72 / 124
魔法都市
南の町サウススフィア
しおりを挟む
ラインハルトは当てもなく通りを練り歩く。それでも問題ない程武具を取り扱う店は多かった。
店の中にいるのは彼と同じ戦士たちだ。その統一性のない容姿から様々な国から集まっているとわかる。
「はぁ、本当に……これだけ充実しているのであれば幾らでも節約してくるんだった」
通りから見える槍の値札を見て大きなため息をつくラインハルト。気づけば似たような人がちらほらといて、乾いた笑いが漏れた。
通りを歩き続けていると、一際人だかりができた店を見つけた。集う人数は尋常ではなく、通りを横断し向こう側の店に届かんばかりの列だ。
一体何事かとラインハルトは眼を凝らす。すると彼の近くにいる町人の叫び声が耳に入ってきた。
「うぉおお!! 賢者様ぁ!」
ぞわりと背筋が振るえた。一瞬で周囲の喧騒の一切が耳に入らなくなり、彼の目が忙しなく近くの店の物色を始める。その人だかりの中心地にある細工品を取り扱う店の中に、その人はいた。
黒を基調とした上質の外套。後ろで束ねられた長い黄色の髪。周囲に不釣り合いなその服装。その人物の目はなんと左右の色が違く、左が金で右が翠色をしている。その姿はまさに法国の広場にあった像とうり二つ。彼こそが、かつて世界を救ったとされる救世の魔法使いルイン・フォルトだった。
暫し遠目から要人を眺めたまま人の波にもまれていると、用事を終えたルインが店から出てくる。
一際上がる歓声。それに驚くルインは、苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「あれがルイン・フォルト……救世の魔法使いか」
曰く、月を壊した大賢者。曰く、世界を救った大魔法使い。魔法を使えぬラインハルトからすればネイノートより優先度が低い存在ではあったが、その英雄の名を忘れたことはない。幾ら最寄り町とはいえ予期せぬ要人の出現に、彼は一瞬思い悩む。
(声をかけるべきか否か……この人だかりでは少々難しいか……?)
そう悩んでいると、ルインの視線がラインハルトを捉えた。それはほんの一瞬のことだったが、確かに両者の視線が絡み合う。再び背筋に悪寒が走る。それは強者の証。出会った、というには短すぎる瞬く間の邂逅であったが、ラインハルトは確かに英雄の力を感じ取った。自然と槍を握る手に力がこもる。思わず人混みをかき分け飛び出そうとしてしまう。ラインハルトのそんな意思を鋭敏に感じ取ったように、ルインは叫んだ。
「……ごめんなさい! 道を開けて頂けますか!」
ラインハルトから視線を切ったルインは、朗らかな笑みを浮かべて町人に声をかける。割れる垣根、その隙間を通りルインは通りを上っていく。
英雄が通った後は再び人の波が押し寄せた。静止していた人の波が動き出す。一度、二度……ルインの背中が人の波で三度隠れたころ、ラインハルトは英雄の姿を完全に見失ってしまった。その後もラインハルトは英雄の歩いた道を辿ってみたが、集合時間までの間に見つけることはできなかった。
英雄との邂逅、そして人の波にもまれ、時間の割にラインハルトは疲弊していた。
当初は様々な武具を見て回ろうと企んでいたのが嘘のようだ。集合場所にも早めに到着し、塔に背中を預けたまま草臥れた体を癒す。
思い返される英雄の姿。生気が感じられない左の翠の目を思い出し、その不気味さに身震いする。
(今までいろいろなものを見てきたつもりだが、あのようなものは見たことがない。異質すぎる……)
おかげで買い物も楽しめたものではない。そう小さく愚痴る。
思考に耽るラインハルトの元へ、カイネルが姿を現した。
「ラインさん!」
聞き覚えのある声と、名前を呼ばれたことで意識が呼び戻される。声の方を向けば一心不乱に走るカイネルの姿。
「はぁっ、はぁっ、お……お待たせしました」
カイネルは品の物色に夢中になり、約束の時間が過ぎてしまったことを謝罪した。そこでラインハルトは漸く気づく。頭上にあった太陽がもう傾き始めていることに。
「本っ当にごめんなさい!」
何度も何度も頭を下げるカイネル。だが叱る気力が残っていないラインハルトは、カイネルの頭に手を置いた。
「俺もさっき来たところだ。俺が誤らなくて済んで助かったよ。さぁ、もう少し店を回ったら宿に戻るか」
これまでされたことのないような対応を受け、カイネルは驚いた。あまりに驚いたものだからラインハルトが背を向け歩き出すまで反応できなかった。
さっさと歩き去る仲間の元へ駆け寄るカイネルは、心配そうな表情を浮かべラインハルトに尋ねる。
「あ、あの……何か変なものでも食べました?」
「……? なんだそれは……ほら、早く行くぞ。帰りの転送魔法がいつあるかもわからないんだ。早めにいかないと最悪野宿になるぞ」
「あ! ちょっと、待ってくださいよ!」
ラインハルトは少々歩調を早める。それに追従するカイネル。その一行の後姿を、翠の目が覗いていた。
