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試練
蜈蚣 4
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蜈蚣の傷口からはい出たラインハルトは、そのままずり落ちて地面に落ちた。凸凹に荒れた石床に強かに叩きつけられる。
「ぐっ……うっぷ……」
ところがラインハルトは、地面に衝突した激痛よりも、体に纏わりついた液体の悪臭に苦しんだ。
「ラインハルトさん!」
地に伏したままのラインハルトに駆け寄るカイネルも僅かに顔を顰める程の悪臭が漂う。その間蜈蚣はというと、立ち上がった状態から真後ろに倒れこみ体を痛打。更に裂傷の痛みに悶絶している。
「うっ……く! 今のうちに倒しきるぞ!」
近寄ってくる仲間に激を飛ばすラインハルト。一同は倒れ暴れる蜈蚣に群がった。
巨体な蜈蚣が暴れまわる所へ近づくのは危険極まりない。攻撃の意思がないから予測が難しく、一度体や足の下敷きになろうものなら、それだけで命は潰えてしまうだろう。だが窮地を脱したラインハルトにとって、それらを回避することは造作もないことだった。一番最初に不意を突かれる要員となった砕けた石床も、そうなっている、そうなるであろうと注意する今であればどうということはない。のたうち回る蜈蚣の動きを見切り、足元に最大の注意を配り、蜈蚣の足に程よく近寄るなりそれに槍を突き立てた。
『ギイイイ!!』
人の声にすれば悲鳴となるだろうか。それが足の痛みのせいなのか首の痛みのせいなのか、将又両方のせいなのかは定かではない。ただラインハルトが三つ目の突きを放ち足を断ち切った時、一際大きな声が部屋に響き渡った。
ラインハルトが足の切断に躍起になっている頃、矢が切れたカイネルは、シェインと共に魔法の行使に集中する。本流はシェインの魔法で、それをカイネルが補佐する形だ。これにより強化された魔法をもって、蜈蚣に大打撃を与えようとする。
「準備は良い?」
「はい。何時でも大丈夫です!」
掛け声とともに二人は魔法を使う。
「「完全氷結!!」」
放たれた魔法は強力な凍結魔法だ。周囲の温度が一気に氷点下を抜け、地面から何十という氷柱が付きあがる。氷柱は先端が鋭く尖っていて、強固なはずの蜈蚣の体を容易く貫いた。二人の魔法使いによって洗練された魔力の前に、物理的な固さは意味をなさない。貫かれた蜈蚣の体は一瞬で凍結し、幾つもの風穴があいた。
ラインハルトが足を十程切り落とす頃、漸く蜈蚣は動かなくなった。
皆体力は限界で、誰も彼も息が上がっている。魔法薬のおかげで大きな損傷はない物の、装備類はボロボロだ。特に暴れまわる蜈蚣の元で槍を振るっていたラインハルトの体力は限界で、槍を杖代わりに立っているのもやっとといった感じだ。
一同は暫く気を張ったまま蜈蚣の様子を伺っていたが、いくら待っても動かなかいことを確認すると休息をとる準備を始めた。
ラインハルトを気遣って駆け寄るカイネル。他、シェインと兎の力も借りて、一同は広間の隅まで移動する。
「ふぅ、全く酷い目にあった……」
ラインハルトは、とりあえず腕で顔についた液体を拭った。緑色で粘性のあるそれは彼にとって酷く気色の悪いもので、時間が経過し所々乾いていることもあって嫌悪感が凄まじい。それを浴びたまま長時間槍を振るったせいで、体力的以外にも精神的に参ってしまっている。
顔を何度か擦っていると、兎が乾いた布切れを差し出した。それからはその布を使って液体を拭いていく。
「無事でよかったです。僕、てっきりもう……」
「あんなことで死んでたまるか……と言いたいところだが、かなり際どいところだったな。咄嗟に飛び込んだおかげでひき肉ならずに済んだ」
カイネルも布切れでラインハルトの体についた液体を拭う。そうしていると兎が俯いた。
「出てくるのに時間がかかったから心配しました」
「何回も槍で突いてみたんだがな……外の硬さの割に中はぶよぶよで切れたもんじゃなかった。動き回っていたせいで何度も上下がひっくり返るし、足場も最悪だったから力も入らん。ただ……少しして肉壁の一部から光が見えたんだ」
