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英雄
新たな旅立ち
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ネイノートの主張を受け、仲間に対する概念が若干変わりつつあるラインハルト。
彼はネイノートの顔と近くで待機する二体の魔物を何度も見返し、頭の中で反芻した。
(彼の言うことも確かだ……俺はこれまで、多くても『英雄の卵』六人とやり合ったのが一番多勢だった。それでも手負いの状態であれだけ食い下がれたんだ。万全なら勝つこともできたかもしれない。そう思えば仲間など……ましてや俺よりも弱い仲間など足手まといにしかならない。そう思っていたが……)
それまで彼は、自身を超える力を持つ戦士と出会ったことがなかった。法国で最高戦力とされる『英雄の卵』ですら、彼と同等の力は持たなかったのだ。
だが本物の英雄と出会った彼は、以前とは違う。自身よりも強大な相手と出会うことができた。それもネイノート、クリスタルウルフ、クリスタルホークと合わせて三者もだ。その三者と実際戦ったわけではないが、もし戦闘に発展した場合の結果など、火を見るより明らかだった。
ラインハルトの中で、驚く速度で価値観が塗り替えられる。彼は英雄にあった二日の間で、拮抗した戦いにおける仲間の重要さを学ぶことができたのだ。
戦闘における仲間の大切さは理解できた。だがラインハルトとしては、それまで聞く耳を持たなかったものだからすんなりと迎合することができない。
腕を組んで云々うなるラインハルト。そんな彼に向かってネイノートが語り掛ける。
「……実はね……僕は君が仲間思いの高潔な戦士になるためにこんな話をしているわけじゃないんだ」
「?」
ラインハルトはネイノートを見て首傾げた。
「カイネル……僕の息子も君と同じなんだ。なまじ才能があり戦う力を持つせいか、外の世界を見ようとしない。幾ら人との繋がりが大事だとか、仲間が大切だなどと語っても聞きやしない。あの子の中では僕たち家族が一番上にあって、それ以外は全部下にあるんだよ。前時代ならそれでもよかった。力で殆どの物事を解決できるからね。でもこれからの時代、それじゃいけない。だから……ラインハルト君。君の旅にカイネルを連れて行ってもらえないだろうか?」
ネイノートからの思いもよらぬ言葉に、ラインハルトは固まった。
ネイノートは思い悩んでいた。
息子であるカイネルは、父親譲りの素晴らしい弓の才を持ち、母親と同じく精霊に愛され生まれ落ちた。恵まれた子の誕生を純粋に喜んだネイノートとカノンカは、カイネルに様々な技術を教えたが、その結果生まれたのは素晴らしい力を持った酷く自己中心的な戦士であった。
カイネルの中にある上下認識はとても極端だ。先ず最上位に親であるネイノートとカノンカがいる。更にネイノートの仲間であるクリスタルウルフ、クリスタルホークが同列に並び、その直下にかつてのネイノートを支えた友人たちが入る。尊敬する父母、その知人を敬うのに何ら問題はない。問題はここから先の話だ。
まずカイネルは、同世代の子らを自身に用無しと切り捨てた。王国を救った英雄の子である彼を慕う子供らは多い。だがカイネルが求める幼少期に、同世代の子は力不足であった。故に彼に仲の良い友人はおらず、生まれてからここに至るまで彼が持つ友好関係は相棒のブラッドウルフとインペリアルホークだけだ。次に、カイネルには他者を尊ぶような精神が欠如していた。唯一彼が敬うのは、父母とその周囲にいる者らだけだ。それ以外は基本、彼の意識の中では最下層にあるといってもよい。
こうした価値観を持つカイネルを見たネイノートは、我が子の後の人生に支障をきたすと感じ、更生の余地はないかと手を探していた。
そんな折だ。法国の内政が改革され、その切っ掛けとなった戦士の名を風の噂で聞いたのは。平和となった現時代にそうした問題が起きることは稀であったこともあり、久々に聞いた英傑の名はネイノートの中に強く刻まれた。そしてその戦士が、英雄を求め国を飛び出したという情報が舞い込んだ時は、これだ、と小躍りした。
