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第一話 ダンジョン攻略
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奇妙なダンジョンにアリシアは困惑していた。
ダンジョンは魔物の基地だ。
その深奥にあるダンジョン・コアを用いて、ダンジョンマスターが魔物を生み出し続ける。
放っておけば数百の魔物が生み出され、近くの街は崩壊させられる。
ひどい場合には襲撃された街自体がダンジョン化されることもある。
人族にとってダンジョンの脅威は計り知れない。
だからこそダンジョンは発見次第、攻略し破壊しなければならない。
そのダンジョンの依頼を受けたのがアリシアだった。
アリシアは一六歳でありながら、五つのダンジョンを破壊した傑物だ。
『勇者』や『英雄』と称されることもあるが、マリーガトレアの教会が運営する養護院で育てられたため、『マリーガトレアの聖女』ないし単に『聖女』と呼ばれた。
そんな彼女が戸惑っていたのは――。
ダンジョンに入ってから一時間が経過しているが魔物に遭遇していないのだ。
通常であればそんなことはあり得ない。
入り口付近に魔物を配置し、侵入者があれば厳戒態勢が取られるのが普通のダンジョンだ。
(罠……でしょうか)
そう思って周囲を警戒するアリシアだが、それらしきものはない。
ひとえにダンジョンといっても、その中の構造や様相はダンジョンごとに大きく異なる。
土でできた洞窟、うっそうと茂る草原、ほの暗い沼地、海原の中の居城、溶岩の吹き出す高山地帯、アリシアが見てきたダンジョンだけでもこれだけの種類がある。
ダンジョンを生成するマスターによって異なるというのが一説だが、その仕組みは明らかになっていない。
今回のダンジョンは石造りの部屋がどこまでも伸びていた。
物がないため殺風景ではあるが、城の中と言われても違和感はない。
アリシアはどこまでも続く部屋から部屋へと移動し続けた。
各部屋には四方に扉がある。
その扉を開くと、さらに四方に扉がある部屋に繋がっている。
迷路のようでありながら、迷路に必ず用意されているゴールが用意されているのか、それはわからない。
アリシアは慎重に一時間ほど部屋から部屋へと移動した。
自分が辿った経路には光の粒を落としており、迷わないようにした。
移動の間に魔物にでくわすことはなかった。
それまで同じ部屋と同じ扉が続いていたが、ようやく違うものが現れた。
赤い扉だ。鉄の枠で縁取られ、重厚感がある。
見るからに怪しいが、扉の先にあるのものが何であれ、開けないという選択肢はない。
アリシアはためらわずに扉を開ける。
部屋の大きさは同じだが、赤い扉の先の部屋に扉がなかった。
代わりに中央に禍々しい魔方陣が描かれている。
魔方陣は描かれるパターンによって魔法を再現するものだ。
アリシアは魔方陣の専門家でなかったが、その魔方陣のパターンは何度も見たことがあるものだった。
転移の魔法が込められた魔方陣だ。
対象を別空間に移動させる転移の魔法はダンジョンのトラップとしては最も凶悪なものの一つだ。
転移先は魔物で埋め尽くされていたり、毒沼であったりすることもある。
それに加えてパターンによっては魔方陣を使用できる人数に制限があるものもあり、たとえ一〇〇人でダンジョンを攻略しようとしても、この魔方陣一つで阻まれることさえある。
ダンジョン攻略の難易度が極めて高いのはこの魔方陣によるところがある。
アリシアの前の魔方陣もそのパターンだった。
対象人数は一人。
だがアリシアは先ほど扉を開けたときと同様、躊躇いを見せずに魔方陣に入り込んだ。
体が光に包まれ、次の瞬間には転移していた。
(ここは……)
アリシアは大して思案することもなく、その場所がどこであるか理解した。
(ダンジョンの入り口ですね。やっかいなダンジョンです)
無限に伸びる四方の扉と、入り口へと移動させられる転移魔方陣。
あの魔方陣が一つだけだとは思えない。
偽の魔方陣に紛れている当たりの魔方陣を探すしかないのだろう。
入り口に戻ってきた以上、一度外に出て立て直すのも選択肢の一つではある。
だが、アリシアはその選択肢を考慮しない。
アリシアは自信家ではない。
けれど絶対の自信があった。
自分に攻略できないダンジョンはないという自信が。
