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土の国《ブレーメン》編 命
5-14 死の司祭 前編
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「なーにが、女子二人に危険な事をさせるのは忍びない、だよ。あんたが心配なのはユリアだけだろ?」
「ひがむな。俺はお前も心配だぞ? あ、ほら。追いついたな」
ゼフィール達の前方にフラフラと歩く五人が見えた。男達の向かう先に一人たたずむツェツィーリエの姿も。
男達の歩みは遅い。進行方向にいても、彼等の進路から避ける余裕はたっぷりある。問題は、彼女がこちらに背を向けているということだ。
「おい、ツェツィーリエ! そこから離れろ!」
気付いてくれるよう祈りながらゼフィールは叫ぶ。
声が届いたのだろう。
ツェツィーリエが振り返った。しかし、彼女は異常に気付かないのか、その場から動かない。咥えていた小さな何かを口から放し、とても嬉しそうに顔を綻ばせただけだ。
ゼフィールは舌打ちすると、男達を追い越しツェツィーリエの腕を引いた。
彼女がいくら手錬で、男達が異常に見えても、共に暮らしている相手に手は出しにくいだろう、と、思えたからだ。
ひとまず彼女を男達の進路上から動かし、彼等の出方を見る。
男達の様子は先程までと変わっていた。まるで行き先を見失ったかのように、その場でウロウロしている。
男達に何があったのかと様子を伺っていると、ツェツィーリエがゼフィールの腕を胸に抱き、しなだれてきた。
ぎょっとして彼女を見ると、すぐ目の前に彼女の顔がある。
「場を少しなりとも乱せればいいと思って動かした駒だったのに、まさか貴方を引っ張り出してくるだなんて。世の中何が幸いするか分かりませんね」
「何を言っているんだ? 離れろ!」
彼女を振りほどこうとしたが、すぐ近くに男達がいる。仕方なしにツェツィーリエを連れたまま後ろへ退がった。安全な距離まで離れると、今度こそ彼女を引き剥がす。そして、カーラに押し付けた。
そんな扱いをされているのに、ツェツィーリエは熱い視線をゼフィールに向け続けている。
カーラが溜め息をついた。
「あんたさぁ、こいつは無理だって。他の男で我慢しときなよ」
「私、これまで欲しいと思って落とせなかった男はいないんです。捕獲任務で捕えられなかった者も。だというのに、彼だけは私の手をすり抜ける。そうなると、ますます欲しくなるじゃないですか。気高い"憂いの君"が私に屈服する瞬間。考えるだけで興奮が止まりません」
「……待て。なぜお前がその名を知っている?」
ゼフィールはツェツィーリエへの視線を厳しくした。
"憂いの君"などという馬鹿げた呼び名は、《ドレスデン》の舞踏会の際、姫君達の間で呼ばれていたあだ名だったはずだ。何のつながりもない《ブレーメン》の元娼婦が知っているものではない。
ツェツィーリエは残念そうにカーラから離れると、一本の木に身体を預けた。そのまま、愛しそうに右手で幹を撫でる。そして、身体を離した時、左手には一本の錫杖が握られていた。
「私にこれを握らせるだなんて、貴方が悪いんですよ? 自発的にここから出てきてくださるよう諍いまで起こさせたのに、貴方が思いどおりに動いてくださらないから」
彼女が左手を一振りすると、金属の打ち合う音がシャンと流れる。
どこかで聞いた音だった。それも、そんなに昔ではない。
(いつだ? 確か、この国に来てすぐの頃に聞いた気が――)
記憶がつながると、ゼフィールはツェツィーリエとの距離を広げた。
「その音……。お前、俺を追いかけてきた黒法衣か!」
失態だった。
無意識には気付いていたはずなのだ。どこかで聞いた声だったので、知り合いなのかと思った。しかし、否定された後、それ以上考えなかったのは完全に自分の落ち度だ。
「つい失言してしまいましたし、今更隠す必要もありませんね。私は死の司祭ツェツィーリエ。ヨハン様の命により貴方様をお迎えにあがりました。お戯れはもう十分でしょう? この地を浄化後、どうか私めと共に城へお戻りください。ゼフィール・エンベリー王太子殿下」
