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セゾンとシキ
初詣
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高校選手権の準決勝を明日に控え、練習を終えたその足でセゾンと二人で近くの神社に向かう。
いつもに比べると車の量はびっくりするほど少なくて、犬の散歩をしているおじさんとすれ違った以外は誰とも会っていない。
この世界にはセゾンと俺の二人だけしか存在していないんじゃないか、という錯覚に陥りそうになる。
日の丸を掲げた立派な門松を飾る家の前を通り、あぁ世間は正月なんだな、と実感する。
「なぁセゾン、餅食った?」
「勿論。元旦の朝食は雑煮に決まってんだろ」
「セゾンに和食って全然似合わねぇな」
「何言ってんの。俺様、生粋の日本人よ」
とても生粋の日本人には見えない、異国情緒漂う自分の顔を指差して笑うセゾン。
「そうだよな。だって、英語赤点だもんな」
「ちょっ、それは言うなよ」
父親はイギリス人なのに英語が苦手だいうコンプレックスに触れたら、こらー!、と拳をあげて雷親父みたいに怒りだしたセゾン。
そんなセゾンにアカンベーをして全速力で駆けだし、鳥居をくぐって神殿へと向かう。
「犯人、確保!」
神殿に辿り着き、膝に手を置いて荒くなった息を整えていると、ふわっと背中に温もりが広がった。
「おいセゾン、ここがどこだか分かってんのか?」
「真っ赤になっちゃって、本当にシキって、かーわーいーいー」
耳元で囁かれて、背筋がゾクッとして肩が震えてしまった。
「あっ、感じちゃった?」
「うるせぇっ!」
肘でセゾンの鳩尾を思いっきり突く。
イタタっとそこを押さえて踞るセゾンだけど、顔はニヤニヤしていて何だか幸せそうだ。
その顔を見ていたら、俺も何だか幸せな気分になってきた。
「わりぃ。痛かったか?」
掌を差し出すと、そこに自分の掌を重ね、ぎゅっと握って立ち上がるセゾン。
「めちゃくちゃ痛かったぞ。こりゃ一生責任取ってもらわないとな。俺の嫁さんになれ!」
「な……」
嫁さんって……。何言ってんだよ、恥ずかしい奴。
その言葉の持つ意味に、顔が熱くなっていくのが自分でも分かり、いたたまれなくなって俯いてしまった。
またセゾンに、からかわれるんだろうな。
「お参りしようか」
「え……」
予想とは違う、俺の醜態をスルーした言葉に顔を上げると、優しい笑みを浮かべたセゾンと目が合った。
誘いに頷き、二人並んで神殿へと続く階段を昇る。
「賽銭いくらにする?」
「五円に決まってるっしょ」
「あぁ、ご縁がありますようにって?」
日本人な発言をするセゾンに笑いながら財布を取り出す。
チャリーンと賽銭箱に吸い込まれていく、二つの五円玉。
さて、何を願おうかな。
セゾンは何を願うんだろう、とチラッと横を見ると、目を閉じて神妙な面持ちで掌を合わせていた。
セゾンって本当に綺麗な顔をしてるよな……って、なに見とれてるんだよ、俺。
やっぱり願うのは、選手権の優勝だよな。
一人でうんうんと頷き、目を閉じて掌を合わせ、神様に願いを伝える。
願い終わって目を開けて横を向くと、ニヤニヤと笑ってこちらを見ているセゾンがいた。
「何だよ」
「いやー、シキって本当に可愛いなーって眺めてたの」
その言葉を聞き、不本意ながらも胸がキュンと鳴ってしまった。
男のくせに、可愛いって言われても本気で嫌じゃない自分が情けなくなってくる。
「帰ろっか」
「あぁ」
差し出された掌を見て躊躇したけれど、周りに誰もいないのを確認して、そっと自らのそれを合わせる。
ぎゅっと握って笑いかけてきてくれるセゾンに、俺も自然と笑みが漏れる。
土の地面を鳥居に向かって歩く。
二人の後ろには、砂煙が立っては消えていく。
「お守り買っていこっか?」
売店の前で足を止めたセゾンの言葉に頷き、松並木の間に建つ売店の台いっぱいに並べられたお守りを見渡す。
何にしようかな。やっぱり『健康第一』かな。
紫の袋に金色で字が書いてあるそれを取ろうとすると、
「これ、二つ下さい」
そうセゾンが言ったので、手を引っ込める。
「シキの分も買ったからな」
「あぁ。ありがと」
何のお守りを買ったんだろう? 何のお守りでも、セゾンが買ってくれたお揃いのお守りだから、ずっと身につけていよう。
超絶に乙女な思考になってしまった自分に焦りながら、なんとも言えない気持ちで俺をこんな思考にした原因を見つめると、嬉しそうに買ったばかりのお守りを渡してくれた。
「お揃いだから、大事に持ってるんだぞ」
「お守りを雑に扱うなんて、罰当たりなこたぁしねぇよ」
乙女思考を読み取られないようにぶっきらぼうに言いながらも、大切な小さな袋を受け取って、その姿を見る。
「はぁ?」
赤い袋に金の糸で縫いつけられている文字は『家内安全』だった。
確かに家族は大切だけど、何で好きな奴にこんなお守りを貰わなきゃいけないんだよ? からかわれてるのか?
