九人の女神

しるきー

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1章

2話 喪失

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 その日、花丸ちゃんのお寺で告別式が行われた。
 大勢の人が喪服を着て続々と入ってくる。
 その子は愛されていたのだろう。 

 初めはどうしても信じる事が出来なかった。
 だって、いくらなんでも急すぎる。

 ママから初めてその知らせを聞いたときは、唖然とした。
 事故だと...
 東京都内の会館にトラックが突っ込んで、そこの控室にたまたまいたその子は亡くなったと。


 お寺の入り口には、~桜内家葬式会場~の文字。

 私は幸せそうな梨子ちゃんの写真を眺めていた。薄い桜色のドレスに身を包んだ彼女は、笑顔で、少し誇らしげな表情を浮かべて、立派なトロフィーを掲げていた。ほんの数日前のコンクールで最優秀賞を貰った時の写真。

曜「...」
 トラックの運転手も亡くなったと聞いた。結局その原因を突き止めることはできなかったらしい。


曜「ねえ、梨子ちゃん。私達の出会いって突然だったよね。チカちゃんが強引にスクールアイドルに勧誘して...ほんと、困っちゃうよね。ああいうの。...でも、私は梨子ちゃんとスクールアイドルできてすごく楽しかったよ。」
 私は写真に一人語り掛けることしかできなかった。そうでもしないととても、耐えきれない。

曜「それなのに、こんなにも急に別れが来るなんて思ってなかった...やっと、仲良くなれたのに、これから千歌ちゃんと三人で色々なところに行きたかった。色々な景色を見たかった。もっともっとたくさん、歌って踊って...あんまりだよね。まだ私達出会ってほんの少ししか...」
 涙が止まらない。やっぱり梨子ちゃんのことを考えるだけで胸の奥底が締め付けられて、色々な感情がこみあげてくる。


花丸「こんな時、なんて声をかけてあげればいいのかな?...」

善子「余計なことはしない方がいいわ。私達も悲しいけど、あの二人を慰められる事なんてできない...」

ルビィ「千歌ちゃん、まだかな...」

鞠莉「ねえ、ダイヤ。果南は?」

ダイヤ「果南さんなら一時間程前に席を外していますわ。千歌さんからメールが来たので迎えに行くと。」

ダイヤ「マリさん、これで三回目ですよ?大丈夫ですか?」

鞠莉「...ごめんね。少しボーっとしていたわ。」

ダイヤ「そうですか...」


曜「千歌ちゃんのこと、許してあげてね?梨子ちゃんとお別れしたくないだけだと思うんだ。」
 
 梨子ちゃんの訃報を耳にしてから、千歌ちゃんは塞ぎ込んでしまった。
 こんな時千歌ちゃんがいてくれたらって思うけど...でも千歌ちゃんと会って、話せる事なんて...