それはシェインが行使した光の剣の放つ輝きだった。その眩い閃光が、偶然にも蜈蚣の内にいたラインハルトに肉壁の薄いところを教えたのだった。内にいたラインハルトは、その先行目掛けて渾身の力で槍を突き出す。そうして何とか、彼は蜈蚣の体外に出ることができたのだ。
「ラインハルトさん。これを」
兎は道具袋から残り少ない魔法薬を取り出し、ラインハルトに差し出す。
「ああ、助かる」
受け取ったラインハルトは、すぐに蓋を開けると中身を呷った。
一同は休息をとりつつ、今後について話し合う。
「この後はどうしましょう?」
兎の問い掛けにラインハルトが答える。
「また戻るのが賢明だろうな。魔法薬も残り少ないし、カイネルも矢が尽きている」
「前回の戦利品は今回の準備品に消えてしまってます。このまま戻っては次の準備資金が……」
シェインの言葉にはカイネルが答える。
「あの蜈蚣の素材を持っていけば足りませんか? 勿論全部は無理でしょうけど」
そして最後にパーティーの総意をラインハルトがまとめた。
「幾らになるか分からんが足しにはなるだろうな。……よし、では兎は荷物の整理と機関の準備を、他の物は蜈蚣の素材をはぎ取ろう」
皆それに頷き行動を開始する。だがカイネルが蜈蚣に向き合ったその時。
「あ、あの……今動きませんでしたか?」
カイネルが心配そうに蜈蚣を指さした。その声を受けシェインが蜈蚣に向かって杖を掲げる。
「……生命反応はないようですが……」
「息を吹き返すかもしれん。気をつけろ」
「ま、まさか……」
皆そう思っていた。しかしラインハルトが槍を構えた時、それまで身動きしなかった蜈蚣の体が震えだした。
「なんだ!?」
蜈蚣の眼が赤く光る。口が大きく開き、そこから煌々とした光が漏れ出した。
「なんかやばそうだ……カイネル! シェイン!」
ラインハルトは蜈蚣に止めを刺さんと走り出す。呼ばれたカイネルとシェインは再び二人で魔法を操る。
二人の魔法により蜈蚣の頭直下から石柱がせり上がった。かちあげられる蜈蚣の頭。それとほぼ同時に、巨大な口から恐ろしい量の魔力が溢れた。
「ぐっ……うっぷ……」
ところがラインハルトは、地面に衝突した激痛よりも、体に纏わりついた液体の悪臭に苦しんだ。
「ラインハルトさん!」
地に伏したままのラインハルトに駆け寄るカイネルも僅かに顔を顰める程の悪臭が漂う。その間蜈蚣はというと、立ち上がった状態から真後ろに倒れこみ体を痛打。更に裂傷の痛みに悶絶している。
「うっ……く! 今のうちに倒しきるぞ!」
近寄ってくる仲間に激を飛ばすラインハルト。一同は倒れ暴れる蜈蚣に群がった。
巨体な蜈蚣が暴れまわる所へ近づくのは危険極まりない。攻撃の意思がないから予測が難しく、一度体や足の下敷きになろうものなら、それだけで命は潰えてしまうだろう。だが窮地を脱したラインハルトにとって、それらを回避することは造作もないことだった。一番最初に不意を突かれる要員となった砕けた石床も、そうなっている、そうなるであろうと注意する今であればどうということはない。のたうち回る蜈蚣の動きを見切り、足元に最大の注意を配り、蜈蚣の足に程よく近寄るなりそれに槍を突き立てた。
『ギイイイ!!』
人の声にすれば悲鳴となるだろうか。それが足の痛みのせいなのか首の痛みのせいなのか、将又両方のせいなのかは定かではない。ただラインハルトが三つ目の突きを放ち足を断ち切った時、一際大きな声が部屋に響き渡った。
ラインハルトが足の切断に躍起になっている頃、矢が切れたカイネルは、シェインと共に魔法の行使に集中する。本流はシェインの魔法で、それをカイネルが補佐する形だ。これにより強化された魔法をもって、蜈蚣に大打撃を与えようとする。
「準備は良い?」
「はい。何時でも大丈夫です!」
掛け声とともに二人は魔法を使う。
「「完全氷結!!」」
