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魔法都市
魔法学校スフィロニア
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翌朝、ラインハルト一行は魔法学校へつながる転送魔法陣を目指していた。英雄に出会うという彼らの目的を完遂するために。イーストスフィアからスフィロニアへ行くには、町の西にある魔方陣を使用すればよい。一度実物を見たラインハルトらにとって、それを見つけることは至極簡単なことだった。
魔法学校へ行く人は冒険者より商人が多い。これは魔法学校の生徒が使う備品、消耗品を商うためだ。中には大きな荷馬車を持ってきている者もいて、人数の割に仰々しく見える。この時も冒険者ははラインハルトらのみ。また商人を含んでも利用者は十人もいない。
「では皆さん目を瞑ってください。そのまま動かないでくださいね」
丁寧な口調で女魔法使いが語った。その注意は先日の通り、転送魔法を発動する合図でもある。
瞼の上から激しい光の明滅を感じる。それが収まるころ、肌寒さが増し町から流れてきていた香りが消えた。
「わ……」
先に声を上げたのはカイネルだ。声に誘われるようにラインハルトも目を開ける。するとそこには雄大な景色が広がった。
あたり一面は綺麗な草原が広がっていた。更にその周囲には白化粧が施された霊峰が並ぶ。それを背景に天へと聳える城が一つ。その城こそが、数多の魔法使いが集い学ぶ魔法学校、スフィロニアだった。
「これは……すごいな」
ラインハルトの口からポロリと本音がこぼれる。町と学校を繋ぐは転送魔法陣唯一つ。彼にはこの領域が、隔絶されたもう一つの世界に見えて仕方がなかった。
「お疲れ様でございました。商人様はこちらへ。あなた方は……」
魔法学校側の転送魔法陣を管理していた男魔法使いが、使用者に案内を持ちかける。先ずは商人が先に案内され先導の魔法使いに連れられて別所へ移動した。そして次はラインハルトたちの番だ。明らかに冒険者の出で立ちをする異色の集団に、魔法使いは言葉を迷った。
「すまない。俺たちは学長に……ルイン・フォルトに用事があるんだ」
「え、学校長にですか?」
ルイン・フォルトの名が出ると、魔法使いの表情が僅かに険しくなる。暫し沈黙が続いたがやがて彼は口を開いた。
「わかりました。どうぞこちらへ」
魔法使い特有の長尺した外套を翻し、魔法使いは学校へ続く道を先導した。
魔法学校は二棟からできた建物であった。巨大な魔法学校に隠れて見えなかったが、奥には更にもう一つ建物があるようで、転送魔法陣からその建物へ続く道を跨ぐ形で、二つの塔が聳えている。言わずもがなこの二つの塔がそれぞれ魔法学校となるのだが、上層部に至るにつれ二つの塔は一体化しており一つの建物として機能していた。
「見たこともない作りだな。二つの塔が一つになっている」
「この建物は唯の建物ではないんですよ。一つの大きな魔法道具になっているんです」
「これが魔法道具!? ……規模が違い過ぎる……」
魔法道具自体は大して珍しいものではない。そこらの細工店で容易に入手できる。だがその大きさは良くて手に余るくらいが殆どだ。人が住めるほどの、等というのは古今東西聞いたことがない。
驚くラインハルトに気をよくする魔法使い。そんな彼も、カイネルが連れているブラッドウルフとインペリアルホークに興味津々だ。
「他国ではこのような魔物が暮らしているんですか?」
「いいや、他じゃちょっと見れないよ。こいつらは特別なんだ」
カイネルはそう言って隣を歩くパルシオの体を撫でると、魔法使いは新たな質問をカイネルに投げかけ続けた。
魔法学校につくとラインハルトらは、右の棟の一室に通された。
