俗に言う転生ってやつですか?!

luna - ルーナ -

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第一章:第二王子の婚約者

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 前世、ママが何を思ったのか、袋に入った砂糖を温めて、砂糖が熱をもち、袋が溶けて、私の太腿に落ち火傷をして、すごく痛い思いした。その時、私はフッと思った。
 少しの火傷でもすごく痛いし、病院から渡された軟膏を塗っても治るのに時間が掛かった。もし、この軟膏が無かったどんな風に手当をしていたのか?
 手当てと言えば薬草。火傷を治すときの薬草をネットで調べた経験がある。
 この時は真逆まさか、こんな日が来るなんて夢にも思っていなかったけど。頭の隅っこにあるはずの記憶を思い出してみる。
 えーと……、確か。
「確か火傷に良い薬草が……… 紫根しこん当帰とうき、それから――胡麻油ごまゆ蜜蠟みつろう豚脂とんしだったはず、私の記憶では――その前にあるかしら」
「あるぞ」
「―――っ!! ひぃぃぃぃいいい」
 私の問いに答えが返ってくるとは露にも思っておらず、甲高い声が出た。
「わりぃ、驚かすつもりは無かっただが」
「レーヴェレンツ様、驚かないでください。口から心臓が飛び出すかと思いました」
「アハハ、悪かったて」
「――そんなことよりも、有るのですよね? 何処にあるのですか?」
「薬屋に行けば売っているが、結構高額になると思うが」
「やっぱり……値が張るのですね」
蜜蠟みつろう豚脂とんしはさすがに無理だが、後は俺が取りに行っても良い」
「それなら、私も行きます!」
「いや、……危ねぇから待っててな?」
「………解りました」
 駄々をこねるのは良くないと思い直して、ここは引き下がった。
 危険な場所に私の我が儘で一緒に同行しても足手纏いになるだけ。たまに、そういう女性キャラクターを目にするけど、「足手纏いなりません。自分の事は自分で身を守りますから」何とか言って、結局は足手纏いになる女性キャラいるじゃん? ああ言うキャラを見て腹がった。そのまま見捨てても良いじゃない? って思うけど、流石、ヒーロー。見捨てることはしないで助ける、助けるで、恋が芽生える。私は思う。初めから素直に聞いておけよと。足手纏いになっているじゃん。
「お願いします」
「おー、任せられた」
 と、レーヴェレンツ様は手を振って去っていた。
「さてと、――あとは、蜜蠟みつろう豚脂とんしよね。………薬屋に行ってみよう」
 教えられた通りに薬屋に行くと蜜蠟みつろう豚脂とんしがあった。
 両方は買えないけど、ひとつは買える値段。
「んー、やっぱり、ここは蜜蠟みつろうよね」
 今回は確認の為に来ただけだったので、一旦お店を出ることにした。
 そこで一番会いたくない人物に出会した。
 何で? こんな所にピンク頭がいるのよ。気分が最悪。
「ふふ、やっぱりお姉様は捨てられたのねぇ。こんな所で護衛も侍女も付けていないなんて、……捨てられたでしょう? 私には解るわ。クズでノロマなお姉様は何も役に立たないクズですから、ふふ」
「捨てられたりはしていないわ」
「強がらなくても良いのよ、優しいアンジェラがお父様に頼んで私の下僕しもべとして雇ってあげるわ」
「いいえ、結構です。ありがた迷惑ですわ」
「なんですって!!」
 手を挙げて、平手打ちされそうな勢いだったけど、ここが外だったことを思い出したのか、挙げていた手を下ろして、途中で止めた。
 おお、えらい。状況判断はできるらしい。
「ですから、迷惑って言っているのです」
 自分で優しいって言っている時点で終わっているよね、頭が。優しいかどうかは他人が決めることで、自分のことを優しいって言うひとに限って頭がどうかしている。

 カメロン伯爵家では使用人を多く雇えるほど財産は無く、少人数で切り盛りしていたし、そのほとんどを私が補っていたから粗が出てきただろなあ……。
 使用人として雇われているにも関わらず、口ばっかり動いていたからね。お喋りして、食べて、給料が貰えるのだから、給料泥棒もびっくりよ。
 今のカメロン伯爵家には新しく使用人を雇うことも出来ない、それなら私を連れ戻して只働きをさせようと魂胆こんたんなのが見え見え。

