14 / 31
君色アルバム2
しおりを挟む
「うー、さみぃ」
窓を叩く風がうるさくて、なかなか眠れなかった。
時計を見れば日付が変わって針が二周回ったところで、パソコンでもいじろうかなって考えていたら、さっきまでが嘘のように風音は消え、いつの間にか眠っていた。
カーテンの隙間から顔を刺す眩しい光で目を覚ますと、あり得ないくらい寒くて、身震いしながら窓の外を覗いた。
「うわっ、眩しっ」
一面に広がる銀世界。雪が積もることなんて、ここら辺じゃ一年に一度あるかないかだから、妙に胸がワクワクする。
「起きろー!」
ガチャと開いた扉の間に見えるのは、はちきれんばかりのそいつの笑顔。
「雪遊びすっぞ!」
「マジで? 風邪引くからヤダ」
「いっぱい着込めば大丈夫だって。今日遊ばなかったら、もう来年まで雪遊び出来ないかもしんねーんだぞ」
お前は幾つになるまで雪遊びをするつもりなんだ……。
早くしろって裾を引っ張ってくるそいつに、仕方ねーなーって頷き、モコモコになるくらいに服を着込んで外へと向かう。
「雪だるまみてぇ」
何重にも巻いた俺のマフラーを引っ張ってきて笑うそいつ。
「そんな薄着で大丈夫なのか?」
「あぁ。だって走り回るし」
走り回るって、何をする気なんだ? 本当にガキだな、こいつは。
「俺が胴体作っから、お前は頭作れ」
俺の返事を待たずして早速しゃがみ込んで雪を集めだし、きゅっきゅっと小さな丸い塊を作るそいつ。
楽しそうなその顔に、仕方ねーなーって俺も雪の塊を作り始め、サッカーボールくらいの大きさになった塊を、雪の上でコロコロと押していく。
そいつの後ろに続く、一本の線と足跡。それがこいつの歩いてきた道のような気がして、俺も手の中の雪の塊をコロコロ押した。こいつの人生の隣、ずっと並んでいけますように、と。
そいつの左足に俺の右足を重ねて、二人の後ろには二本の線と三つの足跡が残る。
「ふー、こんな感じかな」
額にうっすら浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、とても円形とは言い難い、直径約七十センチの円形まがいを満足そうに見つめ、そいつが満足そうに呟く。
「頭乗せっぞ」
「おう」
二人で一回り小さい頭を乗せて、食堂の冷蔵庫からこっそり拝借した胡瓜で眉、蜜柑で目、人参で鼻、バナナで口、中庭の隅に転がっていたバケツを頭に乗せて、二人の共作の雪だるまは完成した。
「完成ー! アイツに写真送ろっと」
「あっちは積もってないのか?」
「あぁ。こっちは積もってるって言ったら、羨ましいって悔しがってた」
地元にいる幼馴染みの彼女の顔を思い浮かべてるのか、嬉しそうに笑うそいつが、携帯を取りに寮の中へと戻っていく。
「はぁ」
溜め息も白いんだなって空を見上げたら、真っ青な天からパラパラと白い粉が落ちてきた。
黒い毛糸に包まれた掌を広げてそれを乗せると、毛糸の中に吸い込まれていった。
目には見えるのに、俺の手が掴む前に消えていき、決して掴むことは出来ない。あいつの気持ちみたいに。
目の前に走る二本の線に、小さな雪の塊をひとつ投げた。届かない想いを込めて握った塊を。
「おぉ、また降ってきてんじゃん」
携帯を持ったそいつが、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「うわっ」
「危なっ」
滑って体勢を崩したそいつを抱き抱える。
腕の中に大好きな人がいて、心臓が爆音を立てる。それがバレたって構わないから、このまま抱いていたい。
「苦しいって」
「あぁ、ごめん」
体を離すと、何とも思ってない様子で、写真写真って携帯を操作するそいつ。
今さっきまで、俺の腕の中にあったその体。俺には決して触れることが出来ない心が宿る体。
今日この日、俺と雪だるまを作ったって思い出も、いつまでもお前の心の中にしまっておいて。
お前の中に俺の記憶を、少しでも多く残したい。
お前のことを想ってる、俺の姿を。
窓を叩く風がうるさくて、なかなか眠れなかった。
