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土の国《ブレーメン》編 命
5-5 君の行方
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◆
(まったく、どこに行ったんだろうねぇ)
銀髪の青年を探してカーラは首を巡らせた。目の前の萱藪をかき分け覗きこんでみるが見当たらない。
手の空いている者総出で彼を探し始めて一刻にもなる。狭い水場を探すには十分な時間だと思うのだが、未だに見つけたという報告は上がってこない。
目の前の大岩を見上げると肩を回した。自らに魔法を掛け、体重を限りなくゼロにする。そして、大岩の周囲に生える細木に手を掛けた。
本来のカーラの体重では折れてしまう枝だが、重量操作さえしてしまえば立派な足場になってくれる。
慎重に枝先まで行くと、大岩の窪み目掛けて飛んだ。
ぱっと見はつるつるしていてとっかかりの無い大岩だが、中腹を超えた辺りから窪みがあり、そこを足場にすれば上まで登れる。岩肌は見た目どおり滑るので危なくはあるのだが、少しばかり気を付ければいいだけの話だ。
捜索の途中でここに登ったのはほんの気まぐれだった。休憩がてら、高い所から様子を見てみようか、と、思いついたにすぎない。
なのに、登り着いた大岩の上には先客がいた。
転がっている彼の側であぐらをかき、正体を確認して溜め息をつく。
(そりゃあ、下をいくら探しても見つからないはずだよ)
膝に頬杖をつきながら銀髪の青年を見下ろす。
考えてみれば、彼は空を飛んで移動していたのだ。ここにいる可能性も早い段階から考慮すべきだった。けれど、普段誰も来ないせいで、すっかり捜索範囲から外れていた。
岩の上に寝転がっていれば下からは見えない。カーラがたまたま訪れていなければ、彼は見つからずじまいだっただろう。
なんとなく青年を見ていると彼の目が開いた。数度瞬いたかと思うと、視線をこちらに向けてくる。
「探しに来たのか?」
「起きてたのかい? ああ、いいよ、寝たままで。どうせ魔力切れできついんだろう?」
「よく分かるな」
「まぁね。あんた、ちょこちょこ魔法使ってた上に、あいつ等に聞いた話だと、でっかい魔法使ったみたいだったからさ。この国は魔力が薄いから、他の国と同じ感覚で魔法を使うと痛い目にあうんだよ。あたしも帰ってきたての頃は、よくぶっ倒れてたもんさ」
「そうか」
呟くと、青年はまた目を閉じた。捕まえた当初はあんなに毛を逆立てていたのに、今は警戒の欠片も感じられない。
不思議な青年だった。
身形は良いし、物腰も柔らかい事を考えるとそれなりの身分なのだろうが、平気でこんな所に転がっている。
それに、彼は、奴隷印を見ても住人を蔑まなかった。それどころか、親身に治癒を施したくらいだ。
国の中で最下層に所属している者にまで、わけ隔てなく接する人間は珍しい。
「あんた、名前は?」
彼が目を閉じていようが、構わずカーラは問いかける。どうせ起きているのだ。気を使う意味はない。
案の定、すんなり答えが返ってきた。
「ゼフィール」
「あたしはカーラってんだ。とりあえず、さっきはうちの連中を助けてくれたみたいで、ありがとな」
「気にしなくていい。ユリアが捕まらなければ、お前達が襲われることも無かっただろうから」
「そうれはどうだろうねー」
彼らを捕まえた崖の方に目を向ける。
「あんた達がいなくてもあの馬車は襲ってたし。ってなると、やっぱり兵には追われてただろうね」
「それなんだが、なんでお前達は誘拐なんてしてるんだ? 子供達が多かったから入用なのは分かるが、大人も多い。皆で働けば犯罪に走る必要は無さそうだが?」
「普通ならね。でも、ここの連中は逃亡奴隷ばっかだからね。奴隷印を見つかったらアウトな状況じゃ、満足に仕事なんてできないのさ」
「……野暮なことを聞いた。すまない」
すんなりと謝罪されて拍子抜けする。と同時に、益々ゼフィールのことが分からなくなった。
貴族かと思っていたが違うのかもしれない。彼は治癒魔法も使うし、着ている服は変わったデザインではあるが法衣に見える。と、なると、高位の司祭なのかもしれない。
