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魔法都市
槍と魔法 3
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対戦相手であるはずのルインが不屈の戦士ラインハルトに感心を抱くよりも早く、試合を見守るカイネルはラインハルトの善戦を称賛をしていた。
(やっぱりラインさんは凄い。父さんに勝っただけのことはある)
常人よりも優れた視力を持つ少年が少し離れた位置から見る景色には、辛うじて雷の矢が映っている。そしてその矢を寸でのところで避けるラインハルトの姿もはっきりと映っていた。魔法人形を一撃で屠る驚異の技。それまでの戦いぶりを見るに、両者の力はほぼ互角だとカイネルは判断する。互いに必殺の一撃を持ち、どちらが先にそれを当てることができるかが勝負の分かれ目となるだろう。自然と手に力が入り、こぶしを握り締めてしまう。常軌を逸した速度でやり取りされる攻防。見ることができるものにだけ許された絶景。この戦いをいつまでも見ていたい、カイネルがそう思った時だった。幾本もの雷の矢がラインハルトを襲い、その一本が彼の足を貫いたのは。
カイネルは思わず身を乗り出した。ラインハルトの動きは眼に見えて鈍くなっている。それを見逃すほど英雄の魔法使いは甘くはない。弱るラインハルト目掛け追撃の矢が放たれた。しかし幸運なことに、力が抜け流れてしまった体が矢と矢の間をすり抜ける。
「ラインさん!!」
カイネルが叫んだ。それは倒れ行くラインハルトを気遣ってのものだった。だがその声が、ラインハルトの失いかけていた意識を覚醒させる。
耳に劈く少年の声。その声は自身の名を呼んでいる。ラインハルトは思わず目を見開いた。すると開けた視界に、無防備となった英雄の姿が映る。
「う、ぉぉおお!!」
倒れかけていた体を無理やりに立て直す。離しかけていた槍を力の限り握り締める。そして抜けた膝を奮い立たせ、必死に地を駆けた。
「お見事」
迫るラインハルトへ向けて、ルインは称賛の声を送った。しかし勘違いをしてはいけない。彼は何も勝利を譲ったわけてはない。
ルインの頭上に輝く光球は、全ての矢を失った今もなお煌々と輝いている。当然だ。先の雷の矢はいわば威嚇射撃。本命を外さぬように放った相手の体勢を崩す牽制だったのだ。
「トールハンマー!!」
魔法発動者の宣言と共に、光球が高速で天へと昇る。そして次の瞬間、頭上から視界を埋め尽くすほどの閃光が降り注いだ。
その魔法は、対軍団用の大魔法。数にして数百から数千にも及ぶ兵士を一気に殲滅できるほどの威力と範囲を持つ。当然傍から見ているカイネルもその範囲に含まれ、彼も頭上を見上げていた。
「……嘘……だ」
降り注ぐ閃光の余りのまぶしさに、カイネルは耐えきれず目を閉じる。だがその時
「ディスペル!」
遠くからしわがれた老人の声が聞こえた。すると突如として視界を埋め尽くしていた閃光が収まる。カイネルが驚き目を開けると、同じく驚きの表情を浮かべたルインの姿が見えた。
ラインハルトは止まらない。降り注ぐ閃光も、唐突の乱入者も、もはや彼の意識の外にある。標的は目の前。ついに槍が届く範囲に入り、ラインハルトは技を繰り出す。
万全な体勢とは程遠い現状では、どんな技も出来損ないとなってしまう。それでも使わぬよりはましと、ラインハルトは地を蹴った。彼の持つ技の中でも、最も早く強力な技……先の魔法人形を降した雷の突きを。
距離と時間的に、ルインはもう対抗策を講じる余裕はない。既に攻撃態勢に入ったラインハルト相手には、どんな魔法も間に合いはしない。だが彼はラインハルトの突きに対し右の手を突き出した。
このままでは槍が右の手を貫く。そう思われた刹那、ラインハルトの槍がまるで水のようにはじけ飛んでしまう。
「なっ!?」
勝利を確信したラインハルトは驚愕の声を上げた。それを見たカイネルも同様に叫びを上げる。
勝敗は決す。ラインハルトの槍は何故か液状化し、既に槍の形を保っていない。槍使いを名乗りながら槍を失った彼に次なる手は残されておらず、膝をつき崩れ落ちると悔し気に地面を殴りつけた。
戦いが終わると乱入者が本格的に割り込んできた。乱入者は全部で二人。
一人は美しい女。もう一人は髭だらけの老爺だ。老爺は呆れ混じりの笑みを浮かべ、少女は怒りに顔をゆがませている。
「何をしているのルイン!! あんな危険な魔法を使うなんて!」
「あ、アネシア。戻ってきてたんだ」
鬼気迫る女に対し、呑気な笑顔を浮かべるルイン。それから暫しアネシアと呼ばれた女による説教が始まった。
一方老爺はと言えば、地に付しつつあるラインハルトのもとに歩みよりしゃがみ込む。
「許してやっておくれ。あの子は加減を知らんのだ」
痩せ細った皮と骨だけの手がラインハルトの肩に触れる。するとどうしたことか。つい先まで激痛と疲労により息を吸うのも辛かったのが、嘘のように楽になっていく。