 告別式でほとんどの人が梨子ちゃんに別れを告げた頃、ダイヤちゃんの携帯は鳴った。

鞠莉「ダイヤ?」

ダイヤ「すみません。果南さんからです。」
 携帯に映る着信を見て、やっと来た。と言う安堵の混じった声でダイヤさんは言った。

ダイヤ「はい、果南さん?千歌さんは?」

果南『ダイヤ。助けて...』

ダイヤ「え?」
 
ダイヤ「果南さん?何があったのですか!?」
 電話に出た果南さんは泣いていた。

果南『もう、いや...早く来て!!』
 電話から漏れる程の声だった。

鞠莉「どうしたのよ?」

その直後に突然会場が慌ただしくなった。

「...う...よう!」

曜「ママ?」
 私のところへ全力で走ってくるママがいた。その勢いでママにがっしり肩をつかまれた。
曜母「はぁ、はぁ、早く!」

曜「ママ?どうしたの?」

曜母「よう!早く病院に行きなさい!!」

曜母「千歌ちゃんが!大変なの!...崖から飛び降り自殺を図ったって!!!」

会場全体が一瞬にして凍り付いて、それと同時に頭の中が真っ白になった。

曜「今、なんて?」
 考えるより先に体が動いた。

 全力で会場を飛び出した私は、車も使わず沼津まで走った。


~~~

 二十分前

内浦には観光名所になっている見晴らしのいい崖がある。そこには海を眺めて佇む千歌がいた。

果南「千歌?」

千歌「果南ちゃん、急にごめんね。」

私は千歌にメールで呼び出されてここに来ていた。

果南「いいけど...ねえ、千歌。やっぱり梨子ちゃんにお別れしにいかない?私も一緒にいるから。」

千歌「...」

果南「千歌が行ってちゃんとお別れしないと、梨子ちゃんも、曜だって悲しむと思うよ?」

千歌「うん、」

千歌は梨子ちゃんの訃報を聞いてからずっと塞ぎ込んでいた。それもそうだ。付き合いが短いとはいえ、千歌にとって梨子ちゃんはスクールアイドルを始めたきっかけにもなった子だ。
彼女がいたから、あの三人は曲が作れた。グループとして活動ができた。千歌の夢が形になったんだ。

果南「辛いのは分かるよ。私たちだって悲しい。千歌の支えになれるように頑張るからさ、ね?、行こ?」

千歌「だめなの。もう、全て終わりだよ。」

果南「!?」
あれから千歌は私や曜とも口を聞いてくれていなかった。きっと悲しんでいるのだと思ってた...

でもこれは...


果南「そ、そんなことない!確かに梨子ちゃんはもういないけど!...私たちがいるから!...ね?千歌。私たちがついてるからさ。やり直そう?私たちで、Aqoursを...」

 私も感情が入り混じって冷静さを保つことができなかった。ただ千歌の力になってあげたい。そう強く感じる。

千歌「梨子ちゃんがいなくちゃ、Aqoursじゃない。」

果南「じゃあ、やめるの?」

千歌「果南ちゃんはできるの?」

果南「そ、それは...」

何も言い返すことができない。それは、今までのとは違う。

千歌「果南ちゃんはこんな状況でも笑えるの?歌えるの!?...私にはできない。」

果南「今はそうだけど!...でも、ここでAqoursがなくなったら、梨子ちゃんとの思い出が...私達と梨子ちゃんとの唯一のつながりがなくなっちゃうんだよ?」

果南「梨子ちゃんだってきっと、千歌に笑って生きて欲しいに決まってるよ。」

千歌「...」

千歌「ごめんね果南ちゃん、それでも私は梨子ちゃんがいないと、九人ちゃんとそろわないと...」

 輝く海を背にゆっくり振り向く千歌

千歌「笑顔でいられないんだよ...」

果南「!!...そう、だよね。ごめん、私に慰める資格なんてないことは分かってる。だけどっ!私は小さいころから千歌のことを見てきた。千歌のことは家族同然に想ってる!だから...少しは私のこと...」

 こらえていた感情が一気に溢れてきた。

千歌「果南ちゃんが泣くことないんだよ?」

果南「それなら、お願いだよ。作り笑いでも良いから、今ここで笑って見せてよ!...今の千歌は...私の知ってる千歌じゃない...」

 その千歌の眼はまるで私の事を見ていなかった。長い付き合いの中でも見たことの無い、悲しみと怒りを全面に出し、まるでこの世に絶望した様な顔をしていた。
 そんな千歌を見るだけで胸が張り裂けそうになる。

千歌「私はね、梨子ちゃんを助けることができなかった。」

果南「千歌が悪いわけないじゃん!!あれは事故なの!千歌が責任を感じる必要はないよ!」

千歌「ううん、私にはチャンスがあったんだ。それも何度も...梨子ちゃんを死なせたのは私だ。」

果南「そんな訳のわからないこと言わないでよ。どうして、一人で背負い込むの...神様でもいない限り死んだ人を生き返らせることなんてできないでしょ...」

千歌「そうだよね、私は神様じゃなかったんだ。」

千歌「神様に...」ボソッ

果南「え?」
 千歌は聞こえない声で何かを言った気がした。

千歌「これ、」スッ

果南「なにこれ?...」
 千歌は中心に透明な石が埋め込まれたペンダントを手渡してきた。

千歌「ごめん、果南ちゃん...」

果南「なんで、謝るの?」

千歌「私は、曜ちゃんのことが分からなくなっちゃった...」

果南「曜ちゃんが?...」

千歌「多分、何か事情があるんだと思うけど、私はもう疲れちゃったんだよ」

千歌「果南ちゃん、本当にごめんね。私は弱かった」

 千歌は理解できないことを言う。でも、今の私には千歌が私の事を考えてくれている。それを感じられただけでその理由なんてどうでもよかった。

果南「いいんだよ、私は千歌のためなら大抵のことは頑張れるし、どんな時もそばにいてあげるから。」

 私は優しく微笑んだ。



千歌「ここにいたのが果南ちゃんで良かった。小さい頃から助けてもらってばかりで、私を引っ張ってくれて、いつもそばにいてくれた。」

 一瞬千歌と本当の意味で目が合った気がした。

千歌「果南ちゃん、ありがとう。大好きだよ」




 突然の出来事で体の反応が遅れた。次の瞬間、私は全力で千歌の方へ駆け出した。名前を叫んで手を伸ばす。

 届け!届け!

 小さい頃からずっと一緒で、一人っ子の私にとっての自慢の妹。

 私の大切な人...神様、本当にいるならお願いします。この手を...この手をあの子まで...


 私の手は虚しく空振った。


 そして、私の幼馴染は崖から落ちた