普段から教会で民草の告解を受けているのなら、止むにやまれぬ事情への理解もあるだろうし、身分に対する偏見も少ないだろう。
そういう目で彼を見てみると随分しっくりくる。それでも、掴みどころのない人物には違いないのだが。
「ああ、そうそう」
彼が言い出した、掴みどころの無い事柄があったのを思い出した。
「あんたしばらくここに滞在するって言ってたじゃないか? 本気かい?」
「本気だ。俺がお前達と共にいる間は、恐らく向こうも手出ししてこない。その間に、どこかに行方をくらまして欲しい。そしたら俺達も帰る。お前達に罰を与えないよう口添えしてやれば、捜索される確率も下がるだろう。国も暇じゃないだろうしな」
「とんだお人好しだね、あんた」
お人好し過ぎて溜め息が出る。
どこの世界に、自分に危害を加えようとしていた者を助ける為に身を張る馬鹿がいるのだ。
やはり司祭。そんな思いだけが強くなる。
「でもさー、行方をくらますって中々に難しい話なんだよね。水があって、そこそこの地力がある土地に移らないとその後の生活が立ちゆかないし。まずは移住先を探さないとねぇ」
「土地か。そこまでは思い至らなかったな」
ゼフィールが気だるげに身を起こし、おっとりと宙を見つめた。彼はしばらくピクリとも動かなかったが、おもむろにマントを外す。腰に巻いていたサッシュも解き、そこに挿していた羽根を咥えた。
今度は何を始めたのかとカーラが様子を見ていると、彼は法衣まで脱ぎ出す。
「待ちなよ! こんな所で突然脱がれても心の準備が!」
さすがにそれは性急過ぎる。
カーラは慌てて止めるが、彼は脱ぐのを止めない。服の中から顔を出すと、ゼフィールは不思議そうに首を傾げた。
「なんで心の準備がいるんだ? 思ったよりここに長くいそうだから、生活費の足しにしてもらおうと思っただけなんだが。生憎と金銭は持ってなくてな」
彼は咥えた羽根をズボンに挟むと、脱いだ服をカーラに渡してきた。
流れでそれを受け取るが、全く見当違いな勘違いをしてしまった自分が恥ずかしい。
気恥ずかしさを誤魔化すために、少し意地の悪い突っ込みをする。
「気持ちはありがたいんだけどさ、服じゃね~。あんたの付けてるアクセサリの一つでもくれた方が、よっぽど金になりそうだけど?」
「悪いが、これは俺の所有物とは言い切れないから渡せない。それに、その服は《シレジア》でしか作られていない貴重品だぞ? 王侯貴族御用達の品だから、然るべきルートで流せば下手な貴金属より値が張ると思うんだけどな。盗品を捌くツテもあるんだろう?」
「マジで!?」
受け取ったばかりの服をマジマジと眺める。言われてみれば強い魔力を感じるし、仕立てもいい。けれど、服は服だ。貴金属以上のものがあるとは思いもしなかった。
それに、そんな高価な物をポンと差し出してくる彼の感覚が分からない。いくら高位とはいえ、司祭がそんな高級品を身に付けているというのも納得いかない。
やはり貴族。
かとも思うが、それにしては行動が貴族的でなさ過ぎて疑問が浮かぶ。
(かー、結局何者なんだよ、こいつ。アホみたいなお人好しっていうのは間違いないんだろうけどさ)
髪に指を突っ込み、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。
そんなカーラの疑問もいざ知らず、シャツにズボンというスッキリとした格好になったゼフィールは、のほほんと話を投げかけてきた。
「ところで、さっき、帰って来たての頃、と、言ってたじゃないか。ずっとこの国にいたんじゃないのか?」
「ん? 違うよ。確かに小さい頃はこの国にいたけど、ここ仕事無いからねー。《ライプツィヒ》の闘技場で一稼ぎしてたんだよ。ただ、なーんとなく帰って来たくなっちゃってさ。腐っても故国ってやつかねぇ」
「帰りたくなった理由は無いのか?」
「無いよ。あっちでの生活の方が楽しかったのに、なんで帰ってきちまったのかねぇ。あたしにも分かんないよ」
不思議そうな顔のゼフィールに、カーラは手をヒラヒラさせた。
事実、なぜ《ブレーメン》に帰ってきたのかカーラ自身にも分からない。《ライプツィヒ》での生活はこちらと比べれば天国だっただけあって、今でもこの国に留まっているのが不思議なくらいだ。
