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あまりに一瞬で何も理解できなかった。目の前に剣を持った青年が現れたと思えば突然視界が真っ暗になった。
だが確かに一瞬だけ俺の頭の中を何かが貫通するような痛みは感じた。しかし、それからは何も感じない、手も脚も身体の傷の痛みさえも何も……
そして俺は悟った、これが死なのかと。だが俺がそんな事を考える時にはもう俺の意識はゆっくりと無くなっていった……
【即死回避】
突然城中を覆うほどの大きな緑の光が俺の身体から放たれた。その光が消えるよりも早く光の中心から俺は走るように現れた。
本当に危なかったぜ、もし今『時人』の力が戻ってなかったら間違いなく死んでいた。俺の後ろでは何が起きたのか理解できていないまま突っ立ている青年がいた。俺を殺した犯人だ。
さっき俺はこいつに頭を貫かれた。その証拠に青年の持っている剣には俺の血がこべり付いている。だが俺が一撃で即死したおかげで俺の時人の能力の一つであるコンティニューが発動してくれた。
これは俺がそのダメージが原因で5秒以内に死に至った時、体力及び魔力が全回復した状態で復活するというものだ。
「待て悪魔! なんで死なないんだ、今確実に俺の剣はお前の頭を……」
「青年……いや勇者って言った方がいいか? 悪いけど今、お前と戦うにはちょっとだけ武が悪い。だからなんて言うかこう、今は見逃してやるからさ……」
俺はそんな話をしながらも、ゆっくりと首にかかったネックレスを首から外していく。
「おい! 悪魔、俺の質問に答えろ!」
「あっそう言えばお前、名前はなんで言うんだ? お互い名前ぐらいは……」
その瞬間、勇者は剣を構えると真っ直ぐこちらに向かってきた。本当に一瞬の出来事だった、勇者が俺に近づいてその剣を振りかざし、俺がその剣を指で掴むまで……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前 ブロド 性別 男
レベル 683
種族 悪魔
幹部総司令
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あと少しネックレスを外すのが遅れていたらまた殺されるとこだったな。俺は勇者の剣を掴んでいた手を離してやった。
「な、なんだお前、ど、どうなってるんだ。なんでいきなりレベルが……」
さっきまでの威勢はどこにいったのか、勇者は俺から急いで距離をとる為、後ろにさがった。流石に自分より強い相手にはビビるか。
まぁこいつらも勇者とは言え、元はと言えば別の異世界から来た奴らだ、怖がるのも無理はないな。しかし、流石は勇者様だな俺を前にしてもまだ戦う気でいやがるな。
勇者は両手で剣を握ると真っ直ぐこちらを見たまま動こうとしなかった。こちらの様子を伺っているのだろうか?
「お前、なかなか剣筋が良いな、いくら油断してたとは言えまさか一撃でやられるとは思わなかったぞ」
「黙れ悪魔! お前ら魔物達に褒められても嬉しくもないんだよ」
「お前……勇者のくせに敬語も使えねぇのかよ、一応年上なんだからな俺」
「話はそれだけか? ならもう一度死んでもらうぞ」
なんだかさっきからこいつと全く話が噛み合ってないような気がするんだが。まぁいいか、どうせこの勇者も今から俺が殺すんだからな。
あいつが勇者だと分かった以上、ここで始末しておかないとな。それに勇者は放っておくと急激に成長したりする、弱いうちにやるのがベストだろう。
「ぉぉおおお! 【基礎強化】!」
そう言うと勇者の体がキラキラと光り、さっきよりも足の速さが上がった。なるほど自身強化型の法術か確かに少しは早くなったな。
勇者は何故か俺の横を走り抜けた。すると剣を大きくかざし上げた。俺の後ろに回り込んで倒す気なのか? まったく、ベタな手だな。