何が起こったのかわからぬまま、驚きの表情で老爺の顔を見上げるラインハルト。だが当の本人は優しく微笑んだまま、ゆっくりと立ち上がると説教を続ける二人に近寄って行った。
(やっぱりラインさんは凄い。父さんに勝っただけのことはある)
常人よりも優れた視力を持つ少年が少し離れた位置から見る景色には、辛うじて雷の矢が映っている。そしてその矢を寸でのところで避けるラインハルトの姿もはっきりと映っていた。魔法人形を一撃で屠る驚異の技。それまでの戦いぶりを見るに、両者の力はほぼ互角だとカイネルは判断する。互いに必殺の一撃を持ち、どちらが先にそれを当てることができるかが勝負の分かれ目となるだろう。自然と手に力が入り、こぶしを握り締めてしまう。常軌を逸した速度でやり取りされる攻防。見ることができるものにだけ許された絶景。この戦いをいつまでも見ていたい、カイネルがそう思った時だった。幾本もの雷の矢がラインハルトを襲い、その一本が彼の足を貫いたのは。
カイネルは思わず身を乗り出した。ラインハルトの動きは眼に見えて鈍くなっている。それを見逃すほど英雄の魔法使いは甘くはない。弱るラインハルト目掛け追撃の矢が放たれた。しかし幸運なことに、力が抜け流れてしまった体が矢と矢の間をすり抜ける。
「ラインさん!!」
カイネルが叫んだ。それは倒れ行くラインハルトを気遣ってのものだった。だがその声が、ラインハルトの失いかけていた意識を覚醒させる。
耳に劈く少年の声。その声は自身の名を呼んでいる。ラインハルトは思わず目を見開いた。すると開けた視界に、無防備となった英雄の姿が映る。
「う、ぉぉおお!!」
倒れかけていた体を無理やりに立て直す。離しかけていた槍を力の限り握り締める。そして抜けた膝を奮い立たせ、必死に地を駆けた。
「お見事」
迫るラインハルトへ向けて、ルインは称賛の声を送った。しかし勘違いをしてはいけない。彼は何も勝利を譲ったわけてはない。
ルインの頭上に輝く光球は、全ての矢を失った今もなお煌々と輝いている。当然だ。先の雷の矢はいわば威嚇射撃。本命を外さぬように放った相手の体勢を崩す牽制だったのだ。
「トールハンマー!!」
魔法発動者の宣言と共に、光球が高速で天へと昇る。そして次の瞬間、頭上から視界を埋め尽くすほどの閃光が降り注いだ。
その魔法は、対軍団用の大魔法。数にして数百から数千にも及ぶ兵士を一気に殲滅できるほどの威力と範囲を持つ。当然傍から見ているカイネルもその範囲に含まれ、彼も頭上を見上げていた。
「……嘘……だ」
降り注ぐ閃光の余りのまぶしさに、カイネルは耐えきれず目を閉じる。だがその時
「ディスペル!」
遠くからしわがれた老人の声が聞こえた。すると突如として視界を埋め尽くしていた閃光が収まる。カイネルが驚き目を開けると、同じく驚きの表情を浮かべたルインの姿が見えた。
ラインハルトは止まらない。降り注ぐ閃光も、唐突の乱入者も、もはや彼の意識の外にある。標的は目の前。ついに槍が届く範囲に入り、ラインハルトは技を繰り出す。
万全な体勢とは程遠い現状では、どんな技も出来損ないとなってしまう。それでも使わぬよりはましと、ラインハルトは地を蹴った。彼の持つ技の中でも、最も早く強力な技……先の魔法人形を降した雷の突きを。
距離と時間的に、ルインはもう対抗策を講じる余裕はない。既に攻撃態勢に入ったラインハルト相手には、どんな魔法も間に合いはしない。だが彼はラインハルトの突きに対し右の手を突き出した。
このままでは槍が右の手を貫く。そう思われた刹那、ラインハルトの槍がまるで水のようにはじけ飛んでしまう。
「なっ!?」
勝利を確信したラインハルトは驚愕の声を上げた。それを見たカイネルも同様に叫びを上げる。
勝敗は決す。ラインハルトの槍は何故か液状化し、既に槍の形を保っていない。槍使いを名乗りながら槍を失った彼に次なる手は残されておらず、膝をつき崩れ落ちると悔し気に地面を殴りつけた。
戦いが終わると乱入者が本格的に割り込んできた。乱入者は全部で二人。
一人は美しい女。もう一人は髭だらけの老爺だ。老爺は呆れ混じりの笑みを浮かべ、少女は怒りに顔をゆがませている。
「何をしているのルイン!! あんな危険な魔法を使うなんて!」
「あ、アネシア。戻ってきてたんだ」
鬼気迫る女に対し、呑気な笑顔を浮かべるルイン。それから暫しアネシアと呼ばれた女による説教が始まった。
一方老爺はと言えば、地に付しつつあるラインハルトのもとに歩みよりしゃがみ込む。
「許してやっておくれ。あの子は加減を知らんのだ」
痩せ細った皮と骨だけの手がラインハルトの肩に触れる。するとどうしたことか。つい先まで激痛と疲労により息を吸うのも辛かったのが、嘘のように楽になっていく。
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