ツェツィーリエが優雅に礼をする。しかし、その仕草はどことなく不遜だ。彼女にとって絶対の主はヨハンのみで、ゼフィールなど、聞き分けの悪い客人程度にしか思っていないのだろう。
「王太子って、あんた……」
カーラが目を丸くしてこちらを見ている。けれど、その視線はすぐにツェツィーリエの方へ向かった。
「そんな事はまぁいいや。それよりも、ツェツィーリエ! あんた街で男達から追われてたけど、あれもお芝居だったってのかい!?」
「はい。殿下に近付くには、逃亡奴隷を装ってあなた方に紛れこむのが一番かと思いましたから。中々上手かったでしょう?」
「くそっ!」
忌々しそうにカーラが砂を蹴りあげた。そのまま腰に下げた剣を抜き、ツェツィーリエと間合いを取る。視線は彼女から外さぬままゼフィールに近寄り、苦々しく吐き出した。
「ったく、とんでもない奴が出てきたもんだね。死の司祭って、かなりヤバイんだけど」
「知ってるのか?」
「噂程度だけどね。与えられた任務は確実にこなす国のエリート集団らしいよ。子守から暗殺まで何でもござれってね。ただ、奴らに目を付けられたら最後、逃げられた奴はいないって話。狩られた逃亡奴隷の隠れ里の数は両手でも足りないらしいしね」
カーラの言葉が聞こえたのか、ツェツィーリエの笑みの邪悪さが増した。彼女は微笑んだまま、首から下げた子笛を口に咥える。
音は聞こえない。
しかし、それまでオロオロするのみだった男達が彼女の前へ集まりだした。
(そういえば、さっきもあの笛を咥えていたな。男達の動きがおかしくなったのは笛を放した後だ。あの笛で男達を操っているのか?)
その読みは正しい気がする。
ならば、笛さえどうにかしてしまえば事態を有利に持って行けそうにも見えるが、その為にはゼフィール達とツェツィーリエの間で壁になっている男達が邪魔だ。
仲間のはずの彼らを操られてカーラの悔しさもひとしおなのだろう。その表情は非常に厳しい。
「あんたにそいつらが操られてるように見えるんだけどね。なんだい? そいつらがおかしくなっちまったのも、あんたのせいだったりするのかい?」
「そうですよ。誰彼かまわず手を出すからこうなるんです。特に、彼。孕ませた相手は臨月で大変なのに、自分は他の女とお楽しみだなんて、屑にも程がありますよね」
「!?」
行われた凶行にゼフィールは息を飲んだ。
目の前に立つ男をツェツィーリエが無表情に錫杖で刺したのだ。仕込杖になっていたようで、柄の部分から刃が覗き、それが男を刺し貫いている。刃が飛び出しているのは心臓の位置だ。
恐らく即死だろう。そうなってしまっては治癒魔法に効果は無い。
手癖が悪いからといって殺害されるのでは、罪と罰の重さが釣り合わなさすぎる。
「そんなお顔をなさらないで下さい。彼にはもう痛みなんて無いのですから、辛くはないのですよ?」
「何?」
彼女の言っている意味が分からず眉間に皺が寄る。
ツェツィーリエは再び笑みを浮かべると、錫杖をゆっくりと引き抜いた。
心臓を傷付ければ大量の血が吹き出る。
それを予想してゼフィールは男から距離をとったが、赤い噴水は一向に吹きあがらない。それどころか、傷口から垂れたのはわずかばかりの血のみだ。
ありえないことだった。もう一つあり得ないのは刺された男の態度。剣を抜き差しされているのに、彼の表情は一切動かず、焦点の定まらぬ目で虚空を見つめ続けている。
傷付いても血が噴き出さず、痛みも感じないなど、それでは死体と同じだ。
「元々死んでいる……のか?」
「ええ」
「いやいや、待ちなよ! こいつらはちょっと前までは普通だった! あたしが保証する。それに、こいつらが暴れ出すまでに暴力沙汰は起きてないよ! ツェツィーリエ、あんたも部屋にいなかったし、殺しようがないだろ?」
「私はいませんでしたが、この子はいたでしょう?」
ツェツィーリエの首に巻きつく蛇がゼフィール達の方へ顔を向け、舌をチロチロと出した。蛇を優しく撫でながら彼女は男達を蔑んだ目で眺める。
