7 / 28
7 お互いの話
不意にアルノルドがジルベルタの後ろに目をやった。
そこでようやくジルベルタは護衛がいたことを思いだす。
「ああ、そうだったわ。危ないからって」
「そうなんだよな。手紙を返してからそのことに気づいて……。どうしようかと思っていたから、よかったよ」
安心したようにアルノルドが笑う。けれどなんとなく視線は剣呑に護衛を見ている気がした。
ジルベルタは護衛に少し下がるように言う。
幼い頃から身近で支えてくれている護衛は不安そうにした。彼も弱々しかったアルノルドの印象があるのだろうけれど、今は立派な騎士となったアルノルドである。そんな彼が側にいるなら、危ないことなどないだろう。そう言ってジルベルタは護衛を強引に下がらせた。
それから再び顔をあげる。
アルノルドが赤くなっているのが、月明かりでもはっきりわかった。
「どうしたの?」
「いや、その……。君に信頼されるって結構……」
「なによ」
「うん。嬉しいものだと思って」
などと言われればジルベルタも赤くなる。
――本当に変だわ。こんな、アルノルドに対して照れたりして……。
「あ、そうだわ。子爵位を継いだって聞いたの。それを言おうと思っていたのよ。おめでとう」
「ああ……うん。ありがとう」
どことなく歯切れの悪い返事にジルベルタは首をかしげる。それからすぐに、子爵位を継いだ経緯を思い出した。
先代の病気のためだ。
「お父様のご容態、そんなに悪いの?」
「え? ああ、いや、そうでもない。いつもみたいに大きな声であーだこーだ言ってる」
「そうなの? お元気ならいいのだけど」
隣同士ということもあって、互いの両親とも親しい関係にある。アルノルドの父は豪快な性格で、声が大きく迫力のある人という印象が強い。今でもそれが健在なのだとしたら、ジルベルタとしては嬉しい限りである。
「お母様もお変わりない?」
「ああ。そっちも相変わらず。今日もケーキを作っていたよ」
「本当? 私レモンケーキが好きだったのよ」
「知ってる。俺も好きだよ。戦争から戻ったらすぐ作ってくれた」
たのしそうにケーキを作っている姿が眼に浮かぶようで、ジルベルタは小さく笑う。
アルノルドの母親はもともと平民で、お菓子職人だったそうだ。幼い頃はよくケーキを焼いてくれたことが懐かしい。
「戦争……。大変だったわね。大きな怪我がないみたいで……。ご両親安心していたでしょう」
「まあな。でも父上は武勲を立てたって俺以上に喜んでた」
「武勲? アルノルド活躍したの?」
「ああ、いや、そうでもない。それより俺は君がここにいることの方が気になるんだけど」
ジルベルタは言葉に窮した。
今の今までそれなりに緩やかな空気が流れていたはずだが、一気にピンと空気が張る。
アルノルドはそれに気づいたようで、顔をしかめた。
「何かあったのか?」
何か、侯爵邸であったのか?
その言葉にジルベルタは自分が突然情けなくなった。アルノルドは武勲をあげるほど戦争で活躍し、成長して帰ってきたというのに、ジルベルタは何もできていない。
侯爵夫人として国のために何かができたわけでもない。
夫を優しく包み込み、支えることすらできず、挙げ句の果てには浮気をされて、なんて情けないことか。
ジルベルタはポロリと雫を片方の瞳から落とした。
あなたにおすすめの小説
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
誤字訂正ありがとうございました。4話の助詞を修正しました。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
愛しておりますわ、“婚約者”様[完]
ラララキヲ
恋愛
「リゼオン様、愛しておりますわ」
それはマリーナの口癖だった。
伯爵令嬢マリーナは婚約者である侯爵令息のリゼオンにいつも愛の言葉を伝える。
しかしリゼオンは伯爵家へと婿入りする事に最初から不満だった。だからマリーナなんかを愛していない。
リゼオンは学園で出会ったカレナ男爵令嬢と恋仲になり、自分に心酔しているマリーナを婚約破棄で脅してカレナを第2夫人として認めさせようと考えつく。
しかしその企みは婚約破棄をあっさりと受け入れたマリーナによって失敗に終わった。
焦ったリゼオンはマリーナに「俺を愛していると言っていただろう!?」と詰め寄るが……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────