探求の槍使い

菅原

文字の大きさ
75 / 124
魔法都市

槍と魔法 2

しおりを挟む
 ルインが呼び出したものは、精霊の力で動く魔法人形『岩の魔法人形ロック・ゴーレム』であった。魔法人形も多種多様あるが、岩の魔法人形は木、土に続く強度と強さを持つ魔法人形だ。使用用途は多岐にわたり、今回のような戦闘の補助に加え、日常生活の簡単な雑用までをもこなす。本来は召喚魔法の一種であり、あらかじめ作成していた魔法人形を呼び出す形で運用するのだが、驚くことにルインはそれをこの場で即興作り上げてしまった。

 槍を構えるラインハルト目掛け、魔法人形が腕を振り落とす。唸る剛腕が風を切り、その驚異は明らかだ。ラインハルトは迫る腕を後ろに飛びのく形で回避する。すると腕はラインハルトが先までいた地面へと突き刺さり、巨大な穴を開けた。あたりに土塊が飛び散る。司会を遮るその中を、ラインハルトは槍を持って駆けだした。

 魔法人形自体は、極端な戦闘能力を持たない。その性能は本体に当たる素体に付与された精霊の質によって若干上下はするものの、目にも止まらぬ速度で動くだとか、あらゆる物を弾くだとか、そういった異常な物は基本作ることができない。だが完全に無視をするには難しい相手でもある。もともと今回の相手は、ラインハルトの突進を防ぐことができる力を持っている。これに加えて二対一の構図に陥るのは流石にまずいと感じたラインハルトは、まず魔法人形の無力化を試みた。

 突き刺さった腕を持ち上げる魔法人形の動きは頗る愚鈍だ。即席で作られたせいか、精霊の質はあまりよくないらしい。肉薄するラインハルトに反応する様子もなく隙だらけ。その無防備な腹部目掛け、ラインハルトは疾走する。
 彼が放ったのは雷の突き。岩のように固い外角を貫くために、威力を重視した技を選んだ。地面を蹴る度に小さな穴が開く。距離が縮むほどにラインハルトの速度が加速し、遂に目で追えなくなる頃、彼の槍が魔法人形を襲う。

バキン!!

 耳を劈く音が一回なり、槍が煌々と輝く腹部を貫いた。そこは精霊を宿した魔法人形の核部。ここが壊れた魔法人形は、瞬く間に元の岩塊に戻っていく。魔法特有の淡い光を放ちながら、岩でできた人形は動かなくなった。


 現れた魔法人形を忽ち打倒してしまうラインハルトの力は流石と言えた。だが一つの違和感が彼の脳裏を過る。その違和感とは、ルインが一切の妨害をしなかったことだ。
(ゴーレムを倒すまでに魔法が飛んでこなかった……? 放つ時間は十二分にあったはず。……ということは……)
 確かに先程ラインハルトが放った技は、当初の突きに比べ速く強力だった。しかし妨害ができないかと言われれば、そんなことはない。ましてやルインは人間業とは思えない高速発動が可能だ。ならば魔法人形を維持するためにも、何かしらの妨害があって然るべきだった。

 魔法人形とは魔法使いが操る仮初めの戦士である。自身が後衛で安全に魔法を唱えるためにも、前衛たる魔法人形は出来得る限り長く維持した方が、後々有利となるのだ。もしこれを手放すとすれば理由は二つ。より優秀な前衛がいるか、もしくは失っても問題が無いほどの一手があるかのどちらかだ。
「さぁ、これはよけられるかな?」
 ルインの声が聞こえた。その方をラインハルトが見れば、彼の頭上に輝く、眩い光の球が目に入った。
「雷の矢!!」
 ルインは手を前に突きだし叫ぶ。
 すると突如、眩い光球の中から、十本もの雷の矢が迸った。その速度はまさに雷の如く、人間の反応速度を超えた速度をもって、草原を駆け巡る。不規則に飛び交う様はどこか幻想的で、ラインハルトは一瞬見とれた。
(まるで生き物のようだ)
 しかし放たれた矢は次々と視界から消えて行く。その光景に驚異を覚えたラインハルトは、迫る魔法に対処を開始する。
 まず彼は、光球から放たれた矢が視界から消えたことから、視覚が役に立たないと見るや咄嗟に目をつむった。視覚の放棄。代わりにそれ以外の感覚を限界まで研ぎ澄ますことで、来る雷を察知しようとしたのだ。
 ラインハルトの研ぎ澄まされた感覚が、前から迫る二本の雷をとらえる。一つは直線を、一つは曲線を描きながら高速で動くそれは、今ラインハルトがいる地点を交差する形で飛来しているように思えた。それを見切ったラインハルトは、流れるように足を踏み出し、二本の矢を辛うじて回避する。

 研ぎ澄まされた聴覚が、頭上から迫る四本の矢をとらえた。ばりばりと耳障りな放電音を鳴らしながら地面と垂直に降来する矢。それはさも当然のように、回避した先にいるラインハルトへと降りかかる。
 四本の矢を察知したラインハルトは、更に前へと足を踏み出した。これにより雷の矢は標的を外し、地面へと突き刺さる。しかし、いかにラインハルトと言えども全てを回避すること叶わず、一本の矢が脹ら脛を貫いた。
「がぁっ!?」
 魔法による一撃故に外傷は見当たらない。だがラインハルトの体の中では雷がのたうち回っていた。激痛が全身を駆け巡る。体から力が抜ける。槍を持つ手も昂る意思とは関係なく言うことを効かない。
 やがて研ぎ澄まされていた感覚も薄れていき、意識も徐々に暗闇へと落ちていく。

 残す雷の矢は四本。先の六本がラインハルトを襲うまで、光球の周囲を回り続けていた物だ。一連の攻防を経てもなお、ラインハルトは前進を続け今一度ルインへ肉薄しつつある。これを嫌ったルインは、進行方向をつぶす様に残す四本を扇状に放った。
 ルインからすれば一歩でも後退してくれれば御の字であった。ましてや先の攻撃により、ラインハルトの動きは鈍くなっている。もしかすればこの攻撃が最後の一撃と成りうる。そう思っての一撃であったが、幸か不幸か、力の抜けたラインハルトの体が泳ぎ、矢と矢の隙間をすり抜けてしまった。
「……成程、豪語するだけのことはある」
 ルインは素直に感心した。これまでの戦士はルインの高速で放たれる魔法に成す術もなく敗れ去っていった。中には戦闘前に大層な口を叩いておきながら、逃げ惑う者も現れる始末。これに対しラインハルトは、襲い来る激しい魔法に一歩も怯むことはなく、朦朧とした意識の中でも前進するために足を動かしていた。その不屈の精神が、最後の矢を回避へと導いたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...