重量操作の魔法と剣の腕だけを頼りに、カーラは《ライプツィヒ》の剣闘士になった。重量操作というのは実に便利な魔法で、相手に打ち込む時に剣の重量を重くしてやれば、どんな力持ちでも受け切れず地に足を付く。
最初の頃こそ、重量操作のタイミングが悪かったり剣技の未熟さで負けることもあったけれど、年数を重ねてからの負けは無い。
勝利して得た金で好きな物を食べ、買い、好きな男と寝る生活は退廃的ではあったけれど、性分に合っていた。
だったというのに、二五を超えた頃に、ふと故国が気になったのだ。
気になったらとりあえず行動ということで、国に戻った。そこで見たのは、以前より酷くなった国の乾きと、奴隷達の扱われ方。
この状態を是とする国への憤りと奴隷達への憐れみを感じ、逃亡奴隷を保護して安住の地を探した。そして、ようやく落ち着いたのがここだった。
「カーラ、見つけた。飯。そいつの分も用意しておいた。連れて来い」
下の方から声が聞こえた。岩の下を覗きこんでみると少女がこちらを見上げている。カーラは軽く手を上げて返事した。
「およ、もうそんな時間か。分かった、すぐ行くー」
立ち上がると自らの重量を限りなく減らす。重量さえ減らしてしまえば、高い所から飛び降りてもほとんどダメージが入らないのは実に便利でいい。
「飯だってさ。ほら、あんたの分もあるから一緒に来な」
ゼフィールに振り向きながら声をかける。彼は飛べるので降り方を気にしてやる必要はないだろう。
だから、それだけ言ってさっさと先に飛び降りようとした、のだが、呼び止められた。
「ん。ああ……。カーラ」
「なんだい?」
足を止め、振り返るとゼフィールが少しだけ真面目な顔をしている。
「この国に帰って来てから、身の回りに蛇が多かったりとかしないか?」
「蛇?」
カーラは首をぐるりと回し、周囲を見渡す。
「そんなのそこら辺にいるけど? なんてったって、ここ、地元民には"蛇沼"って呼ばれてるくらいだし」
それだけ言うと大岩から飛び降りた。
ゼフィールも黙ってついてくる。
質問に答えてやったのに、彼はその続きを何も話してこない。ただ、難しそうな顔をして何かを考えている。
あの調子だと、質問した理由を教えてくれたりはしないのだろう。
(やっぱり金持ちの考える事はわかんないね)
分からない奴だということは分かった。この珍客を理解するのは中々に難しそうだ。
(まったく、どこに行ったんだろうねぇ)
銀髪の青年を探してカーラは首を巡らせた。目の前の萱藪をかき分け覗きこんでみるが見当たらない。
手の空いている者総出で彼を探し始めて一刻にもなる。狭い水場を探すには十分な時間だと思うのだが、未だに見つけたという報告は上がってこない。
目の前の大岩を見上げると肩を回した。自らに魔法を掛け、体重を限りなくゼロにする。そして、大岩の周囲に生える細木に手を掛けた。
本来のカーラの体重では折れてしまう枝だが、重量操作さえしてしまえば立派な足場になってくれる。
慎重に枝先まで行くと、大岩の窪み目掛けて飛んだ。
ぱっと見はつるつるしていてとっかかりの無い大岩だが、中腹を超えた辺りから窪みがあり、そこを足場にすれば上まで登れる。岩肌は見た目どおり滑るので危なくはあるのだが、少しばかり気を付ければいいだけの話だ。
捜索の途中でここに登ったのはほんの気まぐれだった。休憩がてら、高い所から様子を見てみようか、と、思いついたにすぎない。
なのに、登り着いた大岩の上には先客がいた。
転がっている彼の側であぐらをかき、正体を確認して溜め息をつく。
(そりゃあ、下をいくら探しても見つからないはずだよ)
膝に頬杖をつきながら銀髪の青年を見下ろす。
考えてみれば、彼は空を飛んで移動していたのだ。ここにいる可能性も早い段階から考慮すべきだった。けれど、普段誰も来ないせいで、すっかり捜索範囲から外れていた。
岩の上に寝転がっていれば下からは見えない。カーラがたまたま訪れていなければ、彼は見つからずじまいだっただろう。
なんとなく青年を見ていると彼の目が開いた。数度瞬いたかと思うと、視線をこちらに向けてくる。
「探しに来たのか?」
「起きてたのかい? ああ、いいよ、寝たままで。どうせ魔力切れできついんだろう?」
「よく分かるな」
