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試練
穏やかな休息
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静かな時間が流れた。
迷宮の中であった危険な時間が、まるで夢であったかのようだ。
意識を失い、身動きもできなかったラインハルトだったが、兎の持ち家に籠ってから三日もすると、歩くのも問題ないほどに回復した。
三日目の昼過ぎ。ラインハルトは自身の槍をもって部屋を出る。
「ううむ、大分ゆっくりしてしまったな」
三日間寝てばかりいたせいで体が凝り固まってしまっている。まずはそれを解消すべく、彼は槍をもって館の外に出た。
部屋の中を見ただけでも相当裕福であると分かっていたが、外に出たことでラインハルトは改めて驚いた。
「こいつは凄いな」
館の外には広大な庭園が広がっていた。綺麗に切り揃えられた芝生。等間隔に植木が置かれ、それらも綺麗に切り揃えてある。
「どうやら本当の金持ちのようだ」
ラインハルトは、兎が他とは違うことに当に気がついていた。言葉遣いから始まり、端々で見せる仕草、そして異常なまでの羽振りの良さ。その幾つかは貴族の物と似通ったものがあるが、彼の知る貴族像とはどこか違っていた。
この時もそうだ。兎がもし一介の貴族であるのならば、館の中は多くの従者で満たされ、武装した騎士が警備のため練り歩いているはずなのだ。ところがラインハルトが眠っている間、部屋に訪れたのは兎ただ一人だけだった。
「従者を嫌う貴族……か? ううむ、考えられなくもないが……」
顎に手を当て唸る。だがその思考も無駄であることに気付き、すぐに考えるのをやめた。
ラインハルトは庭園に足を踏み入れる。そこで槍を振り回しても問題なさそうな空間を見つけると、軽く槍を構えた。軽く肩幅に立ち、地と水平に腰あたりで槍を構える。そして
「……ふっ!」
虚空を一突き。少しおいて更に一突き。
「はっ!」
こうして二度ほど素振りをしてみて、体に問題がないことを確認する。結果は上々、手足が痛んだり、体が泳いだりといったことはなかった。それどころか……
(心なしか以前よりも体が軽い気がするな。三日も体を動かしていないというのに……)
予想よりも体が動くことにラインハルトは驚いた。
暫く素振りを繰り返していると、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「体は大丈夫ですか?」
ラインハルトは振り向いた。そこには出会った当初と同じ、体をローブで覆い隠した兎の姿。手には籠を下げており、その顔には嬉しそうな笑みを湛えている。
「ああ、問題はなさそうだ」
「よかったです。あんな凄い戦いでしたし、貴方にも異常があったら申し訳なくて……」
兎の笑顔が少しだけ陰る。エンカのことを思い出しているのだろう。そう察したラインハルトは、あえてそれを無視して再び槍を振り始めた。
槍が空を切る音が鳴る。立ち去る足音は聞こえない。ラインハルトは無心で槍を振り続け、兎はただ黙ってラインハルトを見つめ続けた。
やがて、満足したラインハルトは構えを解き槍を担ぐ。すると兎はパタパタとラインハルトに近寄り、籠の中から小さなハンカチを取り出すとラインハルトの頬へと手を伸ばした。
「ずっと見ていたのか?」
「はい」
「退屈だっただろうに」
「いえ、楽しかったですよ」
兎は変わらず微笑んだままだ。ラインハルトは何処か気恥ずかしさを覚え、話題を変えた。
「今日もローブなんだな。素材はいいのだから綺麗に着飾ってみたらいいだろうに」
咄嗟に口から出た言葉だったが、これは彼の本心だった。真っ白い兎の耳が生えていることを除けば、兎の容姿は他と比べても秀でている。だが兎自身はそれを隠したがる傾向にあるようで、耳を隠し、肌を隠す服装ばかりを好んできていたことを勿体なく感じていたのだ。
ラインハルトは、この言葉で兎が取り乱すと予想していた。背格好に相応しく、赤面したじろげば予想通りだ。だが当ては大きく外れた。
