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クロとシロ
約束
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サッカー日本代表に選ばれた俺は、試合が行われる東京にいる。
「今度の試合、クロのために絶対に点入れて勝つからさ」
さっきまで俺を愛してくれていた恋人の腕の中で誓いをたてる。
同じサッカー選手で俺と同じポジションの恋人は、練習中に足首を捻挫してしまったために代表メンバーから離れて自宅に戻ったのだ。
「得点できなかったら、俺への愛情は偽物だってことですね」
冷たく笑う恋人。
「取れなかったとしても、偽物なんかじゃねぇもん」
頬を膨らますと、長い指がそこを押してきた。
「不細工」
なっ……。確かにモデルでもやっていけそうなクロに比べたら劣るけどさ、恋人に向かって言う言葉じゃないんじゃねぇ?
さっきまで、その不細工を抱いてたのは誰だってんだよ。
頭にきて、皺々のシーツにダイブして、ふて寝を決め込む。
「冗談ですよ。シローほど可愛い奴なんて見たことがない」
じわり、と背中いっぱいに温かさが広がる。
耳元で囁かれたその言葉によって全身が心臓になったみたいに波打ち、クロに気付かれたら嫌だなって深呼吸を繰り返して鎮めようと試みる。
「何これくらいのことでドキドキしてるんです? 先程まで、あんな格好をしてたくせに」
あっ、あれは、クロがさせたんじゃないかよ。
文句を言ってやろうとクロの方に振り返ると、
「んっ……」
開くより先に口が塞がれてしまった。
その柔らかで温かい感触に、だんだん怒りが消えていく。
ずーっとずーっと、クロが好きだった。
だけど、クロは俺に対して素っ気なかった。
他の奴等には笑顔で話し掛けるのに、俺にはあまり笑ってくれなかった。
昔からそうだったわけじゃない。
みんなと同じように話し掛けてくれて、笑い掛けてくれていた。
クロへの気持ちを自覚した辺りから、だんだんクロが離れていくのを感じた。
きっと俺の想いに気付いたクロが、俺のことを避けているんだなって思った。
凄く辛かった。凄く寂しかった。
クロのこと考えては、月を見上げて一人で泣いていた。
イギリスのチームからオファーが来て、海外でのプレーはガキの頃からの夢だったし、最初で最後のチャンスかもしれないし、と散々迷ったけれど移籍することに決めた。
イギリスへ渡る前の最後の試合の相手は、クロの所属するチームとだった。
試合後、離ればなれになる前にちゃんと気持ちを伝えようと思い、人気のないスタジアムの奥の廊下にクロを呼んだ。
振られるだろうけど、この距離がきっと気持ちを落ち着かせてくれる。
だけど、目の前にクロが現れると何も言えなくなってしまった。
好きで好きで堪らなくて、やっぱり嫌われたくない。
この耳でクロの断りの言葉を聞くなんて嫌だと思ったら、情けないことに涙が出てきてしまった。
止めようと思えば思うほど溢れだし、息すらまともに出来なくなってしまった。
そんな俺を、クロは静かに眺めていた。
死ぬほど恥ずかしくて、ずっとクロの足元を見ていたら、ぼやける視界からクロの足が消えた。
あぁ終わったな、と思った。
「シローのことが、ずっと好きでした」
クロの腕が後ろから伸びてきて、俺を抱きしめた。
「俺も……」
今度は嬉し涙が溢れてきて、声をあげて泣いてしまった。
そんな俺を、クロはずっと抱きしめてくれていた。
「いきなり遠距離恋愛になってしまいますけど、付き合ってあげてもいいですよ」
「なんで上から目線なんだよ」
振り返って見たクロの目は潤んでいて、クロも泣きそうなんだって分かったら、止まりかけていた涙がまた流れだした。
「代表に選ばれるように、せいぜい頑張りなさい」
遠く離れた国でプレーしていても、日本代表に選ばれれば数日間だとしても共に生活でき、チームメイトとして大好きなサッカーが出来る。
「何、自分が選ばれること前提で言ってんだよ」
泣きながら笑うと、本当に久々に俺に笑い掛けてくれたクロ。
「クロに会えるように頑張んねぇとな」
「俺もシローに会えるように、そこそこ頑張りますよ」
そこそこって何だよ、と吹き出す俺の肩にクロの掌が乗る。
整った顔が近付いてきて、クロの唇と俺の唇が重なった。
初めての感触。離れた後も残るクロの温かさ。
嬉しくて、また泣いてしまった。
クロのために勝つと言った試合は、負けた。点も取れなかった。
クロ、怒ってるかな?