これは使えるかもしれない。そう思ったネイノートは、長らくその戦士の来報を待ちわびた。我が子の価値観、世界観を根底から覆す可能性を持つ者の来報を。
そして彼は今、その要望を当人に伝えることに成功した。
驚愕の表情で固まるラインハルトだったが、驚愕したのは彼一人ではない。
「なっ、父さん!?」
遠くで様子を見守っていたカイネルが、驚きの声を上げ急ぎ父に駆け寄る。ひしとネイノートの腰に縋り付くカイネル。ネイノートはその頭を優しく撫でる。
「お前は強い。だがそれは戦闘に関してだけだ。この先の時代腕が立つだけではいけない。心も清く、強くあらねば」
ネイノートは、黙ってこちらを見つめるカノンカを見つめた。
既に話は両者でついていたのだろう。カノンカは黙って頷くだけだ。
再三にわたるカイネルの講義も虚しく、ネイノートの主張は押し切られた。
何より頼まれたラインハルト自身、満更でもない心境に陥っている。
旅の同行者がどこぞの馬の骨だったら、彼もここまですんなりと受け入れることはなかっただろう。だが仲間になるのは彼の英雄の嫡子。その実力は疑う余地もない。
話はとんとん拍子にすすんだ。旅の出立はこの日の昼過ぎ。次の目的地は北にある魔法都市、スフィロニアだ。
大空に舞い上がるクリスタルホークを見上げながら、ネイノートは語る。
「……魔法都市へは大陸中央にある貿易都市スウェルマーニを経由した方がいいと思う。僕もそろそろ王国に戻らないといけないし、帰る準備をしないとな。ラインハルト君。息子を宜しく頼む」
「結局貴方の良いように回ってしまったな。少々……いや、大分癪だが……任せてもらおう」
あれだけ拒否的だラインハルトが、今では人が変わったように素直だ。だが自身が思い通りに扱われていることに一言付け加えるのは忘れない。
一方のカイネルは散々ごねた甲斐もあって旅の期限を一年と定めることに成功する。また旅の同行者はカイネルだけに収まらず、彼の相棒であるブラッドウルフ‟パルシオ”とインペリアルホークの‟エアー”も同行することに決まった。
帰る準備を始めるネイノートとカノンカを置いて、二人と二匹のパーティーは一足先に王国を目指し旅立つ。
彼はネイノートの顔と近くで待機する二体の魔物を何度も見返し、頭の中で反芻した。
(彼の言うことも確かだ……俺はこれまで、多くても『英雄の卵』六人とやり合ったのが一番多勢だった。それでも手負いの状態であれだけ食い下がれたんだ。万全なら勝つこともできたかもしれない。そう思えば仲間など……ましてや俺よりも弱い仲間など足手まといにしかならない。そう思っていたが……)
それまで彼は、自身を超える力を持つ戦士と出会ったことがなかった。法国で最高戦力とされる『英雄の卵』ですら、彼と同等の力は持たなかったのだ。
だが本物の英雄と出会った彼は、以前とは違う。自身よりも強大な相手と出会うことができた。それもネイノート、クリスタルウルフ、クリスタルホークと合わせて三者もだ。その三者と実際戦ったわけではないが、もし戦闘に発展した場合の結果など、火を見るより明らかだった。
ラインハルトの中で、驚く速度で価値観が塗り替えられる。彼は英雄にあった二日の間で、拮抗した戦いにおける仲間の重要さを学ぶことができたのだ。
戦闘における仲間の大切さは理解できた。だがラインハルトとしては、それまで聞く耳を持たなかったものだからすんなりと迎合することができない。
腕を組んで云々うなるラインハルト。そんな彼に向かってネイノートが語り掛ける。
「……実はね……僕は君が仲間思いの高潔な戦士になるためにこんな話をしているわけじゃないんだ」
「?」
ラインハルトはネイノートを見て首傾げた。
「カイネル……僕の息子も君と同じなんだ。なまじ才能があり戦う力を持つせいか、外の世界を見ようとしない。幾ら人との繋がりが大事だとか、仲間が大切だなどと語っても聞きやしない。あの子の中では僕たち家族が一番上にあって、それ以外は全部下にあるんだよ。前時代ならそれでもよかった。力で殆どの物事を解決できるからね。でもこれからの時代、それじゃいけない。だから……ラインハルト君。君の旅にカイネルを連れて行ってもらえないだろうか?」
