王道学園に通っています。

オトバタケ

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星に願いを2

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「星野先生ってカッコいいよね」
「うんうん。大人の男はいいよね」
「でも、たぶんノンケだよね」

 休み時間、窓の外のシトシト落ちる雨粒を頬杖ついて眺めていると、後ろから生徒会の親衛隊の子達の会話が聞こえてきた。
 星野先生、という響きにドクンと胸が鳴る。
 俺は先生の優しさに惹かれたんで、先生の見た目がカッコいいとか、そーゆーのはよく分からない。
 親衛隊の子達が言っていたように、先生の恋愛対象は女性なのだろうか?
 先生は大人で俺より十年も長く生きているから、色んな人を見てきて目も肥えているはずなのに、なんで俺みたいなガキを選んでくれたんだろう?
 いじめられっ子だから、担任として守ろうと側にいてくれてるだけなんじゃ?


 放課後の部室。二人だけの時間。

「先生は、女の人と付き合ったことあんの?」
「いきなり何を聞くんだい?」

 意を決して聞くと、先生は怪訝そうに俺を見つめた。

「質問の答えは?」
「まぁ、それなりにね」

 心臓がムギュと潰されたように痛む。
 予想はしていたけど、こんなにショックだなんて……。
 それに気付かれないように続ける。

「先生、ホントに俺なんかでいいの?」
「伊織?」
「俺はガキだし、男だし、いじめられっ子だし……」

 やばい、声が震えてきた。

「性別など関係ないよ。私は伊織だからいいんだ。何度も言っているが、虐められたのは伊織に原因があったからではない。強く真っ直ぐで澄んでいる伊織を羨ましく思った者達が、伊織への憧れを間違った方法で伝えてきただけなんだ」

 花冷えのする春の日、中庭の噴水に突き落とされて心も体もずぶ濡れだった俺を助けてくれた先生。
 あの時温めてくれたように、優しく抱き締めてくれる。

「それに、こんなことを言っても何の安心材料にもならないかもしれないが、同性に好意を抱いたのは君が初めてだよ」
「……」

 嬉しかった。先生の初めてを奪えて。

「何を泣いているのかね」
「泣いてない」
「私にだけは甘えてもいいんだよ」

 先生の胸の中で、ガキみたいに泣きじゃくった。


 そのあと、写真の印刷インクを買いに先生と街に向かった。
 所々に水溜まりのできた雨上がりの道を、先生と並んで歩く。
 先生は忙しいし、先生と生徒だし、二人きりで過ごせるのは放課後の部室だけで、こうやって並んで歩いたのは数えるほどしかない。

「寄り道してもいいかな?」
「別にいいけど」

 先生が向かったのは、街の外れにある白壁の建物だった。

「伊織、どれにするか決めてくれるかな」

 そこは宝石店で、ショーケースの中にはたくさんの指輪が並んでいた。

「先生、どーゆーこと?」
「私は君のものだという印をつけておこうと思ってね」

 先生……。じわっと心が温かくなってくる。
 ぼやけてきた視界を指輪を眺めている先生に気付かれないように拭って、一緒にショーケースの中を覗く。
 色々あって迷ったけど、凛として品のある先生に似合いそうなシンプルな銀色の指輪を選んだ。

「君の分も買うから、サイズを計ってもらいなさい」
「俺は別に……」

 別に印なんてしなくても、狙われるわけじゃないし。

「自分では気付いてないだろうが、君はとても魅力的だよ。私だって、君が誰かに奪われないか心配なんだ」

 俺だけに聞こえるように囁いてきた先生の頬は、少し赤くなっていた。

 店を出て、河川敷にかかる橋の下で、結婚式みたいにお互いの指に指輪を嵌め合う。
 くすぐったくて甘酸っぱい幸せな時間に、また涙が出そうになった。

「伊織は学校にはしてきてはいけないが、寮など私の目が届かないところではしていなさい」

 教師らしく、校則を守るように言う先生。

「つけないけど、学校にも持ってっていい?」
「他の教師に見つからないようにするんだよ」
「当然! 絶対見つかんないようにする。大切なもんだもん……」

 愛しむように指輪に触れる俺を、先生は優しい眼差しで見つめていた。


 翌日、先生の左手薬指には二人の秘密の愛の証が光っていた。

「先生、結婚したの?」

 朝のHRで、先生の変化に気付いた親衛隊の子が質問する。

「いや、恋人から貰ったんだよ」

 にこやかに答えた先生は、そっと俺に目配せして微笑んだ。
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