「ふふっ、私がかわいい服を着たって得する人なんかいませんよ。それより、もう少ししたらカイネルさんとシェインさんも来ますから、今後について相談しましょう」
かつて言われたことがあるのか、慌てることなく、照れることもなくさっと流す兎。この対応に若干違和感を感じつつも、ラインハルトため息をついて館に戻る兎を追った。
日が傾き始める頃、カイネルとシェインが兎の館へとやってきた。
二人が通されたのは一階入り口に程近い一室。そこには兎とラインハルトの姿もあり、一同椅子に座って茶を飲みながら談笑していた。
「いやぁラインハルトさんが元気で本当に良かったです」
「あれくらいで死んだりはしないさ」
カイネルの笑顔に笑顔で答えるラインハルト。二人のやり取りでシェインが呆れかえる。
「あれくらいって……書物によるとタウロスという魔物は、単身で町や国一つを滅ぼす力があるそうですよ? つまり竜に匹敵する力があるってことになるんですが」
「竜に匹敵!?」
カイネルが大きな声を出して驚いた。だがラインハルトは落ち着いた口調で語る。
「あれが竜と同等? それは流石に誇張しすぎだと思うぞ」
「あはは……確かにそれは信じられないかも。殆どラインハルトさん一人で倒したみたいなもんですし……それが本当なら、ラインハルトさんも竜に匹敵するってことになりますよね」
カイネルは苦笑いを浮かべた。それに合わせて兎、シェインも苦笑を漏らす。一方ラインハルトは鼻で笑った。
「まぁあれが強敵であることに変わりはない。一体二体出会うくらいならばまだなんとかなるが、この先あんなのがわらわら出てくるのであれば、何かしら策を立てなければならないだろうな」
ラインハルトは腕を組むと背凭れに体を預けた。その太々しい態度をみる兎は、茶を一口啜って言う。
「それは考えたくもありませんね。というか、一、二体なら何とかなるんですか?」
「あれと同等ならなんとかな。尤も同時に来られたら厳しいだろうが……」
「あんなのが二体同時とか、考えたくもありませんね」
一同が揃って話すのも約三日ぶりだ。おかげで会話にも熱が籠り、次の迷宮探索の相談が始まったのはそれからたっぷり時間が過ぎてからだった。
迷宮の中であった危険な時間が、まるで夢であったかのようだ。
意識を失い、身動きもできなかったラインハルトだったが、兎の持ち家に籠ってから三日もすると、歩くのも問題ないほどに回復した。
三日目の昼過ぎ。ラインハルトは自身の槍をもって部屋を出る。
「ううむ、大分ゆっくりしてしまったな」
三日間寝てばかりいたせいで体が凝り固まってしまっている。まずはそれを解消すべく、彼は槍をもって館の外に出た。
部屋の中を見ただけでも相当裕福であると分かっていたが、外に出たことでラインハルトは改めて驚いた。
「こいつは凄いな」
館の外には広大な庭園が広がっていた。綺麗に切り揃えられた芝生。等間隔に植木が置かれ、それらも綺麗に切り揃えてある。
「どうやら本当の金持ちのようだ」
ラインハルトは、兎が他とは違うことに当に気がついていた。言葉遣いから始まり、端々で見せる仕草、そして異常なまでの羽振りの良さ。その幾つかは貴族の物と似通ったものがあるが、彼の知る貴族像とはどこか違っていた。
この時もそうだ。兎がもし一介の貴族であるのならば、館の中は多くの従者で満たされ、武装した騎士が警備のため練り歩いているはずなのだ。ところがラインハルトが眠っている間、部屋に訪れたのは兎ただ一人だけだった。
「従者を嫌う貴族……か? ううむ、考えられなくもないが……」
顎に手を当て唸る。だがその思考も無駄であることに気付き、すぐに考えるのをやめた。
ラインハルトは庭園に足を踏み入れる。そこで槍を振り回しても問題なさそうな空間を見つけると、軽く槍を構えた。軽く肩幅に立ち、地と水平に腰あたりで槍を構える。そして
「……ふっ!」
虚空を一突き。少しおいて更に一突き。
「はっ!」
こうして二度ほど素振りをしてみて、体に問題がないことを確認する。結果は上々、手足が痛んだり、体が泳いだりといったことはなかった。それどころか……