外観は城のようだがその内実は学校であるから、そこまで豪華なつくりではない。それでも素朴ながら質の良い家具がそろっているようで、今まさにラインハルトが座っている椅子も座り心地が良い。
椅子に座ってしばらくすると、部屋の戸が叩かれる。
それからすぐに先日見かけた要人が入ってきた。
「お待たせしました。魔法学校スフィロニアの長、ルイン・フォルトと申します」
丁寧に辞儀をしたルインは、ラインハルトの対面に腰を落とす。
ルインはラインハルトの顔を見ると笑顔で言った。
「やはり先日の貴方でしたか」
「おや、気づいていましたか」
気づかれていることを驚きもせずに、ラインハルトも笑顔で答えた。
互いに相手のことがよくわかっているようだ。そのやり取りに置き去りにされたカイネルが、抗議の声を上げる。
「知り合いだったんですか?」
「いいや、昨日ちょっと顔を見ただけさ」
ラインハルトは布でくるんだ槍を見せびらかす様に引き寄せた。するとルインは右の手で右の目を指さす。
「この目は少々特殊でね……物の性質が見えるんだよ。だから君の力は一目でわかった。素晴らしい力があるようだね……君もまだ若いのに素晴らしい」
ルインはラインハルトだけでなくカイネルをも手放しで褒める。
一目で相手がどれだけの力を持つかわかる眼が、少々特殊等で済むはずがない。そんな言葉を投げようとしたラインハルトだったが、彼は自身の目的を優先した。
「今日伺ったのは一つお願いがあったからです」
「ほう。そのお願いとは?」
「「俺と立ち会ってくれないか?」」
ルインの声がラインハルトの声と重なった。
自身が言わんとすることを当てられたラインハルトは、驚きのあまり口を噤んだ。その答えをルインは語る。
「実は先日、王国の英雄殿から連絡が来たんだよ。悪ガキたちがそちらへ行くからよろしく頼むと」
「悪ガキ……?」
ラインハルトとカイネルはお互いの顔を見合わせた。
英雄たちは確かに特別な力を持っている。だがここまでいいように手の上で転がされ、ラインハルトとカイネルは少々腹を立てた。
「なら話は早い。立ち会ってくれるのだろう?」
ラインハルトは槍を持って揚々と立ち上がる。それに同調しカイネルも立ち上がると、ルインもやれやれと重い腰を上げた。
魔法学校へ行く人は冒険者より商人が多い。これは魔法学校の生徒が使う備品、消耗品を商うためだ。中には大きな荷馬車を持ってきている者もいて、人数の割に仰々しく見える。この時も冒険者ははラインハルトらのみ。また商人を含んでも利用者は十人もいない。
「では皆さん目を瞑ってください。そのまま動かないでくださいね」
丁寧な口調で女魔法使いが語った。その注意は先日の通り、転送魔法を発動する合図でもある。
瞼の上から激しい光の明滅を感じる。それが収まるころ、肌寒さが増し町から流れてきていた香りが消えた。
「わ……」
先に声を上げたのはカイネルだ。声に誘われるようにラインハルトも目を開ける。するとそこには雄大な景色が広がった。
あたり一面は綺麗な草原が広がっていた。更にその周囲には白化粧が施された霊峰が並ぶ。それを背景に天へと聳える城が一つ。その城こそが、数多の魔法使いが集い学ぶ魔法学校、スフィロニアだった。
「これは……すごいな」
ラインハルトの口からポロリと本音がこぼれる。町と学校を繋ぐは転送魔法陣唯一つ。彼にはこの領域が、隔絶されたもう一つの世界に見えて仕方がなかった。
「お疲れ様でございました。商人様はこちらへ。あなた方は……」
魔法学校側の転送魔法陣を管理していた男魔法使いが、使用者に案内を持ちかける。先ずは商人が先に案内され先導の魔法使いに連れられて別所へ移動した。そして次はラインハルトたちの番だ。明らかに冒険者の出で立ちをする異色の集団に、魔法使いは言葉を迷った。
