探求の槍使い

菅原

文字の大きさ
73 / 124
魔法都市

魔法学校スフィロニア

しおりを挟む
 翌朝、ラインハルト一行は魔法学校へつながる転送魔法陣を目指していた。英雄に出会うという彼らの目的を完遂するために。イーストスフィアからスフィロニアへ行くには、町の西にある魔方陣を使用すればよい。一度実物を見たラインハルトらにとって、それを見つけることは至極簡単なことだった。

 魔法学校へ行く人は冒険者より商人が多い。これは魔法学校の生徒が使う備品、消耗品を商うためだ。中には大きな荷馬車を持ってきている者もいて、人数の割に仰々しく見える。この時も冒険者ははラインハルトらのみ。また商人を含んでも利用者は十人もいない。
「では皆さん目を瞑ってください。そのまま動かないでくださいね」
 丁寧な口調で女魔法使いが語った。その注意は先日の通り、転送魔法を発動する合図でもある。
 瞼の上から激しい光の明滅を感じる。それが収まるころ、肌寒さが増し町から流れてきていた香りが消えた。
「わ……」
 先に声を上げたのはカイネルだ。声に誘われるようにラインハルトも目を開ける。するとそこには雄大な景色が広がった。

 あたり一面は綺麗な草原が広がっていた。更にその周囲には白化粧が施された霊峰が並ぶ。それを背景に天へと聳える城が一つ。その城こそが、数多の魔法使いが集い学ぶ魔法学校、スフィロニアだった。
「これは……すごいな」
 ラインハルトの口からポロリと本音がこぼれる。町と学校を繋ぐは転送魔法陣唯一つ。彼にはこの領域が、隔絶されたもう一つの世界に見えて仕方がなかった。
「お疲れ様でございました。商人様はこちらへ。あなた方は……」
 魔法学校側の転送魔法陣を管理していた男魔法使いが、使用者に案内を持ちかける。先ずは商人が先に案内され先導の魔法使いに連れられて別所へ移動した。そして次はラインハルトたちの番だ。明らかに冒険者の出で立ちをする異色の集団に、魔法使いは言葉を迷った。
「すまない。俺たちは学長に……ルイン・フォルトに用事があるんだ」
「え、学校長にですか?」
 ルイン・フォルトの名が出ると、魔法使いの表情が僅かに険しくなる。暫し沈黙が続いたがやがて彼は口を開いた。
「わかりました。どうぞこちらへ」
 魔法使い特有の長尺した外套を翻し、魔法使いは学校へ続く道を先導した。

 魔法学校は二棟からできた建物であった。巨大な魔法学校に隠れて見えなかったが、奥には更にもう一つ建物があるようで、転送魔法陣からその建物へ続く道を跨ぐ形で、二つの塔が聳えている。言わずもがなこの二つの塔がそれぞれ魔法学校となるのだが、上層部に至るにつれ二つの塔は一体化しており一つの建物として機能していた。
「見たこともない作りだな。二つの塔が一つになっている」
「この建物は唯の建物ではないんですよ。一つの大きな魔法道具マジックアイテムになっているんです」
「これが魔法道具!? ……規模が違い過ぎる……」
 魔法道具自体は大して珍しいものではない。そこらの細工店で容易に入手できる。だがその大きさは良くて手に余るくらいが殆どだ。人が住めるほどの、等というのは古今東西聞いたことがない。
 驚くラインハルトに気をよくする魔法使い。そんな彼も、カイネルが連れているブラッドウルフとインペリアルホークに興味津々だ。
「他国ではこのような魔物が暮らしているんですか?」
「いいや、他じゃちょっと見れないよ。こいつらは特別なんだ」
 カイネルはそう言って隣を歩くパルシオの体を撫でると、魔法使いは新たな質問をカイネルに投げかけ続けた。

 魔法学校につくとラインハルトらは、右の棟の一室に通された。
 外観は城のようだがその内実は学校であるから、そこまで豪華なつくりではない。それでも素朴ながら質の良い家具がそろっているようで、今まさにラインハルトが座っている椅子も座り心地が良い。
 椅子に座ってしばらくすると、部屋の戸が叩かれる。
 それからすぐに先日見かけた要人が入ってきた。
「お待たせしました。魔法学校スフィロニアの長、ルイン・フォルトと申します」
 丁寧に辞儀をしたルインは、ラインハルトの対面に腰を落とす。
 ルインはラインハルトの顔を見ると笑顔で言った。
「やはり先日の貴方でしたか」
「おや、気づいていましたか」
 気づかれていることを驚きもせずに、ラインハルトも笑顔で答えた。
 互いに相手のことがよくわかっているようだ。そのやり取りに置き去りにされたカイネルが、抗議の声を上げる。
「知り合いだったんですか?」
「いいや、昨日ちょっと顔を見ただけさ」
 ラインハルトは布でくるんだ槍を見せびらかす様に引き寄せた。するとルインは右の手で右の目を指さす。
「この目は少々特殊でね……物の性質が見えるんだよ。だから君の力は一目でわかった。素晴らしい力があるようだね……君もまだ若いのに素晴らしい」
 ルインはラインハルトだけでなくカイネルをも手放しで褒める。
 一目で相手がどれだけの力を持つかわかる眼が、少々特殊等で済むはずがない。そんな言葉を投げようとしたラインハルトだったが、彼は自身の目的を優先した。
「今日伺ったのは一つお願いがあったからです」
「ほう。そのお願いとは?」
「「俺と立ち会ってくれないか?」」
 ルインの声がラインハルトの声と重なった。

 自身が言わんとすることを当てられたラインハルトは、驚きのあまり口を噤んだ。その答えをルインは語る。
「実は先日、王国の英雄殿から連絡が来たんだよ。たちがそちらへ行くからよろしく頼むと」
「悪ガキ……?」
 ラインハルトとカイネルはお互いの顔を見合わせた。
 英雄たちは確かに特別な力を持っている。だがここまでいいように手の上で転がされ、ラインハルトとカイネルは少々腹を立てた。
「なら話は早い。立ち会ってくれるのだろう?」
 ラインハルトは槍を持って揚々と立ち上がる。それに同調しカイネルも立ち上がると、ルインもやれやれと重い腰を上げた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...