時計を見れば日付が変わって針が二周回ったところで、パソコンでもいじろうかなって考えていたら、さっきまでが嘘のように風音は消え、いつの間にか眠っていた。
カーテンの隙間から顔を刺す眩しい光で目を覚ますと、あり得ないくらい寒くて、身震いしながら窓の外を覗いた。
「うわっ、眩しっ」
一面に広がる銀世界。雪が積もることなんて、ここら辺じゃ一年に一度あるかないかだから、妙に胸がワクワクする。
「起きろー!」
ガチャと開いた扉の間に見えるのは、はちきれんばかりのそいつの笑顔。
「雪遊びすっぞ!」
「マジで? 風邪引くからヤダ」
「いっぱい着込めば大丈夫だって。今日遊ばなかったら、もう来年まで雪遊び出来ないかもしんねーんだぞ」
お前は幾つになるまで雪遊びをするつもりなんだ……。
早くしろって裾を引っ張ってくるそいつに、仕方ねーなーって頷き、モコモコになるくらいに服を着込んで外へと向かう。
「雪だるまみてぇ」
何重にも巻いた俺のマフラーを引っ張ってきて笑うそいつ。
「そんな薄着で大丈夫なのか?」
「あぁ。だって走り回るし」
走り回るって、何をする気なんだ? 本当にガキだな、こいつは。
「俺が胴体作っから、お前は頭作れ」
俺の返事を待たずして早速しゃがみ込んで雪を集めだし、きゅっきゅっと小さな丸い塊を作るそいつ。
楽しそうなその顔に、仕方ねーなーって俺も雪の塊を作り始め、サッカーボールくらいの大きさになった塊を、雪の上でコロコロと押していく。
そいつの後ろに続く、一本の線と足跡。それがこいつの歩いてきた道のような気がして、俺も手の中の雪の塊をコロコロ押した。こいつの人生の隣、ずっと並んでいけますように、と。
そいつの左足に俺の右足を重ねて、二人の後ろには二本の線と三つの足跡が残る。
「ふー、こんな感じかな」
額にうっすら浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、とても円形とは言い難い、直径約七十センチの円形まがいを満足そうに見つめ、そいつが満足そうに呟く。
「頭乗せっぞ」
「おう」
二人で一回り小さい頭を乗せて、食堂の冷蔵庫からこっそり拝借した胡瓜で眉、蜜柑で目、人参で鼻、バナナで口、中庭の隅に転がっていたバケツを頭に乗せて、二人の共作の雪だるまは完成した。
「完成ー! アイツに写真送ろっと」
「あっちは積もってないのか?」
「あぁ。こっちは積もってるって言ったら、羨ましいって悔しがってた」
地元にいる幼馴染みの彼女の顔を思い浮かべてるのか、嬉しそうに笑うそいつが、携帯を取りに寮の中へと戻っていく。
「はぁ」
溜め息も白いんだなって空を見上げたら、真っ青な天からパラパラと白い粉が落ちてきた。
黒い毛糸に包まれた掌を広げてそれを乗せると、毛糸の中に吸い込まれていった。
目には見えるのに、俺の手が掴む前に消えていき、決して掴むことは出来ない。あいつの気持ちみたいに。
目の前に走る二本の線に、小さな雪の塊をひとつ投げた。届かない想いを込めて握った塊を。
「おぉ、また降ってきてんじゃん」
携帯を持ったそいつが、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「うわっ」
「危なっ」
滑って体勢を崩したそいつを抱き抱える。
腕の中に大好きな人がいて、心臓が爆音を立てる。それがバレたって構わないから、このまま抱いていたい。
「苦しいって」
「あぁ、ごめん」
体を離すと、何とも思ってない様子で、写真写真って携帯を操作するそいつ。
今さっきまで、俺の腕の中にあったその体。俺には決して触れることが出来ない心が宿る体。
今日この日、俺と雪だるまを作ったって思い出も、いつまでもお前の心の中にしまっておいて。
お前の中に俺の記憶を、少しでも多く残したい。
お前のことを想ってる、俺の姿を。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
147
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる