ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる

林和差(はやしかずさ)

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第一章

第十二話

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「セカ…ごめん、言い出せなかった…」




と言い終える前に、セカは私に頭を下げた。




「すまない。俺が魔法庁に登録すればいいなんて言ったせいで…」



「いいよぉ。仕事は断然やりやすくなったんですよ、ありがとうでした」



と、私は笑って見せた。



「そういう問題じゃない。…俺は、お前には自由に生きてほしい。…貴族のしがらみになんて巻き込まれず。そう思っていたが…」



と、セカは一呼吸置いて、私に言った。



「俺と、婚約しないか」



「へ!!??」



私は驚きすぎて、息を呑んだ。



「え?…婚約?え?…セカと…」



「こんな方法でしかお前を守れずすまない。婚約は、金眼の男が見つかる間だけでいい」



「な、なるほどー!びっくりしたぁ」



そうは言ったものの、結構大変な嘘をつき続けないといけないな、と思いました。



「それに、ラドクリフ様と関係が悪くなってしてしまうのではないのですか?」



「それは仕方ないことだ。お前には、一時的に不自由な想いをさせてしまうと思う」



「不自由な想いはいいんですよ。私はラドクリフ様との関係を気にします!!」



「それこそ、お前は考えなくていいことだ」



そう言って、セカはそれ以降何も言わなくなってしまった。



こうして、私はセカの婚約者(一時的)になったのだった。







そして、私はしばらく臨時休業することになった。



その間、なんとセカの実家に身を置くことになってしまった。



「ユラ殿のそばでは、何かあっては心配だからな。…それに」



セカは困ったような表情で、言葉をつづけた。



「両親が、婚約者に会いたいと言って聞かなくてな」




マジでか!!??




「え?え?どうしよう。私、貴族とかじゃないし、身のこなしも上品じゃないし…」



「貴族ではないことは伝えてある。…嫌な想いをさせたらすまない」




ですよね。


セカって結構な上級貴族だと思うから、きっとすごく反対されるんだろうね。



こうして、私はめちゃくちゃおめかしをさせられて、セカの自宅を訪れた。



そして、想像通りの超豪邸。


門から家までめちゃくちゃ離れてて、メイドさんもたくさん出迎えてくれた。




「ど、ど、どうしよう…」



着いてしまった。


私が一人窓を覗いて慌てていると、



「俺がエスコートするから大丈夫だ」



と言って、先に馬車を降りて、私の手を引いた。



「ようこそ、ランディス家へ」



金髪碧眼の美女とダンディーな男性が出迎えてくれた。


これが、セカのご両親か。


両方に似てるんだなぁと思いつつ、直前に教わった挨拶を必死にした。



「ご招待、ありがとうございます。わたくしは、シアンと申します」



「まあ、素敵なお嬢さんだこと。セカったら、女性は苦手とか言っていたのに」



「どうぞ、ゆっくりおすごしくださいね」



そう言って、二人は屋敷の中へ消えていった。



「あれ??あっさりと…」



私は罵られる覚悟で馬車から出てきたので、拍子抜けだった。



「夕飯は一緒に食べると思うから、その時まではゆっくりしてくれってことだと思う」



「夕飯!!!テーブルマナーなんて全然わからないですよ!!」



「今から夕飯までみっちりやるぞ!」



こうして案内された広いお部屋で、二人でこっそりテーブルマナー講習をした。









「ええっと、シアンさんと言いましたね。…出会いはどこで?」



ランディス夫人は、ワインを飲みながら聞いてきた。



「は、はい。…あの、わたくしは、商店街で帽子屋を営んでおりまして…オープンの日にハリーナ様のお帽子を作ることになりまして…そこで出会いました」



出会いに関しても、変な嘘をついても仕方ないので、正直に答えた。



「そうか。…まあ、そこでお互いに意気投合したってわけか」



と旦那様がうなずく。



そんな言い方されると、嘘とはいえ、なんか気恥ずかしくなってくる。



しかし、そのやりとりを、いぶかしげな表情で終始見ていたのはセカだった。



(セカ、何にも話さないけど、普段からそんな調子なのかな?)