勇者は俺の後ろに回り込むと急ぐようにその剣を振り下ろした。
「ぉぉおお!」
しかし、それに反応した俺が振り向き剣をつかもうとする。しかし何故か目の前で勇者の姿が消えた。まさか幻覚……
「こっちだーー!」
俺の後ろから勇者の声が聞こえて来た。なるほど、偽物で気をそらしているうちに後ろから奇襲か……
「【千剣】」
なんだただの連打攻撃か。確かに剣筋は良いがまだ遅いな。俺は勇者の剣を丁寧に一つずつかわした。まったく……そこにいるなら早く言ってくれれば良いのにな。
「死ね悪魔…… ッ!」
「はぁ……。 やっぱり全くなってないな、どんなに強くても戦闘技術が無いんじゃ話にならねぇぞ」
俺は勇者の剣を片手で掴み抑えた。それを見た勇者の額から汗が流れる。
「なんでだ、なんでこんな悪魔一体に苦戦してるんだ。確実に俺の方が戦闘力が高いはずだ!」
「なぁ勇者、確かに傲慢である事は良い事だ。だが勇者と愚者は紙一重の差だ。お前はもっと理解した方がいい、お前の目の前にいる相手が今、勇者として戦うべき相手なのか……」
俺の体から紫の魔力が溢れるかのようににじみ出てくる。すると俺の体が紫の魔力のオーラに包まれた。
「な、なんだよ、この魔力……
ッッグァ!」
俺が前に手を突き出すと勇者は後ろに吹っ飛んでいった。もちろん魔術を使ったわけではない、ただ単純に自身の魔力の圧で押しただけだ。
しかし勇者はその後、壁に当たる事もなくなんとか倒れずに持ちこたえた。案外しぶといな、どっかの騎士さんは今ので重傷を負ってくれたと言うのに。
勇者は疲れたのか動揺しているのか荒れていた呼吸を整えた。
「名乗れ悪魔! お前、何者だ」
ぉおっ! それを待ってた。正直、自分から名乗り出るのも違うなぁと思ってたんだよ。
「いいだろう名乗ってやろう。
我が名は……」
「……」
そう言えば、もう何百年も名乗った事ないから今まで自分がどう名乗ってたのか思い出せない……。いやでも確かこうだ!
俺はありもしないマントを片手でさぁっとあげると、もう片方の手で顔を覆うように隠した。
「我はゲルド王国、魔王軍最高幹部第一位、時を司る冷酷なる大悪魔、ブロドだ!」
「あ、あぁ……」
勇者は驚いたような目でこちらを見てくる。どうやら俺の華麗なる自己紹介に声が出なくなってしまったのだろうか……
いや違うあれは痛い奴を見る目だ! てか、なんだよあの俺を軽蔑するかのような目、絶対勇者がやっちゃいけない目だろ。まさか! この時代はこんなに派手な自己紹介はしないのか?
「ま、まぁいいさ。それより、勇者よ貴様も名乗るがいい。その名、俺がしっかりと聞いてやる」
俺は顔を斜め45度上げ、気を取り直すかのように決めポーズを取った。
「っ断る!!」
「ぇぇえ!?」
まさかの即答だった。
「そもそも戦っている最中に相手に自身の素性を明かすような真似する訳無いだろ」
こいっっつつ! 相手に先に名乗らせてから普通そんな事言うか? まぁ確かに言われてみればそうなんだけどさ。
「それに、相手が幹部だって分かった以上、このまま逃がす訳にもいかない。まさか幹部に生き残りがいるとは思わなかったがな。……あいつしくじりやがったな」
あいつ? 誰の事だろうか。いや今はそんな事どうでもいいか。あっちが逃げずに戦ってくれるならこっちもやりやすい、それだけの事だ。
ただ……
「ぉぉおおぉおおおお! 死ねーー!」
こいつは果たして戦い方を知っているのだろうか? 今もそうだがさっきから高速で近づいたと思えばただ剣を縦に振るだけ。
俺は勇者の剣を腕で受け止めてた。確かに多少は剣が腕に食い込むように刺さったが、少し血が出るだけで、ほぼかすり傷だ。
「クッソォ!」
そう言うと勇者は次の一手を出す為か一歩下がった。
「くらえ! 【光剣……】」
「止まれ!」
その瞬間、世界の時間が止まった。もちろん勇者も例外では無い。別にこんな魔術、使う必要もないんだが、何か久しぶりに使いたかったから使った。
だがこうしてまじまじと勇者を見るとやっぱりまだ子供だな。勇者に異世界の子供が選ばれやすいのは本当みたいだな。
正直、こんな奴に俺ら幹部が一瞬でやられたとは考え難いな。
「もう、動け」
俺がそう言うと勇者は何かかっこいい技を誰もいない所で放った。勇者の剣は見事な空振りだった。
勇者が険しい顔を浮かべ、後ろを振り返った時にはすでに俺の蹴りが勇者の腹をとらえた後だった。
勇者は城の廊下の奥にある壁に激しく叩きつけられるようにぶつかった。しかし勇者はすぐに立ち上がると再び剣を構えた。
だがその行動の一つ一つが俺にとっては遅すぎた。俺は勇者が完全に立ち上がるよりも早く勇者に近づき、その首を掴むと、そのまま勇者を持ち上げた。
「ぅゔ……ぐぅ……」
勇者は足が廊下から離れて、足をバタバタと動かし、息苦しそうな声をあげた。
「悪いな、名も知らない勇者よ、まさかこんなに早く決着がつくとは思はなかったが……
これで……
チェックメイトだ!」
俺は腰の短剣をゆっくりと取り出した。
それを見た勇者は少し慌てたように暴れ出すと俺に蹴りを何回も入れてきた。しかし、今の俺にはそんな蹴り、なんのダメージにもならない。しかし勇者は剣を離そうとはしなかった。
もう少し強くなるまで待てばいいものを急いだ傲慢な心で俺に挑むからこうなるんだ。
これで……
(ねぇ! ブロちゃん聞こえてる?)
っく、せっかく今から良い所だって言うのに本当に空気読めない女だな。俺は勇者から目線を逸らすように後ろを向いた。
「どうした? まだ合図は出してないぞ」
(それなんだけど、そっちはまだかかりそう? なんだか急に外が騒がしくなって来たから、そろそろかなぁ~って思ったんだけど)
「なるほど……。分かったすぐにこっちを終わらせてから行くから、ちょっと待ってろ」
(りょ~解! じゃみんなもうちょっとだけ遊んでていいみたいだから、もう一回やろ~)
おいおい。今、完全に自分達が遊んでた事、言ったなあいつ、あとでマジで覚えとけよ。
(じゃまた後でねぇ~)
まったくあいつは……
「ああ、悪い殺すのが遅れたが今からしっかりと殺してやるから安心して……」
「照らせ……」
ッ! その瞬間、勇者の体と剣が七色に輝き始めた。すぐに異変に気付いた俺は勇者を遠くに放り投げた。この法力の上がりかた尋常じゃない、まさか……
投げ飛ばされた勇者はすぐに体勢を立て直すと姿勢を低くしたまま剣を構えた、いやただの剣じゃないあれは……
俺は城の窓に向かって走った。無論このまま窓から飛び降りるつもりだ。何故か。そんなの決まっている。それは……
「エクスカリバーー!!」
俺の後ろからとてつもないほど明るい光がこちらへ迫ってくるのが分かる。その光が近づくにつれ体が燃えているかのように熱く感じた。
“パリーン“
俺は近くの窓を割ると急いで3階から飛び降りた。
するとその瞬間、俺の頭の上をキラキラと七色に輝く光の光線がものすごいスピードで通り過ぎるのが見えた。
それにあの光、間違いなくとんでもないほどの破壊力がある。今のコンディションの俺が反射的に逃げるほどだ。当たっていたらかなりやばかっただろう。
間違いなく断言できる。あれは神器だ。でなければ、あいつがあんな法術、使えるわけが無い。
神器エクスカリバーか、中々面倒な神器になりそうだな。まぁ今回は見逃すしかないが次は必ず仕留めないとな。
“ドーーン“
俺が地面に着地するとそんな大きな揺れと音が街中に響き渡った。俺はすぐにポケットにしまっていたネックレスを首にかけるとルーシェに連絡を取った。
「聞こえるかルーシェ?」
(き、聞こえるけど今の何? すっごい揺れたんだけど、地震?)
「大丈夫だ地震じゃない。地震よりやばい奴だ」
(それ全然大丈夫じゃなくない?)
「まぁいいから聞け! 俺が合図したらすぐに出られるように準備しておけ、いいな?」
(りょ~解! しっかり準備しておくね)
「よし、その後は作戦通り動く。悪いがもうしばらく待機だ」
(うん! わかった、じゃまたあとでねぇ~)
よし。これで一番の心配事は無くなったな。さてと、これからどうしようか……
俺が前を向くとそこには百人ほどの武装した人間達が俺を取り囲むように立ち並んでいた……
だが確かに一瞬だけ俺の頭の中を何かが貫通するような痛みは感じた。しかし、それからは何も感じない、手も脚も身体の傷の痛みさえも何も……
そして俺は悟った、これが死なのかと。だが俺がそんな事を考える時にはもう俺の意識はゆっくりと無くなっていった……
【即死回避】
突然城中を覆うほどの大きな緑の光が俺の身体から放たれた。その光が消えるよりも早く光の中心から俺は走るように現れた。
本当に危なかったぜ、もし今『時人』の力が戻ってなかったら間違いなく死んでいた。俺の後ろでは何が起きたのか理解できていないまま突っ立ている青年がいた。俺を殺した犯人だ。
さっき俺はこいつに頭を貫かれた。その証拠に青年の持っている剣には俺の血がこべり付いている。だが俺が一撃で即死したおかげで俺の時人の能力の一つであるコンティニューが発動してくれた。
これは俺がそのダメージが原因で5秒以内に死に至った時、体力及び魔力が全回復した状態で復活するというものだ。
「待て悪魔! なんで死なないんだ、今確実に俺の剣はお前の頭を……」
「青年……いや勇者って言った方がいいか? 悪いけど今、お前と戦うにはちょっとだけ武が悪い。だからなんて言うかこう、今は見逃してやるからさ……」
俺はそんな話をしながらも、ゆっくりと首にかかったネックレスを首から外していく。
「おい! 悪魔、俺の質問に答えろ!」
「あっそう言えばお前、名前はなんで言うんだ? お互い名前ぐらいは……」
その瞬間、勇者は剣を構えると真っ直ぐこちらに向かってきた。本当に一瞬の出来事だった、勇者が俺に近づいてその剣を振りかざし、俺がその剣を指で掴むまで……
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名前 ブロド 性別 男
レベル 683
種族 悪魔
幹部総司令
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あと少しネックレスを外すのが遅れていたらまた殺されるとこだったな。俺は勇者の剣を掴んでいた手を離してやった。
「な、なんだお前、ど、どうなってるんだ。なんでいきなりレベルが……」
さっきまでの威勢はどこにいったのか、勇者は俺から急いで距離をとる為、後ろにさがった。流石に自分より強い相手にはビビるか。
まぁこいつらも勇者とは言え、元はと言えば別の異世界から来た奴らだ、怖がるのも無理はないな。しかし、流石は勇者様だな俺を前にしてもまだ戦う気でいやがるな。
勇者は両手で剣を握ると真っ直ぐこちらを見たまま動こうとしなかった。こちらの様子を伺っているのだろうか?
「お前、なかなか剣筋が良いな、いくら油断してたとは言えまさか一撃でやられるとは思わなかったぞ」
「黙れ悪魔! お前ら魔物達に褒められても嬉しくもないんだよ」
「お前……勇者のくせに敬語も使えねぇのかよ、一応年上なんだからな俺」
「話はそれだけか? ならもう一度死んでもらうぞ」
なんだかさっきからこいつと全く話が噛み合ってないような気がするんだが。まぁいいか、どうせこの勇者も今から俺が殺すんだからな。
あいつが勇者だと分かった以上、ここで始末しておかないとな。それに勇者は放っておくと急激に成長したりする、弱いうちにやるのがベストだろう。
「ぉぉおおお! 【基礎強化】!」
そう言うと勇者の体がキラキラと光り、さっきよりも足の速さが上がった。なるほど自身強化型の法術か確かに少しは早くなったな。
勇者は何故か俺の横を走り抜けた。すると剣を大きくかざし上げた。俺の後ろに回り込んで倒す気なのか? まったく、ベタな手だな。