~~~


 足が、重い。

 心が空っぽになった気分だ。

 一度に失ったものが大きすぎる。

 私は一人置き去りにされた。

 
 病院の廊下を歩く。どこへ向かって?行先は?...

 行先なんて、どこにもない。ただ道があるから歩く。

 行く場所があるのだとしたら...

 千歌ちゃんと梨子ちゃんのいる場所に...

 
 屋上への階段...

 屋上の扉の窓からは眩しい日差しが差し込んでいた。

 私は無意識に屋上へ向かった。

 私は屋上へ行って何をするのだろう?...

 まあ、いいや。もう生きていたって...

 
 屋上の扉を開いた。この病院は、屋上に、患者さん用のちょっとした散歩スペースが設けてある。

 キレイに並べられた植木鉢。屋上からは内浦の海を眺めることができる。

 昔、パパが入院した時、千歌ちゃんと来たことがあった。

 あの頃の千歌ちゃん、はしゃいでいたなぁ...私もだけど、


 ふと、三人でバスで登校した時のことを思い出した。

 あの、なんでもない日常はもう、二度と戻らない。

 二人はもういない。

 
曜「もう、いいや...」

その時、屋上の端にあるベンチに彼女はいた。
彼女がみんなの前に姿を見せなかった理由は大体想像できた。
彼女は誰にも見つからないところで、一人で泣いていた。

曜「果南ちゃん...」

果南「!?」バッ
 果南ちゃんは私に呼ばれて初めて気が付いたらしい。

果南「曜...」

なんだろうこの感じ、果南ちゃんを見ると胸がざわつく...
わかってる、誰も悪くない...
でも...

曜「お医者様から聞いたよ。間に合わなかったんだってね。」

言ってしまえ。どうせ私はもう...

曜「レスキュー隊も、お医者様も...果南ちゃんも」
 
果南 ズキッ

果南ちゃんが私を見る。とても苦しそうな顔をしていた。

果南「ご、ごめんなさい!!」

果南「私が一番近くにいたのにっ!」

果南「ちゃんと気づいていればっ!」

果南ちゃんはまるで子供の様に泣きじゃくりながら私に謝った。


胸が...痛い。

私、何してるんだろう。
果南ちゃんを傷つけたって、二人はもう戻ってこない。

ああ、そうか。千歌ちゃんと梨子ちゃんを失って、私にはもう何も残っていないのだと、もう一人なんだと思っていた。
この感情、私にもまだあったんだ。

私は果南ちゃんを、そっと、力強く抱きしめた。

曜「果南ちゃん、お願い。私をもう、一人にしないで...」

果南「!!...」

果南「ごめん...ごめんね...」
 果南ちゃんはそう言って、私の背に手をまわして、優しく包み込んでくれた。それは、子供の頃から久しく感じていなかった、とても温かいものだった。

 それからしばらく私たちは泣いた。


 

果南「曜ちゃん、そろそろ...」

曜「うん、みんなのところへ...」
 
果南「どうしたの?」

曜「その、ペンダント...」

 果南ちゃんの座っていたベンチの下に落ちていたペンダント。こんな時本当はどうでもいいはずなのに、何故か私はそのペンダントに見覚えがあるような気がした。
 私がそのペンダントを拾おうとした時、
果南「あ、だ、だめっ!それは千歌が!...」

曜「千歌ちゃんが?」
 と言いつつ私はペンダントに触れた。


ビリビリッ!