「コトの最中に、この人達にはこの子の毒を飲ませておいたんです。体内に入るのが一度目なら少し気分が悪くなる程度の弱い毒なんですよ? でも、二度目になると――例えばこの子に噛まれたりすると、あっという間に亡くなってしまうんです。愚か者達にはおあつらえ向きな死に方だと思いませんか?」
「冗談はよしとくれよ。第一、死んじまったら動けないだろ?」
カーラは全く信じていないのか大仰に肩を竦めている。
だが、ゼフィールにはツェツィーリエの言葉が嘘だとは思えない。現に彼等は動いているのだ。死体を動かす方法を膨大な知識の中から漁る。
案の定、それは存在していた。
「――死霊魔法……」
見つけた答えを呟く。ツェツィーリエの笑みが妖艶なものになった。
「お前は以前兵も殺していたな。仲間であるはずの兵を殺したのは、まさか……」
ゼフィールは周辺を見回し、とんでもない事に気付いた。
「ふふ。聡いお方でいらっしゃる。しかし、まさか死霊魔法までご存知とは予想外でした」
ツェツィーリエが呪文の詠唱を始め、錫杖を地面に突き立てる。しばしの静寂の後、微かな地鳴りが響いた。
「カーラ、気を付けろ! ここは兵達を埋葬した場所――」
警告を発するが既に遅い。ツェツィーリエを中心として砂地が不規則な隆起を起こし、中から手が、次いで頭が、胴が、足が出てくる。腐敗した死体達がゼフィール達の周囲にも現れ、あっという間に死者の軍団を作りだした。
死者を操り死をばら撒く女。その所業は、まさしく死の司祭と呼ぶにふさわしい。
「おいおい。こいつらもう死んでるんだろ? どうやって止めりゃいいんだよ!?」
気味悪がったカーラが手近な死体に剣を突き刺すが、当然効果は見られない。剣を引き抜きがてら蹴り飛ばしても、何事も無かったように起き上がってくる。
痛みも死も持たぬ軍団。
対抗手段を持たぬ者に対しては圧倒的な強さを誇るのであろう。そう、対抗手段を持たぬ者には。
「カーラ。あの五人、遺体を残せないが許せよ。少し無防備になる。守ってくれ」
「は? え?」
ゼフィールは軽く空を仰ぎ瞳を閉じた。周辺への警戒も切り捨て魔力を紡ぐ事に集中する。
無防備もいいところだが、カーラを信頼するしかない。
朗々と祝詞を読み上げる。言葉が連なるにつれ場の空気が浄化されていき、厳かな空間となっていく。それが終わるとゼフィールはそっと目を開き、静かに死体達を見つめた。
「哀れな亡者達よ、眠れ。今度こそ、汝らに永久の眠りの与えられんことを」
空から光の矢が降り注ぎ死体を貫いた。光に触れた部分から身体が塵となり霧散していく。最後には、彼らの身に付けていた衣服だけでなく、髪の毛の一本さえ残すことなく塵となり、消えた。
そこには、もう、何も無い。
彼らの生きてきた証は何一つ残らず消え去った。
「ひがむな。俺はお前も心配だぞ? あ、ほら。追いついたな」
ゼフィール達の前方にフラフラと歩く五人が見えた。男達の向かう先に一人たたずむツェツィーリエの姿も。
男達の歩みは遅い。進行方向にいても、彼等の進路から避ける余裕はたっぷりある。問題は、彼女がこちらに背を向けているということだ。
「おい、ツェツィーリエ! そこから離れろ!」
気付いてくれるよう祈りながらゼフィールは叫ぶ。
声が届いたのだろう。
ツェツィーリエが振り返った。しかし、彼女は異常に気付かないのか、その場から動かない。咥えていた小さな何かを口から放し、とても嬉しそうに顔を綻ばせただけだ。
ゼフィールは舌打ちすると、男達を追い越しツェツィーリエの腕を引いた。
彼女がいくら手錬で、男達が異常に見えても、共に暮らしている相手に手は出しにくいだろう、と、思えたからだ。
ひとまず彼女を男達の進路上から動かし、彼等の出方を見る。
男達の様子は先程までと変わっていた。まるで行き先を見失ったかのように、その場でウロウロしている。
男達に何があったのかと様子を伺っていると、ツェツィーリエがゼフィールの腕を胸に抱き、しなだれてきた。
ぎょっとして彼女を見ると、すぐ目の前に彼女の顔がある。