「ピンク頭に構っている暇はありませんので、さよなら」
「話は終わっていないわ」
「私は、あなたに話はありませんので」
「生意気よ! 呪われた王子に嫁いだからって……捨てられただったわね。可哀想に――」
「ニワトリの頭と一緒ですか? 捨てられていないと申しましたが? ニワトリより記憶力――」
 今度こそ、バッシーンと大きな音を立てて、アンジェラがステラの頬を叩いた。
 本気の力で叩いたのか、ステラの頬にはくっきりはっきりと紅葉饅頭もみじまんじゅうの痕がついていた。
 ハア、アハ、と荒くなった呼吸をアンジェラは整えると、ステラは更に追い討ちを掛ける。
「こんなところで、何を興奮しているのですか?」
「はあぁ? 誰が興奮しているですって」
「興奮じゃなくて発情期。なるほど。発情中のメスは凶暴になることもあると言いますし、それなら言ってくださいよ。毎日、発情中なんて大変ね、アンジェラは」
「あんたと話していると頭が痛くなるわ!」
「お互い様です」
 言いたい事を全て言い切ったのか、鼻息を荒くして異母妹アンジェラは、真っ赤な顔でステラの元を去った。
 何故か、王都の外でステラの異母妹のアンジェラが興奮して発情していたと噂がだった。
 ――私は、悪くない。
 王都という大都市であんなに騒いでいたら誰の目に止まるか解らないし、貴族の女性は暇を持て余しているから噂話も好き。
 ………うん、やっぱり私は悪くない。
 騒いだ異母妹アンジェラが悪いわね。
 邸宅の前で喚いてたアンジェラを、門番が騎士を呼び、そのまま何処かへと連行されたのを最後に姿を見なくなった。

  ✳︎ ✳︎

「何があった?」
 頬を赤く腫らして帰って来てステラ嬢。
異母妹アンジェラに会いまして、発情期だったようです」
「………は? 発情期?」
「発情期のメスは興奮して凶暴ね、近づいたらダメです。……私から近づいたわけでないのですが」
 発情期やら興奮やらは置いておくとして、用は癇癪かんしゃくを起こした異母妹に殴られたと。
 状況判断をした使用人が急いで厨房へ向かい、氷をタオルに包んで貰いに行き戻って来た。
「ステラお嬢様、お顔を冷やしてください! お綺麗な顔が腫れになってはいけません」
 氷タオルを受け取ったのはリュカで、ステラの頬に当たる。
「………気持ちいいです、リュカ殿下」
 ジンジンと痛んでいた頬にひんやりとした氷付きのタオルは熱がひく感じがして気持ちがいい。
 ステラは気持ち良さそうに頬を緩める。
 すぐそこにリュカの顔があって、ステラは内心ドキドキと心臓が鳴り響いていた。
 まつ毛が長い、きめ細かい肌で羨ましい、柔らかそうな唇、キスしたらどんな味がするのかなと、リュカをぼんやりと見つめながら考えていた。
「………きす、したいなあ」
 ほんと、無意識だった。
 いつも本音が漏れているけど、ステラは知らない。
「したいのか」
「へ?」
「キス」
 ステラの顔に一気に熱が集まり、茹蛸のように真っ赤に染まる。
 意味を理解するとステラはこくこくと頷いた。
 ――ちゅ、と唇に触れると暖かて、柔らかい。
 初めてのキスはレモンの味はしなかったけど、ステラは幸せな気持ちになった。
「もっと、ください!」
「………」
 ステラははにかむ笑顔で告げる。
 家臣達は、空気を読んでいつの間にか周りには誰も居なくなっていた。
「………腫れも引いた」
 背を向けて離れて行くリュカの耳は赤く染まっているのをステラは見逃さなかった。
 それから、数日後――。
 異母妹にとある噂が広まった。
 興奮して発情したアンジェラが暴れていたと。
 変な噂を流したのはお姉様ね、と異母妹が門で騒ぎを起こして、私兵に連れて行かれることになった。
 リュカは許すつもりは無かった。
 門で騒ぎ立て、暴言を吐き、暴力を振るったことで牢獄に連れて行く理由ができたから手間が省けると微笑んでいたことをステラは最後まで知ることはなかった。


♢♦︎♢

【 発情期 】
▷ 犬の発情期は年に2回と決まった周期がありますが、猫には周期が決まっておらず太陽光で発情期の周期がくるそうです。蛍光灯の光でも周期が来るので室内で飼う猫は、外の猫よりは周期が多くなるで注意が必要です。猫の為にも避妊手術を勧めます。
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