なぜならば――
「黄昏を暁に。混沌を秩序に。全き光よ、鳥となれ。『光鳥』」
アリシアが詠唱すると部屋中を光が覆い、光でできた鳥の形をとった精霊が現れる。
その数はおよそ五万。
この数こそがアリシアの自信の理由だった。
アリシアは祝福持ちだ。
ごく稀に女神は女に、男神は男に、祝福と呼ばれる特別な力を授けることがある。
アリシアは光の女神ルクスの祝福を受けている。
アリシアの祝福は『魔力量が尽きることがない』というものだ。
Aクラスの冒険者であっても、光鳥を五も生み出せば魔力の半分は尽きるだろう。
使用者と感覚を共有する精霊呪文はそれぐらいに魔力量を消費する。
しかしアリシアにはその制限はない。
「みんなお願いします」
アリシアは光鳥を四方に解き放つ。
鳥たちは扉をすり抜け、探査を始める。
光鳥は耐久性が低いが、アリシアと視覚を共有できる精霊で使い勝手が良い。
無限に続くかのような迷宮……しかしそれが無限でないのであれば、アリシアに攻略ができないわけはない。
じきにアリシアの狙い通りに光鳥たちのいくつかが赤い扉を見つけた。
さらに探索を進めると青の扉があることもわかった。
アリシアはその光鳥の導きを得ながら、そこまでたどり着いた。
そしてその扉を開けると、その奥にある魔方陣に飛び乗った。
その後のダンジョン攻略も同様だった。
ダンジョンには一向に魔物が出現しなかった。
代わりに謎解きと迷路が続いた。
青い扉の先はなぞなぞに答えないと進めない構造になっており、誤ると入り口に戻された。アリシアは何度か回答を誤り、入り口に戻された。
次の迷路は複層式となり、五フロアの各フロアの転移魔方陣を正しい順番で踏まないと次に転移ができないというしかけであった。一つでも誤ると入り口に戻された。
ダンジョンは、帰らずの試練と言われることもあるが、このダンジョンは逆だ。すぐに帰れてしまう。
しかし攻略しようと思うと、相当に難易度が高い。
本来であれば相当に長い年月か、人数を割かねばならないだろう。
アリシアは三日をかけて、ダンジョンの最奥部へと続く転移の魔方陣を見つけた。
アリシアはやはり、ためらうことなくその魔方陣に飛び込んだ。
その先に住まうのがどんな怪物であれ、光の女神ルクスの名において、敗北することはないと信じていた。
ダンジョンは魔物の基地だ。
その深奥にあるダンジョン・コアを用いて、ダンジョンマスターが魔物を生み出し続ける。
放っておけば数百の魔物が生み出され、近くの街は崩壊させられる。
ひどい場合には襲撃された街自体がダンジョン化されることもある。
人族にとってダンジョンの脅威は計り知れない。
だからこそダンジョンは発見次第、攻略し破壊しなければならない。
そのダンジョンの依頼を受けたのがアリシアだった。
アリシアは一六歳でありながら、五つのダンジョンを破壊した傑物だ。
『勇者』や『英雄』と称されることもあるが、マリーガトレアの教会が運営する養護院で育てられたため、『マリーガトレアの聖女』ないし単に『聖女』と呼ばれた。
そんな彼女が戸惑っていたのは――。
ダンジョンに入ってから一時間が経過しているが魔物に遭遇していないのだ。
通常であればそんなことはあり得ない。
入り口付近に魔物を配置し、侵入者があれば厳戒態勢が取られるのが普通のダンジョンだ。
(罠……でしょうか)
そう思って周囲を警戒するアリシアだが、それらしきものはない。
ひとえにダンジョンといっても、その中の構造や様相はダンジョンごとに大きく異なる。
土でできた洞窟、うっそうと茂る草原、ほの暗い沼地、海原の中の居城、溶岩の吹き出す高山地帯、アリシアが見てきたダンジョンだけでもこれだけの種類がある。
ダンジョンを生成するマスターによって異なるというのが一説だが、その仕組みは明らかになっていない。
今回のダンジョンは石造りの部屋がどこまでも伸びていた。
物がないため殺風景ではあるが、城の中と言われても違和感はない。
アリシアはどこまでも続く部屋から部屋へと移動し続けた。
各部屋には四方に扉がある。
その扉を開くと、さらに四方に扉がある部屋に繋がっている。
迷路のようでありながら、迷路に必ず用意されているゴールが用意されているのか、それはわからない。
アリシアは慎重に一時間ほど部屋から部屋へと移動した。
自分が辿った経路には光の粒を落としており、迷わないようにした。