店の中にいるのは彼と同じ戦士たちだ。その統一性のない容姿から様々な国から集まっているとわかる。
「はぁ、本当に……これだけ充実しているのであれば幾らでも節約してくるんだった」
通りから見える槍の値札を見て大きなため息をつくラインハルト。気づけば似たような人がちらほらといて、乾いた笑いが漏れた。
通りを歩き続けていると、一際人だかりができた店を見つけた。集う人数は尋常ではなく、通りを横断し向こう側の店に届かんばかりの列だ。
一体何事かとラインハルトは眼を凝らす。すると彼の近くにいる町人の叫び声が耳に入ってきた。
「うぉおお!! 賢者様ぁ!」
ぞわりと背筋が振るえた。一瞬で周囲の喧騒の一切が耳に入らなくなり、彼の目が忙しなく近くの店の物色を始める。その人だかりの中心地にある細工品を取り扱う店の中に、その人はいた。
黒を基調とした上質の外套。後ろで束ねられた長い黄色の髪。周囲に不釣り合いなその服装。その人物の目はなんと左右の色が違く、左が金で右が翠色をしている。その姿はまさに法国の広場にあった像とうり二つ。彼こそが、かつて世界を救ったとされる救世の魔法使いルイン・フォルトだった。
暫し遠目から要人を眺めたまま人の波にもまれていると、用事を終えたルインが店から出てくる。
一際上がる歓声。それに驚くルインは、苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「あれがルイン・フォルト……救世の魔法使いか」
曰く、月を壊した大賢者。曰く、世界を救った大魔法使い。魔法を使えぬラインハルトからすればネイノートより優先度が低い存在ではあったが、その英雄の名を忘れたことはない。幾ら最寄り町とはいえ予期せぬ要人の出現に、彼は一瞬思い悩む。
(声をかけるべきか否か……この人だかりでは少々難しいか……?)
そう悩んでいると、ルインの視線がラインハルトを捉えた。それはほんの一瞬のことだったが、確かに両者の視線が絡み合う。再び背筋に悪寒が走る。それは強者の証。出会った、というには短すぎる瞬く間の邂逅であったが、ラインハルトは確かに英雄の力を感じ取った。自然と槍を握る手に力がこもる。思わず人混みをかき分け飛び出そうとしてしまう。ラインハルトのそんな意思を鋭敏に感じ取ったように、ルインは叫んだ。
「……ごめんなさい! 道を開けて頂けますか!」
ラインハルトから視線を切ったルインは、朗らかな笑みを浮かべて町人に声をかける。割れる垣根、その隙間を通りルインは通りを上っていく。
英雄が通った後は再び人の波が押し寄せた。静止していた人の波が動き出す。一度、二度……ルインの背中が人の波で三度隠れたころ、ラインハルトは英雄の姿を完全に見失ってしまった。その後もラインハルトは英雄の歩いた道を辿ってみたが、集合時間までの間に見つけることはできなかった。
英雄との邂逅、そして人の波にもまれ、時間の割にラインハルトは疲弊していた。
当初は様々な武具を見て回ろうと企んでいたのが嘘のようだ。集合場所にも早めに到着し、塔に背中を預けたまま草臥れた体を癒す。
思い返される英雄の姿。生気が感じられない左の翠の目を思い出し、その不気味さに身震いする。
(今までいろいろなものを見てきたつもりだが、あのようなものは見たことがない。異質すぎる……)
おかげで買い物も楽しめたものではない。そう小さく愚痴る。
思考に耽るラインハルトの元へ、カイネルが姿を現した。
「ラインさん!」
聞き覚えのある声と、名前を呼ばれたことで意識が呼び戻される。声の方を向けば一心不乱に走るカイネルの姿。
「はぁっ、はぁっ、お……お待たせしました」
カイネルは品の物色に夢中になり、約束の時間が過ぎてしまったことを謝罪した。そこでラインハルトは漸く気づく。頭上にあった太陽がもう傾き始めていることに。
「本っ当にごめんなさい!」
何度も何度も頭を下げるカイネル。だが叱る気力が残っていないラインハルトは、カイネルの頭に手を置いた。
「俺もさっき来たところだ。俺が誤らなくて済んで助かったよ。さぁ、もう少し店を回ったら宿に戻るか」
これまでされたことのないような対応を受け、カイネルは驚いた。あまりに驚いたものだからラインハルトが背を向け歩き出すまで反応できなかった。
さっさと歩き去る仲間の元へ駆け寄るカイネルは、心配そうな表情を浮かべラインハルトに尋ねる。
「あ、あの……何か変なものでも食べました?」
「……? なんだそれは……ほら、早く行くぞ。帰りの転送魔法がいつあるかもわからないんだ。早めにいかないと最悪野宿になるぞ」
「あ! ちょっと、待ってくださいよ!」
ラインハルトは少々歩調を早める。それに追従するカイネル。その一行の後姿を、翠の目が覗いていた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる