BELL〜王家の血筋〜

プロローグ

　プロローグ
　
　その日、俺達は豪華な食事が並べられたテーブルを囲むように座り。宴会とばかりに晩餐を楽しんでいた。

「はあ……。騒がしいな」
　
　俺はテーブルに肘を付き、一人呟いた。辺りを見渡せば、十五ほどの仲間達がマナーも気にせず美味そうに飯を食う姿が目に写る。

「あらあら、急に考え込んだりしてどうしたのかしら？　……もしやっ！　ブロイドあんた女でも出来じゃ⁉︎」
　
　俺の隣に座っていたガストが自身の狐の尾をフリフリと動かしながら俺に問いかける。ガストの着ている華美な着物がチカチカと鬱陶しく感じる。

「んな訳あるか。ちょっと考え事してただけだ。それにそろそろあのお方が来る。アイツらがそれまでに落ち着けるかが心配だ」

　＂パリッ＂

　その瞬間、皿が割れる音がした。

「フッ。それは到底無理な話だな」

　俺の前に座っていた男が答えた。男は全身を白銀の鎧で覆っており、いかにも
騎士の様な風貌をしていた。

「どうにか出来ないかグラーディス。このままじゃせっかくの宴会も台無しだ」

「無理だな。俺にはどうにも出来ない。それにどうにかする気もない。気に入らないならお前自身でどうにかするんだな」

　グラーディスは辛辣にも俺の頼みをあっさりと断った。

「あら、何かしらその言い方、気に入らないわね。グラーディスあなた少し勘違いしているみたいだけれど、ブロイドは今あなたに命令を出したのよ？　それをあなたは断るの？　もう少し自分の立場を理解した方が良いんじゃなくて？」

　ガストは鋭い眼圧でグラーディスを睨みつけるが、兜に隠れて相手の表情がうかがえない。

「貴様こそ立場を理解した方が良さそうな物だがな。まずは口の聞き方から教えてやろうか？」

「あら、教えられるべきはどちらの方かしら？　まぁ、せっかくの宴会に汚ったない鎧なんて着て来る方には言っても無駄でしょうけど」

「確かにそうだな、ならまずはそのデカいだけの汚い尻尾をどうにかした方が良さそうだ。俺が綺麗に斬ってやっても良いぞ？」

「はぁあ？やってみなさいよ」

　いよいよ我慢出来なくなったガストが席を立つとグラーディスを挑発した。

「おいお前ら頼むから落ち着いてくれ。お前らが騒ぎ出したらいよいよ終わりだ」
　
　俺が必死に二人を静止させる中、少し奥の席からこちらをじっと見つめる存在に気づく。
　
　確かアイツはルーシェだったな。金色の髪をツインテールに結んでいるその少女はこちらを見つめながら優しくニコッと笑ってみせた。
　
　＂カーーンッ＂
　
　鐘の音が不意に鳴り出す。それを合図とばかりに騒がしくしていた仲間達はフォークをテーブルに置いた。一瞬にして宴会に緊張が走る。

「ほらな。俺には無理だっただろ？　あの方でなくては無理だ」

　グラーディスは腕を組みながらボソッと言葉を吐いた。
　
　ゆっくりと入り口の扉が開かれていく。扉の隙間からは魔が魔がしいほどの闇のオーラが宴会へと流れ込む。

「時間還元『ゼロタイム』」
　扉が完全に開き切るより前に俺はそう言葉を吐いた。その瞬間、散乱していたあらゆる食器が緑色の光を纏った。その後、食器は一人でに動き出すと元の形へと修復され、そして元のテーブルへと戻って行った。
　
　そして扉が完全に開かれた。

「待たせたな……」
　
現れた男は顎に髭を生やし、スキンヘッドの頭をしていた。両脇には付き人の女が一歩引いた所に立っていた。

「ほぉ……。思っていたより綺麗に宴会が出来ているな。すでに皿の一つや二つは割っていると思ったが、まぁ良いさ。では宴会の続きといこうではないか……我が魔王軍幹部達よ」
　
　外の落雷が鳴り響く中、我らが魔王ゲルドは自身の席へと足を歩ませた。