探求の槍使い

菅原

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西の都

選別試合 1

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 薄暗い建物の中には、三十から四十人近くの男女が犇めいていた。彼らは今回の品評会に参加する者ら。これからラインハルトが争う戦士たちだ。
「皆様、勇気あるご参加ありがとうございます。では皆様、こちらにて署名をお願いできますでしょうか」
 不意に、部屋の奥の方から低い声が上がった。声の主は黒と白を基調とした服を着る、執事然とした老爺。おそらくはこの会の主催者であるフロベルティの付き人であろう。集った戦士たちは彼の要求を受け、近しい者らから彼の元へ近づき名を記していく。

 一通り名を記し終えるころ、老爺は部屋の中を見渡すと次なる言葉を発した。
「試合の組み合わせはこちらで決めさせて頂きます。名を呼ばれた方は表へ出て試合開始の準備をお願いします。では第一試合……」
 胸に手を当て辞儀をすると、続けて出来上がった名簿の名を読み上げる。呼ばれたのは二人の男。男らは少し躊躇いながらも建物から外に出ていった。上がる歓声。その中でもよく響くフロベルティの開始の声。やがて金属と金属のかち合う音が鳴り始める。


 暫くすると、先ほど出ていった二人が肩で息をしながら戻ってきた。確かな勝敗はわからない。だが二人の表情を見るに、最初に入ってきた男の表情の方が幾分和らいでいるように見える。老爺は戦士が戻ってきたことを確認すると、次の戦士の名を読み上げる。
「では第二試合、ラインハルト様、ザグド様」
 早速、ラインハルトの出番が回ってきた。それまで腕を組んで壁に寄りかかっていたラインハルトだったが、名を呼ばれると同時に槍を握り建物の外へと向かう。

 湧き上がる歓声。建物の前にぽっかりとあいた半円刑の舞台が用意されている。壁は野次馬たちから成る人垣。その舞台のちょうど真ん中で、ラインハルトと対戦相手である男が対峙する。
「宜しく」
 ラインハルトと同じく若い男。背はラインハルトよりも低いが、体のつくりは立派なものだ。金の髪に金の瞳。巷でも珍しい色男である。また、手に持っている武具は片手で扱える剣と盾。使いこなすことができれば攻防隙の無い動きが可能となる代物だ。
 対しラインハルトは、亡き師と自身の愛用する槍が融合した、新たな槍を握っている。単純な防御力では盾に劣るが、攻撃力は片手で扱う剣の比ではない。
 双方が身に着ける防具はほぼ互角。なれば、どちらがより各々の武具を上手く使いこなせるかという勝負になる。

 試合相手に声をかけたザグドに対し、ラインハルトは無言で槍を数度振り回す。
 ひゅんと風を切る音が鳴り、回転する槍を中心に風があたりを撫でる。緊迫しつつある空気を察知し、歓声は次第にしぼんで行く。やがてラインハルトが降る槍の音だけが聞こえるほど静かになるころ、回転していた槍が止まった。
「……どうぞ宜しく」
 止めた槍の柄を右の手で取り、左手を添える。そうしてようやく、ラインハルトは声を返す。

 張り詰めた空気の中、ザグドは剣の柄で盾の表面を二度叩いた。それから交差するように二度剣を振ると、盾で体を隠しながら剣を構える。そして、ついに試合開始の声がなった。
「では第二試合! 始めぇ!」
 頭上からフロベルティの声が聞こえた。
 すかさず両者は動き出す。


 出だしは双方互角。互いに己の持つ武器が最大の性能を発揮できる距離を目指し駆け抜ける。先に辿り着いたのは槍を持つラインハルト。槍が届く距離に至るや否や、手に持った槍を突き出した。
 速度の乗った槍の一撃だったが、ザグドは冷静だ。左の手に付けた鉄製の盾を使い、迫る槍の軌道を受け流す。続けて足を、体を更に前に出し、右手に持った剣を振るった。

 ザグドは熟達した戦士だった。鉄製の盾と剣を片手で使いこなすには相当の修練が必要となる。先の一撃の処理法を見ただけで、彼がこれまでどれだけ血のにじむ修練を経てきたかがラインハルトには容易に分かった。盾と剣がまるで別の生き物のように動くのだ。これには流石のラインハルトも驚いた。
「むぅ!?」
 上から下へ向けて袈裟に振り下ろされる剣戟。その太刀筋を見るだけで、彼が剣士としても一流であることがわかる。だがラインハルトも一流の槍使いだ。先の一撃が弾かれてからザグドが肉薄するまでの間、何もしていないはずがない。
 放った槍は既に手元まで引き寄せられており、次なる一突きを放つ準備ができている。ラインハルトはほんの半歩だけ身を退けると、できた隙間から槍を突き出し襲い来る剣を弾き返した。
「ぐぅっ!? くっ……なかなかやる!」
 腕を襲う衝撃に耐えながら、苦笑いをするザグド。ここにきてようやく、彼はラインハルトがこれまで見た戦士と一風違うことに気が付く。

 槍が持つ調書の一つである射程距離の広さ。だがそれを逆手に取ったザグドの戦法は、ラインハルトをとても苦しめた。彼の持つ槍は持ち手が1.5(1m50㎝)の長さを持つ。これはザグドが持つ片手剣の全長よりも長いものだ。必然剣の届かぬ距離から一方的に攻撃できる反面、懐に入られれば入られるだけ戦い難くなっていくのだ。
 しかしラインハルトは怯まなかった。柄を握る手の位置を変幻自在に変えながら、思いもよらぬ距離、角度から突きが放たれる。それは近距離であっても決して剣に劣るものではなく、射程距離の利点を引いてなお同等以上の戦いを繰り広げた。


 当初は互角に繰り広げられていた戦いだったが、次第に傾き始める。それも当然だった。距離の利点を手にしていながら同等だったのだ。ラインハルトが自分の距離を得るほどに、戦況はラインハルトが有利になっていく。様子見の初撃とは比べ物にならぬ程強力な突きは、片手で振る程度の盾では満足に防ぐことも難しくなっている。
 激しさを増す攻撃の最中苦し紛れに剣を振るってみるが、そのどれもが槍に撃ち落される。そうしているうちに、弱まった握力が耐えきれず剣が吹き飛ばされてしまった。
「ぐぁっ!!」
 剣が吹き飛ばされ、ザグドの武器が失われる。残されたのは盾のみだが、守り続けたところでもはや勝ち目はない。
 一瞬、彼の目が吹き飛ばされた剣を追った。そのほんの一瞬で、ラインハルトの槍がザグドの喉元に突き付けられる。
「……ま、まいった」
 その言葉が出たことで、ラインハルトの勝利が決まった。
「そこまで! 勝者ラインハルト!」
 再び頭上からフロベルティの声。少し遅れて湧き上がる歓声を背に受けながら、ラインハルトは小さく息を吐く。
 まだ試合始まったばかりだ。次なる試合に備え、二人はフロベルティ別宅へと戻っていく。
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