探求の槍使い

菅原

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深奥

救世の魔法使い 1

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 薄れていた意識が覚醒していく。だけど辺りは真っ暗で、ここが何処なのかはわからない。
 私は手や足を折り曲げてみた。肩や腰も念入りに動かしてみたけど、何処か痛むようなことはなかった。
「ここは……どこかしら」
 記憶の最後は、石床が砕け仲間諸とも階下に飲み込まれるところまで。
 落ちてきたのは確実だろうからと、私は天井を見上げてみた。でもその先に明かりはなく、何処までも深い闇があるだけだ。
「……駄目ね。でもただ突っ立っているだけではいけないわ。なにか行動しないと」
 戦闘はさておき、それ以外の不足の事態に対して、魔法の有無は十二分に物を言う。火を操ることが出来れば明かりを灯すことが出来るし、水を操れば飲み水の確保も不可能ではない。そうした柔軟な対応が出来ることこそ、魔法使いに与えられた特権といえる。例えばこの状況。仲間が全員同じような場所にいると仮定した場合、明かりをつけるのだって私が一番簡単に、かつ早くこなすことが出来る。
「光よ――」
 私はごく簡単な光魔法を唱えた。
 掌から淡く輝く光球が現れ辺りを照らす。
 でもそれは、何時も使う時より遥かに弱い光だった。
「……あれ?」
 本来であればもっと強く輝く筈。
(もしかして魔法を遮る罠か何かが……)
 そう思って振り向いた私は、ぼんやりと浮かんだ光景に息を飲んだ。


 そこは何処かの部屋の一室のようだった。先ず目に入ったのは本やペンが散乱した机、次に本がぎっしり詰まった棚だ。そこから視線を横にずらせば外に続くであろう扉が一つ。窓のようなものは……見当たらなかった。
 不思議なことに……とても不思議なことに、私はこの部屋に見覚えがあった。
(ここは……まるで学園の……)
 そこで漸く、私はその部屋に誰かがいることに気がついた。
 私のいるところから机を挟んだ反対側に、一心不乱に机の上を注視している一人の少年がいた。
「あ、あの……」
 私は恐る恐る声をかけた。もしここが学園の中であれば、怯える理由なんて一つもなかったと思う。でもまだ迷宮の中にいる可能性が高い今、この少年が味方という可能性の方が低いまである。
(対応には細心の注意が必要ね)
 でも結局、その人から声は帰ってこなかった。
 彼はなおも机の上を凝視している。
 私は、聞こえなかったのかな、と思って、もう一度声をかけた。
「あの、すみません!」
 さっきよりも強くはっきりと。これで反応がなかったなら……なんて心配したのも束の間、少年は返事をする代わりに顔をあげて私を見た。
「……嘘……」
 私は驚愕した。その人に見覚えがあったのだ。黄色の髪に金色の瞳。昔、母に見せられた幼少時の父の肖像画と瓜二つ。若干……いや、かなりやつれてはいるけれど、確かにお父さんの子供の頃に似ていた。
 私を見た父に似た少年は、途端ものすごい表情を浮かべ後ずさった。
「ひっ」
 小さく悲鳴を漏らし、まるで恐ろしいものを見るかのようにおびえ始める。
「まって! 私、怪しい者じゃ……」
 すぐに弁明しようとした。でも父に似た少年は、私の言葉を無視して更に取り乱す。
「違う……違う……! 僕のせいじゃない……僕のせいじゃ!」
 悲痛な叫びと共に、父は机の上の物を払いのけると、そこらに散らばる本や器具を手当たり次第に投げつけてくる。
「きゃぁっ! ……えっ!?」
 私は思わず顔の前に手を翳した。でも不思議なことに、そのどれもが私の体をすり抜けていった。
(な、なによこれ!)
 もう訳が分からない。私の頭はもう飽和状態で、難しいことを考えることが出来ない。

 混乱しながらも父の状態が心配になった私は、咄嗟に一歩、足を前に進めた。すると父は私に怯えるように後ずさる。
「お、落ち着いて……」
 私は次に手を伸ばした。すると父は、突如足元にある棒状の物を拾い上げると、それを自身の眼に……
「これで! 何も見なくても済むんだ!」
 細く尖ったそれは簡単に父の眼を貫いた。水が一杯入った袋が破裂するかのように、鮮血が弾け飛ぶ。


 その血は私の視界を覆いつくした。私は目の前て起きた光景が信じられず、唯呆然と立ち尽くす。
(お父さんの眼が義眼なのは知ってた……でもそれは魔法学校に通ってた時に起きた不慮の事故って聞いてたのに……)
 今目の前で起きたことが現実かどうか、それは私にはわからない。でも流石に自傷によるものだとは露ほども考えはしなかった。
(私がラインハルトさんの旅についていくのを決めたのは、旅から戻った暁にあの義眼を貰えるって話があったからだけど……これが本当だったら受け取れないわね)
 お父さんは当時のことはあまり覚えていないと言っていた。気が付いたときにはもう目が無かった、だから気にするなって。
(一体、どれが真実なのかしら……)
 目の前にいる少年は、痛さに苦しむ、というよりは、何かから解放されたかのようにけたけたと笑っている。私はその姿が少し不気味に思えて、唯立ち尽くすことしかできなかった。
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