探求の槍使い

菅原

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西の都

助力

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 話がひと段落したところで、店主は奥の部屋から茶色い羊皮紙を持ってきた。
「これは俺が現役の時に使っていた迷宮の地図だ。尤も相手は生きた洞穴。今では使い物になるかはわからんが、お前たちにやろう」
 丸机の上に広げられた四角い紙。そこにはミミズが張ったような線がいくつも書かれていた。
「いいのか? この宿にも迷宮に行く探究者とやらがいるんだろう?」
「いいんだ。どいつもこいつもぎらぎらと目を光らせているが、その眼に映っているのは銭金ばかりだ。ここに宿を構えて久しく経つが、お前たちのように名声を求めてくるやつは見なくなって久しい」
「俺たちが? ……もしかしたら俺たちも金目当てかもしれんぞ?」
 ラインハルトの言葉を聞いて店主は笑い声をあげた。
「はっはっは! 金目当ての奴が迷宮も知らずにこの町へ来るもんかい! それに現役は退いたとしても冒険者の端くれだったんだ。お前が他の奴らと一味違うことくらいわかるさ」
 槍を持ち歩くその身の熟し、一部の隙も無い佇まい、そうしたもので戦士の質がわかると店主は言った。そして話をしてみた結果、ラインハルトらが金銭目的ではない本物の探究者に成り得ることがわかり、惜しみなく協力したいのだとも語った。
「ほぼ初対面でそこまで入れ込まれても気持ち悪いが……そこまで言うのなら有難く貰っておこうか」
 憎まれ口をたたきはするが、ラインハルトは内心安堵していた。これから情報を一から調べていたのでは、事を起こすのが何時になるか分からない。だが店主の計らいにより、大きく前進することができたのだ。
「ああ、貰って行ってくれ。ただ念を押すが、迷宮とは時と共に姿を変える。これが本当に役に立つかは保証できないぞ」 
 ラインハルトは店主の忠告に相槌を打ちながら、解読が必要な地図を一先ず丸める。そして自身の携えた道具袋へと放り込んだ。

 それでこの場は解散。そう思えた時、カイネルが一つ店主に尋ねた。
「迷宮には誰でも入れるようになっているんですか?」
 カイネルの問いかけに、店主は顎に手を当て唸る。
「ううむ……入れるには入れるが、少し金がかかる」
「お金が? どのくらいですか?」
「今なら一人当たり金貨一枚だな。最初は無料だったんだが、入場料を取れば金が稼げるとわかった途端、町の執政がガンガン値上げをしやがった」
 その金額を聞いて、カイネルの顔が少し青ざめる。金貨一枚とは銀貨十枚に相当する。即ち今宿泊している宿を一人で十泊できるような金額が必要となるのだ。ただでさえ貯えが少ない彼らにとって、それだけの金額はポンと払えるような額ではなかった。
「その顔を見るに払えなさそうだな……よし、じゃあとっておきの情報を教えてやろう」
 店主は勢い良く手を叩くと、周囲に誰もいないのに口元を手で覆うしぐさをして見せた。
「実はな、この町のとある貴族が探索隊を組織するらしいんだ。そこで明後日の昼頃、戦士を選抜する場を設けるらしい。その場で力を認めさせれば、入場料も必要なくなる」
 にやりと笑った店主は、ラインハルトの槍を指さす。
「成程な……そいつはいい。俺たちにもってこいの話だ」
 ラインハルトも微笑むと身を乗り出した。後は話のすり合わせ。疑問点や注意点を事細かに話し合い、今後に備えて話を詰めていく。


 二日が経った。
 ラインハルトらはこの二日間でたっぷりの休息を取り、来る模擬試合に備えた。伝えられた会場は宿からほど近い通りの一角。大通りほど大きくはないが、それでも多くの人が行き交う行商通りのひとつだ。
 時刻は昼過ぎ。会場周辺はひどくごった返しており、参加者と思われる武骨な戦士と、彼らの雄姿を一目見んとする町人らが大きな人垣を作っていた。
 当然ラインハルトらは前者。屈強な肉体と、種々様々な武具を持つ戦士の最中にいる。
「個々の選抜であるのなら、一人ずつその席を勝ち取らねばならない。乱闘になるか試合となるかはわからないが、そこは神に祈るしかないな」
 集う戦士は数にして四十近くいる。これだけの中からどれだけの人数が選抜されるのか、またどういった方式で選抜されるのか、まだ定かではない。
「もし僕たちがそれぞれ戦うことになったら……?」
 不安そうに声を上げたのはカイネルだ。これまで近距離戦と補助役を担ってくれていた二人の家族がいないせいか、声に力が籠っていない。
「そうなったら仕方がない。それぞれ全力を尽くすのみだ。勝敗が直接かかわるかどうかもわからないが、やるしかないだろう」
 答えたラインハルトは根っからの狂戦士。戦うことを楽しむことができる人種だ。この時も当然、優秀な弓使い、魔法使いと技を競い合えるかもしれないと、内心高揚していた。

 そうしたやり取りをしていると、試合の始まりを告げる声が響く。
「よく集まってくれた! 屈強なる戦士たちよ!! 我が名はフロベルティ・カシュヴァーニ。迷宮の最奥を追い求める探究者の一人である! 本日は我が探究団に新たな仲間を募るべく、こういった機会を設けさせてもらった。皆思う存分力を振るうと良い!」
 声の主はこの地区一帯を統治する貴族フロベルティ。この通りに面した別宅の二階にあるバルコニーに、その姿はあった。
 主催者の声に合わせて上がる歓声。その空気に当てられて、戦士らの中にも得も言われぬ高揚感が充満する。
「選別方法は試合形式とする。気絶、敗北を認める、またはこちらが無理だと判断した時点で勝敗が決す。ただ勝敗が直接の採用要素でないことは理解してほしい。では我こそはと思う猛者はこの中に入れ!」
 一人、また一人と戦士がフロベルティ別宅の戸を開く。やはりラインハルトがいた近くにある者たちが殆どだ。やがて戦士の数が疎らになるころ、ラインハルトらも揃って建物の中に足を踏み入れた。
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