曜「うっ!」

 ペンダントに触れた瞬間、身体中に電撃のようなものが走った。目の前が真っ暗になり、無音の世界に入り込んだような感覚。


 私は見た。そのペンダントの持ち主の記憶を。

 頭が強く揺すぶられる様な感覚だ


曜「あああああああああっ!!!!!」

果南「ちょっとどうしたの!?」

まずい、意識が...

曜「早く...あの子を...」 ドサッ

朦朧とした意識の中で、果南ちゃんの背後に立つ彼女が見えた。

果南「うそ、曜ちゃん!!しっかりして!」

銀髪の彼女は私を哀れむような表情で見つめていた。

私はそのまま深い眠りについた。












一週間後

~部室~

ガララ

善子「...今日も、私たちだけみたいね。」

花丸「うん。」

ルビィ「みんな忙しいんだよ。」

善子「そうよね...」

「...」

善子、花丸、ルビィは誰もいない部室に顔を出す。

善子「ア、アメ持ってきたんだけど、舐める?」

花丸「気を使わなくてもいいずらよ。」

善子 シュン...

ルビィ「る、ルビィは貰おうかな?丁度甘い物がほしかったんだ。」

善子「はい、ルビィ。」

ルビィ「ありがとう、善子ちゃん。」

善子「フフッ」

ルビィ「ん?」

善子「何でもないわよ。」

花丸「善子ちゃん、ヨハネって言わなくなったよね。」

善子「...うん、もういいの。私も成長しないといけないから。」

善子「ま、そんなことよりルビィ、ダイヤさんは今日も?」

ルビィ「うん、鞠莉さんと二人で曜ちゃんのお見舞いに。」

花丸「鞠莉さんと...か。」

善子「果南とは、まだうまくいってないの?」

ルビィ「うん...果南さんは曜ちゃんの病室にずっといるみたいなんだけど。二人が声をかけても反応しないし、目も合わせてくれないんだって。」

善子「そう...」

花丸「千歌ちゃんを止められなかった事と、曜ちゃんが昏睡状態になってしまったことで、果南ちゃんなりに責任を感じちゃっているのだと思うずら。」

善子「果南が責任を感じる必要なんてないのに。少なくとも私たちは...」

花丸「そうもいかないずら。こんな時は周りがとかじゃなくて、自分自身を責め続けてしまうんだよ。後悔に後悔が積み重なった時、人は自分の殻に閉じこもってしまうの。」

善子「あんた経験があるの?」

花丸「な、無いけど...果南ちゃんの性格はよく知ってるし、それに前に本で読んだことがあったから、つい。」

善子「本の世界を持ち出さないでよね。」

花丸「ごめん。」

善子「あ、いや別に責めている訳じゃないから、人の気持ちを考えられるのは、ズラ丸のいいところだし...」

ルビィ「何とかならないかな?」

善子「それはあの二人に任せるしかないんじゃない?私たちよりもずっと付き合いが長いわけだし。」

ルビィ「そうだよね...」

部室には以前のような活気等なく、度々静寂が訪れていた。

花丸「もう、戻れないのかな?あの日常に...」

善子「そういう事言わないで!」ガタッ

花丸「でも、」

善子「戻るのよ!それは、まあ時間はかかるだろうけど、あのくだらない事を言い合って笑いあえる日常を絶対に取り戻すの!」

善子「私頑張るから...こ、このヨハネに任せなさい!だからそんな心配してんじゃないわよ!ズラ丸のくせに」

花丸「ぷ、ふふふっ」

ルビィ「ははは」

花丸「そうだね、ありがと、ヨハネちゃん。」

善子「あ、...善子よ。」
 善子ちゃんはつらい時いつも励ましてくれる。小さい頃からそうだった。マルがつらい時、いつもふざけて笑わせてくれた。本当は自分だってつらいくせに...
 マルも頑張らなくちゃ