嬉しい嬉しいって一人で浮かれいて、馬鹿みたいじゃねぇか。
悔しいのか悲しいのかよく分からないけれど、ぐーっと込み上げてくるものがあって、ぼやけだしてしまった視界に必死で耐える。
高三男子がこんなことで泣くなんて、寝小便をするのと同じくらい恥ずかしいだろ。
幸か不幸かセゾンはそんな俺には気付かずに、『家内安全』のお守りを愛しそうに見つめている。
「やっぱさ、『恋愛成就』の次にくるのは『家内安全』っしょ」
照れ臭いのか、ボリボリ頭を掻きながら、はにかむセゾン。
家内って、俺とセゾンのことなのか。
二人の安全。二人の幸せ。
ずっと二人が幸せでいられますように、という願い。
「俺、物持ちいい方だし、お守りなんて簡単に捨てらんねぇから、一生持っててやるよ」
先程とは違う幸せな涙が込み上げてきて、それに必死で耐えながら告げる。
「シキ、大好き」
ぎゅうっと俺を抱き締めてきたセゾンの優しい声が耳元を擽る。
「知ってる……」
だって、俺もセゾンが大好きだから。
新しい年が、二人にとって素敵な年になりますように。
いつもに比べると車の量はびっくりするほど少なくて、犬の散歩をしているおじさんとすれ違った以外は誰とも会っていない。
この世界にはセゾンと俺の二人だけしか存在していないんじゃないか、という錯覚に陥りそうになる。
日の丸を掲げた立派な門松を飾る家の前を通り、あぁ世間は正月なんだな、と実感する。
「なぁセゾン、餅食った?」
「勿論。元旦の朝食は雑煮に決まってんだろ」
「セゾンに和食って全然似合わねぇな」
「何言ってんの。俺様、生粋の日本人よ」
とても生粋の日本人には見えない、異国情緒漂う自分の顔を指差して笑うセゾン。
「そうだよな。だって、英語赤点だもんな」
「ちょっ、それは言うなよ」
父親はイギリス人なのに英語が苦手だいうコンプレックスに触れたら、こらー!、と拳をあげて雷親父みたいに怒りだしたセゾン。
そんなセゾンにアカンベーをして全速力で駆けだし、鳥居をくぐって神殿へと向かう。
「犯人、確保!」
神殿に辿り着き、膝に手を置いて荒くなった息を整えていると、ふわっと背中に温もりが広がった。
「おいセゾン、ここがどこだか分かってんのか?」
「真っ赤になっちゃって、本当にシキって、かーわーいーいー」
耳元で囁かれて、背筋がゾクッとして肩が震えてしまった。
「あっ、感じちゃった?」
「うるせぇっ!」
肘でセゾンの鳩尾を思いっきり突く。
イタタっとそこを押さえて踞るセゾンだけど、顔はニヤニヤしていて何だか幸せそうだ。
その顔を見ていたら、俺も何だか幸せな気分になってきた。
「わりぃ。痛かったか?」
掌を差し出すと、そこに自分の掌を重ね、ぎゅっと握って立ち上がるセゾン。
「めちゃくちゃ痛かったぞ。こりゃ一生責任取ってもらわないとな。俺の嫁さんになれ!」
「な……」
嫁さんって……。何言ってんだよ、恥ずかしい奴。
その言葉の持つ意味に、顔が熱くなっていくのが自分でも分かり、いたたまれなくなって俯いてしまった。
またセゾンに、からかわれるんだろうな。
「お参りしようか」
「え……」
予想とは違う、俺の醜態をスルーした言葉に顔を上げると、優しい笑みを浮かべたセゾンと目が合った。
誘いに頷き、二人並んで神殿へと続く階段を昇る。
「賽銭いくらにする?」
「五円に決まってるっしょ」
「あぁ、ご縁がありますようにって?」
日本人な発言をするセゾンに笑いながら財布を取り出す。