勇者は俺の後ろに回り込むと急ぐようにその剣を振り下ろした。
「ぉぉおお!」
しかし、それに反応した俺が振り向き剣をつかもうとする。しかし何故か目の前で勇者の姿が消えた。まさか幻覚……
「こっちだーー!」
俺の後ろから勇者の声が聞こえて来た。なるほど、偽物で気をそらしているうちに後ろから奇襲か……
「【千剣】」
なんだただの連打攻撃か。確かに剣筋は良いがまだ遅いな。俺は勇者の剣を丁寧に一つずつかわした。まったく……そこにいるなら早く言ってくれれば良いのにな。
「死ね悪魔…… ッ!」
「はぁ……。 やっぱり全くなってないな、どんなに強くても戦闘技術が無いんじゃ話にならねぇぞ」
俺は勇者の剣を片手で掴み抑えた。それを見た勇者の額から汗が流れる。
「なんでだ、なんでこんな悪魔一体に苦戦してるんだ。確実に俺の方が戦闘力が高いはずだ!」
「なぁ勇者、確かに傲慢である事は良い事だ。だが勇者と愚者は紙一重の差だ。お前はもっと理解した方がいい、お前の目の前にいる相手が今、勇者として戦うべき相手なのか……」
俺の体から紫の魔力が溢れるかのようににじみ出てくる。すると俺の体が紫の魔力のオーラに包まれた。
「な、なんだよ、この魔力……
ッッグァ!」
俺が前に手を突き出すと勇者は後ろに吹っ飛んでいった。もちろん魔術を使ったわけではない、ただ単純に自身の魔力の圧で押しただけだ。
しかし勇者はその後、壁に当たる事もなくなんとか倒れずに持ちこたえた。案外しぶといな、どっかの騎士さんは今ので重傷を負ってくれたと言うのに。
勇者は疲れたのか動揺しているのか荒れていた呼吸を整えた。
「名乗れ悪魔! お前、何者だ」
ぉおっ! それを待ってた。正直、自分から名乗り出るのも違うなぁと思ってたんだよ。
「いいだろう名乗ってやろう。
我が名は……」
「……」
そう言えば、もう何百年も名乗った事ないから今まで自分がどう名乗ってたのか思い出せない……。いやでも確かこうだ!
俺はありもしないマントを片手でさぁっとあげると、もう片方の手で顔を覆うように隠した。
「我はゲルド王国、魔王軍最高幹部第一位、時を司る冷酷なる大悪魔、ブロドだ!」
「あ、あぁ……」
勇者は驚いたような目でこちらを見てくる。どうやら俺の華麗なる自己紹介に声が出なくなってしまったのだろうか……
いや違うあれは痛い奴を見る目だ! てか、なんだよあの俺を軽蔑するかのような目、絶対勇者がやっちゃいけない目だろ。まさか! この時代はこんなに派手な自己紹介はしないのか?
「ま、まぁいいさ。それより、勇者よ貴様も名乗るがいい。その名、俺がしっかりと聞いてやる」
俺は顔を斜め45度上げ、気を取り直すかのように決めポーズを取った。
「っ断る!!」
「ぇぇえ!?」
まさかの即答だった。
「そもそも戦っている最中に相手に自身の素性を明かすような真似する訳無いだろ」
こいっっつつ! 相手に先に名乗らせてから普通そんな事言うか? まぁ確かに言われてみればそうなんだけどさ。
「それに、相手が幹部だって分かった以上、このまま逃がす訳にもいかない。まさか幹部に生き残りがいるとは思わなかったがな。……あいつしくじりやがったな」
あいつ? 誰の事だろうか。いや今はそんな事どうでもいいか。あっちが逃げずに戦ってくれるならこっちもやりやすい、それだけの事だ。
ただ……
「ぉぉおおぉおおおお! 死ねーー!」
こいつは果たして戦い方を知っているのだろうか? 今もそうだがさっきから高速で近づいたと思えばただ剣を縦に振るだけ。
俺は勇者の剣を腕で受け止めてた。確かに多少は剣が腕に食い込むように刺さったが、少し血が出るだけで、ほぼかすり傷だ。
「クッソォ!」
そう言うと勇者は次の一手を出す為か一歩下がった。
「くらえ! 【光剣……】」
「止まれ!」
その瞬間、世界の時間が止まった。もちろん勇者も例外では無い。別にこんな魔術、使う必要もないんだが、何か久しぶりに使いたかったから使った。
だがこうしてまじまじと勇者を見るとやっぱりまだ子供だな。勇者に異世界の子供が選ばれやすいのは本当みたいだな。