ルビィ「それじゃあ、二人とも、そろそろ私たちも行こっか。」

善子「どこに?」

ルビィ「もうっ!曜ちゃんのお見舞いに決まってるでしょ?」

花丸「そうだね、ボーッとしているとすぐに火が暮れちゃうし、曜ちゃんも待ってるずら。」
 花丸たちは部室に鍵をかけて病院に向かった。




~~~
医者『過度のストレスと精神的ショックが原因だろうね。急激な環境の変化により昏睡状態に陥るケースは過去にもあるんだ』
 ベットに横たわる曜ちゃんを私はただ見守ることしかできない。
医者『この子が倒れる現場にいたと聞いたけど、何か直前におかしな様子とか、思い当たる点はあるかな?』

果南『いえ、何も...』
 私はペンダントを強く握りしめた。

果南『曜ちゃんは、すぐに目を覚ましますよね?』

医者『今はまだ何とも。話は聞いたけど、精神的にかなりのダメージを負ってるはずだから、少し時間がかかりそうだよ。それに、この子は目覚めてからが大変そうだ。』

 曜ちゃんは私に一人にしないで、と言った。
 曜ちゃんは私が守る。
 これ以上大切な人を失いたくない。
 曜ちゃんが目を覚ました時、私が隣にいてあげるんだ。
 私じゃなきゃダメなんだ...

 曜ちゃんの手を優しく握りしめた。



~~~


コンコンッ
ガララ

鞠莉「曜、果南...」
 
鞠莉「みかん、ここに置いておくわね。」

果南「...」

ダイヤ「果南さん、食事はきちんと摂っていますの?」

果南「...」

ダイヤ「曜さんなら心配いりませんわ!少し疲れただけです。」

ダイヤと鞠莉はベッド脇の椅子に腰を掛ける。

鞠莉「そ、そうよ、きっと明日にでもっ...」

果南「...」

こちらの病室にもまた静寂が流れていた。



ダイヤ「そのうちでいいですから...学校、来てくださいね。今日、本格的に浦女は統廃合することが決定してしまいましたから。」


鞠莉「また、来るわ...」
 ガララ




鞠莉「うぅ...」ガクッ

ダイヤ「よく我慢しましたね。」

鞠莉「あんな果南、見てられないわよ...」

ダイヤ「私もです。」

鞠莉「どうしたら元に戻れるの?」

ダイヤ「元には、戻れませんわ。私たちはかけがえのない人を二人も亡くしてしまいましたから。」

ダイヤ「でも、戻ることはできなくても、新しく作る事ならいくらでもできます。」

鞠莉「!」

ダイヤ「ですから、私達が今すべきことは、果南さんを元気づける。そしてみんな揃って曜さんが目を覚ますのを待ちましょう?」

鞠莉「うん、ありがとうダイヤ。」



ルビィ「あ、お姉ちゃん」

ダイヤ「ルビィ、花丸さん、それに善子さんまで。あなた達もお見舞いに?」

花丸「あの、果南ちゃんは?」

鞠莉「中にいるわ。ありがとうね、みんな果南の事まで心配してくれて。」

善子「何言ってるのよ。と、友達なんだから当然でしょ?」

ダイヤ、鞠莉「...」

ダイヤ「そう、ですわよね。あなた達の事、信頼していますわ。」




ルビィ「失礼します。」ガララ
 今度は一年生か...
 さっきダイヤと鞠莉が帰ったばかりなのに。

果南「...」

善子「...」

善子「これ、お土産のみかん...って、先客が...」

花丸「曜ちゃんはきっと大丈夫ずら」

ルビィ「ルビィもそう思うよ。曜ちゃんとっても強い人だから」
 
三人と話すことも無く時間が過ぎていった。いや、話すことができなかった。



花丸「マルはね、皆のことが羨ましかったんだ。」

花丸「マルには千歌ちゃんみたいにみんなを引っ張ることはできないし、梨子ちゃんみたいにピアノを弾くこともできないし、曜ちゃんみたいに衣装も作れない。ルビィちゃんや善子ちゃんみたいに可愛くもないし、三年生みたいな大人っぽさもない。」

花丸「マルはね、自分は何の取り柄も無いと思っていたの。こんな子がAqoursに居てもいいのかな?って最近まで思っていたずら。」

花丸「でも、私にも千歌ちゃんはスクールアイドルに誘ってくれた。そして一人もかけちゃいけない。この九人でしかAqoursはつくれないって言ってくれたずら。ここは千歌ちゃんにとって大切な場所なんだって。だからそれ以来マルはみんなのことを羨ましとは思ってないよ。」

