白花の咲く頃に

夕立

文字の大きさ
30 / 104
火の国《ハノーファ》編 死に至る病

3-9 光苔

しおりを挟む
(まさか、これがホルガーの言っていた光苔か?)

 それはほんの微かな光だった。
 本当に光苔なのかを確認する為ラスクをマントで包む。その中に自分ももぐり込み、暗闇の中でラスクを見てみると、先程より鮮やかに発光していた。
 ホルガーが探しているものかはともかく、ラスクに付いている粉が光苔であるのは間違いないようだ。

「ゼフィール何遊んでるの? 楽しいの? それ」

 マントの中から顔を出したゼフィールにユリアが尋ねる。傍から見ると遊んでいるように見えるようだ。 

「いや、ラスクに付いてる粉が気になって」
「ただの砂じゃないの?」
「暗い所で光ってたから光苔だと思うんだが……」
「ふーん。これ、光るんだ。ただの粉にしか見えないのに違うのね」

 ユリアがラスクの頭を小突くと、ラスクは身体を丸めて後転し、そのままコロコロ転がった。ラスクの転がる方向をユリアは指で誘導し、楽しそうに遊んでいる。

「ホルガーの話によると、高地で採れる光苔が、流行病の薬の原料みたいなんだよな」
「それって、コレのこと?」
「おそらく」

 なぜ自分が注目されているか分かっているのかいないのか、ラスクは首を傾げる。そこをユリアに小突かれ、再びコロコロ転がり始めた。

(この苔さえあれば、助かる人は多いんだろうな)

 無邪気に転がるラスクを眺めながら、思う。
 ホルガーはずっと光苔を探しているのに見つけられていないという。そのような希有な物を見つけられたのは、エミが導いてくれたのではないのかとさえ思える。

「なぁ、ラスク。お前、その苔のあった場所まで俺を連れて行ってくれないか?」

 なんともなしにゼフィールは呟いた。特に期待もしていなかったが、本当に、つい口に出た言葉だった。
 しかし、ラスクはその言葉に反応したかのように転がるのを止めると、ゼフィールの方を向いて大きな瞳をキョロキョロさせた。行きたいの? とでも言いたげに首を傾げると、部屋の入口扉へ走って行く。

(お前、言葉分かってるのか?)

 首を傾げたラスクそっくりにゼフィールも首を傾げた。
 ラスクが人の言葉を解しているのかは謎だが、まるで理解しているかのような行動を取ることがあるのも事実だ。やみくもに探すよりは、ラスクに賭けてみる方が分は良いように思える。

「リアン、カンテラ貸してくれ」
「うん? もしかして、君、出掛けるの? 今から?」
「光苔は珍しいらしいからな。できれば生えている場所を見つけてやりたい。暗所で光る苔だから、暗い方が見つけやすいだろう?」
「なんで君が探しに行くのさ?」
「今のところ、情報を持ってるのはラスクだけっぽいからな。もし、その苔から薬が完成して、村の病が治療できればエミが喜びそうだろう?」

 出掛ける準備をしながらリアンの問いに答える。
 夜になれば更に寒くなりそうなので、服を重ね着した。細剣を持って行くかは少し悩んだが、やめる。ラスクが行って帰ってこれる程度の場所なら危険も少ないだろうし、無駄に身重になりたくなかった。

 着込んだ服の上からマントをまとい準備を終える。光苔の場所さえ分かればいいので、こんなもので良いだろう。

「リアン、カンテラ」
「ちょっと待ってよ。僕も行くからさ」

 服を重ね着しながらリアンが答えた。もしや、と思ってユリアの方を見てみると、彼女も出掛ける用意をしている。ゼフィールとは違い、剣もきちんと持っている。ユリアが剣を握るのであれば、益々自分で剣を持つ必要はなさそうだ。

 ラスクがきちんと案内してくれるか怪しかったので、一人で行こうと思っていたのだが、二人ともついてきてくれるとはありがたい。

「お待たせ、ラスク」

 双子の用意もできたので扉を開けてやる。キュイーと叫びながら、ラスクは猛烈な勢いで駆けていった。同時に聞こえてくる驚いた声。
 何事かと見てみると、驚き顔のヨーナスがそこに佇んでいた。唖然としていた彼だが、三人を見て、驚いた顔から興味深々といった表情に変わる。

「おや、お出かけですか? しかもユリアさんは剣をお持ちなようで。もしかして危険な場所ですか? いや、皆まで言わずとも結構です。ちょっと待っていてもらえますか?」

 何やら納得した様子で頷いたヨーナスは自室に戻り、出掛け支度をして戻ってきた。

「なんで私がこんな恰好をしてきたんだって顔をしていますね。単純に面白そうだからと、お金の臭いがしたからですよ」

 彼がマントを少し開いて腰に吊るした剣を見せる。

「自分で言うのもなんですが、私も剣には多少の心得があるので。危ないことがあればお役に立てると思いますよ。私が襲う前にユリアさんに怪我されても嫌ですし。あ、純粋に私情で同行しますので、お代は結構ですのでご心配なく」

 ゼフィール達が否と言う間も無くヨーナスは同行を決めてしまった。ユリアが露骨に嫌な顔をしているので断ってもいいのだが、この調子では後ろをついてきそうだ。それなら、最初から共に行った方が目も届いていい。

「ついて来るのは構わないが、ユリアと仲良くしろよ」
「それはもう! 全力で仲良くさせてもらいますよ」
「私の半径三メートル以内に入ってきたら問答無用で叩き斬るから」
「そんな照れ隠ししなくても大丈夫ですよ。さぁ、私の胸に飛び――」

 お花畑な表情で腕を広げたヨーナスの首元にユリアの剣が当てられる。
 手を広げた格好で止まったヨーナスは、ゆっくり後ずさると、彼女からピッタリ三メートル離れた所で止まった。

「それじゃ、行きましょう」

 剣を鞘に仕舞いながら、ユリアはゼフィールとリアンに微笑んだ。



 ラスクは宿の入り口扉前で待っていた。扉を開けてやると外へ飛び出し、村が背負っている山目掛けて走り出す。その後ろをゼフィール達も追いかけた。

 もうじき日が暮れようとしているので、帰ってくる者はいても出掛けて行く者はいない。探索に行くにしても、軽装のゼフィール達が山へ行くと思う者はいないだろう。
 それはヨーナスにしても同様だったようで、ラスクの後を追うゼフィールに問いかけてきた。

「何も聞かずについてきたわけですが、どこに向かっているのです?」
「さぁ? どこに着くのか俺にも分からないな」
「はっはっはっ。また御冗談を」
「……」
「本当に行き先が分からないのですか?」

 誰も答えを返さなかったので彼も諦めたのだろう。それ以上問いを重ねはしなかった。代わりにぶつぶつと何かを小声で呟いている。

「まぁ、私としてはユリアさんと一緒にいれれば、その他なんてどうでもいいんですけどね」

 微かに聞こえた呟きはそんな内容だった。リアンの言ではないが、彼は本当にブレない。

「お前、ユリアのどこがそんなに気にいったんだ?」
「それは内緒です」

 前を行くユリアを目を細めて眺めながら、ヨーナスは不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...