「まぁね。あんた、ちょこちょこ魔法使ってた上に、あいつ等に聞いた話だと、でっかい魔法使ったみたいだったからさ。この国は魔力が薄いから、他の国と同じ感覚で魔法を使うと痛い目にあうんだよ。あたしも帰ってきたての頃は、よくぶっ倒れてたもんさ」
「そうか」
呟くと、青年はまた目を閉じた。捕まえた当初はあんなに毛を逆立てていたのに、今は警戒の欠片も感じられない。
不思議な青年だった。
身形は良いし、物腰も柔らかい事を考えるとそれなりの身分なのだろうが、平気でこんな所に転がっている。
それに、彼は、奴隷印を見ても住人を蔑まなかった。それどころか、親身に治癒を施したくらいだ。
国の中で最下層に所属している者にまで、わけ隔てなく接する人間は珍しい。
「あんた、名前は?」
彼が目を閉じていようが、構わずカーラは問いかける。どうせ起きているのだ。気を使う意味はない。
案の定、すんなり答えが返ってきた。
「ゼフィール」
「あたしはカーラってんだ。とりあえず、さっきはうちの連中を助けてくれたみたいで、ありがとな」
「気にしなくていい。ユリアが捕まらなければ、お前達が襲われることも無かっただろうから」
「そうれはどうだろうねー」
彼らを捕まえた崖の方に目を向ける。
「あんた達がいなくてもあの馬車は襲ってたし。ってなると、やっぱり兵には追われてただろうね」
「それなんだが、なんでお前達は誘拐なんてしてるんだ? 子供達が多かったから入用なのは分かるが、大人も多い。皆で働けば犯罪に走る必要は無さそうだが?」
「普通ならね。でも、ここの連中は逃亡奴隷ばっかだからね。奴隷印を見つかったらアウトな状況じゃ、満足に仕事なんてできないのさ」
「……野暮なことを聞いた。すまない」
すんなりと謝罪されて拍子抜けする。と同時に、益々ゼフィールのことが分からなくなった。
貴族かと思っていたが違うのかもしれない。彼は治癒魔法も使うし、着ている服は変わったデザインではあるが法衣に見える。と、なると、高位の司祭なのかもしれない。
普段から教会で民草の告解を受けているのなら、止むにやまれぬ事情への理解もあるだろうし、身分に対する偏見も少ないだろう。
そういう目で彼を見てみると随分しっくりくる。それでも、掴みどころのない人物には違いないのだが。
「ああ、そうそう」
彼が言い出した、掴みどころの無い事柄があったのを思い出した。
「あんたしばらくここに滞在するって言ってたじゃないか? 本気かい?」
「本気だ。俺がお前達と共にいる間は、恐らく向こうも手出ししてこない。その間に、どこかに行方をくらまして欲しい。そしたら俺達も帰る。お前達に罰を与えないよう口添えしてやれば、捜索される確率も下がるだろう。国も暇じゃないだろうしな」
「とんだお人好しだね、あんた」
お人好し過ぎて溜め息が出る。
どこの世界に、自分に危害を加えようとしていた者を助ける為に身を張る馬鹿がいるのだ。
やはり司祭。そんな思いだけが強くなる。
「でもさー、行方をくらますって中々に難しい話なんだよね。水があって、そこそこの地力がある土地に移らないとその後の生活が立ちゆかないし。まずは移住先を探さないとねぇ」
「土地か。そこまでは思い至らなかったな」
ゼフィールが気だるげに身を起こし、おっとりと宙を見つめた。彼はしばらくピクリとも動かなかったが、おもむろにマントを外す。腰に巻いていたサッシュも解き、そこに挿していた羽根を咥えた。
今度は何を始めたのかとカーラが様子を見ていると、彼は法衣まで脱ぎ出す。
「待ちなよ! こんな所で突然脱がれても心の準備が!」
さすがにそれは性急過ぎる。
カーラは慌てて止めるが、彼は脱ぐのを止めない。服の中から顔を出すと、ゼフィールは不思議そうに首を傾げた。
「なんで心の準備がいるんだ? 思ったよりここに長くいそうだから、生活費の足しにしてもらおうと思っただけなんだが。生憎と金銭は持ってなくてな」
彼は咥えた羽根をズボンに挟むと、脱いだ服をカーラに渡してきた。
流れでそれを受け取るが、全く見当違いな勘違いをしてしまった自分が恥ずかしい。
気恥ずかしさを誤魔化すために、少し意地の悪い突っ込みをする。
「気持ちはありがたいんだけどさ、服じゃね~。あんたの付けてるアクセサリの一つでもくれた方が、よっぽど金になりそうだけど?」