花丸「今は、このAqoursの一員として、千歌ちゃんがつくったこのAqoursという居場所を守りたいな。」

 私はマルの本気の気持ちに引かれて、マルの真剣な目を見つめていた。

花丸「果南ちゃん、マルたちにも背負わせてくれないかな?マルたちも一緒に曜ちゃんを守りたい。マルたちにとっても曜ちゃんは大切な人だから。」

 マルは曜の額に手を添えようとした

果南「触らないで!!!」バシッ
 反射的に身が動いた

花丸「ッ!...」

 茫然とする一年生を前に私は我に返った。

果南「っ...、ご、ごめんマル!違うの!これは...」

花丸「ちょっと、用事を思い出しちゃった。今日はもう帰るね...ごめん。」

 私に背を向ける直前、マルは目に涙を浮かべていた。
 私は去っていく一年生を引き留めることをしなかった。


~~~

その夜

医者「果南ちゃん、食事持ってきたよ。」

果南「...」

医者「まだ、あの子たちと話せていないのかい?」

果南「...はい。」

医者「仕方ないさ、時間がかかるものだよ。」
 この男性のお医者さんはやたらと私たちのことを気にかけてくれている。

医者「あの子たちと話すのは辛いかい?」

果南「そ、そんなことっ!」

医者「それじゃあ、一度話してみないと」

果南「私のどこにそんな資格があるんですかっ!!」
 静かな病院の廊下に私の声が響き渡った。

医者「これは失礼。僕も少々無神経な事を言ったね。」

果南「いえ、私こそすみません。」

果南「私なんかにそんな資格無いんです。千歌と曜を二人も目の前で助けることができなかった私が、どの面下げてみんなと会えるんですか。それなのに...みんな優しいから。私を必要としてくれてて、それに甘えたくなってしまう自分がいることにまた腹が立って...」

果南「今日、また大切な後輩を一人傷つけちゃった。多分あの子たちは私にはもう...」

医者「それは、どうかな?あの子たちはそんなに弱くないと思うよ。」

果南「あなたに何がわかるんですか?」

医者「そうだね。わからないかもしれないし、何かわかる気もするよ」

果南「...」

医者「心配しなくていい。この子は僕が責任をもって診るから。安心してくれ」

果南「あなたは、一体何なんですか?...」

このお医者さんは何故か私のメンタルケアもしてくれているようだ。いったい何の意味があって

医者「ただの担当医だよ。この子のね...」

そう言ったお医者さんの表情には優しいぬくもりのようなものを感じた。





ドクンッ
 突然心臓に衝撃が走った。

果南「うぐっ...」

医者「?」
 それは一瞬で収まった。

果南「今のは...」
 それにしても静かだな。私は時間の感覚がとっくに狂っていた。ずっとこの病室にいるから。でもここを離れるわけにもいかないから仕方がない。
 すごく静かだ。時計の針が進む音。外で微かに鳴く虫の音。曜の手を握りなおす時布が擦れる音さえ騒音に聞こえる。
 いや、やっぱりおかしい。
 静か過ぎる。
 ふと、握っているペンダントを見た。ペンダントに埋め込まれている透明な石が真っ赤に染まっていた。

果南「こ、これは...」

医者「どうしたんだい?」

果南「何でもないです!」
 どういうこと!?これ確か透明だったはず...

果南「え?」

医者「?」
 今、誰かが喋った。

果南「今、何か話しました?」

医者「いいや、僕は何も」

『...........の?』


果南「なに?」

医者「一体どうしたんだい?さっきから...」
 この人には聞こえてない。どういうこと?さっきから誰かが

『た........てる?』

 背筋が凍った。
 私は昔から怖いものが苦手だった。それでも、これは別格のものだ。


 私の目の前に彼女は立っていた。

 この人には聞こえていないし、見えてもいないということは多分そういう事なのだろう。

 私はその声の主を知っていた。

 動けない!?なにこれ...


 その時私の肩に優しく手が触れて、彼女は私の耳元で囁いた。


 『戦う覚悟はできているの?』


  彼女はそう言い放ち、私の意識と共に消えていった。


 私は、曜ちゃんの手を放してしまった...



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