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深奥
探求の槍使い 1
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気づけば暗闇の中にいた。
(ここは……どこだ? 俺は確か……)
朧な記憶を手繰り寄せる。
(確か……そうだ。巨大な蜈蚣が口から何かを吐き出したんだ。それで天井が崩れて……)
思い出せるのはそこまでだった。
暗闇の中を見渡す。仲間たちの姿はどこにもない。それどころか辺りの景色も一切見えない。更けた夜ですら月明かりで辺りは見渡せるというのに、目の前に広がるのは只管の暗闇だ。
槍を握っている方とは逆の手を前に伸ばしてみた。だが手に引っ掛かるものは何もない。横にも広げてみた。だがやはり、手に当たるものは一つもない。
(どこなんだここは……)
頭の中は混乱の最中にある。務めて冷静に努めようとした。しかしこの空間が、これまで経験したあらゆる場所に似通わぬことに気付き、体中に冷や汗が浮かんだ。
俺は歩き出した。少なくとも一直線に進み続ければ、いずれどこかにぶつかるだろうと信じて。だがどれだけ歩こうとも暗闇が晴れることはなく、気づけば歩調は速くなり、終いには走り出していた。
どれだけ走り続けただろうか。既に息は上がり足は鉛のように重い。走るのをやめてしまえば一息つくことはできる。だが足を止めたが最後、永遠にこの暗闇に取り残されてしまうかもしれないという思いがあった。俺は柄にもなく、共にいたはずの仲間の名を叫びながら暗闇の中を彷徨う。
「カイネル! シェイン! 兎! 誰もいないのか!?」
声は反響し耳に帰ってくる。しかしその呼びかけに答える声はない。
それからも俺は、散々叫び、散々走った。やがて体力が尽き足が止まる頃……不意に暗闇を晴らす眩い閃光が走った。
長時間暗闇の中にいたせいか、強烈な光は俺の眼を強く刺した。じんじんと目の奥が痛む。腕を翳し光を遮ろうともしたが、そうまでしても目を開けることは叶わない。
「何が起こっているんだ!?」
その言葉に呼応するかのように、光は急速に収束を開始した。
余りにも眩しかった光が弱まり、程よい明るさに代わる。そうしてから漸く目を開くと、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
胸が空くような青空。視線を下ろせば目の前には幾つもの墓標が並び、遠く彼方には見たことのある城が聳えている。鳥の囀りが聞こえる。子供らの元気な笑い声も微かに聞こえた。
「ここは……まさか……」
そこは、俺が長らく世話になっていた皇国の一角だった。
「ど……どういうことなんだ? 俺は皇国から遥か西にある迷宮にいたはず」
混乱する頭でも、今の状況が異常であることが容易にわかる。だがここに至った理由、経緯は何一つわからない。
何が起きたのかを必死に探ろうと辺りを見渡した。すると背後から懐かしい声が聞こえた。
「こんなところにいたのか、ライン」
その声に、俺は驚き振り向いた。そこには……
「そんな……ジン……?」
そこにはかつて死んだはずの師、ジン・ホムエルシンが立っていた。
俺はここが、夢か幻ではないかと疑った。
尤も新しい記憶との整合性が取れず、太陽の光が届かぬ地下から一転、眩い地上へと移り変わってしまったのだ。これだけでもおかしいというのに、加えて目の前に死んだはずの男が現れた。白髪交じりの茶色い髪。よく磨かれた純白の鎧。そして金色刺繍が施された真っ赤な外套。それは記憶の中にあるジンの姿と何ら違わない。
「どうした? まるで死んだ人間を見たような顔をして」
ジンは、狼狽える俺を見て笑いながら語り掛けてきた。
微笑むジンの顔は、確かにかつて見た師の物と同じだ。
「本当に……ジンなのか?」
「なんだ、寝ぼけているのか? よもや武術の師の顔を忘れたわけではあるまいに」
忘れるはずがない。物心つく頃には親もいなく、ジンが親代わりだったんだ。そんな人の顔を忘れるはずがない。
だがこんなことはあり得ない。あの事件でジンは確かに命を失ったはずなのだ。俺は確かにジンの死体を弔う場に立ち会った。それから数日、毎日彼の墓前に出向いていたのだ。
(まさか魔法による罠の類か?)