私は会話にも気を使いつつ、先ほどのマナー講習を必死に思い出して食事した。






こうして無事に食事会が終わり、部屋に戻る途中、



「昨日まで、勘当されるくらいの勢いで反対していたのに、やけに優しかった」



とセカは、腕を組んで怪しんでいた。



「感じのいいお父様とお母様でした。こんな平民の私にも丁寧に接してくださって」



ただ、テーブルマナーが完璧にはこなせず、悔やまれた。



「じゃあ、また明日」



部屋まで送ってくれたセカが、そう言って手を振った。



「ありがとうね、セカ。反対を押し切っていてくれたんですね…いつもありがとう」



「いや、今回は俺のせいだったし、できることはなんでもしたいんだ」



「無事に、金眼の男が見つかるといいのですが…」



いつまでも婚約者としてはいられないし…。



「大丈夫だ。必ず見つけて見せる」



そう言って私の頭に、ぽんと手を置いた。



再び顔が熱くなる。



「こども扱いしてますね」



私は恥ずかしくてその手を押しのけた。



「ははは、お前に大人の要素はない」



たしかにー。



「じゃあ、おやすみなさい」



「おやすみ」



そう言って、おのおのの部屋へと別れた。



…それが、長いの別れになるとは思わなかった。











夜も更けた時間。



私は珍しく眠れずにいた。



部屋にある水差しから、何度水を飲んだことか。



そろそろ布団に入ろう、と考えていた時、ノックの音がした。



(セカ、何か言い忘れたことでもあったのかな?)



「はーい!」



ガタン、と静かに扉を開けるとそこにいたのは、なんとハリーナ様と、セカのご両親だった。



「え?あ!すみません、こんな格好で…」



私はすっかり油断してパジャマだった。



「いいのよ。こちらこそ夜中にごめんなさい」



そう言って、ハリーナ様は持っていたろうそくの火を消した。





私は…この時点でなんとなくこの後言われることが想像できてしまった。





とにかく部屋にあるテーブル席にかけてもらった。



「もう察してるわよね。…貴女には、このままこの家を出て、まっすぐラドクリフ様のお宅へと行ってもらいたいの」



座ってすぐ、ハリーナ様はテーブルの前に手を組んで、告げた。



(やっぱり…)




「ごめんなさい、シアンさん。貴女のことは、調べさせてもらったの。…ただの町民なら、応援してもいいと思ったのよ、でも…」



ランディス夫人は辛そうに言う。



「こんな形で、伝えてしまってすまない。セカはな、私たちの言葉を聞かないんだ…」



旦那様も困ったように眉を下げる。



「…わたくしも、代々仕えてくれているランディス家に何かあったら、とても辛いの。ごめんなさい…」



そう言って頭を下げるハリーナ様。



…もう、これは…やっぱり……



私は、下を向いて目を閉じた。



「わかってました…。なんとなく。こうなることは…」



そう、もうどこかで決心していたの。


もうどこにもいけないってこと、わかってた。



「わかってくれる?」



ハリーナ様の問いに、ただ「はい」と答えた。



「謝礼は渡します」



「しゃれい?え、そんな…大丈夫です」



私は何の謝礼なのかわからず、さすがに受け取れないと思ったが、



「わたくしたちにもメンツがありますから、どうか受け取ってください」



そう言って、ハリーナ様とセカのご両親からかなりの額をもらった。







渡されてそのまま、私は追い出されるようにしてランディス家を後にした。



そして、門の前に立派な馬車が待っていた。



「おかえりなさい」



中には、ユラくんが腕を組んで座っていた。


私の顔を見るなりぽつりとそう言った。



「……ごめんなさい…」



「行きますよ、ラドクリフ家に」



私は景色が通り過ぎていく窓から、暗いランディス家を、いつまでもいつまでも見ていた。
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