ネイノートからの思いもよらぬ言葉に、ラインハルトは固まった。
ネイノートは思い悩んでいた。
息子であるカイネルは、父親譲りの素晴らしい弓の才を持ち、母親と同じく精霊に愛され生まれ落ちた。恵まれた子の誕生を純粋に喜んだネイノートとカノンカは、カイネルに様々な技術を教えたが、その結果生まれたのは素晴らしい力を持った酷く自己中心的な戦士であった。
カイネルの中にある上下認識はとても極端だ。先ず最上位に親であるネイノートとカノンカがいる。更にネイノートの仲間であるクリスタルウルフ、クリスタルホークが同列に並び、その直下にかつてのネイノートを支えた友人たちが入る。尊敬する父母、その知人を敬うのに何ら問題はない。問題はここから先の話だ。
まずカイネルは、同世代の子らを自身に用無しと切り捨てた。王国を救った英雄の子である彼を慕う子供らは多い。だがカイネルが求める幼少期に、同世代の子は力不足であった。故に彼に仲の良い友人はおらず、生まれてからここに至るまで彼が持つ友好関係は相棒のブラッドウルフとインペリアルホークだけだ。次に、カイネルには他者を尊ぶような精神が欠如していた。唯一彼が敬うのは、父母とその周囲にいる者らだけだ。それ以外は基本、彼の意識の中では最下層にあるといってもよい。
こうした価値観を持つカイネルを見たネイノートは、我が子の後の人生に支障をきたすと感じ、更生の余地はないかと手を探していた。
そんな折だ。法国の内政が改革され、その切っ掛けとなった戦士の名を風の噂で聞いたのは。平和となった現時代にそうした問題が起きることは稀であったこともあり、久々に聞いた英傑の名はネイノートの中に強く刻まれた。そしてその戦士が、英雄を求め国を飛び出したという情報が舞い込んだ時は、これだ、と小躍りした。
これは使えるかもしれない。そう思ったネイノートは、長らくその戦士の来報を待ちわびた。我が子の価値観、世界観を根底から覆す可能性を持つ者の来報を。
そして彼は今、その要望を当人に伝えることに成功した。
驚愕の表情で固まるラインハルトだったが、驚愕したのは彼一人ではない。
「なっ、父さん!?」
遠くで様子を見守っていたカイネルが、驚きの声を上げ急ぎ父に駆け寄る。ひしとネイノートの腰に縋り付くカイネル。ネイノートはその頭を優しく撫でる。
「お前は強い。だがそれは戦闘に関してだけだ。この先の時代腕が立つだけではいけない。心も清く、強くあらねば」
ネイノートは、黙ってこちらを見つめるカノンカを見つめた。
既に話は両者でついていたのだろう。カノンカは黙って頷くだけだ。
再三にわたるカイネルの講義も虚しく、ネイノートの主張は押し切られた。
何より頼まれたラインハルト自身、満更でもない心境に陥っている。
旅の同行者がどこぞの馬の骨だったら、彼もここまですんなりと受け入れることはなかっただろう。だが仲間になるのは彼の英雄の嫡子。その実力は疑う余地もない。
話はとんとん拍子にすすんだ。旅の出立はこの日の昼過ぎ。次の目的地は北にある魔法都市、スフィロニアだ。
大空に舞い上がるクリスタルホークを見上げながら、ネイノートは語る。
「……魔法都市へは大陸中央にある貿易都市スウェルマーニを経由した方がいいと思う。僕もそろそろ王国に戻らないといけないし、帰る準備をしないとな。ラインハルト君。息子を宜しく頼む」
「結局貴方の良いように回ってしまったな。少々……いや、大分癪だが……任せてもらおう」
あれだけ拒否的だラインハルトが、今では人が変わったように素直だ。だが自身が思い通りに扱われていることに一言付け加えるのは忘れない。
一方のカイネルは散々ごねた甲斐もあって旅の期限を一年と定めることに成功する。また旅の同行者はカイネルだけに収まらず、彼の相棒であるブラッドウルフ‟パルシオ”とインペリアルホークの‟エアー”も同行することに決まった。
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