「悪いが、これは俺の所有物とは言い切れないから渡せない。それに、その服は《シレジア》でしか作られていない貴重品だぞ? 王侯貴族御用達の品だから、然るべきルートで流せば下手な貴金属より値が張ると思うんだけどな。盗品を捌くツテもあるんだろう?」
「マジで!?」
受け取ったばかりの服をマジマジと眺める。言われてみれば強い魔力を感じるし、仕立てもいい。けれど、服は服だ。貴金属以上のものがあるとは思いもしなかった。
それに、そんな高価な物をポンと差し出してくる彼の感覚が分からない。いくら高位とはいえ、司祭がそんな高級品を身に付けているというのも納得いかない。
やはり貴族。
かとも思うが、それにしては行動が貴族的でなさ過ぎて疑問が浮かぶ。
(かー、結局何者なんだよ、こいつ。アホみたいなお人好しっていうのは間違いないんだろうけどさ)
髪に指を突っ込み、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。
そんなカーラの疑問もいざ知らず、シャツにズボンというスッキリとした格好になったゼフィールは、のほほんと話を投げかけてきた。
「ところで、さっき、帰って来たての頃、と、言ってたじゃないか。ずっとこの国にいたんじゃないのか?」
「ん? 違うよ。確かに小さい頃はこの国にいたけど、ここ仕事無いからねー。《ライプツィヒ》の闘技場で一稼ぎしてたんだよ。ただ、なーんとなく帰って来たくなっちゃってさ。腐っても故国ってやつかねぇ」
「帰りたくなった理由は無いのか?」
「無いよ。あっちでの生活の方が楽しかったのに、なんで帰ってきちまったのかねぇ。あたしにも分かんないよ」
不思議そうな顔のゼフィールに、カーラは手をヒラヒラさせた。
事実、なぜ《ブレーメン》に帰ってきたのかカーラ自身にも分からない。《ライプツィヒ》での生活はこちらと比べれば天国だっただけあって、今でもこの国に留まっているのが不思議なくらいだ。
重量操作の魔法と剣の腕だけを頼りに、カーラは《ライプツィヒ》の剣闘士になった。重量操作というのは実に便利な魔法で、相手に打ち込む時に剣の重量を重くしてやれば、どんな力持ちでも受け切れず地に足を付く。
最初の頃こそ、重量操作のタイミングが悪かったり剣技の未熟さで負けることもあったけれど、年数を重ねてからの負けは無い。
勝利して得た金で好きな物を食べ、買い、好きな男と寝る生活は退廃的ではあったけれど、性分に合っていた。
だったというのに、二五を超えた頃に、ふと故国が気になったのだ。
気になったらとりあえず行動ということで、国に戻った。そこで見たのは、以前より酷くなった国の乾きと、奴隷達の扱われ方。
この状態を是とする国への憤りと奴隷達への憐れみを感じ、逃亡奴隷を保護して安住の地を探した。そして、ようやく落ち着いたのがここだった。
「カーラ、見つけた。飯。そいつの分も用意しておいた。連れて来い」
下の方から声が聞こえた。岩の下を覗きこんでみると少女がこちらを見上げている。カーラは軽く手を上げて返事した。
「およ、もうそんな時間か。分かった、すぐ行くー」
立ち上がると自らの重量を限りなく減らす。重量さえ減らしてしまえば、高い所から飛び降りてもほとんどダメージが入らないのは実に便利でいい。
「飯だってさ。ほら、あんたの分もあるから一緒に来な」
ゼフィールに振り向きながら声をかける。彼は飛べるので降り方を気にしてやる必要はないだろう。
だから、それだけ言ってさっさと先に飛び降りようとした、のだが、呼び止められた。
「ん。ああ……。カーラ」
「なんだい?」
足を止め、振り返るとゼフィールが少しだけ真面目な顔をしている。
「この国に帰って来てから、身の回りに蛇が多かったりとかしないか?」
「蛇?」
カーラは首をぐるりと回し、周囲を見渡す。
「そんなのそこら辺にいるけど? なんてったって、ここ、地元民には"蛇沼"って呼ばれてるくらいだし」
それだけ言うと大岩から飛び降りた。
ゼフィールも黙ってついてくる。
質問に答えてやったのに、彼はその続きを何も話してこない。ただ、難しそうな顔をして何かを考えている。
あの調子だと、質問した理由を教えてくれたりはしないのだろう。
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