「すまない。俺たちは学長に……ルイン・フォルトに用事があるんだ」
「え、学校長にですか?」
ルイン・フォルトの名が出ると、魔法使いの表情が僅かに険しくなる。暫し沈黙が続いたがやがて彼は口を開いた。
「わかりました。どうぞこちらへ」
魔法使い特有の長尺した外套を翻し、魔法使いは学校へ続く道を先導した。
魔法学校は二棟からできた建物であった。巨大な魔法学校に隠れて見えなかったが、奥には更にもう一つ建物があるようで、転送魔法陣からその建物へ続く道を跨ぐ形で、二つの塔が聳えている。言わずもがなこの二つの塔がそれぞれ魔法学校となるのだが、上層部に至るにつれ二つの塔は一体化しており一つの建物として機能していた。
「見たこともない作りだな。二つの塔が一つになっている」
「この建物は唯の建物ではないんですよ。一つの大きな魔法道具になっているんです」
「これが魔法道具!? ……規模が違い過ぎる……」
魔法道具自体は大して珍しいものではない。そこらの細工店で容易に入手できる。だがその大きさは良くて手に余るくらいが殆どだ。人が住めるほどの、等というのは古今東西聞いたことがない。
驚くラインハルトに気をよくする魔法使い。そんな彼も、カイネルが連れているブラッドウルフとインペリアルホークに興味津々だ。
「他国ではこのような魔物が暮らしているんですか?」
「いいや、他じゃちょっと見れないよ。こいつらは特別なんだ」
カイネルはそう言って隣を歩くパルシオの体を撫でると、魔法使いは新たな質問をカイネルに投げかけ続けた。
魔法学校につくとラインハルトらは、右の棟の一室に通された。
外観は城のようだがその内実は学校であるから、そこまで豪華なつくりではない。それでも素朴ながら質の良い家具がそろっているようで、今まさにラインハルトが座っている椅子も座り心地が良い。
椅子に座ってしばらくすると、部屋の戸が叩かれる。
それからすぐに先日見かけた要人が入ってきた。
「お待たせしました。魔法学校スフィロニアの長、ルイン・フォルトと申します」
丁寧に辞儀をしたルインは、ラインハルトの対面に腰を落とす。
ルインはラインハルトの顔を見ると笑顔で言った。
「やはり先日の貴方でしたか」
「おや、気づいていましたか」
気づかれていることを驚きもせずに、ラインハルトも笑顔で答えた。
互いに相手のことがよくわかっているようだ。そのやり取りに置き去りにされたカイネルが、抗議の声を上げる。
「知り合いだったんですか?」
「いいや、昨日ちょっと顔を見ただけさ」
ラインハルトは布でくるんだ槍を見せびらかす様に引き寄せた。するとルインは右の手で右の目を指さす。
「この目は少々特殊でね……物の性質が見えるんだよ。だから君の力は一目でわかった。素晴らしい力があるようだね……君もまだ若いのに素晴らしい」
ルインはラインハルトだけでなくカイネルをも手放しで褒める。
一目で相手がどれだけの力を持つかわかる眼が、少々特殊等で済むはずがない。そんな言葉を投げようとしたラインハルトだったが、彼は自身の目的を優先した。
「今日伺ったのは一つお願いがあったからです」
「ほう。そのお願いとは?」
「「俺と立ち会ってくれないか?」」
ルインの声がラインハルトの声と重なった。
自身が言わんとすることを当てられたラインハルトは、驚きのあまり口を噤んだ。その答えをルインは語る。
「実は先日、王国の英雄殿から連絡が来たんだよ。悪ガキたちがそちらへ行くからよろしく頼むと」
「悪ガキ……?」
ラインハルトとカイネルはお互いの顔を見合わせた。
英雄たちは確かに特別な力を持っている。だがここまでいいように手の上で転がされ、ラインハルトとカイネルは少々腹を立てた。
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