震える手で携帯を握り、なかなか出ない恋人をドキドキしながら待つ。
『今、出られません』
一方的に切れた電話。
素っ気ない対応にムカムカして、ホテルを出て街を歩く。
たまたま入った本屋で、今回の代表戦で唯一点を取った若手の有望株が表紙の雑誌に目がいく。
この雑誌って、前にクロが表紙を飾っていたヤツだよな。
俺には、なかなか見せてくれない満面の笑みを浮かべていて、無性に腹が立ったのを思い出す。
パラパラめくっているとクロの連載があって、何が書いてあるんだろうとワクワクしながら読むと……。
頬の筋肉が緩んでいくのが分かる。凄く幸せな気分だ。
もう一度電話しよう、と携帯を出すべくズボンのポケットに手を入れるが、そこには何もない。
ホテルに忘れてきたんだ、と急いで来た道を引き返す。
部屋に戻ると携帯の着信音が鳴り響いていて、急いで出る。
『何故すぐに出ないんです?』
鼓膜を揺さぶってきたのは、不機嫌な声だ。
「悪い。携帯忘れて出掛けてたから」
やっぱり、あんなことを言って勝てなかったから怒っているのかな?
『さっきはすいません。病院にいたもので』
「病院だったなら仕方ねぇって。それより、今日は勝てなくてごめん」
『まぁ、点を入れようという姿勢は見えましたから、今回は許してあげてもいいですよ』
いつもの素っ気ない言葉も、今は全て愛の言葉に聞こえる。
「あのさ、クロの連載読んだんだよ」
『……』
無言になるクロ。
「その……俺のこと書いてあったな」
『まぁ、一応恋人ですし……』
冷静を装おうとしているけど、焦っているのが伝わってくる。
今日は、ちょっと強気に出てみよう。
「一応って何だよ? 俺の他にも恋人がいたりするのかよ?」
なかなか返って来ない声に、まずいことを言っちまったかなと後悔し始める。
『シローだけに決まってるでしょ。好きでもない奴と寝られるほど節操なしではないですからね』
目を閉じると浮かんでくる、照れ臭そうに笑うクロの顔。
「俺も、クロだけだからな」
ぎゅっと携帯を握る。
試合には負けてしまったけど、クロの愛情が本物だって分かったし、クロにも俺の愛情が本物だって伝わったことだろう。
今夜は、良い夢が見れそうだ。
「今度の試合、クロのために絶対に点入れて勝つからさ」
さっきまで俺を愛してくれていた恋人の腕の中で誓いをたてる。
同じサッカー選手で俺と同じポジションの恋人は、練習中に足首を捻挫してしまったために代表メンバーから離れて自宅に戻ったのだ。
「得点できなかったら、俺への愛情は偽物だってことですね」
冷たく笑う恋人。
「取れなかったとしても、偽物なんかじゃねぇもん」
頬を膨らますと、長い指がそこを押してきた。
「不細工」
なっ……。確かにモデルでもやっていけそうなクロに比べたら劣るけどさ、恋人に向かって言う言葉じゃないんじゃねぇ?
さっきまで、その不細工を抱いてたのは誰だってんだよ。
頭にきて、皺々のシーツにダイブして、ふて寝を決め込む。
「冗談ですよ。シローほど可愛い奴なんて見たことがない」
じわり、と背中いっぱいに温かさが広がる。
耳元で囁かれたその言葉によって全身が心臓になったみたいに波打ち、クロに気付かれたら嫌だなって深呼吸を繰り返して鎮めようと試みる。
「何これくらいのことでドキドキしてるんです? 先程まで、あんな格好をしてたくせに」
あっ、あれは、クロがさせたんじゃないかよ。
文句を言ってやろうとクロの方に振り返ると、
「んっ……」
開くより先に口が塞がれてしまった。
その柔らかで温かい感触に、だんだん怒りが消えていく。
ずーっとずーっと、クロが好きだった。
だけど、クロは俺に対して素っ気なかった。
他の奴等には笑顔で話し掛けるのに、俺にはあまり笑ってくれなかった。
昔からそうだったわけじゃない。
みんなと同じように話し掛けてくれて、笑い掛けてくれていた。
クロへの気持ちを自覚した辺りから、だんだんクロが離れていくのを感じた。
きっと俺の想いに気付いたクロが、俺のことを避けているんだなって思った。
凄く辛かった。凄く寂しかった。
クロのこと考えては、月を見上げて一人で泣いていた。
イギリスのチームからオファーが来て、海外でのプレーはガキの頃からの夢だったし、最初で最後のチャンスかもしれないし、と散々迷ったけれど移籍することに決めた。
