王道学園に通っています。

オトバタケ

文字の大きさ
10 / 31

日向ぼっこ2

しおりを挟む
 もうすぐ日向が委員会から戻る頃だから、そろそろお茶の準備をするかな。
 今日はそっこうで下校して、ハート型のクッキーを焼いたんだ。
 日向と付き合い始めてから、俺の女子力急上昇! 馬鹿度も急上昇! あ、日向馬鹿度ね。
 湯を沸かして、コーヒーメーカーをセットして、カップを取って。
 うへへ、顔がニヤニヤする。
 この前、日向が行きたいって言った美術館に行った時に、ショップに売っていた黒猫が描かれたカップ。なんか日向に似てるなーって眺めてたら、無言で買って渡してくれたんだ。
 絵なんて全く分かんねーのに付き合ってやった俺への、お礼のつもりなのかな? 俺が物欲しそうに見てたから、憐れんで買ってくれただけか?

 ガシャン

「嘘……」

 さっきまで俺の手の中にあったカップが床にある。しかも……

「割れた!?」

 一つだったはずのカップが四つに増えている。増えているんじゃない、分裂している。
 日向に貰った時、一生大事にするって誓ったカップなのに、一ヶ月も大事に出来なかったじゃん。
 凹んでる暇はねぇ、日向が戻ってくる前に証拠隠滅しねーと。

「接着剤……接着剤……」

 急いで瞬間接着剤でくっつけて、なんとかカップは元通りに戻った。
 こう見えて、俺は器用なんだよ。俺様を舐めんなよ!
 ほっと息を吐き、額に滲んだ汗を拭おうとすると、右手に違和感が……。

「……」

 項垂れる俺の右手の小指に、瞬間接着剤のチューブが付いてしまっている。

 ガチャ

 玄関が開いた。日向様の御成~り~!
 バクバクいう心臓を抑え、平静を装う。

「何かあったのか?」

 日向様、一発で俺の異変に気付く。
 俺のことちゃんと見ててくれてるんだ、って喜んでる場合じゃねぇ。

「いや、なんもねーよ。ハハハ、今日はいい天気ですね」
「は? 曇りだぞ?」
「今、お茶淹れるから、座って待ってて」

 怪訝そうな顔をしてる日向から目を逸らし、キッチンに向かう。

「クッキー焼いてみちゃった。てへ」

 ウィンクして左手でクッキーを置く俺に突き刺さる、日向の冷めた視線。

「ハート型とか気持ち悪かった?」

 ハハハって無理矢理笑う俺の右腕を掴んだ日向が、小指に張り付いた接着剤のチューブを見て溜め息をつく。
 立ち上がった日向に、キッチンまで連れていかれる。
 シンクに置かれたカップを見つめ、固まる日向。

「形あるものは、いつかは壊れる運命だから。終わりがあるから美しいのだよ」
「壊したお前が言うな。それにしても器用だな。綺麗に直ってるじゃないか」

 溜め息をつきながらも、掲げたカップを見て感心している。

「で、こっちをどうするかだな」

 俺の手を握って接着剤のチューブを外そうと試みる日向だが、取れる気配はない。

「本当にべったり接着してる。恐るべし瞬間接着剤……」

 失態を隠すため、更に失態を重ねた自分に落ち込む。

「湯に浸ければ取れるはずだ」

 冷たい口調とは裏腹に、ゆっくり優しく少しずつ皮がめくれないように外していってくれて、十五分後に指は元に戻った。

「ありがとうございました」

 照れ臭いのを隠すため、馬鹿みたいに満開の笑顔で礼を言う。

「あ……」

 俺の笑顔に少し頬を緩めた日向の顔が、困惑した表情に変わる。

「どうした?」
「くっついた……」

 取り外してる最中に流れだした接着剤のせいで、日向の左手と俺の右手がべったりくっついてしまったのだ。

「ミイラ取りがミイラになったってやつか……」

 ばつが悪そうにそうに日向が俺を見る。

「接着剤とくっつくのは嫌だけど、日向とならくっついてても平気だよ。むしろ、ずーっとくっついていたい!」
「本当に馬鹿だな、お前。ま、湯の中に入れとけばそのうち取れるか」

 ニカァと笑うと、呆れ顔だけどどこか安心したように日向も笑う。
 洗面器に湯を注いできてテーブルの上に置き、二人並んで座って繋がった手を入れる。
 暫くして手は離れたけれど、もう冷めた湯の中でいつまでも手を離さない俺に、日向は何も言わずに手を繋いでいてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー

夏目碧央
BL
 強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。  一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王道学園の書記には過保護な彼氏がいるようで

春於
BL
「王道学園の副会長には愛しの彼氏がいるようで」のつづき (https://www.alphapolis.co.jp/novel/987002062/624877237) 王道学園に王道転校生がやってきた だけど、生徒会のメンバーは王道ではないようで… 【月見里学園】 生徒会 〈会長〉御宮司 忍 (おんぐうじ しのぶ) 〈副会長〉香月 絢人 (かづき あやと) 〈書記〉相園 莉央 (あいぞの りお) 〈会計〉柊 悠雅 (ひいらぎ ゆうが) 〈庶務〉一色 彩葉/日彩 (いっしき いろは/ひいろ) 風紀委員 〈風紀委員長〉伊武 征太郎 (いぶ せいたろう) 相園莉央親衛隊 〈親衛隊長〉早乙女 楓真 (さおとめ ふうま) 王道転校生 浅見翔大 (あさみ しょうた) ※他サイトにも掲載しています

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

処理中です...