移動の間に魔物にでくわすことはなかった。
それまで同じ部屋と同じ扉が続いていたが、ようやく違うものが現れた。
赤い扉だ。鉄の枠で縁取られ、重厚感がある。
見るからに怪しいが、扉の先にあるのものが何であれ、開けないという選択肢はない。
アリシアはためらわずに扉を開ける。
部屋の大きさは同じだが、赤い扉の先の部屋に扉がなかった。
代わりに中央に禍々しい魔方陣が描かれている。
魔方陣は描かれるパターンによって魔法を再現するものだ。
アリシアは魔方陣の専門家でなかったが、その魔方陣のパターンは何度も見たことがあるものだった。
転移の魔法が込められた魔方陣だ。
対象を別空間に移動させる転移の魔法はダンジョンのトラップとしては最も凶悪なものの一つだ。
転移先は魔物で埋め尽くされていたり、毒沼であったりすることもある。
それに加えてパターンによっては魔方陣を使用できる人数に制限があるものもあり、たとえ一〇〇人でダンジョンを攻略しようとしても、この魔方陣一つで阻まれることさえある。
ダンジョン攻略の難易度が極めて高いのはこの魔方陣によるところがある。
アリシアの前の魔方陣もそのパターンだった。
対象人数は一人。
だがアリシアは先ほど扉を開けたときと同様、躊躇いを見せずに魔方陣に入り込んだ。
体が光に包まれ、次の瞬間には転移していた。
(ここは……)
アリシアは大して思案することもなく、その場所がどこであるか理解した。
(ダンジョンの入り口ですね。やっかいなダンジョンです)
無限に伸びる四方の扉と、入り口へと移動させられる転移魔方陣。
あの魔方陣が一つだけだとは思えない。
偽の魔方陣に紛れている当たりの魔方陣を探すしかないのだろう。
入り口に戻ってきた以上、一度外に出て立て直すのも選択肢の一つではある。
だが、アリシアはその選択肢を考慮しない。
アリシアは自信家ではない。
けれど絶対の自信があった。
自分に攻略できないダンジョンはないという自信が。
なぜならば――
「黄昏を暁に。混沌を秩序に。全き光よ、鳥となれ。『光鳥』」
アリシアが詠唱すると部屋中を光が覆い、光でできた鳥の形をとった精霊が現れる。
その数はおよそ五万。
この数こそがアリシアの自信の理由だった。
アリシアは祝福持ちだ。
ごく稀に女神は女に、男神は男に、祝福と呼ばれる特別な力を授けることがある。
アリシアは光の女神ルクスの祝福を受けている。
アリシアの祝福は『魔力量が尽きることがない』というものだ。
Aクラスの冒険者であっても、光鳥を五も生み出せば魔力の半分は尽きるだろう。
使用者と感覚を共有する精霊呪文はそれぐらいに魔力量を消費する。
しかしアリシアにはその制限はない。
「みんなお願いします」
アリシアは光鳥を四方に解き放つ。
鳥たちは扉をすり抜け、探査を始める。
光鳥は耐久性が低いが、アリシアと視覚を共有できる精霊で使い勝手が良い。
無限に続くかのような迷宮……しかしそれが無限でないのであれば、アリシアに攻略ができないわけはない。
じきにアリシアの狙い通りに光鳥たちのいくつかが赤い扉を見つけた。
さらに探索を進めると青の扉があることもわかった。
アリシアはその光鳥の導きを得ながら、そこまでたどり着いた。
そしてその扉を開けると、その奥にある魔方陣に飛び乗った。
その後のダンジョン攻略も同様だった。
ダンジョンには一向に魔物が出現しなかった。
代わりに謎解きと迷路が続いた。
青い扉の先はなぞなぞに答えないと進めない構造になっており、誤ると入り口に戻された。アリシアは何度か回答を誤り、入り口に戻された。
次の迷路は複層式となり、五フロアの各フロアの転移魔方陣を正しい順番で踏まないと次に転移ができないというしかけであった。一つでも誤ると入り口に戻された。
ダンジョンは、帰らずの試練と言われることもあるが、このダンジョンは逆だ。すぐに帰れてしまう。
しかし攻略しようと思うと、相当に難易度が高い。
本来であれば相当に長い年月か、人数を割かねばならないだろう。
アリシアは三日をかけて、ダンジョンの最奥部へと続く転移の魔方陣を見つけた。
アリシアはやはり、ためらうことなくその魔方陣に飛び込んだ。
その先に住まうのがどんな怪物であれ、光の女神ルクスの名において、敗北することはないと信じていた。
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