我の距離は見る見るうちに縮まっていく。いかに名射手であるネイノートとて、余裕のない領域へと入った。
 近距離の狙撃すらも見切り、振り払う力を持つ槍使い。既にラインハルトの槍はネイノートを貫ける距離にある。だがラインハルトは、体勢が崩れ隙が生まれることを嫌い更に肉薄する。そしてその距離は、剣でも届く域に達した。
(……貰った!!)
 勝利の確信を持って、ラインハルトは槍を振るう。
 素早い振り払い。これによりネイノートが新たに番えていた一矢すらも、使い物にならなくすることに成功した。
 残りの矢数がゼロになったネイノートに、抗う術はもうない。そこへラインハルトが槍を突き出す。


 がさりと、ラインハルトの右方で草が鳴った。その刹那、突如として手に強い衝撃が走る。
「ぐぅっ!?」
 その衝撃に耐えきれず、ラインハルトは槍を手放してしまう。はじかれた槍はそのまま手の届かぬ所まで飛んで行ってしまった。痺れる腕を抑えながらラインハルトが少し顔を上げると……ラインハルトの前に大きな、大きな七色に輝く狼が佇んでいた。
 
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