「場を少しなりとも乱せればいいと思って動かした駒だったのに、まさか貴方を引っ張り出してくるだなんて。世の中何が幸いするか分かりませんね」
「何を言っているんだ? 離れろ!」
彼女を振りほどこうとしたが、すぐ近くに男達がいる。仕方なしにツェツィーリエを連れたまま後ろへ退がった。安全な距離まで離れると、今度こそ彼女を引き剥がす。そして、カーラに押し付けた。
そんな扱いをされているのに、ツェツィーリエは熱い視線をゼフィールに向け続けている。
カーラが溜め息をついた。
「あんたさぁ、こいつは無理だって。他の男で我慢しときなよ」
「私、これまで欲しいと思って落とせなかった男はいないんです。捕獲任務で捕えられなかった者も。だというのに、彼だけは私の手をすり抜ける。そうなると、ますます欲しくなるじゃないですか。気高い"憂いの君"が私に屈服する瞬間。考えるだけで興奮が止まりません」
「……待て。なぜお前がその名を知っている?」
ゼフィールはツェツィーリエへの視線を厳しくした。
"憂いの君"などという馬鹿げた呼び名は、《ドレスデン》の舞踏会の際、姫君達の間で呼ばれていたあだ名だったはずだ。何のつながりもない《ブレーメン》の元娼婦が知っているものではない。
ツェツィーリエは残念そうにカーラから離れると、一本の木に身体を預けた。そのまま、愛しそうに右手で幹を撫でる。そして、身体を離した時、左手には一本の錫杖が握られていた。
「私にこれを握らせるだなんて、貴方が悪いんですよ? 自発的にここから出てきてくださるよう諍いまで起こさせたのに、貴方が思いどおりに動いてくださらないから」
彼女が左手を一振りすると、金属の打ち合う音がシャンと流れる。
どこかで聞いた音だった。それも、そんなに昔ではない。
(いつだ? 確か、この国に来てすぐの頃に聞いた気が――)
記憶がつながると、ゼフィールはツェツィーリエとの距離を広げた。
「その音……。お前、俺を追いかけてきた黒法衣か!」
失態だった。
無意識には気付いていたはずなのだ。どこかで聞いた声だったので、知り合いなのかと思った。しかし、否定された後、それ以上考えなかったのは完全に自分の落ち度だ。
「つい失言してしまいましたし、今更隠す必要もありませんね。私は死の司祭ツェツィーリエ。ヨハン様の命により貴方様をお迎えにあがりました。お戯れはもう十分でしょう? この地を浄化後、どうか私めと共に城へお戻りください。ゼフィール・エンベリー王太子殿下」
ツェツィーリエが優雅に礼をする。しかし、その仕草はどことなく不遜だ。彼女にとって絶対の主はヨハンのみで、ゼフィールなど、聞き分けの悪い客人程度にしか思っていないのだろう。
「王太子って、あんた……」
カーラが目を丸くしてこちらを見ている。けれど、その視線はすぐにツェツィーリエの方へ向かった。
「そんな事はまぁいいや。それよりも、ツェツィーリエ! あんた街で男達から追われてたけど、あれもお芝居だったってのかい!?」
「はい。殿下に近付くには、逃亡奴隷を装ってあなた方に紛れこむのが一番かと思いましたから。中々上手かったでしょう?」
「くそっ!」
忌々しそうにカーラが砂を蹴りあげた。そのまま腰に下げた剣を抜き、ツェツィーリエと間合いを取る。視線は彼女から外さぬままゼフィールに近寄り、苦々しく吐き出した。
「ったく、とんでもない奴が出てきたもんだね。死の司祭って、かなりヤバイんだけど」
「知ってるのか?」
「噂程度だけどね。与えられた任務は確実にこなす国のエリート集団らしいよ。子守から暗殺まで何でもござれってね。ただ、奴らに目を付けられたら最後、逃げられた奴はいないって話。狩られた逃亡奴隷の隠れ里の数は両手でも足りないらしいしね」
カーラの言葉が聞こえたのか、ツェツィーリエの笑みの邪悪さが増した。彼女は微笑んだまま、首から下げた子笛を口に咥える。
音は聞こえない。
しかし、それまでオロオロするのみだった男達が彼女の前へ集まりだした。
(そういえば、さっきもあの笛を咥えていたな。男達の動きがおかしくなったのは笛を放した後だ。あの笛で男達を操っているのか?)
