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王様と犬1
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「よし、きたっ!」
たった今、日付が変わった時計を見て、ガッツポーズをする。
今日は、俺の誕生日なのだ。
俺が今いるのは、陸上大会の遠征先のホテルだ。
恋人と共に新しい歳の始まりを迎えられないのは寂しいけど、体は離ればなれでも心は繋がっているから大丈夫だもんね!
「まだかよ……」
ベッドにうつ伏せになって、握りしめている携帯を凝視する。
日付が変わって十五分が経過したのに、恋人からの『お誕生日おめでとう電話』も『おめでとうメッセージ』もないのだ。
こっちに来る前に散々アピールしといたし、忘れてるわけじゃねぇよな?
日付が変わるのを待ちくたびれて、寝ちゃったとか? 気付くと寝てる楓ならば、あり得るかも……。
仕方ない。自分から掛けるのは何か負けた気がして悔しいけど、大好きな人の声をどうしても聞きたいし、掛けちゃおっと。
「あっ、楓?」
「……何?」
二十コール目に、やっと繋がった電話。
受話器の向こうの声は、明らかに機嫌の悪い寝起き声だ。
「あっ、あのさぁ、さっき日付が変わったんだよね」
「ふーん……で、何なの?」
あぁ、何だよ、このテンションの差は? バリバリと携帯が凍り付いてくよ。
「今日って、何の日だったか忘れちゃった?」
「はぁ? 何くだらないこと言ってんの?」
「いや、決してくだらなくは……」
「ウザいっ!」
寝ているところを無理矢理起こされるのが一番頭にくるらしい楓を刺激しないようにしつつも、今日だけは引けないとモゴモゴと主張する俺に、一層冷えきった声が浴びせられた。
「え? ちょっと……って、切りやがったし」
急いで掛け直してみるも、既に電源が切られている。
「あーあ」
ボスッと枕元に乱暴に携帯を投げて、ゴローンと仰向けになる。
「楓の馬鹿……」
フカフカで暖かい布団が寂しさを強調してきて、泣きそうになる。
楓とは恋人同士……なんだと思う。
体を許し合っているし、「愛してる」って擦り寄っていく俺に、「暑い」だの「ウザい」だの文句は言うけど、くっついているのを許してくれてるし。
だって、爽やかスマイルが売りの楓様が、我儘を言ったり毒づいたりするのは俺の前だけだから。
それって、俺にだけ心を許しているってことだろ?
「大丈夫。俺は楓の恋人だ」
うんうんと大きく頷き、自らを納得させて眠りに就いた。
昼過ぎに遠征から戻り、すぐに楓と同室の寮の部屋に向かった。
「楓ぇー、寂しかったよぉ!」
「そう? 俺はウザいのいなくて、清々してたけど」
ゼェゼェと息を切らして駆け寄る俺を無視して読書を続けている楓が、クッキーをかじりながらボソリと呟いた。
玄関でコロンと横になってる俺の鞄と、自らがシンクロする。
「ねぇ……」
「はい?」
「コーヒー淹れてきて」
楓様、顎で俺を指図。
それでも構ってもらえるのが嬉しくて、すぐさまキッチンに走る。
「お待たせしました、お姫様」
「は? 誰がお姫様なの?」
あなたですよ、って感じで満面の笑み浮かべて楓を指差すと、コーヒーを啜る顔が冷酷に笑った。
「お姫様は、そっちでしょ?」
「いや、楓のが可憐で可愛くて、お姫様キャラだと……んっ……」
俺と楓を並べて、「どっちがお姫様ですか?」って聞いたら、百人中百人が「こっちです」って答える方に、床に組み敷かれる。
いつも同様、乱暴で乱雑な口付けだ。
「あの……お願いがあるんですが……」
「何?」
ギロリと睨まれて、肩を竦める。
行為が始まると、生理的な声以外は発してはいけないのだ。でも、今日だけは引けないと、突き刺さる視線に耐えつつ発する。
「今日は俺の誕生日だし……その……一回くらい挿れさせてくんないかな、なんて……」
「はぁ? 誰がお前なんかに挿れさせると思う?」
恐る恐る顔色を伺う俺を鼻で笑った楓は、無駄口を叩けないように脱がせた俺のTシャツで猿ぐつわをかませてきた。
「いっつも挿れられて喜んでるくせに、よくそんなことが言えるもんだね……」
クスクスって笑い声が耳元を擽ると、後は絶頂への階段を昇っていくだけだった。
「ほら」
「ん?」
ぐだーっと床に寝そべったままの俺の口元に、俺を無視してかじっていたあのクッキーを差し出してきた楓。
「プレゼント欲しいんでしょ? 昨日、暇だったから作ったヤツの余り」
「マジ!? 超嬉しいー!!」
流石料理上手の楓。絶品の微糖大人味クッキーに瞳が潤んでくる。
「クッキーくらいで泣くなんて、どうしようもない馬鹿だ……」
下着だけを穿いて、床に置かれたクッキーを貪り食う俺を、ソファーの上から呆れ顔で眺めている楓。
「楓、愛してるよ」
「俺は愛してない」
「なんでだよぉー」
「こんな犬みたいなヤツ、愛せると思う? ちょっ、暑いし、くっつくなよ……」
ソファーによじ登り、しっぽを振ってスリスリする俺を、眉間に皺を寄せた楓が押し返してくる。
次の誕生日までの目標!