正直、こんな奴に俺ら幹部が一瞬でやられたとは考え難いな。
「もう、動け」
俺がそう言うと勇者は何かかっこいい技を誰もいない所で放った。勇者の剣は見事な空振りだった。
勇者が険しい顔を浮かべ、後ろを振り返った時にはすでに俺の蹴りが勇者の腹をとらえた後だった。
勇者は城の廊下の奥にある壁に激しく叩きつけられるようにぶつかった。しかし勇者はすぐに立ち上がると再び剣を構えた。
だがその行動の一つ一つが俺にとっては遅すぎた。俺は勇者が完全に立ち上がるよりも早く勇者に近づき、その首を掴むと、そのまま勇者を持ち上げた。
「ぅゔ……ぐぅ……」
勇者は足が廊下から離れて、足をバタバタと動かし、息苦しそうな声をあげた。
「悪いな、名も知らない勇者よ、まさかこんなに早く決着がつくとは思はなかったが……
これで……
チェックメイトだ!」
俺は腰の短剣をゆっくりと取り出した。
それを見た勇者は少し慌てたように暴れ出すと俺に蹴りを何回も入れてきた。しかし、今の俺にはそんな蹴り、なんのダメージにもならない。しかし勇者は剣を離そうとはしなかった。
もう少し強くなるまで待てばいいものを急いだ傲慢な心で俺に挑むからこうなるんだ。
これで……
(ねぇ! ブロちゃん聞こえてる?)
っく、せっかく今から良い所だって言うのに本当に空気読めない女だな。俺は勇者から目線を逸らすように後ろを向いた。
「どうした? まだ合図は出してないぞ」
(それなんだけど、そっちはまだかかりそう? なんだか急に外が騒がしくなって来たから、そろそろかなぁ~って思ったんだけど)
「なるほど……。分かったすぐにこっちを終わらせてから行くから、ちょっと待ってろ」
(りょ~解! じゃみんなもうちょっとだけ遊んでていいみたいだから、もう一回やろ~)
おいおい。今、完全に自分達が遊んでた事、言ったなあいつ、あとでマジで覚えとけよ。
(じゃまた後でねぇ~)
まったくあいつは……
「ああ、悪い殺すのが遅れたが今からしっかりと殺してやるから安心して……」
「照らせ……」
ッ! その瞬間、勇者の体と剣が七色に輝き始めた。すぐに異変に気付いた俺は勇者を遠くに放り投げた。この法力の上がりかた尋常じゃない、まさか……
投げ飛ばされた勇者はすぐに体勢を立て直すと姿勢を低くしたまま剣を構えた、いやただの剣じゃないあれは……
俺は城の窓に向かって走った。無論このまま窓から飛び降りるつもりだ。何故か。そんなの決まっている。それは……
「エクスカリバーー!!」
俺の後ろからとてつもないほど明るい光がこちらへ迫ってくるのが分かる。その光が近づくにつれ体が燃えているかのように熱く感じた。
“パリーン“
俺は近くの窓を割ると急いで3階から飛び降りた。
するとその瞬間、俺の頭の上をキラキラと七色に輝く光の光線がものすごいスピードで通り過ぎるのが見えた。
それにあの光、間違いなくとんでもないほどの破壊力がある。今のコンディションの俺が反射的に逃げるほどだ。当たっていたらかなりやばかっただろう。
間違いなく断言できる。あれは神器だ。でなければ、あいつがあんな法術、使えるわけが無い。
神器エクスカリバーか、中々面倒な神器になりそうだな。まぁ今回は見逃すしかないが次は必ず仕留めないとな。
“ドーーン“
俺が地面に着地するとそんな大きな揺れと音が街中に響き渡った。俺はすぐにポケットにしまっていたネックレスを首にかけるとルーシェに連絡を取った。
「聞こえるかルーシェ?」
(き、聞こえるけど今の何? すっごい揺れたんだけど、地震?)
「大丈夫だ地震じゃない。地震よりやばい奴だ」
(それ全然大丈夫じゃなくない?)
「まぁいいから聞け! 俺が合図したらすぐに出られるように準備しておけ、いいな?」
(りょ~解! しっかり準備しておくね)
「よし、その後は作戦通り動く。悪いがもうしばらく待機だ」
(うん! わかった、じゃまたあとでねぇ~)
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