(心なしか以前よりも体が軽い気がするな。三日も体を動かしていないというのに……)
予想よりも体が動くことにラインハルトは驚いた。
暫く素振りを繰り返していると、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「体は大丈夫ですか?」
ラインハルトは振り向いた。そこには出会った当初と同じ、体をローブで覆い隠した兎の姿。手には籠を下げており、その顔には嬉しそうな笑みを湛えている。
「ああ、問題はなさそうだ」
「よかったです。あんな凄い戦いでしたし、貴方にも異常があったら申し訳なくて……」
兎の笑顔が少しだけ陰る。エンカのことを思い出しているのだろう。そう察したラインハルトは、あえてそれを無視して再び槍を振り始めた。
槍が空を切る音が鳴る。立ち去る足音は聞こえない。ラインハルトは無心で槍を振り続け、兎はただ黙ってラインハルトを見つめ続けた。
やがて、満足したラインハルトは構えを解き槍を担ぐ。すると兎はパタパタとラインハルトに近寄り、籠の中から小さなハンカチを取り出すとラインハルトの頬へと手を伸ばした。
「ずっと見ていたのか?」
「はい」
「退屈だっただろうに」
「いえ、楽しかったですよ」
兎は変わらず微笑んだままだ。ラインハルトは何処か気恥ずかしさを覚え、話題を変えた。
「今日もローブなんだな。素材はいいのだから綺麗に着飾ってみたらいいだろうに」
咄嗟に口から出た言葉だったが、これは彼の本心だった。真っ白い兎の耳が生えていることを除けば、兎の容姿は他と比べても秀でている。だが兎自身はそれを隠したがる傾向にあるようで、耳を隠し、肌を隠す服装ばかりを好んできていたことを勿体なく感じていたのだ。
ラインハルトは、この言葉で兎が取り乱すと予想していた。背格好に相応しく、赤面したじろげば予想通りだ。だが当ては大きく外れた。
「ふふっ、私がかわいい服を着たって得する人なんかいませんよ。それより、もう少ししたらカイネルさんとシェインさんも来ますから、今後について相談しましょう」
かつて言われたことがあるのか、慌てることなく、照れることもなくさっと流す兎。この対応に若干違和感を感じつつも、ラインハルトため息をついて館に戻る兎を追った。
日が傾き始める頃、カイネルとシェインが兎の館へとやってきた。
二人が通されたのは一階入り口に程近い一室。そこには兎とラインハルトの姿もあり、一同椅子に座って茶を飲みながら談笑していた。
「いやぁラインハルトさんが元気で本当に良かったです」
「あれくらいで死んだりはしないさ」
カイネルの笑顔に笑顔で答えるラインハルト。二人のやり取りでシェインが呆れかえる。
「あれくらいって……書物によるとタウロスという魔物は、単身で町や国一つを滅ぼす力があるそうですよ? つまり竜に匹敵する力があるってことになるんですが」
「竜に匹敵!?」
カイネルが大きな声を出して驚いた。だがラインハルトは落ち着いた口調で語る。
「あれが竜と同等? それは流石に誇張しすぎだと思うぞ」
「あはは……確かにそれは信じられないかも。殆どラインハルトさん一人で倒したみたいなもんですし……それが本当なら、ラインハルトさんも竜に匹敵するってことになりますよね」
カイネルは苦笑いを浮かべた。それに合わせて兎、シェインも苦笑を漏らす。一方ラインハルトは鼻で笑った。
「まぁあれが強敵であることに変わりはない。一体二体出会うくらいならばまだなんとかなるが、この先あんなのがわらわら出てくるのであれば、何かしら策を立てなければならないだろうな」
ラインハルトは腕を組むと背凭れに体を預けた。その太々しい態度をみる兎は、茶を一口啜って言う。
「それは考えたくもありませんね。というか、一、二体なら何とかなるんですか?」
「あれと同等ならなんとかな。尤も同時に来られたら厳しいだろうが……」
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