一回でいいから、楓を抱く。
一回でいいから、楓に「愛してる」って言わせる。
一回でいいから、楓に甘えられる。
たった今、日付が変わった時計を見て、ガッツポーズをする。
今日は、俺の誕生日なのだ。
俺が今いるのは、陸上大会の遠征先のホテルだ。
恋人と共に新しい歳の始まりを迎えられないのは寂しいけど、体は離ればなれでも心は繋がっているから大丈夫だもんね!
「まだかよ……」
ベッドにうつ伏せになって、握りしめている携帯を凝視する。
日付が変わって十五分が経過したのに、恋人からの『お誕生日おめでとう電話』も『おめでとうメッセージ』もないのだ。
こっちに来る前に散々アピールしといたし、忘れてるわけじゃねぇよな?
日付が変わるのを待ちくたびれて、寝ちゃったとか? 気付くと寝てる楓ならば、あり得るかも……。
仕方ない。自分から掛けるのは何か負けた気がして悔しいけど、大好きな人の声をどうしても聞きたいし、掛けちゃおっと。
「あっ、楓?」
「……何?」
二十コール目に、やっと繋がった電話。
受話器の向こうの声は、明らかに機嫌の悪い寝起き声だ。
「あっ、あのさぁ、さっき日付が変わったんだよね」
「ふーん……で、何なの?」
あぁ、何だよ、このテンションの差は? バリバリと携帯が凍り付いてくよ。
「今日って、何の日だったか忘れちゃった?」
「はぁ? 何くだらないこと言ってんの?」
「いや、決してくだらなくは……」
「ウザいっ!」
寝ているところを無理矢理起こされるのが一番頭にくるらしい楓を刺激しないようにしつつも、今日だけは引けないとモゴモゴと主張する俺に、一層冷えきった声が浴びせられた。
「え? ちょっと……って、切りやがったし」
急いで掛け直してみるも、既に電源が切られている。
「あーあ」
ボスッと枕元に乱暴に携帯を投げて、ゴローンと仰向けになる。
「楓の馬鹿……」
フカフカで暖かい布団が寂しさを強調してきて、泣きそうになる。
楓とは恋人同士……なんだと思う。
体を許し合っているし、「愛してる」って擦り寄っていく俺に、「暑い」だの「ウザい」だの文句は言うけど、くっついているのを許してくれてるし。
だって、爽やかスマイルが売りの楓様が、我儘を言ったり毒づいたりするのは俺の前だけだから。
それって、俺にだけ心を許しているってことだろ?
「大丈夫。俺は楓の恋人だ」
うんうんと大きく頷き、自らを納得させて眠りに就いた。
昼過ぎに遠征から戻り、すぐに楓と同室の寮の部屋に向かった。
「楓ぇー、寂しかったよぉ!」
「そう? 俺はウザいのいなくて、清々してたけど」
ゼェゼェと息を切らして駆け寄る俺を無視して読書を続けている楓が、クッキーをかじりながらボソリと呟いた。
玄関でコロンと横になってる俺の鞄と、自らがシンクロする。
「ねぇ……」
「はい?」
「コーヒー淹れてきて」
楓様、顎で俺を指図。
それでも構ってもらえるのが嬉しくて、すぐさまキッチンに走る。
「お待たせしました、お姫様」
「は? 誰がお姫様なの?」
あなたですよ、って感じで満面の笑み浮かべて楓を指差すと、コーヒーを啜る顔が冷酷に笑った。
「お姫様は、そっちでしょ?」
「いや、楓のが可憐で可愛くて、お姫様キャラだと……んっ……」
俺と楓を並べて、「どっちがお姫様ですか?」って聞いたら、百人中百人が「こっちです」って答える方に、床に組み敷かれる。
いつも同様、乱暴で乱雑な口付けだ。
「あの……お願いがあるんですが……」
「何?」
ギロリと睨まれて、肩を竦める。
行為が始まると、生理的な声以外は発してはいけないのだ。でも、今日だけは引けないと、突き刺さる視線に耐えつつ発する。
「今日は俺の誕生日だし……その……一回くらい挿れさせてくんないかな、なんて……」
「はぁ? 誰がお前なんかに挿れさせると思う?」
恐る恐る顔色を伺う俺を鼻で笑った楓は、無駄口を叩けないように脱がせた俺のTシャツで猿ぐつわをかませてきた。
「いっつも挿れられて喜んでるくせに、よくそんなことが言えるもんだね……」
クスクスって笑い声が耳元を擽ると、後は絶頂への階段を昇っていくだけだった。
「ほら」
「ん?」
ぐだーっと床に寝そべったままの俺の口元に、俺を無視してかじっていたあのクッキーを差し出してきた楓。
「プレゼント欲しいんでしょ? 昨日、暇だったから作ったヤツの余り」
「マジ!? 超嬉しいー!!」
流石料理上手の楓。絶品の微糖大人味クッキーに瞳が潤んでくる。
「クッキーくらいで泣くなんて、どうしようもない馬鹿だ……」
下着だけを穿いて、床に置かれたクッキーを貪り食う俺を、ソファーの上から呆れ顔で眺めている楓。
「楓、愛してるよ」
「俺は愛してない」
「なんでだよぉー」
「こんな犬みたいなヤツ、愛せると思う? ちょっ、暑いし、くっつくなよ……」
ソファーによじ登り、しっぽを振ってスリスリする俺を、眉間に皺を寄せた楓が押し返してくる。
次の誕生日までの目標!
一回でいいから、楓を抱く。
一回でいいから、楓に「愛してる」って言わせる。
一回でいいから、楓に甘えられる。
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