これまでの出来事を一切考慮しないこの光景に、俺はとても焦った。だがそんな俺の気持ちを知らぬ目の前の男は、優しく言葉をかけてくる。
「本当に大丈夫か? ぼうっとして……ああ、わかったぞ。もしや昼寝をしていないせいだな?」
男の手が、俺の肩に触れる。確かな感触。その仕草の細部に至るまで、記憶の中にいる師と寸分違わず同じものだ。
(本当に幻覚なのか? それとももしかして……これまでの出来事が全て……)
夢だったのかと思ってしまう程、その世界は現実味を帯びていた。頬を撫でる風も、遠くから聞こえる喧騒も、鼻孔をくすぐる新緑の香りも、あらゆるものが皇国の物と等しく五感を刺激する。
動揺しっぱなしの俺にジンは言う。
「さあ、城に戻って冷たいものでも飲もう。そうしたらまた訓練だ。手加減はしないからな」
男のまぶしい笑顔が、懐かしい見慣れた光景が、俺の思考を止める。
気づけば俺は、ジンの後を追って城へと向かっていた。
(ここは……どこだ? 俺は確か……)
朧な記憶を手繰り寄せる。
(確か……そうだ。巨大な蜈蚣が口から何かを吐き出したんだ。それで天井が崩れて……)
思い出せるのはそこまでだった。
暗闇の中を見渡す。仲間たちの姿はどこにもない。それどころか辺りの景色も一切見えない。更けた夜ですら月明かりで辺りは見渡せるというのに、目の前に広がるのは只管の暗闇だ。
槍を握っている方とは逆の手を前に伸ばしてみた。だが手に引っ掛かるものは何もない。横にも広げてみた。だがやはり、手に当たるものは一つもない。
(どこなんだここは……)
頭の中は混乱の最中にある。務めて冷静に努めようとした。しかしこの空間が、これまで経験したあらゆる場所に似通わぬことに気付き、体中に冷や汗が浮かんだ。
俺は歩き出した。少なくとも一直線に進み続ければ、いずれどこかにぶつかるだろうと信じて。だがどれだけ歩こうとも暗闇が晴れることはなく、気づけば歩調は速くなり、終いには走り出していた。
どれだけ走り続けただろうか。既に息は上がり足は鉛のように重い。走るのをやめてしまえば一息つくことはできる。だが足を止めたが最後、永遠にこの暗闇に取り残されてしまうかもしれないという思いがあった。俺は柄にもなく、共にいたはずの仲間の名を叫びながら暗闇の中を彷徨う。
「カイネル! シェイン! 兎! 誰もいないのか!?」
声は反響し耳に帰ってくる。しかしその呼びかけに答える声はない。
それからも俺は、散々叫び、散々走った。やがて体力が尽き足が止まる頃……不意に暗闇を晴らす眩い閃光が走った。
長時間暗闇の中にいたせいか、強烈な光は俺の眼を強く刺した。じんじんと目の奥が痛む。腕を翳し光を遮ろうともしたが、そうまでしても目を開けることは叶わない。
「何が起こっているんだ!?」
その言葉に呼応するかのように、光は急速に収束を開始した。
余りにも眩しかった光が弱まり、程よい明るさに代わる。そうしてから漸く目を開くと、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
胸が空くような青空。視線を下ろせば目の前には幾つもの墓標が並び、遠く彼方には見たことのある城が聳えている。鳥の囀りが聞こえる。子供らの元気な笑い声も微かに聞こえた。
「ここは……まさか……」
そこは、俺が長らく世話になっていた皇国の一角だった。
「ど……どういうことなんだ? 俺は皇国から遥か西にある迷宮にいたはず」
混乱する頭でも、今の状況が異常であることが容易にわかる。だがここに至った理由、経緯は何一つわからない。
何が起きたのかを必死に探ろうと辺りを見渡した。すると背後から懐かしい声が聞こえた。
「こんなところにいたのか、ライン」
その声に、俺は驚き振り向いた。そこには……
「そんな……ジン……?」
そこにはかつて死んだはずの師、ジン・ホムエルシンが立っていた。
俺はここが、夢か幻ではないかと疑った。
尤も新しい記憶との整合性が取れず、太陽の光が届かぬ地下から一転、眩い地上へと移り変わってしまったのだ。これだけでもおかしいというのに、加えて目の前に死んだはずの男が現れた。白髪交じりの茶色い髪。よく磨かれた純白の鎧。そして金色刺繍が施された真っ赤な外套。それは記憶の中にあるジンの姿と何ら違わない。
「どうした? まるで死んだ人間を見たような顔をして」
ジンは、狼狽える俺を見て笑いながら語り掛けてきた。
微笑むジンの顔は、確かにかつて見た師の物と同じだ。
「本当に……ジンなのか?」
「なんだ、寝ぼけているのか? よもや武術の師の顔を忘れたわけではあるまいに」
忘れるはずがない。物心つく頃には親もいなく、ジンが親代わりだったんだ。そんな人の顔を忘れるはずがない。
だがこんなことはあり得ない。あの事件でジンは確かに命を失ったはずなのだ。俺は確かにジンの死体を弔う場に立ち会った。それから数日、毎日彼の墓前に出向いていたのだ。
(まさか魔法による罠の類か?)
これまでの出来事を一切考慮しないこの光景に、俺はとても焦った。だがそんな俺の気持ちを知らぬ目の前の男は、優しく言葉をかけてくる。
「本当に大丈夫か? ぼうっとして……ああ、わかったぞ。もしや昼寝をしていないせいだな?」
男の手が、俺の肩に触れる。確かな感触。その仕草の細部に至るまで、記憶の中にいる師と寸分違わず同じものだ。
(本当に幻覚なのか? それとももしかして……これまでの出来事が全て……)
夢だったのかと思ってしまう程、その世界は現実味を帯びていた。頬を撫でる風も、遠くから聞こえる喧騒も、鼻孔をくすぐる新緑の香りも、あらゆるものが皇国の物と等しく五感を刺激する。
動揺しっぱなしの俺にジンは言う。
「さあ、城に戻って冷たいものでも飲もう。そうしたらまた訓練だ。手加減はしないからな」
男のまぶしい笑顔が、懐かしい見慣れた光景が、俺の思考を止める。
気づけば俺は、ジンの後を追って城へと向かっていた。
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