放たれた魔法は強力な凍結魔法だ。周囲の温度が一気に氷点下を抜け、地面から何十という氷柱が付きあがる。氷柱は先端が鋭く尖っていて、強固なはずの蜈蚣の体を容易く貫いた。二人の魔法使いによって洗練された魔力の前に、物理的な固さは意味をなさない。貫かれた蜈蚣の体は一瞬で凍結し、幾つもの風穴があいた。
ラインハルトが足を十程切り落とす頃、漸く蜈蚣は動かなくなった。
皆体力は限界で、誰も彼も息が上がっている。魔法薬のおかげで大きな損傷はない物の、装備類はボロボロだ。特に暴れまわる蜈蚣の元で槍を振るっていたラインハルトの体力は限界で、槍を杖代わりに立っているのもやっとといった感じだ。
一同は暫く気を張ったまま蜈蚣の様子を伺っていたが、いくら待っても動かなかいことを確認すると休息をとる準備を始めた。
ラインハルトを気遣って駆け寄るカイネル。他、シェインと兎の力も借りて、一同は広間の隅まで移動する。
「ふぅ、全く酷い目にあった……」
ラインハルトは、とりあえず腕で顔についた液体を拭った。緑色で粘性のあるそれは彼にとって酷く気色の悪いもので、時間が経過し所々乾いていることもあって嫌悪感が凄まじい。それを浴びたまま長時間槍を振るったせいで、体力的以外にも精神的に参ってしまっている。
顔を何度か擦っていると、兎が乾いた布切れを差し出した。それからはその布を使って液体を拭いていく。
「無事でよかったです。僕、てっきりもう……」
「あんなことで死んでたまるか……と言いたいところだが、かなり際どいところだったな。咄嗟に飛び込んだおかげでひき肉ならずに済んだ」
カイネルも布切れでラインハルトの体についた液体を拭う。そうしていると兎が俯いた。
「出てくるのに時間がかかったから心配しました」
「何回も槍で突いてみたんだがな……外の硬さの割に中はぶよぶよで切れたもんじゃなかった。動き回っていたせいで何度も上下がひっくり返るし、足場も最悪だったから力も入らん。ただ……少しして肉壁の一部から光が見えたんだ」
それはシェインが行使した光の剣の放つ輝きだった。その眩い閃光が、偶然にも蜈蚣の内にいたラインハルトに肉壁の薄いところを教えたのだった。内にいたラインハルトは、その先行目掛けて渾身の力で槍を突き出す。そうして何とか、彼は蜈蚣の体外に出ることができたのだ。
「ラインハルトさん。これを」
兎は道具袋から残り少ない魔法薬を取り出し、ラインハルトに差し出す。
「ああ、助かる」
受け取ったラインハルトは、すぐに蓋を開けると中身を呷った。
一同は休息をとりつつ、今後について話し合う。
「この後はどうしましょう?」
兎の問い掛けにラインハルトが答える。
「また戻るのが賢明だろうな。魔法薬も残り少ないし、カイネルも矢が尽きている」
「前回の戦利品は今回の準備品に消えてしまってます。このまま戻っては次の準備資金が……」
シェインの言葉にはカイネルが答える。
「あの蜈蚣の素材を持っていけば足りませんか? 勿論全部は無理でしょうけど」
そして最後にパーティーの総意をラインハルトがまとめた。
「幾らになるか分からんが足しにはなるだろうな。……よし、では兎は荷物の整理と機関の準備を、他の物は蜈蚣の素材をはぎ取ろう」
皆それに頷き行動を開始する。だがカイネルが蜈蚣に向き合ったその時。
「あ、あの……今動きませんでしたか?」
カイネルが心配そうに蜈蚣を指さした。その声を受けシェインが蜈蚣に向かって杖を掲げる。
「……生命反応はないようですが……」
「息を吹き返すかもしれん。気をつけろ」
「ま、まさか……」
皆そう思っていた。しかしラインハルトが槍を構えた時、それまで身動きしなかった蜈蚣の体が震えだした。
「なんだ!?」
蜈蚣の眼が赤く光る。口が大きく開き、そこから煌々とした光が漏れ出した。
「なんかやばそうだ……カイネル! シェイン!」
ラインハルトは蜈蚣に止めを刺さんと走り出す。呼ばれたカイネルとシェインは再び二人で魔法を操る。
二人の魔法により蜈蚣の頭直下から石柱がせり上がった。かちあげられる蜈蚣の頭。それとほぼ同時に、巨大な口から恐ろしい量の魔力が溢れた。
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