チャリーンと賽銭箱に吸い込まれていく、二つの五円玉。
さて、何を願おうかな。
セゾンは何を願うんだろう、とチラッと横を見ると、目を閉じて神妙な面持ちで掌を合わせていた。
セゾンって本当に綺麗な顔をしてるよな……って、なに見とれてるんだよ、俺。
やっぱり願うのは、選手権の優勝だよな。
一人でうんうんと頷き、目を閉じて掌を合わせ、神様に願いを伝える。
願い終わって目を開けて横を向くと、ニヤニヤと笑ってこちらを見ているセゾンがいた。
「何だよ」
「いやー、シキって本当に可愛いなーって眺めてたの」
その言葉を聞き、不本意ながらも胸がキュンと鳴ってしまった。
男のくせに、可愛いって言われても本気で嫌じゃない自分が情けなくなってくる。
「帰ろっか」
「あぁ」
差し出された掌を見て躊躇したけれど、周りに誰もいないのを確認して、そっと自らのそれを合わせる。
ぎゅっと握って笑いかけてきてくれるセゾンに、俺も自然と笑みが漏れる。
土の地面を鳥居に向かって歩く。
二人の後ろには、砂煙が立っては消えていく。
「お守り買っていこっか?」
売店の前で足を止めたセゾンの言葉に頷き、松並木の間に建つ売店の台いっぱいに並べられたお守りを見渡す。
何にしようかな。やっぱり『健康第一』かな。
紫の袋に金色で字が書いてあるそれを取ろうとすると、
「これ、二つ下さい」
そうセゾンが言ったので、手を引っ込める。
「シキの分も買ったからな」
「あぁ。ありがと」
何のお守りを買ったんだろう? 何のお守りでも、セゾンが買ってくれたお揃いのお守りだから、ずっと身につけていよう。
超絶に乙女な思考になってしまった自分に焦りながら、なんとも言えない気持ちで俺をこんな思考にした原因を見つめると、嬉しそうに買ったばかりのお守りを渡してくれた。
「お揃いだから、大事に持ってるんだぞ」
「お守りを雑に扱うなんて、罰当たりなこたぁしねぇよ」
乙女思考を読み取られないようにぶっきらぼうに言いながらも、大切な小さな袋を受け取って、その姿を見る。
「はぁ?」
赤い袋に金の糸で縫いつけられている文字は『家内安全』だった。
確かに家族は大切だけど、何で好きな奴にこんなお守りを貰わなきゃいけないんだよ? からかわれてるのか?
嬉しい嬉しいって一人で浮かれいて、馬鹿みたいじゃねぇか。
悔しいのか悲しいのかよく分からないけれど、ぐーっと込み上げてくるものがあって、ぼやけだしてしまった視界に必死で耐える。
高三男子がこんなことで泣くなんて、寝小便をするのと同じくらい恥ずかしいだろ。
幸か不幸かセゾンはそんな俺には気付かずに、『家内安全』のお守りを愛しそうに見つめている。
「やっぱさ、『恋愛成就』の次にくるのは『家内安全』っしょ」
照れ臭いのか、ボリボリ頭を掻きながら、はにかむセゾン。
家内って、俺とセゾンのことなのか。
二人の安全。二人の幸せ。
ずっと二人が幸せでいられますように、という願い。
「俺、物持ちいい方だし、お守りなんて簡単に捨てらんねぇから、一生持っててやるよ」
先程とは違う幸せな涙が込み上げてきて、それに必死で耐えながら告げる。
「シキ、大好き」
ぎゅうっと俺を抱き締めてきたセゾンの優しい声が耳元を擽る。
「知ってる……」
だって、俺もセゾンが大好きだから。
新しい年が、二人にとって素敵な年になりますように。
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