イギリスへ渡る前の最後の試合の相手は、クロの所属するチームとだった。
試合後、離ればなれになる前にちゃんと気持ちを伝えようと思い、人気のないスタジアムの奥の廊下にクロを呼んだ。
振られるだろうけど、この距離がきっと気持ちを落ち着かせてくれる。
だけど、目の前にクロが現れると何も言えなくなってしまった。
好きで好きで堪らなくて、やっぱり嫌われたくない。
この耳でクロの断りの言葉を聞くなんて嫌だと思ったら、情けないことに涙が出てきてしまった。
止めようと思えば思うほど溢れだし、息すらまともに出来なくなってしまった。
そんな俺を、クロは静かに眺めていた。
死ぬほど恥ずかしくて、ずっとクロの足元を見ていたら、ぼやける視界からクロの足が消えた。
あぁ終わったな、と思った。
「シローのことが、ずっと好きでした」
クロの腕が後ろから伸びてきて、俺を抱きしめた。
「俺も……」
今度は嬉し涙が溢れてきて、声をあげて泣いてしまった。
そんな俺を、クロはずっと抱きしめてくれていた。
「いきなり遠距離恋愛になってしまいますけど、付き合ってあげてもいいですよ」
「なんで上から目線なんだよ」
振り返って見たクロの目は潤んでいて、クロも泣きそうなんだって分かったら、止まりかけていた涙がまた流れだした。
「代表に選ばれるように、せいぜい頑張りなさい」
遠く離れた国でプレーしていても、日本代表に選ばれれば数日間だとしても共に生活でき、チームメイトとして大好きなサッカーが出来る。
「何、自分が選ばれること前提で言ってんだよ」
泣きながら笑うと、本当に久々に俺に笑い掛けてくれたクロ。
「クロに会えるように頑張んねぇとな」
「俺もシローに会えるように、そこそこ頑張りますよ」
そこそこって何だよ、と吹き出す俺の肩にクロの掌が乗る。
整った顔が近付いてきて、クロの唇と俺の唇が重なった。
初めての感触。離れた後も残るクロの温かさ。
嬉しくて、また泣いてしまった。
クロのために勝つと言った試合は、負けた。点も取れなかった。
クロ、怒ってるかな?
震える手で携帯を握り、なかなか出ない恋人をドキドキしながら待つ。
『今、出られません』
一方的に切れた電話。
素っ気ない対応にムカムカして、ホテルを出て街を歩く。
たまたま入った本屋で、今回の代表戦で唯一点を取った若手の有望株が表紙の雑誌に目がいく。
この雑誌って、前にクロが表紙を飾っていたヤツだよな。
俺には、なかなか見せてくれない満面の笑みを浮かべていて、無性に腹が立ったのを思い出す。
パラパラめくっているとクロの連載があって、何が書いてあるんだろうとワクワクしながら読むと……。
頬の筋肉が緩んでいくのが分かる。凄く幸せな気分だ。
もう一度電話しよう、と携帯を出すべくズボンのポケットに手を入れるが、そこには何もない。
ホテルに忘れてきたんだ、と急いで来た道を引き返す。
部屋に戻ると携帯の着信音が鳴り響いていて、急いで出る。
『何故すぐに出ないんです?』
鼓膜を揺さぶってきたのは、不機嫌な声だ。
「悪い。携帯忘れて出掛けてたから」
やっぱり、あんなことを言って勝てなかったから怒っているのかな?
『さっきはすいません。病院にいたもので』
「病院だったなら仕方ねぇって。それより、今日は勝てなくてごめん」
『まぁ、点を入れようという姿勢は見えましたから、今回は許してあげてもいいですよ』
いつもの素っ気ない言葉も、今は全て愛の言葉に聞こえる。
「あのさ、クロの連載読んだんだよ」
『……』
無言になるクロ。
「その……俺のこと書いてあったな」
『まぁ、一応恋人ですし……』
冷静を装おうとしているけど、焦っているのが伝わってくる。
今日は、ちょっと強気に出てみよう。
「一応って何だよ? 俺の他にも恋人がいたりするのかよ?」
なかなか返って来ない声に、まずいことを言っちまったかなと後悔し始める。
『シローだけに決まってるでしょ。好きでもない奴と寝られるほど節操なしではないですからね』
目を閉じると浮かんでくる、照れ臭そうに笑うクロの顔。
「俺も、クロだけだからな」
ぎゅっと携帯を握る。
試合には負けてしまったけど、クロの愛情が本物だって分かったし、クロにも俺の愛情が本物だって伝わったことだろう。
今夜は、良い夢が見れそうだ。
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