その読みは正しい気がする。
ならば、笛さえどうにかしてしまえば事態を有利に持って行けそうにも見えるが、その為にはゼフィール達とツェツィーリエの間で壁になっている男達が邪魔だ。
仲間のはずの彼らを操られてカーラの悔しさもひとしおなのだろう。その表情は非常に厳しい。
「あんたにそいつらが操られてるように見えるんだけどね。なんだい? そいつらがおかしくなっちまったのも、あんたのせいだったりするのかい?」
「そうですよ。誰彼かまわず手を出すからこうなるんです。特に、彼。孕ませた相手は臨月で大変なのに、自分は他の女とお楽しみだなんて、屑にも程がありますよね」
「!?」
行われた凶行にゼフィールは息を飲んだ。
目の前に立つ男をツェツィーリエが無表情に錫杖で刺したのだ。仕込杖になっていたようで、柄の部分から刃が覗き、それが男を刺し貫いている。刃が飛び出しているのは心臓の位置だ。
恐らく即死だろう。そうなってしまっては治癒魔法に効果は無い。
手癖が悪いからといって殺害されるのでは、罪と罰の重さが釣り合わなさすぎる。
「そんなお顔をなさらないで下さい。彼にはもう痛みなんて無いのですから、辛くはないのですよ?」
「何?」
彼女の言っている意味が分からず眉間に皺が寄る。
ツェツィーリエは再び笑みを浮かべると、錫杖をゆっくりと引き抜いた。
心臓を傷付ければ大量の血が吹き出る。
それを予想してゼフィールは男から距離をとったが、赤い噴水は一向に吹きあがらない。それどころか、傷口から垂れたのはわずかばかりの血のみだ。
ありえないことだった。もう一つあり得ないのは刺された男の態度。剣を抜き差しされているのに、彼の表情は一切動かず、焦点の定まらぬ目で虚空を見つめ続けている。
傷付いても血が噴き出さず、痛みも感じないなど、それでは死体と同じだ。
「元々死んでいる……のか?」
「ええ」
「いやいや、待ちなよ! こいつらはちょっと前までは普通だった! あたしが保証する。それに、こいつらが暴れ出すまでに暴力沙汰は起きてないよ! ツェツィーリエ、あんたも部屋にいなかったし、殺しようがないだろ?」
「私はいませんでしたが、この子はいたでしょう?」
ツェツィーリエの首に巻きつく蛇がゼフィール達の方へ顔を向け、舌をチロチロと出した。蛇を優しく撫でながら彼女は男達を蔑んだ目で眺める。
「コトの最中に、この人達にはこの子の毒を飲ませておいたんです。体内に入るのが一度目なら少し気分が悪くなる程度の弱い毒なんですよ? でも、二度目になると――例えばこの子に噛まれたりすると、あっという間に亡くなってしまうんです。愚か者達にはおあつらえ向きな死に方だと思いませんか?」
「冗談はよしとくれよ。第一、死んじまったら動けないだろ?」
カーラは全く信じていないのか大仰に肩を竦めている。
だが、ゼフィールにはツェツィーリエの言葉が嘘だとは思えない。現に彼等は動いているのだ。死体を動かす方法を膨大な知識の中から漁る。
案の定、それは存在していた。
「――死霊魔法……」
見つけた答えを呟く。ツェツィーリエの笑みが妖艶なものになった。
「お前は以前兵も殺していたな。仲間であるはずの兵を殺したのは、まさか……」
ゼフィールは周辺を見回し、とんでもない事に気付いた。
「ふふ。聡いお方でいらっしゃる。しかし、まさか死霊魔法までご存知とは予想外でした」
ツェツィーリエが呪文の詠唱を始め、錫杖を地面に突き立てる。しばしの静寂の後、微かな地鳴りが響いた。
「カーラ、気を付けろ! ここは兵達を埋葬した場所――」
警告を発するが既に遅い。ツェツィーリエを中心として砂地が不規則な隆起を起こし、中から手が、次いで頭が、胴が、足が出てくる。腐敗した死体達がゼフィール達の周囲にも現れ、あっという間に死者の軍団を作りだした。
死者を操り死をばら撒く女。その所業は、まさしく死の司祭と呼ぶにふさわしい。
「おいおい。こいつらもう死んでるんだろ? どうやって止めりゃいいんだよ!?」
気味悪がったカーラが手近な死体に剣を突き刺すが、当然効果は見られない。剣を引き抜きがてら蹴り飛ばしても、何事も無かったように起き上がってくる。
痛みも死も持たぬ軍団。
対抗手段を持たぬ者に対しては圧倒的な強さを誇るのであろう。そう、対抗手段を持たぬ者には。
「カーラ。あの五人、遺体を残せないが許せよ。少し無防備になる。守ってくれ」
「は? え?」
ゼフィールは軽く空を仰ぎ瞳を閉じた。周辺への警戒も切り捨て魔力を紡ぐ事に集中する。
無防備もいいところだが、カーラを信頼するしかない。
朗々と祝詞を読み上げる。言葉が連なるにつれ場の空気が浄化されていき、厳かな空間となっていく。それが終わるとゼフィールはそっと目を開き、静かに死体達を見つめた。
「哀れな亡者達よ、眠れ。今度こそ、汝らに永久の眠りの与えられんことを」
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